風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

アメリカ大統領選・直前

2020-10-31 15:52:03 | 時事放談
 アメリカは、建国以来(南北戦争を頂点にして)ずっと、連邦政府の主導権をめぐる「内戦状態」にあり、大統領選挙は、四年に一度、流血なしに行う「内戦」(というシステム)だという(石川敬史氏)。言い得て妙だ。「内戦」が終わって国として一致団結できれば美しいが、現実には社会を分断した原因ではなく結果としてのトランピズムだから、消えてなくなることはなさそうだ。でも、政権交代したら前のリーダーを断罪する(実際に牢屋にぶち込む)ような物騒なお隣の国よりはずっといい(苦笑)。ついでに、近代オリンピックは、四年に一度、ガス抜きのために行われる国家間の疑似戦争だと言われるのは、オリンピックがアメリカ大統領選を真似たせいかも知れない(笑)。
 そのアメリカ大統領選が近づくにつれ、リベラル・メディアでも僅かながら(ショック・アブソーバーのように)両者の接戦を伝えるようになってきたようだ。あらためて「隠れトランプ」の存在がクローズアップされて、世論調査では測れないところが強調されたりする。
 もともと今回の大統領選はトランプ大統領の信任投票だと言われて来た。前回2016年は、伝統的なエスタブリッシュメントとは明らかに違う、底知れない破壊力をもつ異端児のようなトランプ大統領が颯爽と降臨して何かやってくれるかも知れないと漠然とした期待感が芽生えたのに対し、今回はそれぞれの有権者はこの4年弱のトランプ政権の実績に対する評価を以て投票に臨む。そのためか、ちょっと前のロイターは、普段は選挙に参加しない数百万人が(良くも悪くも4年前の選挙結果の衝撃を受けて)今回は傍観をやめて立ち上がる可能性があると伝えた。こうした人たちはどうやら反トランプの立場が多いようだ。いずれにせよ、政治状況が二極化する今、大統領選の勝者を決するのは、普段は選挙に参加しない有権者だとアナリストらは指摘するという。
 このことからも分かるように、また世論調査でも明らかなように、バイデン氏については、積極的に支持すると言うよりも、トランプ氏への反発から(すなわち反トランプとして)消極的に支持する人が多く、「トランプ」対「バイデン」の構図よりも、「トランプ」対「反トランプ」の色合いが強いと言ってよいかも知れない。実際、選挙戦を通して(テレビ討論会を含めて)、バイデン氏の影は薄い。認知症の疑いもあって失言や失態を避けるためかどうか知らないが、コロナ禍をよいことに戦略的に露出を控えているせいでもであるし、ご子息がらみの疑惑をはじめ、プライベートにまつわる良からぬ話をリベラル・メディアが伝えようとしないせいでもある。
 それで、つまるところ、何で決まるのかというと(先の石川氏によれば)「キャラクター」だという。アメリカ人は「キャラクター」を観察しているのであって、「知性」を観察しているわけではないし、「議論」をしているのではなく、「内戦」を行っているのだという。
 確かに、私のような無責任な部外者は、トランプ氏の品のない傍若無人な振舞いにハラハラしつつも、公約を愚直に守ろうとする子供のような素直さは見上げたものだし、猛獣使いと称された安倍さんがトランプさんをうまくあやしていたからこそ、トランプ劇場をニヤニヤ遠巻きに眺めていられたが、アメリカ人の特にリベラルを自任するエリート層は、そうは言っていられないだろう。国際社会でのアメリカの指導的立場や気候変動や人権などのリベラルな政策や大統領の品格が大事であって、トランプ氏に対して示す強烈な嫌悪感は、部外者の私がびっくりするほどで、まあ、当事者(有権者)なのだから、そんなものかもしれないと思う(笑)。逆の意味で、岩盤支持者も同じように真剣そのものなのだろう。しかし、こうした志ある人々はごく一部で、大部分は懐具合い(経済政策)や(BLMがらみの)安全を重視すると言われる。そんな理想と現実のギャップに「隠れトランプ」が付け入る隙がある。あれこれ政策には反対だけど・・・などと含みを持たせる人たちのことだ(笑)
