風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

カストロ前議長死す

2016-11-27 22:39:08 | 時事放談
 1959年にチェ・ゲバラとともにキューバ革命を主導・成功させ、半世紀にわたりキューバの社会主義政権を率いた「革命の英雄」フィデル・カストロ前・国家評議会議長が25日、死去した。享年90。
 反米主義を貫き、ロシア・プーチン大統領は「この卓越した政治家の名は、時代の象徴として現代史に刻まれている」「彼とその仲間が築いた自由で独立したキューバは、多くの国々の手本となった」と称賛し、中国・習近平国家主席は「われわれの時代の偉大な人物だった」との弔電を、北朝鮮・金正恩朝鮮労働党委員長は「社会主義制度を樹立し、国の富強繁栄と人民の幸福のために全生涯をささげた卓越した指導者だった」との弔電を、シリア・アサド大統領は「数十年にわたり帝国主義と戦った偉大な指導者」との弔電を、それぞれ実弟のラウル・カストロ国家評議会議長宛に送ったらしい。他方、54年振りに国交回復を実現させた米・オバマ大統領は、米国在住の亡命キューバ人にも配慮しつつ、「一人の人間が周囲の人々と世界に与えた大きな衝撃が歴史に刻まれ、評価が下されるだろう」とやや好意的に語ったが、トランプ氏に至っては「自国民を60年近く抑圧した残忍な独裁者」と批判し、キューバは依然として「全体主義の島」だと指摘、死去で「キューバ人が長年の恐怖から脱し、自由を謳歌する未来へと進むことを望む」とのコメントを発表したらしい。相変わらず激しいなあ・・・。
 フィデル・カストロ氏の革命闘争はもとよりリアルタイムに知らないし、気がついたらキューバの顔だっだのだが、革命の世紀と言われた20世紀を代表する人物であり、また一つ、生きる伝説が歴史になってしまったという印象があって、感慨深い(以下、歴史的人物として呼び捨てにする)。
 もっとも革命と言っても、今の若い人にはピンと来ないだろう。私の世代でもピンと来ないか何とはなしにおどろおどろしさがつきまとうが、チェ・ゲバラの伝記を読むと、純粋に社会主義に傾倒した側面はあったもののソ連をも帝国主義的と呼んで政権の方針と合わずキューバを去るに至った、その理想主義と民族主義にはつい同情的になってしまったこともあって、観念的でありまた今となっては無責任であることをも許してもらえるなら、当時の騒然とした時代背景とともに革命ロマンチシズムのようなものを懐かしむ。キューバ革命の成功は、戦術の専門家ゲバラと戦略の専門家カストロが手を組んだ結果と言われる。ゲバラはスペイン・バスク系とアイルランド系のアルゼンチンの両親の裕福な家庭に生まれて医者になり、カストロはキューバ東部ビランのスペイン移民で裕福な農場主の子に生まれて弁護士になった。本来なら体制側と言ってもおかしくない職業に就いた二人だが、親米バティスタ政権打倒を目指し武力闘争を開始したのだった。ゲバラの理想主義も大したものだが、カストロも、歴史上どの社会主義国も独裁に陥り腐敗しているのに対し、腐敗を遠ざけ、私利私欲に振り回されない潔よさがあり、個人崇拝をも嫌い、今もキューバには、ゲバラを讃えるモニュメントはあっても、カストロ自身を含め存命中の人物のモニュメントは存在しないという。冷戦後の経済運営は困難を極めたようだが、フロリダから僅か150キロ離れたカリブ海に浮かぶ島ながら、良くも悪くもアメリカナイズされることなく、街並みそのままに、50数年前のまま時間が止まっているかのようだ。遅れた国と言うのは簡単だが、20世紀半ばのロマンがなお残っている気がする。
 そんなキューバも、カリスマが去って、間もなく時計の針は動き始めるのだろう。私自身は社会主義とは相容れないが、グローバルと言われる時代だからなおのこと、願わくば、少しずつ、少しずつ、ゲバラやカストロの理想主義の思いの残るお国柄であり続けて欲しいと思うのは、わがままでナイーブに過ぎるだろうか。
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初雪

2016-11-25 00:29:50 | 日々の生活
 朝、この時期に雪が舞うとは驚いた。何しろ先週、秋冬のスーツに替えたばかりで、慌ててコートまでひっぱり出して羽織る始末だ。そして夜の帰宅途上、陽が当たらない道路脇や公園の隅にまだ積雪が残っていたのにも驚いた。都心で11月に初雪が降るのは54年振りと言うから、私が生まれた頃以来のことであり、11月に積雪が確認されるに至っては1875(明治8)年の統計開始以降初めてだそうである。
