超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

Syrup16g全曲レビューその62「月になって」

2013-09-22 14:10:16 | Syrup16g全曲レビュー



















月になって                  アルバム「HELL-SEE」収録

















この全曲レビュー企画はそもそも「犬が吠える」が突如解散し不安で
また五十嵐隆が前線に復帰するのを願って始めた全曲レビュー企画なのです
これが終わる頃には復帰してるといいな、と思ってましたが
終わる前に復帰し
そして先日UKFCで念願の、5年半ぶりの五十嵐隆の生声を聴く事が叶いました
始まる前から感無量でしたが、始まったらもう何度も泣きそうになってしまった位感慨深いステージで
その姿はとてもエネルギッシュで生命力に溢れているような感触が確かにありました

でも、一旦始めた企画ですから最後までやり通したいと思います
まだ、自分にとって大切である種の救いにもなった曲たちが残っているので。
なったというか、未だに力を貰っていますけどね。








この「月になった」を聴いたのは学生の頃で
その頃から物悲しさと優しさが同居しているこの曲が大好きでした
私はSyrup16gで一番好きなアルバムが「HELL-SEE」なんですけど
その頃も今もかなりの頻度で聴くような求心力と存在感が溢れている楽曲ですね
大人になって、「何か」になれた実感がはっきり言ってゼロだからこそ
胸に沁みるような・・・
だけど、この曲に関してはそのまんま「何もなかった」学生時代に於いても自分にとってよく機能していて
ふと時折空しさを感じては一人で浸っている、無心に聴くような、そんな曲でもありました。

何よりも、この曲はメロディが凄く良いんです
Syrup16gはそもそもが美しいメロディを逐一鳴らしてきたバンドですけど
その中でも一聴きした時からズバ抜けたメロディだな、と深く感じていました
淡々と、でも感情も水面下では籠もっているような静かな歌声から
アンニュイさがそのままメロディになったような、
切なくも繊細なメロディが広がっていく音像は何度聴いてもグッと来ますし
真剣に感じざるを得ない雰囲気が込められています
理屈抜きで表現すれば、心情の吐露がそのままきれいに零れ落ちていくような儚さがあって
それに触れるのが堪らなく気持ちよく、また沁み入る楽曲・・・というのが個人的な見解ですね。

タイプとしてはバラッドに属すると思うんですが
心地良く鳴らされる序盤からサビではその感情の吐露を表現してるかのように音が静かに白熱していく
そういう楽曲構成もまた面白く後になればなるほど感情移入をせざるを得ない作りになっているのが素敵な曲。










「ありのまま何もない君を」

人並みに努力して、頑張ったつもりで、自分なりに懸命に生きているつもりでも
結局理想にも平穏にも、豊かさにも届かず不満と劣等感と不安だけが残っていく日常
特に人生の過ち等犯しておらず
人道にも外れず
真っ当に生きようとしてもそこには「何もない」という心情が常に付き纏って虚無感から逃れられない
自分のままで、自分を貫き通して、自分を保った結果「何もない」という感触に辿り着くならば
最終的に感じる想いは俯いてしまうような空しさでしかない
そこからはきっと逃れる事は出来ない


「子供じゃないから
 言葉じゃないから
 そばにいるだけ
 今はこれだけ」

そしてこのフレーズも個人的に大好きなフレーズです
子供のようにふてくされて立ち止まれるほどの時間と余裕はもうない
言葉で励まされるほどの根源的な自信もとっくに失くしている
でも、そんな時にそばにいてくれれば
いなくならないでくれれば
きっとまた立ち上がれる時だって訪れる
「存在」そのものが自分にとってのエネルギーに変わっていく、ということ。
そういう繊細で情景を感じさせるフレーズの妙はやっぱり冴えてるなと思います。


個人的な見解ではありますが、
この曲はある種自分自身に向けて鳴らされてる曲なんじゃないか・・・と思う時があります
「自分(心)」がいなければ「自分(思考)」が今存在していられる事もないから
何も思わず何も責めずにただその存在を認めてあげる歌詞にも感じられて
結果的に「何もない」なんて思えてしまう自分に対して
苦しくて嘆きの心情を吐露してる曲にも聴こえる
だからこそ他者に対する意味合いだけでなく更に深く深く響くような曲なんじゃないかと
頑張っても、いくら努力して願っても到達出来ない場所は確実に存在する
その現実に対して必要以上に空しさを感じてしまった時に
側に居てくれる、
何も言わずに寄り添ってくれるような・・・
結論と致しましては私にとってはそういう曲ですね。
作中から漂ってくる哀愁と劣等を認めなければいけない悔しさに胸が熱くなる一曲でもある。
そんな色々な角度から聴いて色々な心情を感じる事が出来るのが何よりの長所かもしれません。名曲。
















「掴めそうで 手を伸ばして
 届かないね 永遠にね」


でも、こういう悔しさがあるから人は立ち止まる事を踏み止まれるのかもしれません。
今の自分の敗北をしっかり受け止めて感じて、もう一度前に進む為の歌なのかも。
人は後ろ向きだって歩いていける生き物ですから。
無理に前向きになんてならなくていい。





最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (つきこ)
2013-12-06 03:46:50
はじめまして
コメント失礼いたします。

月になって、最も好きな曲なのでじっくり読ませていただきました。
恋愛の曲だとずっと想ってきましたが、色々な感じ方があるのだなぁと、とても興味深かったです。


10年以上、シロップを毎日のように聴いていますが、時々、今もまだ聴いてる人はいるのか、5月のNHKホールは幻だったんじゃないかとか、色々不安になります(苦笑)
そんな時に、レビューを拝見して、とても嬉しかったです。
無理なく続けてくださいね。
返信する
この曲はファン人気高そうですね (西京BOY)
2013-12-06 11:25:40
つきこさん、初めまして。


私も大好きな曲です
学生の時初めて聴いた時はあまりのメロディの美しさに感動した覚えがあります
だからかなり奮闘しながら書いたんですけど、そういう言葉を頂けて凄く嬉しかったです。

個人的には「ありのまま何もない君」ってフレーズがまるで自分自身の事のように思えて
学生時代から感情移入して聴く類の曲でした
メロディはかなりの美メロですがその上に物悲しい歌詞を乗せる事でより儚さが際立ってるなあ・・・とつくづく思います。
ガラスみたいに綺麗で、そして壊れやすい繊細さを含んでいる曲だなって。


私はNHKホールには都合上行けなかったのですが
UKFCというイベントで武道館以来に五十嵐隆の姿を拝見する事が出来ました
今も五十嵐さんは「戦っている」事がはっきりと肌で伝わって来たので
私もシロップの音楽に感銘を受け続けて来た身として少しでも後押し・支持の提示が出来ればな、と
そうでなくとも純粋に大好きな楽曲ばかりなので。
自分なりのペースで続けていきたいと思います。

こちらこそ同じファンの方からコメントが頂けて光栄でした。感謝です。
返信する

コメントを投稿