息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

ブギウギ

2013-03-07 10:16:15 | 坂東眞砂子
 


坂東眞砂子 著

太平洋戦争で行われた様々な負の記憶。
当然ながらそこには利害があり、駆け引きがあり、せめぎ合いがあった。

敗戦間近の箱根には数多くの外国人が留め置かれていた。
そこで起こったドイツ人の潜水艦長・ネッツバント殺人事件の調査に、
学生時代ドイツに留学したことのある法城恭輔が通訳として駆り出された。

ドイツ人が滞在する宿・大黒屋には、徴兵された夫を待ちながら働くリツという女がいた。
暗いばかりの婚家を出て陽気なドイツ兵たちと関わるうちに、リツは潜水艦乗組員の
パウルの子を身ごもる。

自殺とされたネッツバントだが、不穏な空気が漂う。
背後にはナチスの思惑が漂っていた。
やがてパウルも何者かに殺され、リツは産み落とした男の子を女将に預けて姿を消した。

新聞記者のオルガは法城を助け、謎解きをするが、二人共特高に捕らえられ拷問を受ける。
何かの圧力によって解放された法城は、疑問を抱えたまま敗戦を迎えた。

何もかもがゼロになり、何もかもが変化した時代を背景に、思いもかけない事件に
巻き込まれていく人々が描かれる。
モデルとなる事件や人物があるのだろうか、しっかりとした設定でとても面白く読ませる。

混乱の東京で、法城があっさりリツを見つけたり、鍵を握ると思われながら
行方がしれない軍医・シュルツェを探し出せたり、ちょっとご都合主義なところは否めない。
終盤のマイクロフィルム探しも、この時間内で片付けるというのはう~ん……。
それでもスピーディで面白さは抜群だ。

生命力に満ち溢れ、自分勝手ながら決して諦めないリツは、ある意味戦後を生き抜いた
女性たちの象徴なのだろう。
そして、政治と国とさまざまなものに翻弄された法城は、戦争にこそ行っていないけれど、
あの時代の男の一面を表しているのかもしれない。

いきいきとした文章、サスペンス、謎解き。
あまり坂東眞砂子っぽい感じではないのだが、そこがまたいい。