 気象庁によると、「列島南方で生じていた寒気と暖気の衝突から停滞前線と低気圧が現れ、午後にかけて関東南沖を東へ進んだ。これが関東上空に雨雲をもたらし、雪のもとととなる雨を降らせ」た一方、「列島上空の偏西風が南へ蛇行し、北側の寒気が関東地方まで南下した」ため、「冬の関東平野部に雪を降らせる“定番”の組み合わせ(=列島南岸に現れた低気圧と真冬並みの寒気)」が時期尚早ながら偶然出くわし、随分早い初雪をもたらしたのだという。平年より40日、昨年より49日、早かったらしい。
 たまたま北京駐在帰りの同僚と会議で一緒になって、挨拶代りに雪の話になって、北京の冬は寒いけれども雪は殆ど降らないと聞いた。なるほど、乾燥した大陸の平原は、四方を海に囲まれ水蒸気をたっぷり含んだ大気に包まれる日本とは勝手が違うらしい。
 考えてみれば、南方からの海流と偏西風は、大陸の東の離れに、この緯度にしては珍しく湿潤で緑深い島国を出現させたわけである。初夏の梅雨のほか、秋には太平洋側を台風が、冬には日本海側を大雪が襲う。また、4つのプレートが集まる、世界の中でも最も地盤が不安定な地域の一つであり、火山活動とも相俟って、地震や地滑りが頻発する。今のようにコンクリートで固められた、あるいは土木技術が発達して堅牢な家に住める私たちと違って、昔の日本人はさぞ苦労が多かったことだろう。こうした自然環境の厳しさが、長い年月の間に、この島国に暮らす日本人の中に、自然と共生し自然の中に八百万の神を見る、清らかで諦めの早い、しかし厳しいが故にお互いに助け合う、穏やかな精神を育んだのだろう・・・などと勝手なことを考えてみたりする。まあ、良くも悪くも、と言うべきだろうが。
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地震とスーパームーン

2016-11-23 01:45:13 | 日々の生活
 今朝5時59分、福島県などで震度5弱を観測した地震は、その後も震度1~3が頻発し、遠く離れた場所でも高層ビルなどを大きく揺らす長周期地震動が東北地方を中心に広く観測されたらしい。マグニチュードは7.4と発表され、M7.3の阪神淡路大震災や熊本地震を上回った。東日本大震災の余震と見られているが、13日にNZで発生したM7.8の地震に続き、環太平洋火山帯が活動期にある?かどうかはともかくとして、あらためて地震列島にあることを思う。140センチの津波観測は大震災以降で最大だったという。
 この時刻は、だいたい朝の歯磨きの最中だが、不覚にも気が付かなかった。折からの雨で、バスに乗ると、津波の注意喚起を呼びかけるラジオ放送が流れ続けて、不安な気持ちが、ざらついた。
 ネットでは、14日の「スーパームーン」と結び付ける書き込みが広がっているらしい。地球が引っ張られて地殻が伸び縮みし、この力が大きいときは断層が動きやすくなって地震が起きる可能性があるためらしい。
 満潮時は大地震が起きる可能性が高まるとする論文を9月に発表した東大の井出哲教授は、世界で過去20年間に起きた1万以上の大地震を調べた結果、マグニチュード8.2を超える巨大地震では、12例のうち9例が潮汐の力が大きいときに起きていたと言うが、それでも「確率的には高いが、統計的に有意ではない。個々の地震での因果関係は不明で、今回の地震とスーパームーンの関係も分からない」と話している(産経Web)。国立天文台の片山真人暦計算室長は「スーパームーンのときは地球に働く月の引力は最大だが、それによって地震が起きるわけではない。22日は月と地球の距離が特別に近かったわけでもない」(同)と指摘する。気象庁は「潮汐の力は地震に影響するほど大きくはない。スーパームーンは今回の地震に影響していない」(同)としている。ただ、武蔵野学院大学の島村英紀・特任教授(地震学)は、断層にエネルギーがたまっているなどした場合、スーパームーンによる引力の変化が「最後の一押し」になって地震が起きる可能性もあるとみている(J-CASTニュース)。
 最近、京大教授の話を聞く機会があったが、地震研究はかなり進んで、ある地域で地震が起こることはほぼ確実に分かるらしいが、それが「いつ」起こるかまではまだ分からないらしい。そうしたこともあって、スーパームーンの神秘と結び付けたくなる気持ちはよく分かるし、なんとなく関係ないわけでもなさそうな感じだが、まあ月並みながら自然現象はそう簡単に割り切れるものでもないとも思う。
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オバマ大統領の功罪

2016-11-22 01:37:30 | 時事放談
