息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

序の舞

2013-03-08 10:10:22 | 宮尾登美子
宮尾登美子 著

日本画家・上村松園の生涯を描く。
運命に翻弄され、ただただ美しいものを愛する心のみを頼りに生きた女性。
男性優位の世界にあって、さまざまな中傷や妨害を受けるが、
自分にしかできない美を追求し、素晴らしい作品を残した。

なかでも女性が身につけている着物や飾りのこまやかさは、それを着ける
喜びを知るものならではの、心浮き立つような彩となっている。

つうさん・津也としては、それほどに強い人にも思えないのに、
絵がからむとたくましい。
展覧会に出品した絵の顔部分をつぶされるという嫌がらせにも、
「そのまま見てもらえばよい」と返し、思わぬ妊娠も一人で産む道を選ぶ。

決して強いばかりではなく、清いだけでもない。
どろどろした情念も秘めているし、嫉妬や恨みも人並みにある。
その人間臭さや愚かさまでも昇華させているのが素晴らしい。

そこには常に娘を信じ、男社会での苦労を察して支える母の姿があった。
この母子のつながりは深く、子育ても仕事もその力なしには成し得ていない。
津也が恋の淵へと落ち込んでしまった時期にも、その苦しさを理解し、
帰る場所を用意していたのは母だった。
普通の結婚がいまよりもずっと重要で当たり前だった時代に、娘の才能と生き方を
信じた母の強さには頭が下がる。

ドラマティックで、しかも実在の人物が多数登場する本書であるが、
あくまでも創作である。
著者のエッセイで、さらりとメモした松園の筆跡の素晴らしさが書かれている。
そこに存在した人のあとを追い、残したものを調べるという膨大な作業の末に
こんな物語が紡がれたのかと思うと、胸がときめく。