哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『マキアヴェッリ語録』(新潮文庫)

2009-07-05 10:03:09 | 時事
 塩野七生さんは、歴史に現れた人間の行為をもとに、人間とは何かを鋭く考察する。この本はマキアヴェッリの書いた内容の抜粋だから、塩野さん自身の考えかどうかはわからないが、それを好意的に取り上げていることから、その視点はある程度は共通するのだろう。


 国家や会社など、組織を率いる全ての指導者にとって、このマキアヴェッリの箴言は示唆に富む。その多くの言葉に共通する思想は、塩野さんの冒頭の文章にある通り、政治と倫理を明確に分けることにあるという。それは正しいか正しくないかではなく、選択の問題だと。組織の中には数多くの人間がおり、思慮深い者もいれば、そうでない者もいる。そのような組織において善政をなすには、悪の行使もためらってはいけない場面もあるというのだ。


 確かに歴史を見返して思うのは、多かれ少なかれ人間の愚行はいつの時代になってもなくならないということだ。戦争も古代から現代まで決してなくなることはなかったし、未来においてもそうだろう。戦争を悪とする見方は多くの人が持つが、しかしこれからも戦争がなくなることはないといえそうだ。そして政治に必要なのは、その悪をいかに最小限に抑えるかである。


 一方で、池田晶子さんの言う通り「何者でもない同士、いかなる理由で殺しあうのか」とか「善く生きることこそ価値である」という考えもあまりにも当然のことである。果たして、生来人間に宿る善と悪について、全ての人間が思慮深く善のみを尊重するような時代がくるのであろうか。池田さんは決して望みを捨てていなかったと思うが、しかしやはり人類にとって困難な道に違いない。


 マキアヴェッリの書いた通り、たいていの人間はどうしても私利私欲に走り勝ちなのだ。だからこそ少なくとも政治においては、倫理と分けて対応する必要があるわけだ。このことはマキアヴェッリの生きた時代と現代も変わらないということだろう。