 今日の産経Webに阿比留瑠比氏の興味深いコラムが掲載されていた。「立ち話でおしまい、日米首脳 安倍晋三首相にとってオバマ氏とは何だったのか」という、長ったらしいタイトルだが、今日、訪問先のペルーで、日・米首脳としては最後となるはずの安倍首相とオバマ大統領との逢瀬は、ごく短時間の立ち話で終わってしまったことを受けて、これまでの両首脳の関係を振り返ったものだ。
 そもそも安倍首相の政治家としての人となりについては、就任前から日米双方の左派・リベラル勢力によって「危険なナショナリスト」「歴史修正主義者」などといったレッテルが刷り込まれ、2013年2月の初訪米の際、オバマ大統領主催の昼食会では、安倍首相を含む両国要人がワイングラスを傾ける中、オバマ大統領のテーブルの上にはミネラルウオーターが1本置かれているだけだったという。安倍首相も「初めの頃、オバマ氏は私を腫れ物に触るように扱っていた」と周囲に振り返ったそうだ。そしてこの年の12月、安倍首相が靖国神社に参拝すると、米側は大使館を通して「失望」を表明し、さらに日米関係は冷え込んでしまう。
 その後、安倍首相は反転攻勢に出る。国際会議や各国首脳との会談などあらゆる機会を捉えて、自由・人権・法の支配など民主主義の諸価値を尊重していることを訴え、首脳会談を拒否している中・韓に対しても「対話の窓」は常に開かれていることを強調した。そして、ついにオバマ大統領が安倍首相に心を許す瞬間が訪れる。2014年6月、ブリュッセルで行われたG7(先進7カ国首脳会議)で、ウクライナ問題を引き起こしたロシアへの制裁方針をめぐって首脳間でオバマ大統領が孤立し、オランド仏大統領と激しい口論になったとき、安倍首相が助け舟を出し、会議を軟着陸させたという。そのとき安倍首相は、イタリアのレンツィ首相にハイタッチを求められ、オバマ大統領に初めてハグされたという。
 その後の安倍政権は、特定秘密保護法や安保関連法を成立させるなど幾多の困難を乗り越え、米国をも納得させる戦後70年談話を成功裡に演出するなど、日米の絆を強化し、ついにオバマ大統領のヒロシマ訪問に繋げたのだった(もっともこれはオバマ大統領のレガシーへの執心と言えなくもない)。
 そんなオバマ大統領については、以前から、ビジネスライクで、ごく身の回りにも、また世界の首脳にも、「お友達がいない」と言われてきた。安倍首相とオバマ大統領の最後の接触が立ち話に終わったのも、別段、驚くことではないのかも知れない。
 前置きが長くなったが、ニューズウィーク日本版11-22号は、トランプ・ブームがここまで燃え広がった真の原因はオバマ大統領にあるとの記事を掲載している。「国家の構造に人種的階層が組み込まれているアメリカで、黒人のオバマが大統領に選ばれたのは革命的な出来事」(同)で、「拡大する多様性にも国際主義にも馴染めない数多くの白人有権者は衝撃を受けた」(同)という。「オバマの大統領選出は『チェンジ』どころか社会構造の逆転であり、大不況が惹き起こした収入や生活水準の低下と相俟って、白人中心社会の終わりを告げているように見え」(同)、そんな「オバマの出現と非白人が多数派となる将来を前に、人種的ストレスを感じる白人層は防御行動に走っているのではないか」(同)というわけだ。そして「白人労働者階級が置かれている経済的な苦境」(同)もあり、「彼らは『アメリカを再び偉大な国に』というトランプのスローガンに、『白人労働者中心の国の復活』という夢を重ねている」(同)のだ、と。
 確かに、皮肉なことだが、オバマ政権下で人種間の分断が広がったのは事実かも知れない。
 また、ちょっと古くなるが、ニューズウィーク日本版9-20号は、オバマ大統領のアジア重視は地政学的に理にかなうが、有権者の関心が薄いのが弱点だと喝破した。「保守的なアメリカの有権者にとって、アジアとは大手スーパーに並ぶ安い商品の供給元でしかないが、イスラム過激主義は生死にかかわる脅威」(同)であり、一方「リベラルな有権者にとって、アジアはアメリカの産業と組合に打撃を与える抜け目がない商売人」(同)であり、オバマ大統領の後継者候補(トランプ氏)はそんな国民のイメージに迎合しているというわけだ。米国における反知性主義の台頭と言われるのも、このあたりを指すのだろう。
