息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

彼岸過迄

2013-03-13 10:11:15 | 著者名 な行
夏目漱石 著

これは私にとって特別の作品だ。
そして今日は私にとって特別の日である。
まあ、いろいろと問題があるので詳細は略するが。

本作は朝日新聞に連載された小説で、元日から始めて彼岸過ぎまで
の予定であったため付けられたタイトルだ。
結局4月29日まで連載されたのでちょっと長かったのだな。
広い意味で彼岸過ぎです。
「行人」「こころ」とともに後期三部作の第1作である。

主人公・敬太郎は就職に苦労し、友人・須永のつてでようやく職を得る。
お世話になった須永の叔父と親しくなり、やがて須永の従妹・千代子とも
交流するようになる。
しかし、千代子は実は須永と密かに関係があった。

主人公の自意識過剰と、須永の煮え切らなさ、それに揺れる千代子の
物語が中心であるが、そこに添えられる須永のもうひとりの叔父・
松本の話が印象的だ。

なかでも、「雨の降る日」がとても好きで、これが私にとっての
特別な作品であるゆえんでもある。
漱石は五女・雛子を亡くした経験を物語として語っている。
雛祭りの前の宵に生まれた宵子。
そのままの雛子。
登場人物の名づけにも思い入れが感じられる。

とてつもない悲しみながら、取り乱すことない静かな情景。
それが余計に寂しさとつらさを募らせる。
大病のあとの作品でもある本作。
復帰の強い意欲が見られる反面、暗い体験が影を落とす。