風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

英EU離脱狂想曲

2016-06-28 00:21:41 | 時事放談
 オバマ大統領は、英・国民投票で離脱派勝利を受けてキャメロン英首相と電話会談した際、開口一番「参ったな」と話しかけたらしい。具体的にどんな英語を呟いたのか興味があるが、何となく共感したくなるような様子だ。なんと北朝鮮からも、朝鮮労働党機関紙・労働新聞の論説で「世界の多くの国々が深い憂慮を持って注視している」などと心配される始末である。
 それだけならまだしも、今日の日経・夕刊には、「EU離脱 広がる『後悔』」と題する記事が、それほど大きくはないものの一面左隅を飾っていた。テレビ番組で離脱へ投票したことを「後悔している」と告白する有権者が続出、とあり、国民投票のやり直しを求める署名が増え続ける中、一部議員は投票に法的拘束力がないことを理由に、離脱手続きに入らないよう求め続けた、ともある。また、米グーグルによると、離脱派勝利後に、英国サイトでEUについて最も検索回数が多かった質問は、「EU離脱は何を意味する?」で、以下「EUって何?」、「どの国がEUに含まれるのか」、「我々がEUを離脱することで何が起こるのか」、「何カ国がEUに所属しているのか」だったという。絶対的な検索件数が分からないので何とも言いようがないが、かなりの数に上るとすれば、ちょっと唖然とする状況ではある。
 BBC電子版が掲載した年代別投票行動が興味深い。それによると若年層ほど離脱支持は少なかったようで、65歳以上で離脱派は60%に上ったのに対し、最も若い18~24歳では僅か27%に過ぎなかったらしい。そのため、米ワシントン・ポスト紙の投稿サイトに、「戦後のベビーブーム世代の判断ミスによって金融危機が引き起こされ、多くの若者が国境を越えると信じてきた未来は奪われてしまった」といった厳しい見方が載っているらしい。さながらシルバー民主主義の負の側面だ。また、地域別にみると、イングランドでは離脱支持が多数を占めるが、ロンドンでは残留派が上回ったらしく、ある署名サイトには、ロンドンが英国から「独立」し、EUに加盟することを求める請願が出されていて、15万人以上が賛同したという。ロンドン市長カーン氏は残留派として活動し、投票結果が判明した後も、「EUに残留した方がいいと信じている。スコットランドや北アイルランドとともに、ロンドンがEUとの離脱交渉で発言権を持つことが重要だ」との声明を出したという(産経Web)。さらに英エコノミスト紙によると、教育程度が低いほど離脱派が多いという相関が見られるという。移民に職を奪われかねない単純労働者の感情の表出だとすると理解しやすいかも知れない。
 本当に英国はそれでよいのだろうか。俄かに信じ難い混迷ぶりだ。
 さらにひとつ、追い討ちをかけるつもりはないが、専門家(北海道大学で国際政治学を専攻する鈴木一人教授)の仮説(ご本人は単なる一つの「思考実験」だと仰る、言わば「思考の遊び」)が面白かったので、要約して拾ってみる。

(1)今回の国民投票は必ずしも法的拘束力があるものではなく、最終的な決定は議会でなされなければならない(英国には「議会主権」という概念があり、全ての国家的な決定は議会で行うことになっているため)。とはいえ、今回の国民投票の結果を無視することはできず、いかに残留派が議会内に多いとはいえ、離脱する方向でこれからEUと交渉するということを決定することになると思われる。
(2)EU離脱のための交渉には時間をかけて(2~3年くらい?)、英国のあらゆる法律や政策の中にはEUが入り込んでいるため、それらを解きほぐしながら、EUの影響を受けないようにするための調整をしていく必要がある。つまり、離脱派は勝利したにもかかわらず、状況がなかなか変わらず、失望感や残念な思いが募る可能性がある。
(3)他方、キャメロン首相は辞任を表明しており、後継の内閣(例えば離脱派の中心だったボリス・ジョンソン議員を軸に、イギリス独立党(UKIP)などが参加)がEUと交渉することになる。しかし望ましい結論を得られるのかどうか、またEUとの交渉以外の政治をきちんとマネージできるのかどうか、疑問があり、これが離脱派に対する失望感に繋がる可能性がある。
(4)イギリスの総選挙は2011年の任期固定制議会法によって5年毎に行われることになり、次は2020年の予定。しかし、EUとの交渉の進捗具合いや国民の離脱派に対する失望が高まると、残留派が多くいる議会では解散の動議が出て総選挙になる可能性がある。その場合、離脱交渉を続けるかどうかを争点とする選挙になり、離脱派の勢いが落ちているのであれば残留派が優位に選挙を進めて勝利するかもしれず、そうなれば離脱交渉が中断され、結局、現状維持に戻る可能性がある。