 かつてアーサー・シュレジンジャー博士は、米国政治において「公の力に頼る時期」と「民間の活力を求める時期」が繰り返し、それが一巡するのに30年程度かかると言った。「公の力に頼る」とは「大きな政府を求める」ことで民主党に有利に働き、「民間の活力重視」は共和党の主張であって同党が権力を握りやすいということらしい。1901年にセオドア・ルーズベルト、1933年にフランクリン・ルーズベルト、1961年にジョン・ケネディと続き、1993年にビル・クリントンの大統領就任を予測したまでは良かった。次の民主党大統領は2020年のはずだったが、早くも民主党は2001年に共和党ブッシュに大統領職を譲り、しかし2009年には民主党オバマが引っくり返し、更に2017年には共和党トランプがまた引っくり返す。クリントン以後、ここ20年来、二期八年で交代するのは、シュレジンジャー博士の予測が外れたと言うよりも、博士自身、技術革新によりサイクルが早まるかも知れないと語っていたように、その通りに急速に早まっている(二倍に!?)のか、あるいは米国の民主主義が健全なサイクルから外れて変調を来しているのか・・・後者のような気がしないでもない。
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いろいろな地図

2016-11-19 01:07:31 | 時事放談
 オーストラリアで売られている世界地図は南北が逆さまだと噂に聞いていたので、真偽を確かめるべく探したことがある。確かに、シドニー市街(CBD:Central Business District)図では、観光地であるハーバー・ブリッジやオペラ・ハウスを擁するシドニー湾が南に向かって広がっており、地図の上では南が上になっているのだが、世界地図の多くは、私たちが普段目にするものと同じ、北が上になっており、逆さまのものはあるにはあったが見つけるのに苦労した。
 数年前、このような「逆さ地図」を、富山県(刊行物センター)が販売したので話題になった。正確には「環日本海・東アジア諸国図」と呼び、日本海を中心に据え、下半分に配置された大陸側(極東ロシアや朝鮮半島や中国)から眺めると、弓なりの日本列島から台湾にかけて南西諸島が邪魔になって、地図の上半分に広がる太平洋に出て行くのを遮られているのがよく分かる。この地図を見た韓国が、日本海を自分の湖か池(彼らの用語で東海)だと主張したのは、彼らの歴史認識と同様、歴史的事実を踏まえない幻想(ファンタジー)だ。
 これら島の連なりが所謂「第一列島線」と呼ばれるもので、中国人民解放軍の軍事戦略であるA2AD(Anti-Access/Area Denial:接近阻止、領域拒否)の内のA2(接近阻止)すなわち敵(米海・空軍)の侵入を許さない基準線だ。他方、同じライン上の半島や島々(北はアリューシャン列島から、南はフィリピンまで)は、トルーマン大統領時代のアチソン国務長官が「アメリカが責任を持つ防衛ライン」と発言して、アチソン・ライン(不後退防衛線)と呼ばれ、朝鮮半島は除外されているものと勘違いした金日成国家主席が南に攻め込む朝鮮戦争の誘因になったとされている。
 冷戦たけなわの頃は、北極海を中心に米・ソが対峙する地図が有名になった。左手にソ連、右手に米国を配置すると、ソ連から米国に向けてミサイルを放つのに、北極海の上空を越えれば楽々と到達することに気付いて、愕然としたものだった。同じように、北極海を中心に据えて、手前に北米を配置し、上方のユーラシア大陸を眺める地図では、左手(つまり極東)に日本があり、右手(西の果て)に英国があって、ユーラシア大陸を挟み撃ちにする格好になる(普段、私たちが目にするメルカトル図法でもそうなるのだが、北極海を中心に据え、手前に北米を配置することで、見る者=米国の意図が明確になる)。米国の同盟戦略上、実に象徴的ではないだろうか。
 前回ブログで、「ビンのフタ論」に触れたが、上述の通り、米国はユーラシア大陸で覇権国が出現するのを排除することを大戦略としており、在日米軍は中国(ユーラシア大陸の覇権)と日本(軍国主義化)への抑止の一石二鳥である。他方、中国は伝統的に陸軍国だが、爆発的な経済発展を支えるシーレーン防衛を中心に海洋進出への関心を高め、太平洋に出るルートを探っている。一つはバシー海峡(台湾~フィリピン間、150キロ)であり、もう一つは宮古海峡(沖縄~宮古間、290キロ)だ。一つの中国の名のもとに台湾”省”化を狙うのはバシー海峡獲得のためであり、沖縄独立を扇動するのは(尖閣諸島を巡る主権争いと違って)宮古海峡獲得のためだと言われる。
 トランプ氏が東アジア・ピボットに関心を払わなければ、中国がその「権力の空白」を狙って海洋進出を加速するのは間違いない。3年前の首脳会談で習近平国家主席がオバマ大統領に提案したように、太平洋を米・中で分割する「新型の大国関係」が認められるなら(さながら大航海時代のスペイン・ポルトガルによる地球分割のように)、いずれ中国空母が米国西海岸を窺うことがあるかも知れない。果たしてそれはトランプ大統領が望む秩序だろうか。それとも陳腐な妄想に過ぎないと排除するだろうか。
