息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

鬼龍院花子の生涯

2013-03-04 10:27:02 | 宮尾登美子
宮尾登美子 著

「なめたらいかんぜよ」のセリフが印象的な映画が有名であるが、
原作の印象はかなり違う。
しかも通常こんな言葉は女性は使わないらしいし、原作にも出てこない。
おまけに夏目雅子が過大評価されている感じで、この映画どうも好きになれなかった。

で、原作も書きづらいなあという感じだったわけだが。

土佐の侠客・鬼龍院政五郎の養女となった松恵。
虚勢と義理との世界で生きる通称・鬼政一家を冷静な少女の目が映し出す。
やがて鬼政が溺愛する娘・花子が生まれる。
表看板を張る男たちを支えるのは、名もない女たち。
その苦しさ、切なさや、矜持がもうひとつのテーマとなっている。

何不自由なく文字通り蝶よ花よと育てられた花子。
飛ぶ鳥を落とす勢いの鬼政であったが、そこは浮き沈みの激しい世界だ。
一匹狼の荒磯との抗争から、多数の逮捕者が出、鬼政の周囲は急速に衰退していく。
鬼政夫妻の死、そして花子の夫の死から彼女も運命に翻弄されていく。

え~っとここ重要である。
花子は主役ではない。
タイトルは「花子の生涯」だけど、絶対そうではない。
むしろ狂言回し的な松恵がよっぽど主役。
そしてこれは土佐の侠客一家の栄枯盛衰の物語であり、花子の話ではない。
いやちょっとは出てくるけど。

と、タイトルに違和感を感じつつも、これは実に面白い作品だ。
侠客なんてなんの興味もなくてもぐいぐい引き込まれる。
当時の土佐の事情とか、時代背景とかもよく書き込まれているし、
人間関係についても実にこまかい。

映画は映画で評価が高かったようだし、このタイトルが目をひくのは事実。
でも、先入観をもたずに読むともっと面白い、と声を大にして言いたい。