脳を効率よく働かせるためには、ハンドマッサージが有効であることが最近の研究でわかった。手は「第二の脳」ともいわれ、もみほぐすことが脳の働きを円滑にするとみられている。調査・研究にあたった古賀良彦・杏林大学教授(精神神経科)に話を聞いた。(村島有紀)
脳内血液の酸素量減少 余裕ある状態に
脳科学の視点からの心の健康維持増進を目的に活動しているNPO法人「日本ブレインヘルス協会」の理事長も務める古賀教授。今年2、3月、製薬会社「ユースキン製薬」と共同で、脳内血液の酸化ヘモグロビン量(酸素量)を映し出す装置を使い、ハンドマッサージの有無により、脳の活動がどう変わるかを調べる実験を行った。酸素量が多ければ多いほど、脳は“酷使”され、オーバーヒート気味の状態となる。逆に少なければ余裕のある状態と判断される。
実験では、20代から40代の女性18人それぞれに、(1)ハンドマッサージなし(2)ハンドマッサージだけ(3)ビタミン系クリームをつけて、ハンドマッサージする(4)ビタミンを配合しない基材だけのクリームを使ってハンドマッサージする-の4状態で、「偶数のあとに、数字の3が出てきたら左手でボタンを押す」という課題を与えた。
そして、この間の酸化ヘモグロビン量を測定した結果、(1)の状態では、課題の開始直後から脳内血液の酸素量が増加。一方、(2)(3)(4)では、酸素量は少なく、脳が無理なく動いている状態を示し、さらにハンドクリームを塗ったほうが酸素量は少ないという傾向が表れた。「ハンドマッサージを受けることにより、脳に負担をかけずに同じ課題をクリアできることが実証された」と古賀教授は話す。
フル稼働はNG
実験の対象となった脳の部分は、短期記憶をつかさどる「ワーキングメモリー」という箇所だ。主婦が掃除機をかけながら、夕食の献立を考えつつ、空模様を見て洗濯物の取り入れ時間などを決められるのは、さまざまな情報を一時的に記憶し判断する、この脳機能が働いているからだといわれている。
ところが、忙しすぎたり考えることが多すぎると、脳がオーバーワーク状態となり、ストレスを感じたり、イライラしたりして、若い人でもワーキングメモリーが正常に働かなくなる。また、神経科の臨床領域では、ワーキングメモリーが正常に働かず、物忘れやうっかりミスが増えることは、高齢者の場合、「軽度認知症」の初期症状も疑われる。
ではなぜ、ハンドマッサージをすると、「ワーキングメモリー」がスムーズに機能するのだろうか。古賀教授は「手は『第二の脳』ともいわれ、手を上手に扱うのは脳を大切に扱うのと同じ。それほど、手と脳の関係は深く、手に刺激を与えることで脳のバランスがよくなり、低燃費でもよく考える“エコ脳”になったと考えられる」と説明する。複数の用事を段取りよくこなすには、ワーキングメモリーに余力がある状態が望ましく、メモリーが疲れていると、次の行動や決断を要領よく進めることができない。
「車が低燃費のほうが評価されるように、同じ成果を出すのであれば、“エコ脳”のほうがいい。日々の家事や仕事がスムーズに進まず、頭がいつもフル稼働の状態であれば、場合によっては軽度の認知症を早めてしまう」と警告している。
自分でも簡単にできる
ハンドマッサージは、アロマや整体などのマッサージ店や、エステティックサロン、ネールサロンなどで受けられるが、足裏や背中と異なり、自分でも簡単にできる。全国34カ所でネールサロンを運営しているベレックス(東京)のネイリストで、ハンドマッサージに詳しい能登朝子さんによると、「セルフマッサージ」の仕方は次の通りだ。
(1)手をキレイに洗った後、ハンドクリームを塗る(2)指の側面を親指と人さし指で押しながら、指先に向かってマッサージする(特に指先は念入りに)(3)親指と人さし指の間を押す(4)手のひらの親指の付け根をグーでぐりぐりと押す(5)手の甲を手首に近づけるようにしてストレッチする-など。
能登さんは「クリームを塗ることで、手表面のすべりがよくなります。自分の好きな香りや肌にあったクリームで、マッサージの習慣をつけるといいですね」とアドバイスしている。
(2007/07/13 14:54)