 私たち日本人は、現代の「不磨の大典」である憲法の改正のように、国民投票こそ最終かつ至高のものと思い込んでいるが、英国ではどうもそうではないらしい。まだまだ予断を許さないという、一つの「可能性」の議論なのだが、さて、そんな先の話ではなく、まだまだ狂想曲は続きそうだ。
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BREXITの行方・続

2016-06-26 16:15:25 | 時事放談
 英国・下院の請願サイトで、投票のやり直しを求める署名が250万人を超え、一時はサイトがダウンするほどだったらしい(なお、請願は昨年11月から出されており、23日の投票率が75%未満で、多数だった方の得票率が60%未満だった場合に、やり直しを求める内容で、今回の投票率は約72%で、多数だった離脱支持は約52%だったため、確かに請願の条件を満たす)。それほどの衝撃が、英国のみならず、世界を揺さぶった。24日の日経夕刊一面を飾った「英、EU離脱へ」の文字の大きさから、経済専門誌としての日経の驚きの大きさが知れるとともに、私自身の意外な思いも大いに増幅されて却って動揺するほどだった。
 それにしても、英国民はやってしまったなあ・・・という印象だ。中国・国営新華社通信は、「キャメロン首相の政治的な大ばくちが失敗」とする評論を配信し、「西側が誇りとしている民主主義の制度が、ポピュリズムや民族主義、極右主義の影響にはまったくもろいことが示された」として、これみよがしに国民投票の結果を否定的に伝えたが、もとより制度の問題ではない。後知恵ではあるが、結果として微妙な差だったとは言え、私たちが思う以上に英国民は栄光の大英帝国の残滓としての独立意識が強く、他人とは距離を置きたがる、良くも悪くも英国民だったのだろうと思う。離脱を主導したある幹部は、「英国人は外部から指示されればされるほど、拒否する気性がある。論理的に正しくても、感情的に反発する」と説明したらしいが、ギリシャ危機での財政政策にせよ、イラクやシリア混乱に伴う移民政策にせよ、EU官僚が決める規則に縛られるという国民の不満は予想を超えるものなのだろう。こういうときこそ、経験主義の浅はかさを思う。ビスマルクが言ったように「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」のだ。後で振り返れば歴史的な出来事だったと言われるのか。まあ、如何ようにも言い訳できることであるが。
 起こってしまったことをつべこべ言っても仕方ない。今後のEUの動きは注目されるところだ。世界経済への影響を抑えるためにはEUの強さを示しつつ穏便に英国のEU離脱を進めた方が良いと思う一方、英国が離脱して自立してやって行けるようではEU離脱のドミノ現象を誘発しかねない、所謂ジレンマに陥る。フランスやオランダなどの極右政党は注視するところだろう。英国が抜けるEUの混乱が利するのはロシアや中国か。あるいはEUの影響力が落ちるのと裏腹に、中国のEUへの影響力も落ちるのか。中国は英国との接近が水を差されるのではないかと憂慮するかも知れない。間違いなく英国なきEUと米国との関係はやや冷めて離れたものになるだろう。サミットで安倍首相が先進国の結束を世界に示そうとして、なかなか思うようには行かなかったが、日本にとって遠い国の出来事が、まさに先進国の結束を揺るがす事態となり、世界情勢は流動化する懸念がある。これは危機なのかどうか。危機だとして私たちはこの危機をマネージ出来るのかどうか。
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BREXITの行方