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トランプ狂想曲

2016-11-17 00:58:57 | 時事放談
 安倍首相が明日、トランプ次期米大統領と会うというので、今朝の日経は「トランプ氏に同盟の価値をどう説くか」と銘打った社説を掲載していた。
 トランプ氏は、周知の通り、「日米や米韓、米欧の北大西洋条約機構(NATO)といった同盟関係は、米側の持ち出しが多く、公平ではないと考えている。この認識を改めさせるにはまず客観的なデータを示し、理解してもらうことが第一歩だ」(日経)として、「在日米軍基地を維持するために日本は多くの資金を払っている。基地が集中する沖縄の社会的な負担も大きい」(同)ことを説くべきだと言う。だが「これらの説明だけでは不十分だろう。トランプ氏の根底には『米国は日本を守るのに日本は米国を守らない』という不満があるからだ。事実関係だけみれば、あながち間違った指摘ではない」(同)として、「この批判に反論するには、日本はお金を払うだけでなく、憲法が許す範囲で米軍の活動を物理的にも支援していくとの姿勢を示すことが欠かせない」(同)と言う。
 なんと卑屈な見方だろう。まあ、日本経済新聞という立場上、戦後70年の繁栄を担保してきた所謂「吉田ドクトリン」の軽武装・経済重視路線を維持するためには、ひたすら軽武装の言い訳をせよと言うことか。
 しかし、日米同盟は、メディアは敢えて触れたがらないようだが、血を流す同盟だ。独裁国家ならともかく民主主義国家の米国が日本との同盟関係を続けるのは、そこに国益を見出しているからに他ならない。トランプ氏はこのあたりの事情を単に知らないだけか、知っていてもすっとぼけて知らない振りをしているだけだろう。太平洋と大西洋に挟まれた巨大な孤島とも言うべき米国にとって、ユーラシア大陸における覇権(かつてのソ連や今の中国)への抑えとして、前方展開能力を持ちその基地を構えることの意義は、地政学的にはあらためて言うまでもないことだ。それが日本や韓国や東アジア諸国を同盟あるいは準同盟として自陣営に引き留めるための安心供与になっているのは、別に中東の原油に依存するわけではない米国が中東でプレゼンスを維持することが西欧諸国を同盟あるいは準同盟として自陣営に引き留めるための安心供与になっているのと同じ理屈だ。もっと言うなら(言い過ぎかも知れないが)、在日米軍が重しとなって、日本は物理的に満足な武装ができず、精神的にも戦後70年経ってなお「普通の国」になれていない。かつてキッシンジャーが極秘訪中した際、周恩来が在日米軍の脅威を主張したのに反論して、日本の軍国主義化を防止していると、逆にその意義を説いた、有名な「ビンのフタ論」のレトリックの裏返しだ(まあそれで日本の防衛費は5兆円(=GDPの1%以下)でお茶を濁していられるのだが)。
 今朝の日経・社説は、安倍首相とトランプ氏の会談のもう一つの重要課題として、「米次期政権が保護貿易主義に傾かないよう働きかけること」(日経)を勧めているが、これも卑屈な見方だ。米国の繁栄は自由貿易を基本とすることは誰も否定しないだろう。選挙期間中、「強いアメリカ」(Make America Great Again)を標榜して来たトランプ氏が、強いアメリカの基盤をみすみすぶっ壊すとは思えない。
 ニューズウィーク日本版の最新号(11・22)で、編集長が興味深い話を引用していた。It起業家・投資家でトランプ支持者のピーター・ティール氏が最近、講演でこう語ったという。「メディアはトランプの発言を言葉どおり受け取るが、彼の存在を真剣に受け止めようとしない」と。そしてそのメディアとは逆に「多くの有権者はトランプという存在を真剣に受け止め、彼が発する言葉はそのまま受け取らない」と。例えば不法移民対策について、「メキシコとの国境沿いに壁を造る」とトランプが言うと、支持者はそれを額面どおりに受け取らず、「より理性的で、理にかなった移民政策が生まれる」と感じるのだという。
 さらに同じコラムで編集長は、「トランプの本質は『ビジネスマン』というより、『セールスマン』に近い。彼にとって選挙中に語ってきたことは『公約』というよりも、あくまでもセールストークなのかもしれない」とまで言う。
