ぼくはいつかあなたを失うだろう
あなたはいつかどこかへ消えるだろう
それでもそれでもそれでも大丈夫さ
なにもなかったように笑えるさ
かわりのなにかで埋め合わせてきっと
それなりに楽しくやっていくさ (ミュージシャン)
初めて佐藤さんの弾き語りソロユニット、クガツハズカムを観た時から印象は変わらず
ある種の浮浪者の為の音楽というか、ルサンチマンを抱えながら生きてる人々に捧げるような音楽だと思いました
一人きりで真夜中に聴くには最適の音楽なんですけど
その分過去に起こった嫌な出来事や満たされない感情のツボだったり
間違ってしまった自分自身の汚さや消そうとしても消えない傷の在り処を抉られたりと
今まで自分が経験してきた様々な出来事、それも嫌な嫌な部分を強制的に掘り起こす音楽でもあり
だからこそ一人の人間として思い切り感情移入して聴ける作品にもなっていると思う
聴き手に傷跡を残す鮮烈な音楽ではありますが、
要所要所に希望を感じさせるエッセンスが入っているのも塩梅やリアリティ的に良い感じです
絶望というよりも、本当はシビアな現実を生き抜く為の音楽になってるのが素敵ですね。
全曲良い。全曲名曲レベルの作品ではありますが
なんでそう思うのかって言えばどの曲もベクトルが違う面白さがあるからで
多種多様でありながら、でも聴き心地が散らばってないという凄いアルバムになってるんですよね
ジャンルレスな感じはするけれど、でもどれも真剣に聴けて浸れる最低限のシリアスさは内包されてるし
何よりどのタイプの楽曲も自然体でこなしている感じがして、だからどれも素直にいいなあ、と思える
オルタナバンドと言えば割と硬派に決めてるイメージがありますが
このバンドは意外と雑食だなって、
一つの方向性に捉われていない柔軟な面白さがあって
例えばマイブラ等を彷彿とさせる本気印の音響ロックがあると思ったら
下北系直球の感情的なギターロックがあったり、オルタナド真ん中の「平行世界」があったり
ポエトリーの楽曲もあればCMソングにも使えそうなくらい飛び抜けてポップな楽曲も入っている
基本的にはディープな詞世界の楽曲がほぼ全てを占めるアルバムですが
最後の最後に涙が出そうになるくらい明るい曲が入ってたり
洋邦問わず様々なバンドからの影響を感じさせるバンドですけど、そのふり幅が広く
こういう超シリアスな佇まいでイメージに捉われすぎない柔軟なサウンドに仕上げてる技量に感服しました
きっとなんだってやれるし、
どこにだって行ける強さを感じますけど
楽曲に於ける人間性や主人公像だけは一切動いていないイメージ・・・
と言ったら分かりやすいですかね
ジャンルとベクトルはそれぞれで異なるけど、雰囲気や佇まいは妙な統一感があって
そういう部分もまた節操みたいなものを感じて個人的には凄く好きでオリジナリティあるなあ、と
正に90年代も00年代もいっしょくたに取り込んできた世代ならではの音楽って気がする
また一つ凄いバンドの登場に立ち会えた気がしてとても嬉しいですね
1stにして名盤という言葉がとても似合う作品でした。
また、佐藤さんの声の使い方も面白くて
アグレッシブな絶唱系も、美しいアンセムも、女性らしい可愛い声の曲も
むしろ男っぽいテイストの渋い楽曲も全部歌いこなせるシンガーとしての器用さがあって
そういう声の部分に着目しても面白いアルバムかもしれません
一曲ごとに大幅に変わったりしますから
本当に喜怒哀楽を繊細に表現してくれてるのがしっかりと伝わってきます
楽曲の時点で人間そのものって印象の曲が多いですけど、それに加えて声の演出でよりリアルに肉迫してくる
その楽曲の背景や状況に応じたボーカリゼイションにこだわっている気がして
そういう職人的な部分が魅力だとも思います
勿論職人的とは言ってもロックバンドならではの衝動感にも満ちているんですけどね。
そこもまた抜かりの無い部分で益々良いバンドだなと感じられます。
個々の楽曲を取り上げると、まず人間の根本的な悲しみを真剣に語りかける「夜鷹」から既に最高潮
哀愁溢れる「平行世界」に、人間の感情の一部である悪意や凶暴な憎しみを隠さずに歌った「春と修羅」
トラウマを呼び起こす「国道スロープ」に救いにも似た福音「ユーリカ」は絶対的な名曲で
ポップな音像とは裏腹にどうにもならない弱者の想いを吐露してる「風化する教室」
光が差し込むような美しいアレンジと歌声が素敵な「Another Word」も大好きな一曲だし
精神の深淵に入り込むようなディープな内省ソング「ミュージシャン」、
そして
そこに至るまでの紆余曲折を含みながらも最後に明るく笑う「明日にはすべてが終わるとして」・・・
聴き終わった後には不思議とちょっとだけ前を向けるような気分になれました
散々人生の辛酸や傷跡を刻み付けた後で、それでも抱いてしまうポジティブな気持ちを思い切り広げる
だからこそ自分はこのアルバムを素直に名盤だと思えた節はあります
素材が良いのは勿論、
味付けも素晴らしかったというか。
是非通して聴いて何かを感じて欲しいアルバムです。
個人的には堂々たる風格と意思を感じる傑作だと思います。
そりゃあね、人生も長く過ごせば色々あるんですよね
その中で起きてしまったことと、起こしてしまったこと、そしてこれから起こすべきこと
3つが重なり合って聴き手に感傷や同調を与えて、最終的には一つ抜け切った気分で先を目指せる
ミュージシャンとしての確かなプライドや聴き手に対する目的意識が明確に存在する
しっかりと考え抜かれた末の作品にも感じました。
所謂気にしいな人やセンシティブな感覚を持って生きてる人には是非聴いて欲しい、触れて欲しい音楽ですね。
それでもやっぱり忘れたくないや
あなたの声やくだらない話 (同上)