超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

Syrup16g全曲レビューその58「ニセモノ」

2013-02-21 15:15:15 | Syrup16g全曲レビュー












今回も重たい曲ですが・・・。約1ヶ月ぶりです。












ニセモノ             アルバム「syrup16g」収録










この曲を聴いてると無条件に悲しい気分になるんですけど、
ここまで本気の哀愁を本気の温度で表現出来てる楽曲もないよなあ・・・と思います
私自身「ニセモノ」側の人間なのでこういうリアルな感情を表現している楽曲の方が惹かれます
そういう曲の方が聴き手にとっての糧になってくれると本心から感じているので。

「負け犬」と「ニセモノ」は結構似たようなテーマ性の楽曲だと個人的に思っているのですが
「負け犬」が普遍的な劣等の概念を美しく残酷に切り取っているのに対し
「ニセモノ」は・・・更に辛い、
頑張ったけれど全く報われなかったという事象を描いているように感じます
要するに「負け犬」と「ニセモノ」では時間軸が別というか、以前と以後というか。
最終的には解散という道を選ばざるを得なかったその結末を含めて歌い手そのもののゾクッとする程のリアルと
聴き手の琴線を真っ向から揺さぶる感情の吐露に押し潰されそうになりつつも、
それがカタルシスとして気持ち良くも思えるという
自分の負けを潔く認めるという点ではある種前向きな歌とも取れるその一筋縄ではいかない懐の深さ
一曲の中にネガティブもポジティブも両方凄まじい密度で詰め込まれている
ラストアルバムの中でも特に印象に残る楽曲として仕上がってる一曲、
この曲にシンパシーを覚える方も多いと思う。


何もしないで、努力もしないで散々な現状であれば「しょうがないな」って納得も出来ますが
自分なりに、完璧ではないなりに精一杯頑張った結果が空しくなるだけ・・・というのは
色々と理屈だったり冷静に考えてもどこかで嫌になる気持ちが湧き出てきて
どう仕様もないルサンチマンが勝手に溢れ出してしまう
空しさで身体が覆われる
そういう時にこの曲を聴くと・・・少しは救われる気分にもなれると思います
そう考えてるのは自分だけじゃない、他にも燻った感情を抱えながら生きている人がいる
出来損ないと一度認めた上で、それでも歩き出す/また考えて生き抜く日々には確かな価値があるはず。
どうしようもない無力感に浸りたい時には絶好のナンバーかと思います
落ち込みたい時は素直に落ち込む方が健康的だと思うから。

リリースし始めの頃の悟りを開いたように歌われていた虚無感とは違って
リリース最後に悔しそうに、精一杯の哀愁を込めて絶唱される虚無感だからこそ妙な説得力の差があります
それは皮肉にも初期の楽曲の絶対的な正しさを証明しているようでもあるのですが。
その圧倒的なペーソスの渦に巻き込まれて
自分自身の感情すら素直に投影出来て、沁みて、完璧なマイナスになれる。
当時から大好きな一曲でしたが、その頃より経験を経た事でより大好きになれた、そういう楽曲です。
「他と比べないでいい」とか言っても結局は
「他と比べてどうか」というのが苦しいくらいに気になってしまう
そこで明らかに「負け」を意識してしまった時に・・・一人で密かに聴いて欲しい。










【拾った想い吐き出して 愛されたいの まだ】

それでもまだ安易な希望が消えなくてすがりついてしまう人間くささ・・・もまた
この曲の特徴であり、それが残ってる事自体が見苦しくも一つの救いではある、という。
こんなにも必死にもがいているロックナンバーは早々無いと思います。