風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

歴史は繰り返す(下)

2010-05-14 02:53:16 | 時事放談
 政府は、中国人向け観光ビザ発給基準を緩和する方針、というニュースを、最近、よく見かけます。現在は、年収25万元以上と中国人にしては高い所得制限が設けられているため、対象者は650万人程度(中国の人口の0.5%)にとどまっていますが、今後は、その所得制限を例えば5万元に引き下げる一方、クレジットカード所有者であることを条件に加えてリスクヘッジし、対象者の裾野を(当面十倍近く)拡大して行くのが狙いのようです。
 とにかく中国人は観光旅行中に気前良く金を落としてくれるらしい。一説には中国人一人当たりの旅行費用は平均250万円と言われます。一点豪華主義を見せつけられるような、中国人らしさが伝わります。そんな中国人に、日本製品は高級品として定評があり、中でも化粧品や電化製品が人気で、自分用に日本製電化製品を、親類縁者へのお土産に化粧品を購入するなど、自らのステータスをひけらかすのに都合が良いようです。その昔、入社した当時のことですからかれこれ20年以上前のことになりますが、海外出張のお土産にRevlonのマニキュアが定番で、私も免税店で大量に買いつけて帰ったことを思い出します。
 こうした観光振興が経済成長戦略の一つと位置づけられるのだとすれば、ちょっと情けない気がしますが、既に秋葉原では中国語を表示する店も増えており、確かに、山手線の表示だって、英語だけでなく中国語と韓国語が併記されるなど、開かれた日本として、日本のソフトパワーを強化することに資するのだとすれば、反対する謂れはありません。
 それにしても・・・デジャヴを既視感と訳し、実際には一度も体験したことがないのに、既にどこかで体験したことのように感じることを形容しますが、中国人と日本人との違いがあるとは言え、週日昼間の銀座や秋葉原や浦安ディズニーランドを中国人が闊歩しているなどと聞くと、かつて高度経済成長で購買力をつけ、カメラをぶら下げ眼鏡をかけた出っ歯の日本人(と戯画化されたものでしたが)が海外の街を闊歩して、ブランド品を買い漁っていた姿と、ダブります。歴史は繰り返す、と言うべきか。
 日本経済(GDP)が、ここ10年来、500兆円規模で伸び悩み、例えば私の会社でも、ここ10年来、売上に頭打ち感があり、従業員にだぶつき感があるのは、様々な理由があるにせよ、冷戦崩壊後のグローバリゼーションの進展とともに、中国(や東欧諸国)が世界の工場として台頭する時期と重なり、いわば中国(や東欧諸国)が日本企業の売上と雇用を奪っていると言えなくもありません。素直な日本人は文句の一つも言いませんが、1980年代後半には、電機業界や自動車業界において、アメリカ人の雇用が奪われるとして、日・米間で貿易摩擦が激化したことが思い出されます。現在、中国は、頑なに元切り上げに抵抗しているように報道されますが(一説には、外圧によって切り上げる体裁を避けたいだけだとも言われますが)、プラザ合意前の1985年初頭には1ドル=250円台だった円相場が、翌年末には一時160円を突破して円高不況に陥り、1995年4月19日には79円75銭と、瞬間的に1ドル=80円割れの史上最高値を記録したことは、今後の元相場高騰を予感させます。
 幸い、中国製品は今なお「安かろう、悪かろう」のイメージが根強く、必ずしも日本製品の直接の脅威とは感じられていないように見えますが、着実に日本製品をハイ・エンド側に追いやっているのが現実です。かつてMade in Japanが「安かろう、悪かろう」の代名詞だったことと、ダブります。歴史を紐解けば、19世紀末から20世紀初頭にかけては、Made in Germanyが「安かろう、悪かろう」の代名詞だったそうですから、まさに、歴史は繰り返す、のです。そうこうしている内に、日本製品は行くところがなくなりはしないか、日本のありようが真剣に問われます。
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