http://www.sankei.co.jp/seikatsu/kenko/070713/knk070713000.htm
脳内血液の酸素量減少 余裕ある状態に
脳科学の視点からの心の健康維持増進を目的に活動しているNPO法人「日本ブレインヘルス協会」の理事長も務める古賀教授。今年2、3月、製薬会社「ユースキン製薬」と共同で、脳内血液の酸化ヘモグロビン量(酸素量)を映し出す装置を使い、ハンドマッサージの有無により、脳の活動がどう変わるかを調べる実験を行った。酸素量が多ければ多いほど、脳は“酷使”され、オーバーヒート気味の状態となる。逆に少なければ余裕のある状態と判断される。
実験では、20代から40代の女性18人それぞれに、(1)ハンドマッサージなし(2)ハンドマッサージだけ(3)ビタミン系クリームをつけて、ハンドマッサージする(4)ビタミンを配合しない基材だけのクリームを使ってハンドマッサージする-の4状態で、「偶数のあとに、数字の3が出てきたら左手でボタンを押す」という課題を与えた。
そして、この間の酸化ヘモグロビン量を測定した結果、(1)の状態では、課題の開始直後から脳内血液の酸素量が増加。一方、(2)(3)(4)では、酸素量は少なく、脳が無理なく動いている状態を示し、さらにハンドクリームを塗ったほうが酸素量は少ないという傾向が表れた。「ハンドマッサージを受けることにより、脳に負担をかけずに同じ課題をクリアできることが実証された」と古賀教授は話す。
フル稼働はNG
実験の対象となった脳の部分は、短期記憶をつかさどる「ワーキングメモリー」という箇所だ。主婦が掃除機をかけながら、夕食の献立を考えつつ、空模様を見て洗濯物の取り入れ時間などを決められるのは、さまざまな情報を一時的に記憶し判断する、この脳機能が働いているからだといわれている。
ところが、忙しすぎたり考えることが多すぎると、脳がオーバーワーク状態となり、ストレスを感じたり、イライラしたりして、若い人でもワーキングメモリーが正常に働かなくなる。また、神経科の臨床領域では、ワーキングメモリーが正常に働かず、物忘れやうっかりミスが増えることは、高齢者の場合、「軽度認知症」の初期症状も疑われる。
ではなぜ、ハンドマッサージをすると、「ワーキングメモリー」がスムーズに機能するのだろうか。古賀教授は「手は『第二の脳』ともいわれ、手を上手に扱うのは脳を大切に扱うのと同じ。それほど、手と脳の関係は深く、手に刺激を与えることで脳のバランスがよくなり、低燃費でもよく考える“エコ脳”になったと考えられる」と説明する。複数の用事を段取りよくこなすには、ワーキングメモリーに余力がある状態が望ましく、メモリーが疲れていると、次の行動や決断を要領よく進めることができない。
「車が低燃費のほうが評価されるように、同じ成果を出すのであれば、“エコ脳”のほうがいい。日々の家事や仕事がスムーズに進まず、頭がいつもフル稼働の状態であれば、場合によっては軽度の認知症を早めてしまう」と警告している。
自分でも簡単にできる
ハンドマッサージは、アロマや整体などのマッサージ店や、エステティックサロン、ネールサロンなどで受けられるが、足裏や背中と異なり、自分でも簡単にできる。全国34カ所でネールサロンを運営しているベレックス(東京)のネイリストで、ハンドマッサージに詳しい能登朝子さんによると、「セルフマッサージ」の仕方は次の通りだ。
(1)手をキレイに洗った後、ハンドクリームを塗る(2)指の側面を親指と人さし指で押しながら、指先に向かってマッサージする(特に指先は念入りに)(3)親指と人さし指の間を押す(4)手のひらの親指の付け根をグーでぐりぐりと押す(5)手の甲を手首に近づけるようにしてストレッチする-など。
能登さんは「クリームを塗ることで、手表面のすべりがよくなります。自分の好きな香りや肌にあったクリームで、マッサージの習慣をつけるといいですね」とアドバイスしている。
(2007/07/13 14:54)
http://www.sankei.co.jp/seikatsu/kenko/070713/knk070713000.htm