旅限無(りょげむ)

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素人がやっては行けないこと 其の壱

2011-12-13 15:59:17 | 外交・世界情勢全般
■マスコミ各社が一斉に世論調査の結果を発表して年末商戦の様相を呈した週末だったようですが、今時、「固定電話」だけを使って掻き集めたデータにどれほど統計学的な資料価値があるのかないのか、少なくともこの20年ほどの間に爆発的に「個人」所有の携帯電話が普及している実態から類推して固定電話だけを利用している「世帯」だけを対称とした調査結果に世論動向の実態がくっきりと見えるとも思えないのですが……。それでも、参議院で問責決議が通った一川シビリアン防衛大臣に対して「早く辞任すべきだ」との回答が8割超も集まったと聞きますと、まだ旧式の世論調査にも一定の真実味が残っているような気もします。

■完全内向き「党内融和」に凝り固まっている野田ドジョウ首相にとっては世論の喧(かまびす)しい声など文字通りの馬耳東風で、世間の声より政権維持の命綱となる小沢グループの数と参院の輿石会長の御威光の方が遥かに重要なのでありましょう。そうしたドジョウ首相の胸の裡をよくよく分かっている一川シビリアン防衛大臣であるからこそ、「しっかりと私に与えられた任務を乗り越えていく中で、国民に防衛省、自衛隊ががんばっている姿を見せたい」などと臆面も無く言っていられるのでしょうなあ。少なくとも自衛隊が頑張っていることは大震災と原発事故で多くの国民が理解を深めておりますが、防衛省となりますと背広組の資質が低いのではないか?とあちこちから懸念の声が漏れております。そして何より防衛大臣には既に誰も何も期待していないのでしょうから、うっかり「与えられた任務を乗り越えて」日本の安全保障を危機に瀕するような素人仕事だけはしないで頂きたい!

■米国では12月12日の両院協議会で、12会計年度(11年10月~12年9月)の国防権限法案から在沖縄海兵隊のグアム移転経費を全額削除することが合意されてしまったそうです。米軍再編という大きな枠組みの中に世界一危険な普天間飛行場の移設問題が組み込まれているのですから、グアム移転が停滞したら計画の歯車は急停止するか逆回転してしまうかも?移設計画を根底からぶっ壊してしまった鳩山サセテイタダク元首相は、先に「辺野古以外の場所も考えろ」などと恥の上塗りでしかない妄言を吐いて、マスコミから悪い意味で注目されたことを勘違いしてしまったらしく、12月5日の講演で「首相を務めた人間として責任がある。(普天間問題には今後も)何らかの形で関わらないといけない」と御丁寧に民主党政権の安全保障政策に対する批判の火に油をかけて見せた由。「首相を務めた人間として」有りもしない影響力が残ってはいけないとの理由で政界引退を思い付きで口にしてしまい、後援会の数名に翻意を迫られたとて「やっぱり辞めるのを止めた」と自らの出処進退に関してもウソをついてしまった事も忘れて、何処からともなく吹き始めた解散風を感じて本気で自分の議席を守ろうとし始めたとしたら、世にも珍しい形で自分が作った政党から追い出される元首相の役を演じて歴史に名を残すことになるかも知れませんぞ。

■一川シビリアン防衛大臣は地雷を抱いて敵戦車のキャタピラーに襲い掛かった大日本帝国の軍人のように、「環境影響評価書」という爆弾を年内に沖縄県現地に持って行く気でいるから「乗り越えて」という表現を使ったものと考えられるのですが、これも沖縄問題の「詳細は知らない」からこそ可能な行動だと言えるでしょう。沖縄で大規模なデモや暴動が起こったら日米関係は取り返しがつかない大混乱になることを承知の上なのか、そうなった後始末は外務省に丸投げすれば済むと思っているのか、何も考えていない大臣の頭の中は誰にも分からないのかも知れませんなあ。


政府は13日、航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)に、米国主導で国際共同開発中の最新鋭ステルス戦闘機F35を選定する方針を固めた。16日に安全保障会議(議長・野田佳彦首相)で正式決定し、2012年度予算案に4機分の取得費を計上。最終的に約40機(2飛行隊分)を取得する。…… 

■公務員給与の削減法案も国会議員定数削減法案も先送りして国会を閉めてしまい、増税以外は何も決められないのかと思っていたら、今後20~30年間の日本の防衛力を決定する重大なことを野田ドジョウ内閣が事務的にスケジュール通りに決めてしまいましたぞ!野田ドジョウ首相に安全保障会議の議長など務まるのかいなあ?それ以上に一川シビリアン防衛大臣は次期主力戦闘機について「詳細を知って」いるのでしょうか?一体、誰が決めたんだ?


