読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『「むすんでひらいて」とジャン=ジャック・ルソー』

2011年01月25日 | 評論
西川久子『「むすんでひらいて」とジャン=ジャック・ルソー』(かもがわ出版、2004年)

インターネットでよく見かけるので前々から気になっていた本だったのだが、やっと図書館から借りれたので、読んでみて、驚いた!

タイトルが『「むすんでひらいて」とジャン=ジャック・ルソー』というから、さぞや海老澤敏の渾身の研究書『むすんでひらいて考』(岩波書店、1986年)が解明した「むすんでひらいて」とルソーの関係とは異なった関係が新たに解明されたとか、あるいは結論は同じにしても新たな発見でもあったのかと思いきや、なんのことはない。ただ海老澤敏の本のいいとこ取りをしただけの本ではないか。


第二章の「音楽家ルソーの生涯」なんてルソーの『告白』の音楽関係の部分をまとめただけ。そして肝心の第三章の「「むすんでひらいて」のたどった道」はもちろん海老澤敏の本の勘所をまとめただけ。ちなみに、第一章だって明治初期に日本に入ってきた西洋音楽とくに唱歌に取り込まれた歌のことが話題にされているが、これも参考文献に記載されている研究書のいいとこ取りをしただけのことだろう。たとえば先ごろ「仰げば尊し」の原曲が19世紀アメリカの卒業の歌だったという新発見が報道されたが、これだってこの著者はスコットランド民謡だなどとどっかの本に書いてあったことを鵜呑みにして書いている。いったいどこにこの著者のオリジナリティーがあるというのか。

他人が書いた本のいいといどりをして一冊の本になるなら誰も苦労はしないだろう。

私が言いたいのは著作権法上の問題ではない。海老澤敏の本にそってルソーの『村の占い師』と「むすんでひらいて」の関係をたどってみようと明記してあるのだから。しかし明記してあればいいってものじゃないだろう。人の本の内容をまとめただけのことなのに。

今日の朝日新聞の天声人語にも、「仰げば尊し」の新発見とからませて、また「むすんでひらいて」はルソーの作曲だと書かれているように、この話はすごく耳目をひく話題なので、この本のようなタイトル『「むすんでひらいて」とジャン=ジャック・ルソー』にしたら、この話が主題の本だと思うだろうし、また新発見でもあったのかと思うのが当然だろう。おまけに、これは著者には関係ないだろうが、アマゾンの解説には「誰もが知っている「むすんでひらいて」は、フランス革命に影響を与えたジャン・ジャック・ルソーの作曲だった?! 彼の音楽家としての生涯をたどり、日本に西洋音楽が伝来した歴史を繙くと意外な事実が…。 」などと、まるでこの本が知られていなかった新事実を解明したみたいな思わせぶりな記述がされている。

アマゾンでは、品切れで、古本で5000円の値がついている。元の値段は1600円だっていうのに。ありえない。それだけこの話題に対する関心が深いということもあるだろうし、この本がそういうことに関心を持っている人の興味を惹くということだろう。だから古本にこんなプレミアみたいな値段がついているのだ。

難解な古典作品を分かりやすくかみくだいて解説するだとか、要約するだとかといった種類のこととは違う。『「むすんでひらいて」とジャン=ジャック・ルソー』などとあたかも自分が「むすんでひらいて」の謎を解明したみたいなタイトルの本を出版すること自体が、なんともいかがわしい。よくまぁ臆面もなくこんな本を書くほうも書くほうなら、こんな本を出版する出版社やその編集者も編集者だ。



この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『カチンの森』 | トップ | 『タイフーン』 »
最新の画像もっと見る

評論」カテゴリの最新記事