 なかなか当たらない世論調査の中で、最も当たると言われる質問があるという。ある滞米経験の長い専門家によると、選挙間近になると行われる「どちらの候補者とビールが飲みたいですか?」という質問なのだそうで(横江公美さん)、「どちらを支持するか?」「どちらに投票する予定か?」と聞かれると理性が働くが、ビールを飲む相手を聞かれると、どちらが一緒にいて楽しそうかと考えるわけで、どちらに対して本能的好感度が高いかをあぶり出すものだという。キャラクターを問うことに通じるように思う。
 その意味で、数日前のBuzzFeedの記事が面白い(【投票】トランプ氏とバイデン氏、授業で隣の席に座るならどっち?)。「トランプ氏」対「バイデン氏」で、
   ・上司になって欲しいのは?       43%:57%
   ・口が堅そうなのは?          31%:69%
   ・授業で隣の席に座るなら?       48%:52%
   ・子どもの誕生日を忘れそうなのは?   57%:43%
   ・グループワークにいて欲しいのは?   46%:54%
   ・旅行などで家をあける時、ペットや植物の世話を頼みたいのは? 21%:79%
 このあたりは、バイデン氏が「知性」や「議論」という点でトランプ氏より大人に見えるから(笑)、圧倒的ではないにせよ順当に支持を集めている。では、次のような質問はどうだろうか。
   ・お小遣いをたくさんくれそうなのは?  79%:21%
   ・一緒に夜遊びするなら?        82%:18%
   ・オナラを人のせいにしそうなのは?   77%:23%
   ・ゲームでズルしそうなのは?      82%:18%
 思わず吹き出してしまったが、トランプ氏が8割前後を稼いで、圧倒的に強い。「キャラクター」として、子供っぽいし、一緒にいて楽しそうだ(笑)。
 果たしてアメリカ人はこんな「キャラクター」を大統領に選ぶのだろうか(笑)。私は無責任な部外者だから、選んで欲しいと心から思うのだが(笑)
(日本は部外者ではあり得ないが、憲法改正しないことには三選がないトランプ氏が二期目で政策を変えることがあり得るのか、あるいは伝え聞く限りにおいてバイデン氏はトランプ氏よりも同盟重視で国際協調的とされ、パリ協定やイラン核合意やWHOに戻るかも知れないとされるため、とりあえず今よりは悪くならないとして、考えるのはやめた。しかしバイデン政権では対中政策が緩まないかと心配)
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閉ざされた青梅への道

2020-10-26 00:06:37 | スポーツ・芸能好き
 青梅マラソン事務局からメールが届いたのは9月4日のことだった。来年2月21日に開催予定だった第55回記念青梅マラソンが翌2022年2月に延期されるという。延期とは体のいい言い方で、第55回の冠が引き継がれるだけで、要は今シーズンはキャンセルされるということだ。
 その後、一ヶ月ほど経って、東京マラソンは、来年3月の大会が10月に延期されると聞いた。その出走資格を持つ知人によると、来秋10月17日か、その翌2022年3月6日のいずれかを選択することになるのだそうだ。10月とは、夏に走り込まなければならないことを意味しており、結構、辛いだろう。それを回避すれば、次に出走するのは、なんと一年半も先のことになる。
 もとより私自身は東京マラソンの出走に期待していなかったが、青梅マラソンが延期になったのはショックだった。このご時世で、体力を温存するため、夕方、40分ほど散歩している。何しろ4月から在宅勤務が始まって、平均して月に一度しか出社せず、巣籠り状態である。40分という中途半端な時間は、出社していれば達成するであろう一日の想定歩行時間なのだが、体力温存のための運動は正直なところツマラナイ(苦笑)。青梅マラソンのような大会への出場目標があってこそ、すなわち高いハードルがあるからこそ、年寄りの冷や水と言われようが、気合いが入るのだ(笑)。
 夕方、散歩するときにすれ違う市民ランナーは、マスクを付けていたり、付けていなかったり。街中を走る以上、人とすれ違うことが多いので、マスクすべきだろうと思うにつけ、そこまでして走るのであれば、やはり青梅マラソンのような大会があってこそと思ってしまう。毎年、冬場の半年だけとは言え、数えると8シーズンも走って来たが、今シーズンは、この時期になっても、まだ走っていない。このまま走れなくなってしまうのではないかと、一抹の不安を感じる秋・・・である。
