■中国共産党の第16期中央委員会第5回総会(5中全会)が10月8~11日の4日間、北京で開催されるそうです。「調和のある社会」が大きな目標とされるとの話ですが、目標とするということは今の状況には「調和」が実現していないという事です。ずっと不思議に思っているのですが、北京オリンピックと上海万博がいつも明るい話題として語られる傾向が強過ぎるようです。国際的なイベントが有る時、あの国は非情に危うい状態になるのです。1989年の6月4日に起こった民主化を要求して大集合していた学生達を血祭りに上げた騒動の発端は、旧ソ連のゴルバチョフ大統領の訪問に合わせて始まったデモでした。世界の視線が集まる時、陰に隠れている派閥抗争や地方の反目と連動するように表面では激しい動きが始まるようです。
■あの時よりも、中国は国際化がずっと進んでいますから、政府は露骨な弾圧は出来ないだろうと考えている人々が増えていると考えた方が良いでしょう。国威発揚を目的とすれば、外国から多くのマスコミを受け容れねばなりません。間違っても、主要国にボイコットされたモスクワ・オリンピックのような醜態を晒すわけには行きません。人民元も変動相場制に徐々に移行しようという時期に、海外資本が一斉に引き上げられるような悪い評判は立ってもらっては困るわけですから、精一杯、国内の安定と反映をアッピールしなければなりません。
■国内に広まっている経済格差は有名ですから、既に北京や上海に住み着いて陳情をしている貧しい人々に合流するような大群が動き出したらエライことです。経済格差を是正するためには、更なる海外からの投資が必要です。北京や上海を中心とした沿岸部にやっと蓄積された富を地方に分散するような事をしたら、それこそ砂地に水をまくようなものです。今でも莫大な国債を発行しながら「西部大開発」を進めているのに、何処かから水が漏れるように資金が消えてしまう問題が解決されないのでしょう。こうした苦々しい実情を克服しようというスローガンが「調和のある社会」なのでしょう。
中国の華僑向け通信社「中国新聞社」(電子版)は28日、中国共産党規定に違反するなどして責任を追及された党幹部が、胡錦濤総書記を中心とする新指導部が発足して以来の3年間に約3万人に上ると報じた。具体的な違反内容としては、
▽党活動と企業活動の兼任約8000人
▽標準を超える無駄な車両の配備約2万両
▽規定違反の住居所有約3万軒
▽贈収賄約4000人
▽職権を利用した借金約25億元
▽組織的な人事規律違反約800件--などを挙げている。
胡指導部は一向になくならない党幹部の腐敗・汚職問題解決のため、新たな条例を制定し、取り締まりを強化するなど、さまざまな対策を取ってきた。現在は、全国の27省・自治区・市で公用車の使用に関する改革を実施しており、浪費の取り締まりを進めている。
毎日新聞 2005年9月30日
■華僑系メディアに流れているというのも意味深で、海外からの投資の多くは華僑系の資金だと言われているのですから、何としても繋ぎとめておかねばならない金づるです。海外資金も国家予算も同じように食い物にされてしまう蟻地獄のような構造が無くならないのでしょう。ここに列挙されているのは国家予算を食い潰す党に巣食う悪人ばかりです。従って、海外からの援助や寄付をツマミ食いする不心得者や、私服を肥やす目的で気ままな税金やら手数料を巻き上げる地方の党幹部の悪行は出ていません。勿論、既に財閥と化している人民解放軍の実態も出て来ません。
■それにしても、高級自動車と豪邸、室内を飾る豪華な装飾品や高級食材の購入に賄賂を湯水のように使っている姿が浮かび上がる報告ですなあ。余りにも分かり易い成金趣味なので、マスコミが囃し立てる経済成長の裏側に広がっている伝統的な貧困の深刻さが分かります。3年間で3万人、つまり年に1万人を摘発したというのですが、13億人の人口に対して国家財政で養っている国家公務員と準国家公務員の人数が7000万人以上で、これは官民の人口比で見ると「1対18」になると言われています。或る統計によると、米国の官民人口の比例は1対94で、公務員への支出は財政の総支出の14%。中国は6000万人以上の党政府機関の公務員と400万人の準公務員への支出が、総支出の37.58%とされています。
■ところが、「人民日報」は、中国の官民比率は1:198だから、米国の1:12や日本の1:28と比べれば遥かに低いと書いているそうです。役人1人を支える国民が18人と198人では差が大き過ぎます。こんな統計数値を平気で発表するのが中国の凄さですなあ。足して2で割って調整するわけにも行きませんから、7000万人以上と言う数字を採用しますと、ここから3万人の悪人を摘発したとして、どれ程の効果が期待できるのか?一罰百戒などは全く通用しない逞(たくま)しい人々ですから、ドジな役人が捕まったら自分だけは上手くやるぞ、と奮い立つでしょうし、ますます賄賂をばらまかねばならないと考えて、公金をちょろまかしたり、裏商売に精を出すでしょう。
■真面目に人民に尽くす共産党員もきっと居るのでしょうが、海外に向けて恥を晒さねばならない程の苦しい状況なのだと考えれば、素朴にオリンピックや万博を楽しみにしてはいられませんなあ。本当に「調和のある社会」が実現出来るのならば目出度いことですが、それほど簡単には行かないでしょう。1970年の大阪万博で掲げられたテーマは「進歩と調和」だったのは偶然だったのか、進歩はしたけれど、調和とは程遠い公害騒ぎが大きくなったのは万博の後でした。中国の環境汚染は深刻な公害になっているようですが、マスコミが押さえ込まれている体制では、鋭いルポルタージュは期待出来ません。汚染が酷い地域では暴動が起こっているという情報も漏れて来ます。経済格差も民族対立も、全部まとめて「調和」させる魔法のような手段が有れば良いのですが……
