『「心のクセ」に気づくには ――社会心理学から考える』(ちくまプリマー新書・2023/1/7・村山 綾著)からの転載です。
「テストでいい点数が取れた理由」-内的帰属と外的帰属
原因帰属について詳しく説明していくにあたって、2つの重要な帰属のタイフー内的帰属と外的帰属-を最初に紹介しておきます。
内的帰属とは、出来事や行為の原因を、その出来事を経験した人やその行為をした人自身に求める形の帰属です。一方で外的帰属とは、ある出来事や行為の原因を、その人が取り囲まれている環境に求める形の帰属です。これだけではよくわからないでしょうから、冒頭で取り上げた「数学のテストで高得点を取った」を例にして考えてみましょう。高得点を取ったという出来事に対して、「私は能力があるから」のように、自分自身の性質や特徴を原因とするとき、あなたは内的帰属を行っています。そして、「テストの直前にたまたま見返した部分がそのまま出題されたから」のように、自分を取り囲む環境や偶然性の高い先行要因を原因とするとき、あなたは外的帰属を行っています。
学校の成績を対象として成功や失敗の原囚を考えるとき、内的帰属の典型的なものとしては、先はどの例でも挙げた能力や努力があります。ここでの「能力」は自分の力で上げたり下げたりすることが難しい、その人がもともと持っている性質を指すと考えてださい(能力の定義は研究や分野によってさまざまありますが、この本では、みなさんが「能力が高い人」と聞かされたときに頭の中にイメージするような人がもっている要素として理解していただいてかまいません)。努力の方は、自分でやったりやらなかったり(その程度を上ぱたり下げたり)を決めることができるものと考えてください。いずれにせよ、能力も努力も個人の内側に存在するという点では共通しています。
外的帰属の典型例としては、取り組む課題の難しさや運が挙げられます。テスト内容が全体的に簡単であれば良い点数が取れますし、難しかったら点数は悪くなります。
では、内的帰属、外的帰属のどちらを行うかはどのように決まるのでしょうか。社会心理学者たちは、原囚帰属の研究をすすめる中で、帰属のされかたに影響する要囚を説明しようとしてきました。ここでは、さまざまな状況で活用できそうな、他者に起こった出来事や行為に関わる情報を切り分けてひとつひとつ検討していく手法を提唱したケリー(1973)による共変動理論を紹介します。
共変動理論は、自分や他者に起こった出来事、自分や他者の行為や反応に関わるいくつかの要素が、それらを見た人(または経験した本人)によってどのように認識されるのかが重要であるとします。具体的には、以下の3側面に注目します。
(1)観察された出来事、行為や反応の「一貫性」
(2)その他の刺激を対象とした場合との「弁別性」
(3)他の人たちに起こった出来事や、行為、反応との「合意性」
ここからは他者に起こった出来事である「あなたの友人のあおいさんが数学のテストで悪い点数をとった」に的を絞って、この3つの側面がどのように機能しているのかを順番に理解していきましょう。(つづく)
それではこの3つの要素の高低がどのような組み合わせになったらどのような帰属がいいかわかるのでしょうか。
内的帰属が行われるのは、あおいさんが小テストでも定期テストでも常に数学の点数が低く(一貫性が高く)、国語や英語など、どんなテストでも点数が低く(弁別性が低く)、クラスの中であおいさんだけが数学の点数が低い(合意性が低い)ときです。つまり、「あおいさんが数学のテストで悪い点数をとった」ことは、あおいさん自身の努力の足りなさ(あおいさんは勉強不足)や能力(あおいさんは勉強ができない)、性格(あおいさんは不真面目)に帰属されます。
一方で、いつもは数学の成績がいいのに今回だけ点数が低く(一貫性低)、英語や国語ではいい点数をとっていて(弁別性高)、数学の点数が悪いのはあおいさんだけではない(合意性高)場合、「あおいさんが数学のテストで悪い点数をとった」原因は、たえば「今回の数学のテストは難しかった」など、外的な要素に帰属されます。
また、あおいさんはいつも数学の点数が低いけれど二貫性・、他の科目ではいい点数をとっていて(弁別性高)、数学の点数が悪いのはあおいさんだけではない(貪意性高)、という場合も、数学のテストを作っている先生の出題の仕方や教え方に問題があるとか、数学という科目自体が他の科目に比べて難しいのだ、というように、あおいさん以外の別の外的な要素に原因が帰属されます。
このように、私たちは他者に起こった出来事や行為に対してしらずしらずのうちに3つの要素に基づいて分析を行い、外的帰属をするか内的帰属をするかを考えている、ということになります。私たちが普段なにげなく行っている原因帰属も、このように要素ごとに分解、理解していくと、新しい発見があるかもしれませんね。あなたが観察した誰かの行為は、いつも見られるものですか(一貫性)? 他の対象に対しても同じような行為が見られますか(弁別性)? そして、その人だけがそれをしますか(合意性)? 一見複雑に見える事象を要素に分解して理解しようとする考え方に慣れておけば、もう少し後で説明する「誤った原囚帰属」を防げるかもしれません。
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