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メディアの変容

2020-10-21 23:39:43 | 時事放談
 2016年は、BREXITとトランプ氏の大統領当選によって、英米のポピュリズムと社会の分断という認めたくない事実が眼前に突き付けられ、話題になった年だった。その当時、トランプ大統領の登場は原因ではなく結果だと言われたもので、そういう意味では、今回の大統領選挙でトランプさんが勝つにせよ負けるにせよ、今の社会的状況は大して変わらないのだろう。しかしながら・・・アメリカのCNNやNYタイムズやWAポストなどのリベラル系大手メディアや、私がお付合いがあるような弁護士さんなどの所謂エリート層は、トランプ大統領を毛嫌いし、悪しざまに罵るのは不思議なほどで、まあ、およそ大統領らしくない品のなさが情けないのは、分からないではない。しかし、その彼を(あのヒットラーと同様)選挙という正当な手続きを踏んで選んでしまったのは当のアメリカ人であって、彼らエリート層にはその民度がまた情けないであろうことも、また分からないではない。彼らはこれを「汚点」だと思っているに相違なくて、この度の大統領選挙は一掃のチャンスと張り切っていることだろう。しかし、繰り返しになるが、問題は社会的状況なのだが・・・
 それにしてもこれらアメリカの大手メディアの対応は酷い・・・とは、私は具体的に知らないが、在米ジャーナリストの古森義久さんがコラムに書かれていた(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62592)。バイデンさんの認知症を疑う人は世論調査で40%に及ぶと言われるが、相変わらず失言を重ね、政策面でも不透明な対応を続けているにもかかわらず、大手メディアはバイデンさんの問題点は取り上げることなく、トランプさんの言動に専ら容赦ない糾弾を浴びせるのだという。典型的なのが、保守系のニューヨーク・ポストが報じたという、バイデンさんの次男ハンター氏がウクライナや中国の大企業と取引して、父親が現職副大統領だったコネを利用して年間1000万ドルという巨額の「顧問料」を得ていたことを示すEメール記録のことで、NYタイムズなどは一切無視し、フェイスブックとツイッターはこの報道の拡散を防ぐ措置を取ったという。こうした「報道しない自由」は、モリ・カケ・サクラ問題での日本の大手メディアの報道でも見られたことだ。
 メディアの変容と軌を一にしているのだろう。スマホやSNSでしかニュースを見ない若者たちが増え、見たいものしか見ない、見たくないものは見ない層が増えて、SNSの世界が(古い言い方になるが)左・右に分断されるとともに、既存のリベラルな(とは、反体制・反権力の意だが)大手メディアの影響力、いわば神通力が薄れているのだ。日本では、余り上等ではない想像力を駆使して疑惑を醸成し、もはや事実であるかのように報道して印象操作するなど、どんなに安倍さんの足を引っ張ろうとしても、岩盤支持とされた40%ほどの内閣支持率は動かなかった(このあたりは、アメリカの状況と同じとは言わないが、似ている)。その焦りから、大手メディアの偏向報道は度を増すばかりで、今や政治とメディアの不幸な関係は不可逆的で修復できそうにない。スガ総理就任のご祝儀相場で、いったんは様子見だった大手メディアも、日本学術会議問題を契機に、俄かに蠢き始めた。そして嘆かわしいことに、フェイク・ニュースも増えた。
 折しも、元・週刊文春/月刊文藝春秋編集長の木俣正剛さんが、30年前、北朝鮮や朝鮮総連について厳しい報道をすると差別的報道として朝鮮総連の抗議を受けたり記者自身が糾弾されたりすることが多かった時代に、『週刊文春』1990年11月29日号が「アメリカが警告。北朝鮮原爆工場の恐怖」と題して、北朝鮮が核開発に手をつけたことをいち早く詳細に報道した経緯をコラムで取り上げておられて、興味深かった(https://diamond.jp/articles/-/251833)。余談になるが、私の学生時代はもう少し前のことで、寮闘争をしていた知人に、どの週刊誌が面白いか尋ねたところ、何でもいいけど(今はなき)『朝日ジャーナル』を読んでみたらと勧められて、何週か我慢して読んでみたが、面白みを感じられず(当時の編集長は筑紫哲也さんだったと思う)、仕方なしにいろいろな週刊誌を片っ端から読んで、一番面白いと思ったのが『週刊文春』だった。
