小林りん×岩瀬大輔【中編】「親の大切な役割は、多様な選択肢を見せ、背中を押してあげること」賢者の知恵

2014年07月14日 23時21分30秒 | Weblog
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39638
小林りん×岩瀬大輔【中編】「親の大切な役割は、多様な選択肢を見せ、背中を押してあげること」賢者の知恵

○「強みはとことん伸ばして弱みは諦める」
岩瀬: さて、ライフネット生命保険の社員から「小林りんさんにこういうことを聞いてみたい」という質問があったので、いくつか紹介させていただきます。まず、「東大に入ったときは受験したのですか? 帰国子女入試みたいな形だったのですか?」という質問です。

小林: いや、一般入試でした。2年間しか海外に行っていなかったんですが、帰国子女枠は3年以上じゃないと認められないので。ですから、中学、高校、大学、大学院で入試を経験しています。

岩瀬: 何か必勝法のようなものはあったのですか?

小林: 計画を立てて何かをやるのはすごく得意だったと思います。私の場合、中学受験も高校受験も大学受験も、全部半年くらいしか準備する期間がなかったんです。小学校6年生くらいのときにいじめられて、半ば現実逃避するような形で中学受験をしようということで、いきなり塾に行き始めて受験をしたんです。

中学時代も部活ばっかりやっていて、3年の半ばから高校受験の準備をしました。大学もカナダの高校を卒業して帰ってきて、半年間しか時間がなかったので勉強しました。ものすごく時間がなかったですね。

それで何をやったかというと、「この学校に受かるにはこの参考書が必要だ」という情報をみんなから聞いて、それを全部買ってくる。まず1日かけてすべての目次に「何月何日の何時にはこの章をやる」とプランを作り、その通りにやるということを、中学、高校、大学の受験勉強でやりました。

岩瀬: 僕はちょっと違う闘い方で、「強みはとことん伸ばして弱みは諦める」という戦術でいきました。学校とか試験によって、通用する場合としない場合がありますが、東大のときは、僕は英語が偏差値80、数学が70、国語が50、社会が30くらいと偏りがありました。でも、それで受かりました。

社会人になってからも同じです。弱みを克服しようとしてもしょうがないので、とことん強みを伸ばすしかないと思っています。あとは基本として、過去問題を何回も何回もコツコツとやったということくらいですね。

続いての質問ですが、「ご自身がこれから教育を受ける子供だったらどのような教育を受けたいですか?」。最初に僕の事情を言っておきますと、僕は小学校2年生からイギリスに行って、小学校6年の卒業式の前に帰ってきていますが、日本の公立の小学校はけっこういいな、と思っています。

みんなでキチンと礼儀正しく、みんなでお掃除をして、みんなで給食をちゃんと準備して、栄養管理士が作ったメニューを食べて、というのは実は良い仕組みだと思います。

これがアメリカに行くと、まず掃除のおじさんがいて掃除はその人がやって、食事はコカコーラを飲んでピザを食べて、という感じです。それと比べると、日本の公立の学校はすごくいい。子どもを公立で伸び伸びとさせるのもいいと考えているのですが、りんちゃんはどう思いますか?

○競争をさせるけど、評価軸が一つではないイギリス
小林:  日本の初等教育は優れていると思いますし、世界的にも評価が高いです。今まさにおっしゃった通り、躾けの部分が物凄く評価が高い。私たちの学校もインターナショナルスクールなんですが、自分たちのお掃除の時間を作りたいと思っています。

日本がこれだけ綺麗なのって、「自分が使ったところは自分で掃除をする」というのがみんなカルチャーとしてあるからだと思うんですね。そこは凄く大事にしたいところだと思います。

たとえば私たちは今年高校を開校するんですが、中学生を対象に毎年サマースクールを開催しています。海外の子と日本の子で絶対的に違うのは、日本の子はスリッパをキチンと揃えるんですね。こういうところは本当に日本のカルチャーの美しいところだと思います。海外の子はそれを見て「日本人は凄い!」とビックリするんですね(笑)。

そういう日本らしい良いところは大事にしたいですね。ただ、私自身が小学校は公立で中学校は学芸大附属中学、高校も学芸大附属高校をもう一回受け直して入って、ずっと公立ではあったんですが、先ほどお話をしたように高校1年で辞めた辺りが転機になったのかな、と思っています。

日本では中等教育と言われる中学校高校あたりから5教科をやるとか、国公立大学を目指そうと思うと、やっぱり5教科を満遍なくできることが要求されていくというふうに、段々はまっていくな、ということを自分では感じました。

自分だったら、子供たちが大きくなるに従って、一人ひとりの良いところを伸ばす方向にフォーカスしていきたい。自分の場合はそうすべく自分を変えたという話なのかなと思います。

岩瀬: 僕が、イギリスの小学校で良かったなと思っていることの一つは、体育の授業でした。イギリスではたとえば選抜サッカーチームとそれ以外というふうに分けていて、選抜の子供たちにはどんどんやらせるんですね。

