超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

Syrup16g全曲レビューその60「パッチワーク」

2013-07-23 23:33:16 | Syrup16g全曲レビュー





















パッチワーク            アルバム「COPY」収録
















この曲は歌詞自体はダウナー系に仕上がってるんですけど
サウンド、アレンジは底抜け・・・とまでは行かないものの凄く明るくて元気なんです
揚々とした心地良いベースラインにザクザクと鳴る刺激的なギター、小気味良いドラミング
これで歌詞が普通に恋の歌だったりポジティブな応援歌だったら売れ線に近いと思うんですが(笑
それを許さないのが五十嵐隆の罪であり何よりも素晴らしい部分であります
こんな抜けの良いカラッとしたバンドサウンドに合わせて歌われる苦悩と願望が入り混じった
シリアスかつ切実なフレーズの数々はむしろサウンドが空元気だからこそ余計に哀愁漂う感触があって
悲しい時ほど元気に、気丈に振舞おうとするあの感覚を個人的には彷彿してしまいます
それは別に狙って~とかではないんでしょうけど
そういう要素も含めて個人的には絶妙だなあ、と感じられる一曲ですね。

また、割とシンプルに突き抜けたサウンドに仕上がってるのと同時にある種洗練もされていて
まだ若いときの音源ではありますが後期にも通じる流麗なコーラスワークだったり
浮遊感も感じられる間奏の気持ち良さだったりと
この頃から独特のアレンジ力の高さの片鱗は見せていたんだなあ・・・と思うと振り返るのも楽しい
少なくともただ単に初期衝動を感じさせる~って結論には至らない趣を今でも感じますね
そういう部分に着目してもまた面白いと思える楽曲の一つです。



歌詞には色々な解釈があると思いますが
「楽したいのです」っていうのはそのまんまの意味合いではなく
悲しみや苦しみ等の感情を出来れば請け負いたくはない
いつも平穏な気持ちで生きていたい
そういう願望が込められているのでは・・・と個人的には感じました
そりゃ誰だって荒んだ気持ちのままで生きたくはない、世界がどうなってようが
他人がどうなってようが、そういう自分らしい気持ちだけは保っていたいし犠牲にされたくはない
自分だけの素直な感情だったり無垢な気持ちを侵食されたくない思いが常に渦巻いている

それは自分勝手な欲望ではなく、凄く普遍的な感情だと思うんですよね
「仕方ないさ」「そういうものさ」「甘くはないさ」誰だってこういう言葉を口にするけれど
本音の本音の部分がそれか?って言われると確実に違うと私は思っています
「甘くはないさ」の裏で本当は心の平穏を望んでいる
出来れば穏やかなままでいたいと願っている
それは勝手でも欲張りでもなく真の意味で普遍的だし抱いて当然の気持ちにも思えるんです
自分自身真っ当に生きたいと思っていても平穏に生きたいと思っていても
他者からの偶発的な影響で台無しになるのが当たり前の世界で
それに対する苦しみと不条理・・・そして一方でそんな自分に対する批判の要素も含まれている楽曲で。


【都合良すぎるぜ】

夢物語のような理想と
拭い切れない自分に対する幻想と
その二つを抱えて生きている自分に対する短くも強烈な批判が込められているフレーズ
平穏でただただ豊かなだけの日常や世界を願う前半に対して異議申し立てのような要素が舞い込んでくる
それは矛盾でなく、豊かさだけを望む一方でそれが都合の良い願いだと本当は分かっている証拠で
逃れられない苦痛や悲しみ、怒りは必ずあると認めている本音でもあって。

そうやって自分にとっての理想やこの世界に対する幻想を膨らます気持ちを歌うのと同時に
その願いや祈りが全部叶うのは都合の良い事だよ、というツッコミも入れている
つまりは非常にニュートラルな歌詞に仕上がってると思うんですが
最終的な着地点は


【正論なんて諭んないで】

ここに落ち着くと思うんです。元々自分が抱えてるきれいなだけの願望を半ば否定すると同時に
だからといって自分を棄てる必要はない、正論に染まっていく必要もない
そのままの自分で
自分が一番生きたいと思える自分で
痛みを背負いながら歩いていく・・・というのがこの曲が出した答えの最終型だと私は思っています
普遍的な祈りではあるけれど、悲しみや怒りを全部避けられるほど都合は良くない
だからと言って持論を棄ててまで生きる人生に価値はない
その中間で、
嘆きながら隙間を縫うように生きて―
と、こうやって考えると至極真っ当で地に足が付いているメッセージソングだなと私は感じました
勿論五十嵐隆本人にその気はサラサラないでしょうけど、聴き手がどう受け取るかは自由なので。
他人に染まらないのならば
自分を棄てる気がないのならば
この痛みも悲しみすらも通過儀礼である。
そういう達観と覚悟をもらえる、そしてやりきれなさに対しての処方箋としても機能してくれる、
サウンドと歌詞のギャップが逆に切なさを煽ってくれる初期の名曲の一つですね。
そこにはある種の厳しさも存在してますけど、
むしろ現実を突き付けてくれるからこそ癒される気持ちも確実にあります。
一番最悪なのは上辺だけの言葉で騙され搾取される事ですから。













【ここから逃げたいのです】

五十嵐隆の歌詞は驚くほどに剥き出しで、作為的な部分が全く感じられない
加えてそんな自分を甘やかしている節も感じない。そこが、やっぱり、大好きです。





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