日本国家の内側からの崩壊危惧

2007年10月11日 00時35分16秒 | Weblog
日本国家の内側からの崩壊危惧
村上正邦氏の証言

 安倍晋三前政権は、憲法改正を掲げた本格保守政権であるとみられていた。この安倍政権がわずか1年で崩壊してしまったことをどう分析するかは、日本の今後の政治状況を予測する上でもきわめて重要だ。その前提として、安倍氏に体現された保守主義が何であったかを解明する作業が不可欠であるが、最近、このためにとても有益なノンフィクションが上梓された。魚住昭氏の著作『証言村上正邦 我、国に裏切られようとも』(講談社)である。実は、本書の成立には筆者もかかわっている。

 〈日本の右派勢力とは何だろう? そんな疑問に突き当たっていたとき、私(筆者注・魚住氏)は外務省の元主任分析官である佐藤優さんから興味深い話を聞いた。/佐藤さんの話によると、村上正邦さんは九州の筑豊炭坑で貧しい坑夫の子として生まれ、青年時代には炭坑で労働運動のリーダーをしていた。幼いころには朝鮮半島から強制連行され、虐待されている人たちの姿も目撃し、心を痛めたことがあるという。/私はこの話を聞いて、村上さんのインタビューを思い立った。左翼になってもおかしくない経歴を持つ村上さんが、なぜ右派の代表的政治家になったのか、その経緯をじっくり聞いてみたいと思ったのである。/もし村上さんがすべてを話してくれるなら、近年なぜ「右派」が急速に台頭して政治の主導権を握るようになったのか、その謎を解き明かすこともできるのではないか〉(4~5ページ)

 村上氏は魚住氏が問いかけた質問に対してはすべてを正直に話しているという印象を筆者は受けた。国家観について2人の考えに開きがあるので、けんか寸前まで緊張している部分もある。政治の裏表を知り尽くし、参議院のドンと呼ばれたにもかかわらず、その後、収賄容疑で逮捕され上告中の村上氏は日本国家に裏切られた人であるという認識に基づいて、魚住氏は〈根幹が腐っていることが分かったいまでも、なお国家を愛しますか〉(245ページ)と詰め寄る。この後の2人のやりとりが秀逸だ。

 〈村上 私が愛する国家とは、魚住さんがおっしゃるような、官僚に支配された偽物の国家とは違うんです。

魚住 幻想の国家ですか?

村上 そうではありません。偽物の国家とは、国という字を見ればわかるように、王、即ち権力者を、官僚や軍が周囲を取り囲んでいる。しかし、私が求めてやまぬ真実の日本国とは、万邦無比の邦(くに)、これを社稷(しゃしょく)と言ってもいい。つまり日本古来の共同体なんです〉(同)

 社とは土地の神で、稷とは五穀(米・麦・粟(あわ)・豆・黍(きび)または稗(ひえ)の神を指す。社稷とは土地と地域共同体に根ざした体制を意味し、権力をもって法律によって統治される「国家」とは異質の、本来的な国家であると右翼思想においては考えられている。村上氏の社稷国家には筆者も賛成だ。筆者は、本書を村上氏の政治的遺言と受けとめている。

 村上氏は、近代合理主義に基づく左翼思想が戦後の日本に蔓延(まんえん)することで、日本国家が内側から崩壊してしまうのではないかと強い危惧(きぐ)をもった。そして、同志とともに右翼運動を構築することで、本来の日本国家を回復しようとした。しかし、政治には固有の悪がある。左翼に対抗し、運動を展開するうちに、他者を人格として尊重するのではなく、モノと見て、操作する対象と考えるような合理主義が入ってきた。本来、保守主義者が忌避する大衆扇動の技法が右翼運動に取り入れられた。右翼運動も左翼運動のように官僚化していく。その結果、寛容性、多元性、優しさが右翼から失われていったのである。

 また、村上氏も権力の中枢に登ることによって、永田町(政界)の権力者の「ゲームのルール」の中でしか動けなくなってしまう。本書で村上氏が明かした2004年4月2日、密室の中で、5人組によって森喜朗政権が誕生したときの出来事は、日本の政治ゲームがいかに国民不在のもとで展開されているかを示す貴重な証言だ。あのとき密室で、村上氏が、〈森さん、お前さんしかいないじゃないか〉(201ページ)と口火を切らなかったならば、森政権は誕生しなかったかもしれない。密室の5人が加藤紘一政権が誕生することをいかに恐れていたかが、村上氏の証言から浮かんでくる。日本の政治エリートの内在的論理を知るためにも本書は有益だ。

http://www.business-i.jp/news/sato-page/rasputin/200710100005o.nwc

日本は今後どのように進むのだろうか?
周りには疲れた人か、馬鹿のような若者ばかり。
貧しかったが、戦後の60年70年代の方が
活気があった気がする。