超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

Syrup16g全曲レビューその12「ハミングバード」

2010-08-21 22:31:24 | Syrup16g全曲レビュー





その12、「ハミングバード」です。







ハミングバード            アルバム「Mouth to Mouse」収録







さっきはあんなに怒ってたのに
嫉妬、ひがみもあんま長続きしない


「寝れば全てを忘れられる」というのは一見良い事のように語られますけど
「時間が解決してくれる」というのも利点のように書かれますけど
逆に言えば何度も何度も同じ事を繰り返すのって
睡眠や時間が誤魔化してしまう、
本当はその痛みも許せない気持ちもずっと胸の中にしまっておけば
度重なる過ちを繰り返さずに済むのは明白なのに
気付いたらそんな痛みも許せない気持ちも泡のように消え去って、「まあいいか」って気分になってしまう
本当に愚かなのはそんな意思も芯もない自分自身・・・と考えると
まずこの曲は人間の愚かさを歌ってる歌だと感じる事が出来ます。



苦しんだ割には実りは少ないな


ある程度の年齢になれば自ずと気付かざるを得ないんですが
頑張ったら頑張った分だけ返って来る、というのは一種の夢物語なんですよね。
頑張っても、それが相手や世界に届くかどうかは別なので。
だから、不条理にも巻き込まれるし
泣き寝入りも強いられる
他人は自分ではないから、自分の想いも分かれないし、その逆もまた然りだから。
どんなに辛くても、厳しくても、納得出来なくてもやれる事は最後の最後まで諦めない
ただそれだけ。
戦い続けるしかない、という事。
一部の例外を除いて、誰もが地を這うように生きている訳なんです。



君だって僕だって優秀じゃないから
たまにはこうやって涙も出るよ


悔しくて涙を流す時に、「泣いちゃダメだ」なんて高尚な事を一切思えないのは
自分は負け犬だ、劣っている人間だという意識がどこかにあるから
でも、だからなんなんだ?という話でもあって
元々優秀でもなんでもない
元々劣勢だと思えれば、泣くのに理由も要らないしそれまでに辿って来た道を眺めれば
至極当然の事だとも思える。自分は泣いてもいい人間なんだと。
認めるべきなのは自分が弱い人間だと言うこと、それだけ。
そこさえ自分で認められれば、
また一歩踏み出す勇気も生まれる・・・と思う。最悪なのは中途半端に過信してしまう事だから。

いちいち変な理由なんて付けてないで、弱さが憎けりゃ素直に泣け、と。
この詞には五十嵐隆の根源的な優しさが詰まってると思います。



思い出せ 掘り起こせ 土ん中に埋めたやつ
くだらなくて 恥ずかしくて そこに多分すべてがあったんだ


年を重ねるたびに色々な棘がきれいになくなっていって
ただ単に世間体を気にして取り繕って、無難さだけを頼る人間になってしまう
みんなと一緒なら安心という偏った考えだけを信じてしまう
でも、
そんな風にカメレオン化する人生が幸せか?と言うと・・・
安定ではあれ、幸福だとは呼べない気がする
元々そこにあった自分の「色」
いつの間にか埋めてしまった自分だけの理念や好き、考え方をもう一度取り出して見直して
その「色」をまた磨き直したり、維持したり、誰かに見せる事で
惰性ではなく選んで生きる人生が始まる。
それまでは人間の抱える本質的な愚かさや悲しみにスポットを当てつつも、
最後にはそんな泥沼から抜け出すヒントをさり気に提示する
ただ嘆くだけの曲ではなく
その一歩先を見つめてるような、
最終的にはまだ「信じたい自分」がいるという
それもまたリアリティがあって素敵な曲だと本心から思えます。
派手さに関して言えば他の曲よりも控えめですが、詞の一つ一つの重さだったり
そこから滲み出る人間くささだったり、沁みる要素は多々詰まってるので
それこそ一人の夜に酒の肴に聴くような・・・
そんな情感溢れる
Syrup16g流の人間賛歌に仕上がっていて。醜さや間抜けな部分も反らさず描いているのが尚良いです。






セミだって花だって 悲しいと思える
人間の感性を 自分は愛している


人間ってすぐ争うし軋轢は絶えないし、足の引っ張り合いばっかする生き物ですけど
だからって人間は滅びるべきだと思うかというとそれは違いますよね。
醜い部分があるように
風情を楽しめる美しい心だってある。
多面的であるからこそ素直に憎む事が出来ないのもまた皮肉ですけど、
そんな断言出来るほどシンプルでもないよな、ともやっぱり思います。凄く、本質的な楽曲だと思う。
だからこそ、じんわり響く。




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