 当時、確かに面白い週刊誌があったのだ。いや、週刊誌だけではない。新聞で日々の細切れの事実を追い、月刊誌で落ち着いて纏まった解説を堪能し、週刊誌はその間にあって、それなりに纏まりのある、センセーショナルで鋭く切り込んだホットな記事を楽しみにしていた。そんな平和な棲み分けは、基本的に今も変わらないが、その内実は随分変わったように思う。日刊にしても週刊にしても月刊にしても販売部数が随分減って、そのために過激なものが増えたように思う。まあ、過激でも構わなくて、時代の流れで、紙媒体が自らの存在意義を見出すことが難しくなっているのは理解するが、編集という目利きを通すからこそ信頼のおける良質な記事を期待する読者がいることは忘れないで欲しいと切に思う。
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アメリカ大統領選の行方

2020-10-13 00:03:16 | 時事放談
 トランプ大統領が入院したのは10月2日のことで、僅か3日間で退院したのも驚きなら、7日には執務を開始したのも驚いた。彼の過去4年間の言動から、それほど外れてはいないのだろうけれども、私のような凡人には今なお驚きの連続である(笑)。もともと彼の精神状態(mental state)を不安視する見方があったが、治療のためステロイドを投与されたため、判断力に支障を来す副作用が出ているのではないかと取り沙汰され、またぞろ精神不安定(mental instability)を含む職務遂行不能状態を理由とする大統領罷免を規定した憲法修正第25条の適用が議論され、大統領の精神状態と統治能力に関する特別調査委員会を立ち上げる動きにまで発展した。相変わらずのお騒がせ振りだ。
 結局、2回目のテレビ討論会は、トランプ氏がWeb開催を嫌ったため、残念ながら中止となったが、まあ、趨勢にはそれほど影響しないと判断したのだろうか。そうは言ってもトランプ大統領夫妻をはじめ30数名の感染が伝えられ、ホワイトハウスが一大クラスターと化するという、トランプ大統領の大胆極まりない、周辺スタッフには迷惑この上ない行動からは、焦りが見えると一般に解説される。確かに、CNNなどの左派メディアが視聴者を対象とする世論調査結果はともかくとして、世論調査に定評があるとされるリアル・クリア・ポリティックスでも、バイデン氏有利の平均支持率の差は討論会前に6~7ポイントだったところ、討論会後(8日現在)は9.7ポイントまで拡大し、さらに広がる傾向を見せていると言われる。
 ところが、CNN報道に慣れた私たち日本人には別世界と思えるような世論調査結果がある。Sunday Expressというイギリスの保守系タブロイド紙に掲載されたDemocracy Instituteという、ワシントンD.C.とイギリスに拠点を置く保守系シンクタンクが実施した調査で、保守系ということに注目するよりも、ただの有権者ではなく投票しそうな人(likely voters)1500人に尋ねるというユニークな調査手法に相応の信頼が置かれるべきであろう(実際、2016年のBREXITやトランプ氏当選を予測したと言われる)。トランプ大統領夫妻のコロナウイルス感染後に実施した10月の調査結果が先週発表され、トランプ氏の支持率は46%で、9月の調査から2%ポイントのダウンながら依然、バイデン氏45%を上回っているという(https://www.express.co.uk/news/world/1343305/US-election-poll-donald-trump-coronavirus-covid-joe-biden-exclusive-polling?fbclid=IwAR05ITVKmxLQ9D0iNpqsbbC641Xb1oAHPMYTf2qPIpbbn48Y-1KgYgpcfhQ)。
 今、関心が高いのは、こんなマクロな数字より、白黒決着がついている州を除いたswing statesの動向だろう(フロリダ、アイオワ、ミシガン、ミネソタ、ペンシルベニア、ウィスコンシンの6州)。驚くことに、トランプ氏の支持率は47%で、バイデン氏43%を4%ポイント・リードしており、結果として選挙人団の票はトランプ氏320、バイデン氏218になるという・・・いやはや驚きだ。