 きっと、そうなのだ。誤解を恐れずに言えば、一般の米国人の多くは、日本と韓国と台湾の位置関係すら理解しない大いなる田舎者(と言うと失礼だが、一種の天上天下唯我独尊)で、実際にパスポートを持たない(従い海外旅行などしたことがない)人が多い。自分の身さえ安全であれば、遠い東アジアの安全保障や外交のことなど、気にも留めないだろう(実はそれが自らの身に降りかかることにも気づかない)。一般の米国人はトランプ氏の発言のどこまでを本気で信じているのか、トランプ氏自身もまたどこまでを本気で実行しようとしているのか、甚だ怪しいものだ。
 米国では、英国におけるBREXIT投票の後(所謂BREGRET)を彷彿とさせるような、トランプ反対デモが起こっているらしい。日本でも過剰反応、言わばトランプ狂想曲が、ややヒステリックに奏でられている。日本の場合、自国のことでもないのに、如何に米国への依存心(これを属国意識と言うと怒られるかな)が強いことの何よりの証拠で、憂鬱な気分になる(斯く言う私もこうしてブログに書いているのだから世話ないことだ)。
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スーパームーン

2016-11-15 00:46:10 | 日々の生活
 月の軌道が楕円とは、幼少のみぎりに習ったが、地球からの距離は357千キロから406千キロまで変化するらしい。国立天文台によると、今宵のスーパームーンは356千5百キロ(今年4月22日と比較すると5万キロも近い)と、68年振りの最接近で、ちょっと楽しみにしていたが、東京方面は(東京方面と言わずほぼ全国的に)残念ながら雨雲に覆われて拝むことが出来なかった(毎日新聞のサイトでは北海道や東北の一部で観測された写真がいくつかアップされていた)。近点の満月は遠点のものよりも最大14%大きく30%明るいと言われるので、晴れていれば、ほぼその数字通りに見えたのだろう。
 次に同じように見えるのは何と2034年だそうで、18年後ということは70歳を超えているではないか。どこまでクリアに見えるだろう(と、それほど悲観するほどのこともない、か)。
 それにしても、子供の頃、月をこんなふうに呼ぶとは知らなかったぞっ・・・と思い、Wikipediaを見ると、スーパームーンという用語は占星術師のRichard Nolleという人が1979年に定義したのだそうだ・・・「軌道中で地球に最接近(90%以内)した新月または満月。即ち、地球と月と太陽が直線上に並び、月が地球に最も接近した状態」。2011年の東日本大震災や2004年のスマトラ島沖地震のような巨大地震が、スーパームーンの1~2週間以内に発生していて因果関係をまことしやかに語るコメントが見られるが、「スーパームーンと大地震の相関関係を示す証拠はない」(Wikipedia)らしい。まあ、そんな硬いことを言わず、所詮、占星術に由来する言葉なので、何かあるのではないかと神秘のベールに包んでおくのも悪くない。
 明日は雨のち晴れの予報なので、なんとか拝めるだろうか。何とミーハーな。
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アメリカ大統領選(後編)

2016-11-10 02:03:21 | 時事放談
 前回のブログで「今となってはどちらに転ぶか混沌とした・・・」と表現し、トランプ候補の逆転勝利の含みを持たせていたものの、誰しも見たくない夢は遠ざけるものである。トランプ候補勝利という、BREXITに続く想定外の事態に「またか」とは思わず、「まさか」とたまげてしまった。軍人としてもまた政治家としても経験がない米大統領は史上初めてだそうである(どうでもいいが、スロベニア=外国生まれのファーストレディーは、第6代アダムズ大統領のとき以来、約190年振りだそうである)。信用ならないクリントン候補と比べれば正直だと受けとめられていたのだろうが、「まさか」暴言癖まで許されていたとは思えない。それだけに、BREXIT同様、世界は、極めて不確実性が高い事態に再び直面することとなってしまった。早速、トランプ氏が優勢との報道を受けた時点で、カナダの移民局の情報提供サイトが閲覧不能になったと報じられた。カナダへの移民を考える利用者がいっせいに閲覧しようとした可能性があるとしている。ロイターは、米国市民によるニュージーランド入管当局ウェブサイトへのアクセスが急増したと報じた。なんだか馬鹿馬鹿しい話だが、まだまだ狂想曲は続きそうだ。