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■あの時よりも、中国は国際化がずっと進んでいますから、政府は露骨な弾圧は出来ないだろうと考えている人々が増えていると考えた方が良いでしょう。国威発揚を目的とすれば、外国から多くのマスコミを受け容れねばなりません。間違っても、主要国にボイコットされたモスクワ・オリンピックのような醜態を晒すわけには行きません。人民元も変動相場制に徐々に移行しようという時期に、海外資本が一斉に引き上げられるような悪い評判は立ってもらっては困るわけですから、精一杯、国内の安定と反映をアッピールしなければなりません。
■国内に広まっている経済格差は有名ですから、既に北京や上海に住み着いて陳情をしている貧しい人々に合流するような大群が動き出したらエライことです。経済格差を是正するためには、更なる海外からの投資が必要です。北京や上海を中心とした沿岸部にやっと蓄積された富を地方に分散するような事をしたら、それこそ砂地に水をまくようなものです。今でも莫大な国債を発行しながら「西部大開発」を進めているのに、何処かから水が漏れるように資金が消えてしまう問題が解決されないのでしょう。こうした苦々しい実情を克服しようというスローガンが「調和のある社会」なのでしょう。
中国の華僑向け通信社「中国新聞社」(電子版)は28日、中国共産党規定に違反するなどして責任を追及された党幹部が、胡錦濤総書記を中心とする新指導部が発足して以来の3年間に約3万人に上ると報じた。具体的な違反内容としては、
▽党活動と企業活動の兼任約8000人
▽標準を超える無駄な車両の配備約2万両
▽規定違反の住居所有約3万軒
▽贈収賄約4000人
▽職権を利用した借金約25億元
▽組織的な人事規律違反約800件--などを挙げている。
胡指導部は一向になくならない党幹部の腐敗・汚職問題解決のため、新たな条例を制定し、取り締まりを強化するなど、さまざまな対策を取ってきた。現在は、全国の27省・自治区・市で公用車の使用に関する改革を実施しており、浪費の取り締まりを進めている。
毎日新聞 2005年9月30日
■華僑系メディアに流れているというのも意味深で、海外からの投資の多くは華僑系の資金だと言われているのですから、何としても繋ぎとめておかねばならない金づるです。海外資金も国家予算も同じように食い物にされてしまう蟻地獄のような構造が無くならないのでしょう。ここに列挙されているのは国家予算を食い潰す党に巣食う悪人ばかりです。従って、海外からの援助や寄付をツマミ食いする不心得者や、私服を肥やす目的で気ままな税金やら手数料を巻き上げる地方の党幹部の悪行は出ていません。勿論、既に財閥と化している人民解放軍の実態も出て来ません。
■それにしても、高級自動車と豪邸、室内を飾る豪華な装飾品や高級食材の購入に賄賂を湯水のように使っている姿が浮かび上がる報告ですなあ。余りにも分かり易い成金趣味なので、マスコミが囃し立てる経済成長の裏側に広がっている伝統的な貧困の深刻さが分かります。3年間で3万人、つまり年に1万人を摘発したというのですが、13億人の人口に対して国家財政で養っている国家公務員と準国家公務員の人数が7000万人以上で、これは官民の人口比で見ると「1対18」になると言われています。或る統計によると、米国の官民人口の比例は1対94で、公務員への支出は財政の総支出の14%。中国は6000万人以上の党政府機関の公務員と400万人の準公務員への支出が、総支出の37.58%とされています。
■ところが、「人民日報」は、中国の官民比率は1:198だから、米国の1:12や日本の1:28と比べれば遥かに低いと書いているそうです。役人1人を支える国民が18人と198人では差が大き過ぎます。こんな統計数値を平気で発表するのが中国の凄さですなあ。足して2で割って調整するわけにも行きませんから、7000万人以上と言う数字を採用しますと、ここから3万人の悪人を摘発したとして、どれ程の効果が期待できるのか?一罰百戒などは全く通用しない逞(たくま)しい人々ですから、ドジな役人が捕まったら自分だけは上手くやるぞ、と奮い立つでしょうし、ますます賄賂をばらまかねばならないと考えて、公金をちょろまかしたり、裏商売に精を出すでしょう。
■真面目に人民に尽くす共産党員もきっと居るのでしょうが、海外に向けて恥を晒さねばならない程の苦しい状況なのだと考えれば、素朴にオリンピックや万博を楽しみにしてはいられませんなあ。本当に「調和のある社会」が実現出来るのならば目出度いことですが、それほど簡単には行かないでしょう。1970年の大阪万博で掲げられたテーマは「進歩と調和」だったのは偶然だったのか、進歩はしたけれど、調和とは程遠い公害騒ぎが大きくなったのは万博の後でした。中国の環境汚染は深刻な公害になっているようですが、マスコミが押さえ込まれている体制では、鋭いルポルタージュは期待出来ません。汚染が酷い地域では暴動が起こっているという情報も漏れて来ます。経済格差も民族対立も、全部まとめて「調和」させる魔法のような手段が有れば良いのですが……
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