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--------、余は台所のような処を通り抜けて裏まで出てみると、一間半ばかりの苗代茱萸(ぐみ)が累々としてなっておった。これをくれるかといえば、いくらでも取れという。--------。余はハンケチの中から茱萸を出しながらポツリポツリと食うている。見下ろせば千仭(せんじん)の絶壁鳥の音も聞こえず、足下に連なる山また山南濃州に向かって走る、とてもいいそうなこの壮快な景色の中を、馬一匹ヒョクリヒョクリと歩んでいる、余は馬上にあって口を紫にしているなどは、実に愉快でたまらなかった。茱萸はとうとう尽きてしまった。ハンケチは真っ赤に染んでいる、もう鳥井峠の頂上は遠くはないようであった。
[ken] 今の日本でグミと言えば「お菓子」の商品名です。ゼリー状の「プニュッ!」とした食感で、味は本来のグミというよりもフルーツ全般、何でもあといったところでしょうか。私の感覚でいえば「グミは緑色から完全に赤くならないうちは、とても渋くて食べられない。真っ赤に熟して、まさに枝から落ちるぐらいがちょうど食べごろ」なので、正岡子規さんが食べた茱萸(グミ)はちょうど食べ頃だったのですね。そういえば、私が子どもだった頃、自分のおやつは自分で調達することが当たり前でした。甘柿、熟し柿、木イチゴ、クルミ、アケビ、山ブドウ、生梅、プラム、ユスラ梅、さらには畑の未熟なサツマイモまで、いろいろと思い出しました。(つづく)
--------、余は台所のような処を通り抜けて裏まで出てみると、一間半ばかりの苗代茱萸(ぐみ)が累々としてなっておった。これをくれるかといえば、いくらでも取れという。--------。余はハンケチの中から茱萸を出しながらポツリポツリと食うている。見下ろせば千仭(せんじん)の絶壁鳥の音も聞こえず、足下に連なる山また山南濃州に向かって走る、とてもいいそうなこの壮快な景色の中を、馬一匹ヒョクリヒョクリと歩んでいる、余は馬上にあって口を紫にしているなどは、実に愉快でたまらなかった。茱萸はとうとう尽きてしまった。ハンケチは真っ赤に染んでいる、もう鳥井峠の頂上は遠くはないようであった。
[ken] 今の日本でグミと言えば「お菓子」の商品名です。ゼリー状の「プニュッ!」とした食感で、味は本来のグミというよりもフルーツ全般、何でもあといったところでしょうか。私の感覚でいえば「グミは緑色から完全に赤くならないうちは、とても渋くて食べられない。真っ赤に熟して、まさに枝から落ちるぐらいがちょうど食べごろ」なので、正岡子規さんが食べた茱萸(グミ)はちょうど食べ頃だったのですね。そういえば、私が子どもだった頃、自分のおやつは自分で調達することが当たり前でした。甘柿、熟し柿、木イチゴ、クルミ、アケビ、山ブドウ、生梅、プラム、ユスラ梅、さらには畑の未熟なサツマイモまで、いろいろと思い出しました。(つづく)