 振り返れば、6月に英国でBREXITが信認を得た日は外出の用事があり、いまだにガラケーでアナログな私は、帰宅途上の駅の売店で売られている新聞の見出しでそれと知って、ぶったまげたものだった。そして今日も、昼食を挟んで外出し、オフィスに戻ったのは午後1時半で、既にNYタイムズがトランプ氏の当選確率を94%と報じているのを見て、またしてもぶったまげてしまったものだ。もはや結果は自明だったものの、時代が変わる(!)その瞬間を見届けようと、夕方4時以降はCNNサイトのトップ頁の速報をチェックしながら、仕事どころではなかった(笑)。こうして就業時間中に外部情報をたれ流しにするのは、シドニー駐在時のメルボルン・カップ(オーストラリアで一年の内で最も盛り上がるイベント)以来である(笑・再)。社内のネットが繋がりにくかったところを見ると、同じような人が多かったのだろう。CNNがトランプ候補の過半数越えを報じたのは、4時40~50分頃だった。
 それにしても、前日の米・政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の世論調査(平均支持率)でも、クリントン女史45.5%、トランプ氏42.2%と、誤差の範囲(5%ポイント)とは言え、僅差でクリントン氏優位の結果が出て、多くのメディアも同様の論調で報じていた。トランプ氏は、クリントン女史に勝利したと言うより、敵失に助けられたに過ぎないと揶揄されるが、ほぼすべてを敵に回したメディアには勝利したと言える。選挙結果の分析はいずれ出て来るだろうが、既存の政治に不満を抱く白人の中・低所得層を基盤に無党派層などへ支持を拡大していたのは間違いない。選挙期間中、人種差別主義者や女性差別主義者などと扱われかねないのを懸念して、明瞭に意思表示していなかった「隠れトランプ支持者」が多かったということだろう。そのあたりの蓋を開けたら・・・のギャップはBREXITに似ている。CNNによれば、若者ほどクリントン支持、しかし投票率が低かったため、高齢者のトランプ支持が全体を制したといった現象もBREXITに似ている。
 早くも人々の関心は次の予想に向かっている。果たしてトランプ氏は、暴言の数々をそのまま実現するのか、それともやはりアメリカ政治は組織で動く以上、大統領一人で変わるものではなく、あるいはビジネスマンとして現実的な政権運営に向かって、落ち着くべきところに落ち着くのか、日本に影響がなく高見の見物が出来れば実に興味深いところなのだが。
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アメリカ大統領選(前編)

2016-11-08 00:57:18 | 時事放談
 アメリカ大統領選の投票がいよいよ現地時間の明日に迫った。ここに来て、FBIが私用メール問題でクリントン女史の訴追を求めない方針を明らかにするなど、二転三転どころか七転八倒、異様な盛り上がりを見せている。と言っても、もとより良い意味ではない。元外交官の宮家さんは、40年来、アメリカの大統領選を見て来たが、これほど酷いのは初めてだと溜息をついておられたが、まさに「Lesser of Two Evils」(どちらも酷いが、マシな方に投票するしかない、史上最も人気のない候補者同士の戦い)と冷めた声で語られる通りである。
 これまで、大統領選については、冷静に考えればクリントン大統領以外は考えられず、このブログでも、トランプ大統領は最大の地政学的リスク、などとアメリカの識者の自虐的なコメントを部分的に紹介したくらいで、まともに取り上げて来なかった。あのイギリスに続いて、あのアメリカで、ポピュリズムなどと軽々しく発言したくなかったからだが、トランプ現象を見る限り、ポピュリズムの要素はもはや認めざるを得ないのだろう。分厚いはずだった健全な中間層が分断され、現状に不満を抱く白人労働者階級がこれほど多く、あれほど品のないトランプ氏を(政策に対してと言うより単に抗議票として)支持しているとされる状況は、なんだか隔世の感がある。それと同時に、ポピュリズムを打破できないクリントン女史の不人気ぶりも特筆すべきなのだろう。
 実際に、クリントン女史については、私的メール・アカウント使用問題やクリントン財団の口利き疑惑のほか、ウォール街に甘過ぎるとか、(例えばTPPを巡って)選挙に勝つために意見を変えるとか、そのあたりの豹変ぶりについて、ロシア情報機関によるとされるハッキングを受けて流出した内部メールで表向きの公約とは正反対な本音が透けてみえるなど、人として信用ならない面が多々指摘されて来た。討論会では、周到に準備し過ぎて、まるで法廷に立つ検事のようだと形容する人がいて、はたと膝を叩いて同意したくなるが、本来は美徳のはずが彼女にかかっては偽善的になって(悪徳のはずのトランプ氏が却って正直に見えるほどで)逆効果に人の目に映じてしまうところが、如何にも彼女らしい。彼女が人々の心を掴めないのは、性別が女性だからではなく、女性カードを使い過ぎるからだという穿ったコメントまで出て来ては(しかも女性から、である)、返す言葉がない。
