息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

成城のとんかつやさん──記憶の断片

2013-03-22 10:46:08 | 宮尾登美子
宮尾登美子 著

身の回りのことを切り取り、描き出したエッセイ集。
表題作のモデルの店は「椿」であろうか。美味しいんだよね。
こういうブログネタみたいなほのぼの平和なものから、
波乱万丈の引き上げ生活のエピソード、戦前の芸妓になるべく
売られたきた少女たちとの暮らしなどなどバリエーションがすごい。

どれも短くきりっとまとまっているので、ひとつずつ楽しみに
読んでいった、
たとえるなら、さまざまな色が並んだ色鉛筆から、次はこれと
選び出すようなうれしさがある。

私は著者の作品が大好きでほとんど読んでいるが、それらの
後日談やサイドストーリーみたいなものがとても面白い。
寒椿』の少女たちのその後。
『寒椿』そのものが著者の自伝的小説のサイドストーリーのようなものだから、
さらにそれを違う角度から見せてくれる感じがとてもいい。

『仁淀川と暮した二十年』は農家の嫁という大変な立場ながら、のどかな自然に抱かれた
生活が語られる。これは『朱夏』『仁淀川』の舞台を描き出したもので、
ゆったりたっぷりと流れる仁淀川に抱かれた“土佐のデンマーク”は抗いがたい魅力がある。

ある程度予備知識があったほうが楽しめるが、宮尾作品入門編としてさらりと読み、
そのあと小説に入ってみるのもいいかも。