2016-06-24 01:18:39 | 時事放談
 投票は既に日本時間午後3時(現地時間午前7時)に始まり、明日朝6時(現地時間午後10時)には締め切られて、すぐに開票作業が始まり、明日正午過ぎ(現地時間24日早朝)には大勢が判明するそうだ。今、英国ではEU離脱の是非を問う国民投票の真っ最中だ。
 今日の日経夕刊は、英国の主要メディアの主張を取り上げながら、双方の主張を分かり易く解説していた。中道左派寄りとされる高級紙ガーディアンは、残留支持を表明し、「離脱を選んだ場合には、若者の多くが意図しない英国を若者に手渡すことになる」ことが果たして「公正だろうか」と読者に問いかけたそうだ。経済紙フィナンシャル・タイムズの主張は聞くまでもない。残留支持し、「欧州は、イスラム過激派や移民、ロシアや気候変動という脅威に直面し、建設的な関与が不可欠。これらは力を合わせることで初めて取り組むことが出来る」と、経済合理的な国際主義を唱える。他方、保守層の読者が多いデイリー・テレグラフは離脱支持を表明し、「EUは5億人の市場へのアクセスを提供すると言われるが、域外には60億人の市場がある」と主張し、その現実感覚は大丈夫かと訝しく思うが、「英国は主要な経済大国。言語は国際的で、法律に対する信頼があり、公正な取引に対する評判も高い」と、離脱しても英国の優位は揺るがないと強調して鼻息が荒いが、繰り返しになるが、ややノスタルジーに浸り過ぎではないかと心配になる。
 我々のような部外者の目から見れば、イギリスの輸出品の45%はEU向け、EU輸出品の16%はイギリス向けであるという事実、また、ヨーロッパ企業以外のグローバル企業の60%は対EUビジネスの拠点をロンドンに置いているという事実を聞き知っただけで、イギリスのEU離脱はあり得ないと思ってしまうし、フランスにしてもドイツにしてもアメリカにしても半ばそう脅して来た。元外交官の宮家邦彦さんも、あるコラムで、もしEU離脱すれば、ロンドン金融街は地方市場となり、進出外国企業は英国を去るかもしれないと警告するが、それ自体さほど特殊な意見とは思えない。他方、ニューズウィーク日本版6月28日号の特集によると、仮にEU離脱すれば、空港ではEU加盟国に行くときに「域外からの訪問者」として入国審査を受けなければならなくなる(日本人は、EU域内のフリーパスを見て、これがEUかと驚かされる)し、英国のサッカー・チームがEU域内の選手を引き抜こうとしても、就労ビザを取得するための厳格な条件を満たせないかも知れないと、まあどうでもいいようなことながらも懸念を表明しつつ、EU離脱すれば、EU加盟国からやって来る出稼ぎ労働者が英国の社会保障制度を悪用するのを防止出来るし、EUに割り当てられた数のシリア難民を引き受ける必要もないし、今までよりも自由な立場でインドや中国、アメリカなどと貿易協定を結ぶことが出来ると説明し、これだけ読むと、なんだか離脱した方が良さげな雰囲気ではある。実際、そう思うほどに、現地ではEU残存か離脱は長らく拮抗してきた。EU離脱派が最も憂えるのは主権の喪失だと言われると、分からなくもないが、さりとてECからEUへと国家の枠組みを超えた統合を模索して来た欧州大陸の人々の思いを無視するわけにも行かない。難しいところだ。
 明らかに潮目が変わったのは16日、残留派のジョー・コックス下院議員が極右思想の影響を受けたと思われる男性に殺害されたことで、ロイター・ニュースなどでは残留派が優勢とあからさまに報じている。
 もっとも、私は、この段階でこう言っちゃあなんだが、この事件がなくとも、スコットランド独立と同じで、落ち着くべきところに落ち着くだろうと思っていた。そもそもこのような国民投票を行うこと自体、議会制民主主義発祥の英国らしく、羨ましく思う。日本では参院選挙戦が始まったが、野党第一党の民進党ですら、憲法改正は国民投票が最後の砦のはずなのに、自民党の単独三分の二を阻止することを訴えて、まるで最後の砦の国民投票を信用しないと言うに等しい暴挙と思う。
 結局、この大いなるEU動揺で得をするのは、英国そのものではないかと思う。今さら19世紀末の「名誉ある孤立」など成り立ち得ないが、この騒動を通して、間違いなくEU内における英国の存在感を示し得た。老いたりと言えども、英国はしたたかだ。
 勿論、結論は蓋を開けて見ないと分からないのだが・・・。
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後悔しない生き方