 人々の投票行動に影響を与えるのは、意外にもBLM問題の関連で法と秩序が32%でトップ、それに迫りつつあるのが経済や雇用の問題で30%、コロナ禍の問題は三番目とは言え15%だそうで、それならマクロな支持率の結果は分からなくはない。トランプ夫妻がコロナウイルスに感染したことは、マイケル・ムーア監督は劣勢を挽回するための偽装だと陰謀論を唱えたが、68%の人は投票行動に影響しないと答え、最高裁判事の任命問題も79%の人は影響しないと答えている。先日のテレビ討論会での勝敗は、トランプ氏の勝ち32%、バイデン氏の勝ち18%、引き分け50%というのはちょっと意外だが、いずれにせよ7割の人はこの結果は投票行動に影響しないと答えている。もっと基本的なところで、トランプ大統領のNational Job Approval (職務能力支持率)は50%(対する不支持48%)で、その支持率を人種別に見ると白人56%、黒人40%、ヒスパニック47%と、意外に健闘しているのである。コロナ禍で経済が混乱することさえなければ、現職トランプ氏の有利は動かなかったところであり、実際、70%の人は経済が回復しつつあると答えており、この問題では60%の人がトランプ氏を支持しているという。
 これも一つの世論調査であり、公平に見るならば、まあ、CNNの左派メディアが言うほどバイデン氏が優位なわけではないと思っていたが、稀に見る接戦と言うべきなのだろう。残り3週間で何があるか分からない、実に興味深いところだ。
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組織の論理

2020-10-05 01:04:41 | 時事放談
 10月1日に「赤旗」が報じた、スガ政権による日本学術会議への「人事介入」が話題になっている。同会議が推薦した新会員候補105人の内、6人の任命がスガ総理によって見送られたそうだ。早速、改革派を標榜するスガさんの面目であろうか(笑)。同会議・総会は翌2日、任命されない理由の説明を求めるとともに、任命されていない方の速やかな任命を求めた(前者については当然であろうが、後者の意味するところがよく分からない)。共産党の志位和夫委員長は、「安倍前政権の継承」を掲げる菅首相について「今度は(官僚だけでなく)科学者まで監督下に置こうとする。恐怖支配だ。根本から今の政治は改めないといけない」と主張し、立憲の福山哲郎幹事長は、「学問の自由に対する国家権力の介入で、到底看過できない」と批判して、衆参両院の内閣委員会閉会中審査で、首相だけでなく安倍晋三前首相の関与も視野に追及する構えだという(共同通信による)。ご苦労なことだ。朝日・毎日・東京の左派メディアご三家は2日の朝刊一面で報じ、産経と読売は2日の朝刊の政治面や社会面で伝えたように、左右で(という言い方は古めかしいが)温度差があって、今回も建設的な議論になりそうもない(今回はインテリジェンスが絡むと噂され、もしそうだとすればそのワケは言えないから、なおさらである)。中でも、スガさんの天敵(!)・望月衣塑子さん(東京新聞)らは署名入りで、「意に沿わない者を排除しようとの意図も透ける」と伝えたらしい。まあ、そういうことなのだろうけれども、同会議の性格を考えれば、ためにする批判としか思えない。
 私にとって、日本学術会議と言えば、1950年に「戦争を目的とする科学の研究は、絶対にこれを行わない」旨の声明を発出し、1967年に同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を追加したというのは後で知ったことで、要は2017年に「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表し、防衛施設庁の「安全保障技術研究推進制度」に沿った研究を拒否した存在だというイメージが強い。私だって、戦争は嫌だし、戦争協力などしたくないが、現代にあっては、もはや技術はdual-use(すなわち軍事用と民生用と両用)であって(というのはサイバー技術やAIやロボティクスを想えば理解できるであろう)、軍事力は戦争をするためではなく戦争を抑止するためであることくらいは分かっている。