 全米の新聞のなかで、1紙をのぞき、ほぼ200紙がトランプ氏を批判し、そのうち、30紙がクリントン支持を社説に掲げたらしい。その典型は恐らく全国紙USA TODAYで、創刊以来初となる大統領選候補に対する態度表明を行い、トランプ氏に投票しないよう呼びかけたものの、クリントン女史も支持できないとしたらしいが、よく分かる。
 とまあ、何だかんだ言って、BREXITを選んだ国民投票と同様、今となってはどちらに転ぶか混沌としたアメリカ大統領選の行方に注目してしまうが、トランプ現象は結果であって原因ではない、つまり、クリントン女史とトランプ氏と、どちらが大統領に選ばれようが、内向きの孤立主義的な保護主義や大きな政府を志向する流れが衰えず、将来に禍根を残すことになりかねないとする見方こそ、本質的な問題なのだろう。
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ガラパゴス中国

2016-11-05 20:24:55 | 時事放談
 前回ブログで触れなかったが、この内容は、この夏、経産省内に対内直接投資案件を安全保障の観点から審査する組織が出来たことと、Newsweek日本版9・13号の記事が背景にある。
 とりわけNewsweek日本版9・13号は興味深かった。特集タイトルは「中国経済」、サブタイトルは「進化する企業と停滞する国家」とある。ガラパゴス化と言えば、日本のように孤立した固有の生態系の中で、i-modeをはじめとする携帯電話など特異な進化を遂げ、最適化し過ぎて、世界標準から懸け離れてしまった製品や技術を揶揄して形容された言葉だが、中国も同様ではないかと言う。
 先ずは「中国当局は、経済ナショナリズムと体制崩壊への危機感から、公式・非公式の保護政策によって欧米IT企業を排除し、中国という巨大な成長市場を自国企業に独占させてきた」(Newsweek)。「最も露骨な保護措置は、市場参入を拒否することだ。ソーシャルメディア大手のフェイスブックとツイッターは、中国共産党から現体制への脅威と見なされ中国への進出を認められなかった」(同)。「もう一つの『規制型障壁』は、中国で事業を行う外国企業に対し、中国国内にサーバーの接地を義務付けるルールだ」。これは新聞報道されたように、中国国内にサーバーがあれば、中国当局は容易に侵入できるし、裁判所の命令があればサーバーに保管された情報を入手できる。つまり「自社の知的財産と顧客の個人情報を奪われるリスクにさらされることになる」(同)のだ。
 さらに、アリババはアマゾンそっくりだし、ウーバーが中国市場から撤退したのは、ウーバーにそっくりの滴滴出行があるからだし、動画投稿サイトの優酷綱はYouTubeにそっくりだし、小米の端末はiPhoneにそっくりだ。こうして、中国のIT企業は、アメリカのシリコンバレー発のビジネスモデルやアイディアやテクノロジーを真似て成長してきた面が大きく、仮に海外市場に進出すれば「法的措置を取られて巨額の権利使用料や制裁金を支払う羽目になりかねない」(同)と言い、実際に海外進出せず中国市場にとどまっている企業が多い。そして、「アリババを通して売られている商品のかなりの割合が偽物だ。百度の検索エンジンはグーグルよりだいぶ劣るし、チャイナ・モバイルの料金は余りに高い。ウーバーの中国部門が滴滴出行に売却されると発表された翌日にはさそく、料金が大幅に引き上げられた」(同)といったあたりに、ガラパゴス的な片鱗を見るわけだ。
 なお、中国でアリババが運営する「支付宝(アリペイ)」とか、テンセントが運営する「微信支付(ウィーチャット・ペイメント)」が瞬く間に広がったのを、技術と市場の新結合、所謂イノベーションの成果と褒めそやす人がいたが、勘違いだ。中東やアフリカで携帯電話が瞬く間に広まったのは固定電話がなかったからだし、同じように中国にクレジットカードもデビットカードも電子マネーも広まっていなかったからだ。つまり障壁となって立ち塞がる既存インフラがないという新興国特有の現象に過ぎない。
 中国では、国内の悪いニュースは報道されず、良いニュースばかりが報道され、逆に海外の良いニュースは(中国当局に都合が良くないので)報道されず、悪いニュースばかりが(中国当局に都合が良いので)報道されると言われる。自らに都合が良いだけの小手先の対応は、経済について言えば、上に述べたような極めて恣意的・限定的な市場開放となり、そんな社会にとても将来があるとは思えないのである。
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