2016-06-21 00:03:25 | 日々の生活
 一ヶ月ほど前の話になってしまうが、ニューヨークの街角に突然掲げられた黒板が話題になった。「Write Your Biggest Regret(あなたが一番後悔したことを書いて)」と記載されていて、いくらアメリカ・ニューヨークとは言え、最初はその黒板を遠巻きに眺めたり写真を撮ったりして様子をうかがうニューヨーカーが多かったようで、やがて書き込みが始まると、足を止めてチョークを手にする人も増えていったらしい。NYという人種の坩堝、あるいはサラダ・ボールを地で行く土地柄、道ゆく人種も性別も年齢も全く異なる、さまざまな人たちが書いたメッセージを想像できるだろうか。実は共通するキーワードがあったらしいのだ。
 「Not following my artistic passions. (芸術の)夢を追うのをやめてしまった」
 「Not saying “I love you.” 愛していると言わなかった」
 「Not being a better friend. もっと良い友達でいたかった」
 「Not getting involved. もっと(何かに)関わっていたかった」
という、”Not”の文字、つまり「Not~=不作為」を悔いる気持ちが圧倒的だったそうである(因みに辞書を引くと、「自分のしてしまったことを、あとになって失敗であったとくやむこと」とあるが)。NYをベースにニュース配信するWebマガジン「A Plus」と社会人向けオンライン学習プログラムを全米展開するストレイヤー大学が共同で行ったプロジェクトで、人々が黒板に書き込む様子は動画で公開されていたらしいので、今でも確認できると思う。黒板への書き込みが集まると、最後に黒板消しが手渡され、参加者たちは「もう後悔はいらない」、「自分の可能性を信じたい」などと話しながら、たくさんの「後悔」を消して行き、真っさらになった黒板に最後に「Clean Slate 新しく出直そう」と書かれたと言う。何だか出来過ぎた話だ。
 “Not~”という英語を見て、エリック・シーガルの小説を原作とする映画「ある愛の詩」(1970年)を、映画音楽(フランシス・レイ)とともに思い出してしまった。白血病で短い人生を終えるアリ・マッグロー演ずるジェニファーがライアン・オニール(テータム・オニールのパパ・・・と言っても分からないかなあ)演ずるオリバー青年に語る言葉だ。”Love means never having to say you're sorry.”(愛とは決して後悔しないこと)。Wikipediaで調べて見れば、「愛していれば後から謝ったりしなくていい。」という意味だとある。人によって、人生経験に応じて、いろいろ思いあたるところがあるだろう言葉だ。
 私の全く個人的な経験でも、人生を振り返ると、「不作為」の後悔だらけで、だったら「作為」の後悔にしておけば良かったじゃないかと、他人事のように思うのだが、それが人間らしいところでもあるのだろうか。そして、「後悔 先に立たず」と言うが、その昔、大学受験の頃に通った予備校の机に「後悔 後を絶たず」と並べて書いてあって、思わず感心したものだ。この歳になって、多少は図々しくなっても、やっぱり後悔はし続けるのだろうか・・・
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イチロー4257安打

