否定しない&ほめる作戦

2006年08月18日 04時21分09秒 | Weblog
妻の元気 僕のやる気

 妻(登美子さん。今年3月、82歳で死去)の認知症を治してやるぞと意気込んだ僕は、すぐに行動に移しました。たとえば晴れた日に妻が「雨降ってきたから、洗濯物取り入れて」といい出すと、「そやなあ、今から取り入れてくるわな」と返してベランダへ。

 しばらくしてから戻って「ベランダ行ったら、雨やんどったわ」と言うと、妻は安心するのです。


 医師から言われた「目線を合わせて話す」というのは、認知症の人の話を頭ごなしに否定せずに会話をすることだと考えました。実際、妻は自分の言い分が通るとほっとした顔になり、徐々にぼけの出る回数が減りました。

 食事の取り方にも工夫しました。在宅介護を始めたころは寝たきりで、スプーンを持つこともできませんでしたが、朝食は車いすに座らせ、食堂で取るようにしました。

 おむつを替え、洗面を済ませた後、午前7時半ごろに食卓につかせます。そして、準備体操をさせました。

 二世帯同居している長男の妻が作って冷蔵庫に入れておいてくれるおかずを、僕が電子レンジで温めたり、皿に取り分けたりする間に、指先や手のひらでテーブルをたたかせるのです。妻にとっては適度な運動で、目が覚め「今から食事や」という自分への合図になるのではと考えたからです。

 練習すると1か月ほどでスプーンが持てるようになり、3か月後にははしを使えるようになりました。スプーンやはしが持ててもこぼすことが多く、食べさせてやった方が食事は早く済ませられます。しかし、食べさせてばかりだと、自分で食べる意志がなくなると思いました。

 妻は元々、食が細い方だったのですが、介護が必要になってからはさらに、食べなくなりました。うどん2、3本を口にしただけで口を閉じてしまうこともあり、「もっと食べんと、体がようならんぞ」としかっていました。

 しかし、「えらい、えらい。よう食べた」「今日はよう頑張ってるな」とほめたり、「おまえがいらんのやったら、わしがもらうわ」とか、「今日のは最高にうまいわ」とか言って、食べてみせたりするようにしました。

 ほめられたらうれしいし、そんなにおいしいのやったら食べないと損、と思わせる作戦です。床ずれも治り、妻が少しずつ元気になると、僕もさらにやる気がわきました。(元大阪府高槻市長)
(2006年8月17日 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/kaigo/note/20060817ik02.htm?from=os1