ところが、同会議は、50年以上、その間、中国が日本の経済力を超え、軍事費で比較すると日本の5倍もの規模で(もっとも彼らは、GDPに対して一定比率で・・・すなわち経済力に見合って増額して来たに過ぎないと言い訳するだろう。しかし研究費の扱いなど定義は一様ではないので、実際はそれ以上の差があると言われる)、海洋進出を通して力による現状変更を繰り返し、地域秩序に対する明白な脅威となっている事実があるように、地域の戦略環境は様変わりしているにも関わらず、マインドセットは変らないようなのだ。橋下徹さんが、「むしろ学術会議は軍事研究の禁止と全国の学者に圧力をかけているがこちらの方が学問の自由侵害。学術会議よ、目を覚ませ!」とツイートされたのは道理で、科学者コミュニティを代表する機関でありながら選挙で選ばれたわけではない、政府に属する機関であるに過ぎないにも拘わらず、学問の自由を笠に自由奔放に振舞って来たのだ。因みに朝日新聞は、「『学者の国会』ともいわれる日本学術会議」などと言われることを持ち出して、スガさんへの糾弾を正当化しようとしている(苦笑)
 冒頭の話に戻ると、「人事介入」とは穏やかではない(苦笑)。志位さんにしても福山さんにしても、学術研究そのものと日本学術会議の運営とを勘違いされているのか、敢えて素知らぬフリで、科学者を監督下に置くとか学問の自由を脅かすと言われることには違和感がある。そんな大袈裟な話ではないだろう。基本的には同会議の「組織の論理」に従うもの、従いスガさんの「介入」は不当でもなんでもないと、私のように組織人として長くやって来た者は、素直にそう思う。根拠の詳細は長くなるので、最後にオマケとして記す。
 その意味で、今回の事案は、新型コロナ禍のさなか、検察庁法改正案が500万人ツイッター・デモと呼ばれるもので取り下げられた騒動に似ている。あのとき、内閣や法務大臣が検察官の人事に強く介入することが可能になり、検察官の独立が脅かされることが懸念された。しかし、そもそも現行制度上、検事長以上の人事は内閣に任命権がある(というのが組織の論理)。三権分立を脅かすといった批判まであったが、検察は行政機関の一つであって、三権分立の問題にはなりようがない。本来の検察の独立性が担保される一方、内閣が人事権を持つことで均衡を図るのが憲法秩序だと、ある検察幹部がまっとうな説明をされていたが、メディアには殆ど取り上げられなかったように思う。
 先の自民党総裁選でスガさんが選出されたときに、党員を含めない選挙は制度上は認められているにも関わらず、透明性に欠けるなどとして批判されたのも、一種のデジャヴであろう。確かに、自民党総裁は実質的に内閣総理大臣となる人であるから、閉鎖的な派閥の論理(自民党議員による選挙)よりも党員にも開かれた民主的な選出が望ましいという理屈は一見、分からなくはない。しかし党員は、党費(年額4千円)を支払って、(自民党HPによれば)「入党すると、あなたも自民党総裁選で投票することができます。総裁選挙の前2年継続して党費を納めた党員の方は、総裁選挙の有権者になります」という性格のものであって、国民の代表であるわけがない(むしろAKBのファン投票に近い 苦笑)。総裁(あるいは代表)選出は基本的にはそれぞれの「組織の論理」に従うもので(因みに同時期の立憲代表選は無投票だったはず)、その選び方や政策が気に入らないなら、その政党に投票しなければいいだけの話だ。
 以下はオマケである。
 日本学術会議のHPには、組織のミッションとして以下の記述がある:

(引用はじめ)
 日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されました。職務は、以下の2つです。
 ・科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。
 ・科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。
 日本学術会議は、我が国の人文・社会科学、生命科学、理学・工学の全分野の約87万人の科学者を内外に代表する機関であり、210人の会員と約2000人の連携会員によって職務が担われています。
 日本学術会議の役割は、主に以下の4つです。
 ・政府に対する政策提言
 ・国際的な活動
 ・科学者間ネットワークの構築