一方で、普通あるいはあまり運動神経が良くない子供たちは、ルールを変えて、先生がいろいろな賞をあげるんですよ。面白いプレーをしたとか、ファウルばっかりしたとか、手を使ってゴールを入れたとか(笑)。

そこで何がポイントになるのかというと、脚が速いという軸で計るだけではなく、違う評価軸を入れることで運動神経が鈍い子供も楽しめるということです。これはイギリスの知恵なのかな、と思います。競争もさせるけど、評価軸は一つではないということを教わった。この経験はとてもよかったと思っています。

それと、僕は高校から開成という進学校に行ったのですが、何がいちばんよかったかというと、仲間同士でお互いを高め合っていく点です。今でもいちばんつき合いがあるのは、東大時代の友達ではなくて、開成高校の友達なんですよね。

ですから、勉強するにも仕事をするにも、お互い切磋琢磨することが本当に大事だと思っています。それぞれのなかに学校に求めるものがある。いい仲間がいるということが大事なポイントなのかなと思いました。

○学校を軸にしつつも、国の教育政策にもかかわっていきたい
岩瀬: 次の質問は、「ご自身のお子さんに何を期待していますか? 日常的にどういうことを意識してお子さんに接していますか?」ということです。まだお子さんは小さいですよね。

小林: そうですね、4歳と0歳です。4歳児のほうですが、やっぱり良いところを見つけて伸ばしてあげたいな、と気をつけています。うちの息子は完全に主人似なんですね。顔も頭の形も、そっくりで(笑)。

岩瀬: ご主人はすごく寡黙で落ち着いていて、りんちゃんとは正反対の人ですよね(笑)。

小林: 主人は同じ大学でも工学部の電気電子情報系出身という、24時間研究室で研究をしているような人なので、私とは全然違いました。子供は明らかにそちらに似ているので、英語なんかやってもまったく興味がないですね。

その一方で図鑑が大好きなんですね。しかも深海魚と爬虫類が好きなんですよ(笑)。英語も日本語もほとんど興味がないんですが、彼が好きなところを伸ばすということでやっています。

岩瀬: じゃあ、次の質問ですが、「ご自身の10年後20年後30年後、どんなイメージを持っていますか?」

小林: 難しい質問ですね。10年前に今の自分がイメージできていたかというと全然できていなかった。今のイメージがどれだけ正確かわかりませんが、まず今年ISAKが学校を開校するということで、向こう10年間はこの学校をキチンと立ち上げて軌道に乗せて安定させるということに完全に注力したいと思っています。

今年の8月には主人の理解も得て家族全員で軽井沢に移住いたします。完全に学校と家族だけの生活になっていくと思います。

それが終わって20年後はどうかというと、私は60歳になっています。教育の分野のなかで学校を軸にしつつも、学校だけに限らず、たとえば国の教育政策とか、そういうところで何かお力になれることがあればやっていきたいなと思っています。30年後は70歳ですから、そのときには良いお祖母ちゃんになりたいですね。

岩瀬: 僕もあまり将来のイメージはないです。最近よく話をするのは、一緒にライフネット生命を作った出口治明という人間が今66歳なんですね。最初に会ったときは58歳だったのですが、日に日に若返ってくるんですよ(笑)。

やっぱり新しいものを作るとか、若い人たちと切磋琢磨しながら新しい挑戦をするって本当に素晴らしいことだな、と思います。りんちゃんのお父さんではないですが、60歳になってからもう一回ベンチャーを立ち上げることができたらすごく楽しいと思います。そのときに若い人たちと組んで一緒にやりたいので、最近は年下の友達を増やすよう、20代の人たちと積極的に接するようにしています(笑)。

では、そろそろ会場から質問を募りたいと思いますので、挙手をお願いします。

質問者A: 私は高校生の娘がいるんですが、将来どのように歩んでいくかということを悩んでいます。大学受験と留学とで本人が迷っているのですが、お二方とも海外生活や留学経験があるということで、大学受験との関係性についてお伺いしたいです。

お二方とも東京大学に入っておられますが、私の勝手なイメージだと、留学をして東大に入るというのはあんまりしっくりこないんですね。どちらかというと、東大に入るためにはしっかりと勉強をして受験をクリアした人間が入るというイメージが強いので、娘が将来を見通していくうえでどういう人生を歩むのがいちばんいいのか、お伺いしたいと思います。

岩瀬: ご本人が留学したいと言っているのなら、とにかく全力で応援してあげて「行ってこい」と言ってあげるのがいいかな、と思います。それは受験とはあんまりつながらなくて、やっぱり世界に出てみるというのは、本当に素晴らしい体験だと思います。

普通は親が行ってほしいと思っても本人がそうでもないというパターンが多いと思うので、ご本人が「自分もやってみようかな」と思っているのであれば、そのあとのことはあまり考えずに、まずは全力で送り出すというのがいいのではないでしょうか。

小林: 私もまったく同感ですね。私はすごく留学して苦労したんですよ。3ヵ月くらい毎日泣いていました。英語ができなくて、授業がわからなくて、テストの問題文も読めなくて、友達もできなくて。

