日本でもっとも有名な俳句のひとつ、「荒海や佐渡によこたふ天河」。
深い意味も、学者先生によればいろいろ解釈や論説もあるのだろうが、
この句は万人にわかりやすい。
説明が不要な(邪魔)な名句。
誰でも作れそうな句で、「荒海」「佐渡島」「天の川」を並べているだけ。
そして皆、自由に
自分の思ったり・見たりした荒海や、佐渡島や、天の川を頭の中に浮かばせる。
楽しませ忍ばせ、しかも雄大の、すばらしい句。
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旅の場所・新潟県糸魚川市
旅の日・2020年1月29日
書名・奥の細道
原作者・松尾芭蕉
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「わたしの芭蕉」 加賀乙彦 講談社 2020年発行
荒海や佐渡によこたふ天河
この作品はすばらしい。その迫力に圧倒される。
荒海とは、八月半ばから冬にかけて、強い北風が起こす力一杯の波である。
北から押し寄せてくる波また波に洗われている佐渡島が、
流されてきた流人たちの苦痛を示すように浮いている。
その上になんと天河が流れているではないか。
人間の苦しみなど知らぬげに 巨大に美しい星の河だ。
この一句、視線が足元から水平線、島、天と上に昇るにつれて、美しく平和になっていく。
なんと不思議なことだろう。
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「奥の細道の旅」 講談社 1989年発行
荒海や佐渡によこたふ天河
七月三日(陽暦八月十七日)新潟を立った芭蕉は弥彦明神に参詣、
翌四日、日本海沿岸を歩いて佐渡が島への渡船場出雲崎にはいった。
この間の印象をまとめたのが「荒海や............」の句で、七日、直江津の俳席で七夕の句として発表したものと 思われる。
季語は「天河」で秋七月。
眼前の日本海には荒波が立ち騒ぎ、
黄金の島でありながら、流人の島としての名も高い佐渡が島と本土とを隔てている。
仰ぎ見る七夕の夜空に今宵牽牛・織女の二星が相会うという天の川が、
白く輝きながら佐渡が島の方に流れている、の意。
佐渡が島と本土を隔てる波の荒い日本海、本土と佐渡を結ぶように夜空に横たわる天の川、
雄大な大自然の景を叙しながら、人間の運命の悲しさを感じさせるような句である。
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名句になると場所取り競争が生じる。
出雲崎?直江津?柏崎?
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「日本の古典11松尾芭蕉」 山本健吉 世界文化社 1975年発行
「荒海や」の有名な句はどこで詠まれたのか。
いまでも出雲崎と直江津とで争っている。
道筋からいえば、その中間の柏崎も、名のりをあげる資格があったはずだが、
芭蕉の宿を断わって、不快な目にあわせたばかりに、その資格をうしなった。
越後路だったら、どこだっていいではないかと言いたいが、
土地の人たちの気持としては、自分のところへ引きつけたいのだろう。
だが、芭蕉が書いた「銀河の序」には、はっきり出雲崎と書いてある。
出雲崎に泊まったのは七月四日。翌日は、柏崎で断られて鉢崎に泊まった。
六日は今町(直江津)の糖信寺で宿を断わられたので、懺然として行きかけると、
石井善次郎という男が芭蕉の名を知っていたのか、再三ひとをやって、もどるように懇願したので、
おりふし雨も降ってきたし、これ幸いと立てた腹をおさめて引き返した。
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