 ・科学の役割についての世論啓発
(引用おわり)

 これを見る限り、政府から独立しているものの、内閣総理大臣の所轄の下、科学が文化国家の基礎であると確信する政府に対して、政策提言や世論啓発などを行うものであって、その制度趣旨から、任命権が内閣総理大臣にあることは当然であろう。総理大臣が勝手に任命するとすれば問題だが、任命権があるのに拒否権がないとするのは、如何にそれが慣例であろうと、原理的にはオカシイ。科学者の学術研究活動そのものとは分けて考えるべきことは、同会議「憲章」で、「日本の科学者コミュニティを代表する機関として、科学に関する重要事項を審議して実現を図ること、科学に関する研究の拡充と連携を推進して一層の発展を図ることを基本的な任務とする組織」(第一項)と定義しつつ、「科学に基礎づけられた情報と見識ある勧告および見解を、慎重な審議過程を経て対外的に発信して、公共政策と社会制度の在り方に関する社会の選択に寄与する」(第三項)とあることからも明らかである。
 否認された当該6人の内の一人、立命館大学の松宮孝明教授は、京都新聞のインタビューで、任命されなかったことについて聞かれて、「率直にはほっとした。仕事が一つ減ったな、と。個人的にはそういうところで、別になりたいと思ってたわけでない」と強がりつつ、「個人的な話をすれば、共謀罪の時に『あんなものをつくっては駄目だよ』と、参議院の法務委員会に参考人で呼ばれたので言ったことがある」ことを挙げ、続けて、「私個人の問題ではなくて、むしろ学術会議や大学を言うがままに支配したいということの表れだと思っている」として、先ほどの2017年の「軍事的安全保障研究に関する声明」を挙げ、「政府にとってみたら、軍事研究をしろと言っているのに言うことを聞かないのが学者だと思っているはず。ここが多分、本当の問題だと思う」と憤慨して答えておられた。まあ、そういうことなのだろうが、科学者自身も同会議を「言うがままに支配したい」と思っているのではないのか。「一番大きな問題は、これは学問の自由に対する挑戦で、それを大胆にやってしまったな、という話だ」と言われるのは、組織の成り立ちからすれば、やっぱり勘違いだろうと思う。さらに、「どのような基準で推薦しているかというと、結局その分野の学問的な業績、そして学者として力があるということを見て決める。これも日本学術会議法17条に書いてある。推薦に対して『不適格だ』というなら、それは研究者としての業績がおかしいと言わなければ駄目だ。ところが、その専門家ではない内閣総理大臣に、そのようなことを判断できる能力はない」とまで言われるのだが、任命権者に別の判断基準があってもよいだろう。
 こうした組織のために毎年、10億円もの血税が投入されている。元東京都知事の舛添要一さんは、「東大助教授のとき、この組織が自分の研究に役立ったことはない」「首相が所轄する長老支配の苔むした組織など、新進気鋭の若い学者には無用の長物。首相は優秀な学者に個別に意見を聞けばよいし、政治的発言は各学者が個別に行えばよい」として、「私はこの組織は不要という立場だ。首相が所管するような組織は学問には相応しくないからだ」と主張されるのは、一考に値する。
 いずれにしても、こうして、安倍政権を継承するスガ政権は、野党やメディアとの不幸な(不毛な)関係まで継承されるのであろうか。先が思い遣られる。
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アメリカ大統領選・テレビ討論

2020-10-03 00:58:26 | 時事放談
 トランプ大統領夫妻が新型コロナ感染検査で陽性との報道があり、驚いた。トランプさんには、もはや何があってもそれほど驚かなくなっていたが(苦笑)、大統領選挙一ヶ月前のこの時期に、である。さすが予測不能ということだろうか。元気そうに見えるが74歳の高齢なので心配だし、その間、選挙活動が制約されるし、何よりテレビ討論会でもマスクをわざわざ胸ポケットから取り出して見せて、必要なときには着用するのだと豪語し(豹変し?)、バイデンさんは200フィート離れていてもマスクをしていると嘲笑していたにも係わらず、しかも一般人と違って段違いに警戒レベルが高いはずの大統領職の罹患では、シャレにならない。危機管理能力が問われてしまう。