F35は候補の3機種のうち、レーダーに探知されにくいステルス性能を備えた唯一の次世代(第5世代)戦闘機で、最新のレーダーや僚機と情報共有する「データリンクシステム」を備えている。性能面で最有力視されたが、開発が遅れ、空自が求める16年度中の納入が不安視されていた。……安全保障面での対米重視を鮮明にした形だが、実際の配備までには曲折もありそうだ。FXは老朽化したF4戦闘機の後継機。政府は初年度分の4機は完成品を輸入し、その後は可能な限り国内企業を生産に関与させたい考えだ。
2011年12月13日 産経ニュース 

■問題の3機種というのが突如選定されたF35と、F/A-18E/F スーパーホーネット・ブロックIIという馬鹿長い名前の機体と欧州製のユーロファイターなのだそうですが、国民的な議論もなければ国会でもみっちり議論した形跡が無いまま自民党政権時代からの重要な懸案事項だった機種選定が、安全保障に疎い政権と名高い現政権があっさり決めてしまった大丈夫なのでしょうか?特に一川シビリアン防衛大臣に「与えられた任務」としては荷が勝ち過ぎているのではないか?

■どうやら拙速に見える選定の裏には鬼より怖い財務省と防衛省との間に暗闘があったようなのですが……。


防衛省は次期主力戦闘機(FX)選定でF35を本命視している。しかし、米国防総省のF35調達計画が2年延長され日本への導入が遅れれば、抑止力の「空白」が生まれかねない。慎重を期すには、選定時期の先送りが選択肢となるが、これが「FX不要論」につながる懸念もある。今後の手続きは、空自が(1)性能(2)経費(3)国内企業の参加形態(4)納入後の支援態勢-で候補機を採点し、一川保夫防衛相に上申。省内の「機種選定調整会議」への諮問と政務三役会議を経て、一川氏が導入機種を決める。16日にも安全保障会議で了承を得た後、来年度予算に関連経費を盛り込む。…… 

■一川シビリアン防衛相が恐ろしいほど重要な立場に置かれているのは当然のことですが、「防衛には素人、これが本当のシビリアン・コントロール」と自称した流儀で日本の運命を左右する戦闘機の(経費はともかく)性能・国内企業の参加形態・納入後の支援態勢を正しく評価採点など出来るのでしょうか?政務三役会議も安全保障会議も政治主導など夢のまた夢の構成メンバーですから、結局は省庁間の歪で陰気な力関係で拙速に次期主力戦闘機が決まることになりそうですなあ。


候補の3機種のうち、敵のレーダーに捕捉されにくいステルス性が特徴の第5世代戦闘機はF35だけ。中国が2017年に5世代機の実戦配備を目指していることを念頭に空自にはF35導入に期待感が高い。それだけに、「今さらF35以外を導入するための説明資料を作れない」(政府高官)との声もある。…… 

■世界最強の戦闘機であるとの評判が高いのは確かなようですが、その高性能故に同盟国の日本にさえも渡せない軍事機密が満載で早くから「日本には売らない」という声が米国側から聞こえていましたし、どうやら開発実験中に高性能ゆえの不具合が見付かって開発自体が予定通りに進んでいないという曰くつきの機種でもありますから、防衛官僚の声に引きずられて素人(シビリアン)判断が下されると日本の空に大きな穴が開いてしまう心配があります。


FXは平成21年度予算から調達経費を計上する予定だったが、3年にわたり計上を見送ってきた。すでに財務省は防衛費削減のターゲットとして「FX不要論」を唱え、さらなる先送りは不要論を勢いづかせる。実際に先送りすれば、F35に配慮したことになり、ほかの2機種のメーカーが不公平だとして訴訟を起こしかねない。…… 

■小泉政権の時代、今は国会議員になっている片山さつき女史はかつては財務官僚で防衛予算を担当して「潜水艦は、冷戦構造を前提とした時代遅れの兵器である。増やす事など認めない」とシビリアン発言をして防衛予算から「ひゅうが型護衛艦」と「そうりゅう型潜水艦」1隻ずつを削ってしまった実績?がありまして、小泉チルドレンの一員として国会議員になった後も防衛問題に関しては迂闊に物が言えない立場になってしまっているとかいないとか……。民主党政権内にも安全保障に関しては決して素人(シビリアン)ではない人材が居ないわけではないのですが閣僚級には見当たらないようです。財務省の傀儡政権だと名高い野田ドジョウ内閣ですから財政再建・大増税しか考えない財務省の出鼻を挫くためにも、大急ぎで機種選定を済まさねばならない事情も分からぬではないのですが、あまりにも唐突でありましたなあ。


「透明性を確保した方法で決まる」。野田佳彦首相は12日、英保守党のハワード前党首との会談でそう述べたが、現実は、問責決議を受けた一川氏に選定を丸投げ。一川氏が導入機種について明快な説明をできるかも疑問で、防衛省幹部は「今回の選定は清水の舞台から飛び降りるようなものだ」と話す。
2011年12月13日 産経ニュース 

■こうなりますと、本当に機種選定は素人(シビリアン)流に進められて行くしかなさそうです。「透明性を確保した方法」などという官僚作文を丸暗記して英国側に発信してしまう野田ドジョウ首相にも困ったもので、前と前の前の首相と同じく世界から嘘吐き呼ばわりされてしまわないことを祈るばかりであります。

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