のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『シュレック フォーエバー』

2010-12-22 | 映画
『シュレック・フォーエバー』字幕版 を観てまいりました。

あっはっは。

とりあえず

ランプルさんサイコー。

作品全体としては良くも悪くも原点回帰といった所。ギャグやストーリーにとりわけ目新しい点はないものの、面白さにおいて大いに失速した前作からは目覚ましい回復を果たし、ひねたキャラクターたちもその魅力を取り戻した感がございます。初日レイトショーでお客さんはまばらでございましたが、客席からはけっこうな頻度で笑い声が上がっておりましたよ。

リセットボタン的にパラレルワールドを持ち出すのは、ずるいと言えばちとずるい。しかしシュレックを「自分が生まれなかった世界」に飛ばしてしまい、彼がこれまでのシリーズを通して培って来たもの(友人たち、愛する人、昔は彼を恐れ嫌っていた人々からの受け入れ)を帳消しにしてしまうことによって、かえってそれらの大切さを浮き彫りにするというのは、なかなか上手い手法ではございました。シリーズ完結編ということを意識してか、いささか「泣かせ」に走りすぎなきらいはございましたけれども、まあ、ランプルさんがものすごく可愛いので何もかもよしとしましょう。

そうそう、ランプルさんですよ。
以前の記事でさんざん申しております通り、ワタクシ、ランプルさんのキャラクター造形には大いに期待しておりました。で、蓋を開けてみたらば、これが高い期待を裏切らぬナイスな外道っぷり。

ちびっこいので、何かあるというといちいちテーブルによじ上って対応するランプルさん。
見かけはいかにもちっぽけで、ソフトで害が無さそうで、そのじつスーパー腹黒い危険人物ときております。
甘い言葉で取引をもちかけ、相手のフトコロにサッと入り込んで利益をむしりとる、そのほれぼれするような狡猾さよ。
抜群のビジネスセンスと自己チューなご性格は権力の座に就いたのちますます冴え渡り、アメとムチを上手に使い分けてしもじもの者どもを支配し、独裁者として君臨するそのライフスタイルは悪役の鑑でございます。
いよいよ追いつめられたと思いきやとっさに活路を見出して逃亡を図るしぶとさも、悪役としては重要なポイント。
その上可愛いときたもんだ。ああ、うっとり。

ランプルの声を演じるウォルト・ドーン氏は俳優でも声優でもなく、ストーリー担当の制作スタッフなのでございますが、本当にうまいですね。(冒頭で出て来るうっとうしいツアーガイドの声もドーン氏。ちなみにしもべの魔女Babaや「吠えろ!」のクソガキを演じているのはマイク・ミッチェル監督)
もちろんはじめから彼がキャスティングされていたわけではなく、当初は他のキャストのように有名俳優を起用する予定でいたとのこと。しかし読み合わせの際にドーン氏が仮にランプル役をつとめているうちに、あまりにも役にはまっているからこのまま行こうじゃん、ということになったらしいです。いや、よかったよかった。おかげでこんなに邪悪で可愛いランプルさんが出来上がりました。その声にピッタリのキュートな外観を作ってくだすったアニメーターの皆様にも、大いに拍手を送りたい所でございます。動作といい豊かな表情といい、スタッフの愛情をひしひしと感じる造形でございました。
最後はそりゃ可哀想でしたけれども、野望が無惨に打ち砕かれるのは悪役の宿命でございますからね。死ななかっただけましというもの。...それともひょっとして、結局あの後「朝ご飯」に供されてしまったのかしらん。いやあああ。

さて、悪役と言えばもう一人忘れちゃならないのが

Shrek 4 - Piper's dance


そう、笛吹き男でございますよ。
どうやらランプルさんとは顔なじみのご様子。どっちもドイツ出身だからでございましょうか。ランプルさん(ルンペルシュティルツヒェン)同様、ハーメルンの笛吹き男もワタクシの大好きなおとぎ話でございますので、4作目にして満を持してのご登場は嬉しいかぎりでございます。衣装が赤もしくはだんだら模様ではないのはちと残念でしたけどね。

会話も全て笛の音色でこなす、というわりと無駄な特技の持ち主である笛吹き男を演じているのは、フルーティストのジェレミー・スタイグさん。何とシュレックのことでご紹介しました「みにくいシュレック」の原作者、ウィリアム・スタイグの息子さんでございます。あんなにノリノリで"Shake your groove thing"を演奏してくれたんじゃ、ドンキーじゃなくても思わず躍り出したくなろうってもんです。それにしてもワタクシ、この曲を聴くと映画『プリシラ』を思い出さずにはいられませんですよ。サンダルドレスのヒューゴ・ウィービングがとってもいかしてたっけなあ。

さておき。
字幕については エッ と思う所もございましたが、いちいち突っ込むのはやめておきましょう。「It's not like she's getting any younger...じきババアですよ」や「Get your mob on!...暴徒のノリで繰り出せ」などはナルホドと膝を打ちたくなる名訳でございましたし。

いや、ひとつだけ言わせてくださいませ。
ランプルがペットの巨大ガチョウ、フィッフィに話しかける台詞が「消えろ」だの「鳴け」だのやたらときつい命令口調に訳されておりまして、ワタクシにはこれがちとひっかかりました。
ウォルト・ドーン氏もインタヴューで語っておいでのように、自己チューなランプルさんもフィッフィのことだけは娘のように可愛がっているんじゃございませんか。自分のことをダディなんて言ったりして。ところが字幕のきつい命令口調では、ランプルが彼女に特別な愛情を注いでいるようには感じられないのですよ。
それに「鳴け」の所なんてあれ、ランプルがフィッフィのHonk(クワッ)という鳴き声を真似しただけであって、別に「鳴け」と命令してるわけじゃありませんでしょう。そう命令する必要もぜんぜんない場面でございますし。

Shrek Forever After: An IMAX 3D Experience TV Spot


ああ、結局いちいち突っ込んでしまった。しかもこんなどうでもいいような所に。何て心が狭いんだ。

まあそんなわけで、例によってあまり主人公サイドには肩入れせずに鑑賞したワタクシではございましたが、ラストではちょっぴり じーん と来てしまいましたですよ。「めでたし、めでたし」ってな、いいもんでございます。最後のシュレックの台詞も泣かせるじゃございませんか。
スピンオフ作品は別として、10年に渡ってひねた笑いを提供してくれたシュレックシリーズもこれにて完結でございます。
さらばシュレック。今までどうもありがとうよ。

Shrek Forever After Featurette - 10 Years


ちなみに本シリーズで一番のブラックジョークは今回「俺が父親だって?!」という台詞を、子供の認知問題で訴訟を起こされたエディ・マーフィに言わせたことではないかと。