 そのテレビ討論会をYouTubeで見た。一昨日は、15分ほど見たところで寝入ってしまい、昨日は30分ほど見たところで内職を始めて半ばBGMにしてしまった(自嘲)。歴代アメリカ大統領の演説における語彙は中学1~2年レベル(トランプ氏の場合は小5レベル)とされ、分かり易く語りかけてくれるので、なんとなく分かった気になるが、二人が同時に罵り合うと、双方の言い分を聞き分けられるほど私の英語力は高くないので、置いてきぼりを食らう・・・。
 それはともかく、Presidential Debateと銘打つが、まともな政策論争はなく、お互いに言いたいことだけ言い合って、まるで子供の喧嘩のようだった。案の定、アメリカのリベラル・メディアは大人の分別を気取って酷評した。曰く、「史上最もカオスな討論会」、「勝者のいない討論会(敗者はアメリカ国民)」・・・それは討論会そのものに対するものと言うより、日頃の悪行で散々辟易しているところに、またぞろお行儀が悪いトランプ大統領ご本人に向けられた非難だろう。秀逸だったのは、プロレスに喩え、悪役レスラーを演じるトランプ氏がしばしば場外乱闘に持ち込んだ、というものだ(笑)。プロレスは筋書きのあるドラマと言われるが、場外ではルール無用の悪行三昧だ。モデレーター(司会)のクリス・ウォレス氏は、「議論をコントロールしようと努力したが、成功しなかった」(CNN)と、とんだとばっちりの厳しい見立てなのは、保守系メディアFOXニュースのアンカーであることへの反発があるのだろう。しかし、彼は48年の政治部記者歴がある民主党員だそうで、そのせいかトランプ氏からも、討論はウォレス氏を含めた「2対1」で行われたとツイートされるほどだったが、見る限り公平に仕切っていて、度重なる場外乱闘を粘り強くリング上に引き戻そうと努力して、最低限の形を整えられたと思う。というのは、トランプ氏に対して、直前にNYタイムズがスッパ抜いた2016-17年の連邦所得税納付額に関して、750ドルしか払っていないことの真偽を問うて、数百万ドル支払ったなどと開き直られ、BLM運動に関して白人優越主義者を非難するかと問うて、左派の暴力の方が多いなどとはぐらかされたが、バイデン氏に対して、リベラル化が進む民主党にあって、経済政策やBLM運動に関連して問い詰めて、サンダース氏のような急進左派寄りではなく中道左派であることを白状させたからだ。トランプ氏から社会主義者と罵られたことへの反動かも知れない。
 最大のポイントは、当選すれば史上最高齢となる77歳のバイデン氏が、40%のアメリカ人から認知症を疑われて、民主党の予備選で指摘されたような反応の鈍さや表情の不自然さを見せることはないか、休憩なしの90分間、体力が持ち堪えられるか、といったあたりにあったと思うが(笑)、トランプ氏のペースに巻き込まれないよう、トランプ氏に対して殆ど視線を合わさず、モデレーターかカメラ目線で、ときに苦笑を浮かべながら、さすがに「道化師」「嘘つき」「人種差別主義者」「米国史上最悪の大統領」などと激して応酬する場面はあったが、まずまず毅然とした態度を貫いていたように思う。これまでの支持率の劣勢挽回を焦るトランプ氏は、相変わらずの不規則発言や個人攻撃で攪乱しようと試みたのだろうが、それほど成功したとは言えなかった。どちらが勝利したか、直後に行われた視聴者への調査によれば、CBSでは48%対41%、リベラル・メディアのCNNでは60%対28%と、いずれもバイデン氏に軍配を上げたのは、意外に頑張ったという評価を示しているように思われる。しかし、アメリカ人が好むであろう大統領の資質という面で、バイデン氏は力強さに欠けるし、頭は良いけど回転が遅い、といった見方は否めない。実のところ、トランプ氏とは4歳(アメリカでは3学年?)しか違わないのだけれど。
 総じて、良くも悪くも、それぞれの支持者が喜ぶようなパフォーマンスは出来たように思うが、そもそも討論会で支持候補を決める有権者は実はそれほど多くないとかねてから言われており、岩盤支持者以外の人たちを惹きつけることが出来たかどうかは分からない。小池都知事が言うように、トランプ大統領夫妻のコロナ感染は「オクトーバー・サプライズ」と言え、益々、大統領選は混沌としてきた。
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