『ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学』 ( 2011/7/8・2011/7/8コルコ・イアコボーニ著),
ミラーニューロンとは直接は関係ないが、「鏡像認識課題」のギャラップのエピソードが掲載されていたので、その部分を先ず紹介します。
鏡像認識課題
この課題は一九六〇年代末に、ニューヨーク州立大学オールハニー校の心理学教授ゴードン・ギャラップによって考案された。ミラーニューロンの発見時と同じく、このときもちょっとした偶然が思いがけない成果をもたらした。この時、大学院生たったギャラップは、研究プロジェクトを必須とする課程を履修していた。彼はそのときのことをこう述懐する。「ある朝、鏡の前でひげを剃りながら、なにをしようかと考えるでもなく考えていた。鏡に映る自分の姿を見ていて、ふと、人間以外の種に鏡に映った自分を自分と認識できるだろうかと思った。そして、これを課題にしたらいいじゃないかと」
ギャラップの最初の被験者はチンパンジーだった。ただし、いきなり課題を与えたりはせず、まずは鏡を前にしたチンパンジーの自然発生的な行動を観察するだけにとどめた。この点だけでもギャラップの研究は大きな進歩だった。実際に課題を行なうにあたって、チンパンジーは鏡に慣れておく必要があったからだ。さもないと、意外性の要素がすべての結果を歪めかねない、また、鏡というものを知る機会をチンパンジーにもたせることも必要だったし、鏡を前にしてのチンパンジーの自然発生的な行動がしだいに発達していく過程をギャラップ自身がよく把捉しておく必要もあった。このような研究の第一段階に数日がかかった。そのあとの第二段階で、チンパンジーは麻酔をかけられ、無臭の染料で額にマークをつけられた。目的は単純である。このマークはチンパンジーから直接見ることはできず、鏡を通してしか見られないのだ。
チンパンジーが麻酔から覚めても、ギャラップは急いで鏡を用意したりはしなかった、まずは被験者の行動を観察して、額につけられたマークの感触や匂いを嗅ぎつけられていないかどうかを確認する必要があった、チンパンジーは気づいている気配をいっさい見せず、マークに触ろうともしなければ、ふだんと異なる行動をすることもまったくなかった。そこでようやく、ギャラップは再び鏡を出してきた。するといきなり、チンパンジーの行動に明らかな変化が現れた。ひんぱんにマークを触り、しつこく調べ、そして繰り返し鏡を使うようになったのである。これは確実な証拠だ。チンパンジーは鏡に映るのが自分自身だとわかって見ているのである。動物の額にマークをつけるという単純なアイデアにより、ギャラップは動物に課せる有効かつ客観的な自己認識課題の手法を作りあげた。(以上)
ミラーニューロンとは直接は関係ないが、「鏡像認識課題」のギャラップのエピソードが掲載されていたので、その部分を先ず紹介します。
鏡像認識課題
この課題は一九六〇年代末に、ニューヨーク州立大学オールハニー校の心理学教授ゴードン・ギャラップによって考案された。ミラーニューロンの発見時と同じく、このときもちょっとした偶然が思いがけない成果をもたらした。この時、大学院生たったギャラップは、研究プロジェクトを必須とする課程を履修していた。彼はそのときのことをこう述懐する。「ある朝、鏡の前でひげを剃りながら、なにをしようかと考えるでもなく考えていた。鏡に映る自分の姿を見ていて、ふと、人間以外の種に鏡に映った自分を自分と認識できるだろうかと思った。そして、これを課題にしたらいいじゃないかと」
ギャラップの最初の被験者はチンパンジーだった。ただし、いきなり課題を与えたりはせず、まずは鏡を前にしたチンパンジーの自然発生的な行動を観察するだけにとどめた。この点だけでもギャラップの研究は大きな進歩だった。実際に課題を行なうにあたって、チンパンジーは鏡に慣れておく必要があったからだ。さもないと、意外性の要素がすべての結果を歪めかねない、また、鏡というものを知る機会をチンパンジーにもたせることも必要だったし、鏡を前にしてのチンパンジーの自然発生的な行動がしだいに発達していく過程をギャラップ自身がよく把捉しておく必要もあった。このような研究の第一段階に数日がかかった。そのあとの第二段階で、チンパンジーは麻酔をかけられ、無臭の染料で額にマークをつけられた。目的は単純である。このマークはチンパンジーから直接見ることはできず、鏡を通してしか見られないのだ。
チンパンジーが麻酔から覚めても、ギャラップは急いで鏡を用意したりはしなかった、まずは被験者の行動を観察して、額につけられたマークの感触や匂いを嗅ぎつけられていないかどうかを確認する必要があった、チンパンジーは気づいている気配をいっさい見せず、マークに触ろうともしなければ、ふだんと異なる行動をすることもまったくなかった。そこでようやく、ギャラップは再び鏡を出してきた。するといきなり、チンパンジーの行動に明らかな変化が現れた。ひんぱんにマークを触り、しつこく調べ、そして繰り返し鏡を使うようになったのである。これは確実な証拠だ。チンパンジーは鏡に映るのが自分自身だとわかって見ているのである。動物の額にマークをつけるという単純なアイデアにより、ギャラップは動物に課せる有効かつ客観的な自己認識課題の手法を作りあげた。(以上)