カフェの10人くらいのテーブルで、ウワーッとみんなが話し出すと何を言っているのか全然わからなくて、みんながワーッと笑っているときに0.5秒くらい遅れて笑うみたいなことが何度もあって、本当に辛かったです。でも、それによって自分の世界観とか人との接し方とか価値観とかいろいろなことが変わったんですね。

振り返ってみて、自分が一度マイノリティになるという経験が人を成長させると思うのです。私もお嬢様がそういうふうにおっしゃっているのであれば、ぜひ応援してあげてほしいですね。

それから、大学受験というのは今後、非常に速いスピードで変わっていくと思います。先日、東大の方々とお話をしていたんですが、今は東大でさえ推薦入試を始めようとしています。今後、センター入試が要らなくなる日も近いと思いますし、先ほどお話をした帰国子女枠も3年だったのが2年に短縮されていきます。

また、「国際バカロレア」という海外のカリキュラムで入試をすることもできるようになります。どんどん受験や入試そのものが変わっていきます。ですから、もしご本人が留学したいと思っているのであれば、ぜひ背中を押してあげてほしいな、と思います。


○親が選択肢を調べ、子供に能動的に決めてもらう
質問者B: 私は中学3年生と3歳と0歳の子供がおりまして、中学3年生のほうはISAKのサマースクールに参加させていただきました。やはり小さい子供ももちろんのこと、今後、多様性に対する好奇心や向上心がもっと育ってほしいと思っています。ISAKさんはそういうところを伸ばしていくような学校なのかなと考えています。

そこで、たとえば参加者を選考する際にそういった子供とそうじゃない子では何が違うのかというところをお伺いしたいと思います。また、個性がそこに向かわなかったときに、親にできることがあるのかどうかについてもお伺いしたいと思います。

小林: 本校の入試という意味では3段階あって、書類で学力等を見させていただくところと、それからエッセイや小論文を書いていただくところ、さらに面接という段階で選考を行わせていただいています。まずは学力のところでは、オール4の子供よりは、5、3、3,3・・・というような子供のほうを優先したいなという思いでやっております。

それから、全体的な個性という意味では、1学年50人という小さな学校ですが、全員同じような子供ではなく、できるだけ違うことが得意な人が入ってくるようにしています。

どうしても私どものような学校ですと、英語が得意とか国際問題に興味があるような方が集まりがちなんです。しかし、そこに「サイエンスオリンピックに興味があります」「ロボットが大好きです」「深海魚が大好きです」というような人にも入ってもらいたいと思い、バランスをとっています。

あとは、エッセイと面接をさせていただきますので、そのお子さんが何か本当に大事にしていること、絶対譲れないところがあるのかどうかというのは、そのなかで随分出てきています。

岩瀬: 親御さんに何ができるかということでは、自分の兄弟の経験を見て考えさせられたことがあります。僕には姉がいますが、小学校高学年くらいからアニメが大好きになって、中学校3年のときに「声優になりたいから声優の学校に行きたい」と言い出したんです。でも、父がダメだと言って、それで通常の高校に行きました。

大学に入るときには、好きなアニメのキャラがロシア人だったから「ロシア語学科に行きたい」と言ったんですね。すると、父親が「語学は潰しが効かないから趣味でやれ」と言い、結局法学部に行きました。

今は専業主婦で幸せそうですが、「あのとき声優学校に行かせてあげていたら、あのときロシア語学科に行かせてあげていたら、お姉ちゃんどうなっていたのかな」と思うことがあります。

だから、親としてこうなってほしいという思いはあっても良いと思いますが、子どもはその通りにならないです。親の役割は、いろいろな選択肢を見せてあげるということが大事だと思います。

僕も今思うと、大学からアメリカに行くという選択肢はあったはずですが、当時は「東大東大」と思っていて、何も考えずに東大に入っていました。母親に言わせると、「私は『アメリカの大学に行ったら』って言ったじゃないの!」と言うのですが、現実的なオプションとして自分のなかで認識していませんでした。

だから、いろいろな可能性を見せてあげつつ、でも何かをやりたいと言い出したら絶対やらせてあげたほうがいいなということを、姉を見てきて思いました。

小林: 私も、選択肢について情報を調べておくというのが親にできる唯一のことなのかな、と思います。私は親から「勉強しろ」とかは言われたことがほとんどなくて、今振り返ると親にもいろいろな思惑があったんだろうな、と思いますね。

決して親からやらせるのではなく、あたかも自分が能動的に全部決めているという意識を持たせながら、親が情報と選択肢を調べていくということが上手くできるといいなと思います。

岩瀬: うちの父親は、僕が小学校のときは普通に「勉強しろ」と言っていたのですが、中学に入ってからはまったく言わなくなりました。弁護士にならずに外資系企業に行くときも、会社を辞めてベンチャーを立ち上げたときも、「ふーん、いいね」というふうに、絶対に「いいね」としか言わなかったんですね。

あとで「そういえば、お父さんは絶対にこうしろと言わなかったね」と聞いたら、「息子には中学生になったら絶対に何も言わないと決めていた」と言っていました。進路のことについても一回も何も言われなかったのですが、それはある意味で有り難かったですね。

【後編につづく】

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