2016-06-18 23:10:37 | スポーツ・芸能好き
 イチローが15日(現地時間)のパドレス戦で、1回第一打席に一塁線上のボテボテのキャッチャー・ゴロをイチローらしい内野安打にして、ピート・ローズの持つ大リーグ記録4256安打に並ぶと、9回第五打席にはライトポール際へ糸を引くような美しいライナーの二塁打を放ち、日米通算4257安打として、ピートローズをあっさり超えた。
 ピート・ローズ自身が「日米通算安打は、大リーグ記録ではない。それで超えたというなら、おれのマイナーでの安打数を加えろ。それもプロのヒットだ」などと乱暴な、日本プロ野球をマイナー・レベルだと言わんばかりの大人げないことを言うので、さすがにイチローも冷めてしまう。実際、ピート・ローズの最多安打記録にゴールを設定したことはないと言う。「日米合せた数字ということで、どうしたってケチがつくことは分かっている」、「今回はピート・ローズが喜んでくれていたら、全然違うんですよ。でも、そうじゃないっていうふうに聞いているので、だから僕も興味がないっていうか・・・」、またピート・ローズの発言に対して、「そういう人がいた方が面白いしね。だって、大統領選の予備選見てたって、面白いじゃないですか。そりゃあだって、あの共和党の方がいらっしゃるから盛り上がっているわけで、そういうところありますよ」、「それは人間の心理みたいなものですから。それはいいんじゃないですか。じゃないと盛り上がらないし、っていうところもあるでしょ?」 イチローは大人だ。
 しかし、初回のヒットに対しては、試合開始直後ということもあって客席はまばらだったが、三塁側の内野席を中心にスタンディング・オベーションが起こったらしい。クリスチャン・イエリッチのヒットで生還すると、ダグアウトで同僚にもみくちゃにされた。そして9回にはファンは総立ちとなり、打たれたパドレスの守護神フェルナンド・ロドニーもイチローを祝福すると、ショートのアレクセイ・ラミレスは拍手を送ったらしい。日米通算なのだから大リーグ記録になり得ないのは当然で、しかし、2001~2010年に10年連続200安打を達成し、中でも2004年には262安打のシーズン最多安打記録を作っているメジャー16年目、42歳の打撃能力が抜きん出ていることは、ファンならずとも知っている。
 この記録の陰には、打つだけでなく走・守にも秀でる彼の身体能力と、体調をベストに維持し、故障しないで試合に出続ける、コンディションづくりへのひた向きな努力がある。チームの中で最も打席が多く回ってくる打順1番に座っていられるのは、通算盗塁成功率が8割を超えるイチローの機動力を生かすためである。大リーグ在籍15年間で出場試合が140を下回ったシーズンは一度もない。イチローと言えども打撃スランプはあっても、試合に出続ける限りレーザービームなど守りでは確実に魅せてくれる。その存在感は大きい。結果として、「(試合数x)打席数x打率=安打数」を最大化出来ていることになる(あるいは本人には、如何に出場試合数を増やすか、打席を増やすか、打率をあげるか、というのが先にあるのかも知れないが)。
 そしてイチローの美学である。「ホームラン好きな女性に、僕は魅力を感じませんね。技術を要する内野安打にはセクシーさがある。僕は怪力よりも技術で女性を驚かせたい。それで、たまには大きいのも打てるって姿を見せておけば、ちょっとしたアピールもできるかもしれないし」(2009年NY Times紙)。痺れるなあ。大リーグ記録ではなく、世界記録として、王さんの通算868本塁打と並び、イチローの通算4257安打を称えたい。
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そして次の米大統領は

2016-06-12 11:46:16 | 時事放談
 その昔、「究極の選択」なる言葉遊びがあった。いろいろ段階があって、「空飛ぶ超能力と、心を読む超能力」あるいは「あらゆる楽器の達人になれるか、あらゆるスポーツの達人になれる」場合に、どちらを選ぶかを想像するのは夢があっていいが、ほんの序の口で、「誰も出席しない自分の葬式と、誰も出席しない自分の結婚式」あたりになると雲行きが怪しく、更に「災害の多い町と、犯罪の多い町」とで住むならどちらか、尾籠な話だが有名な「うん●味のカレーと、カレー味のうん●」とで食べるならどちらか、あたりになると、どちらも選びたくなくてハタと困ってしまうが、選ばなければならない状況が本来の「究極」である。そこまで究極ではないにしても、今回のアメリカ大統領候補は、民主党のクリントン女史と共和党のトランプ氏に絞られたようで、一種の「究極の選択」で、先が読めない。冷静に演説だけ聞いていれば、不動産王と言ってもやり手の中小事業者の、庶民派だけれどもジャーナリスティックで、と言っても高級紙ではなくゴシップ紙がお似合いのトランプ氏より、「ワシントンの支配階級」(サンダース氏)で傲慢に見えてもクリントン女史の方を選びたくなる。
 しかし、物事はそう単純に行くものではない。100年前ならまだしも、現代のような情報社会にあってもなお100年前と同じように時間をかけて、核大国アメリカの最高指揮官、否、世界の独裁者を丁寧かつ慎重に選ぶ過程にあっては、サシの勝負であるだけに、どちらが優れているを見極めて勝敗がつけばいいが、優れていたとしても思わぬところで足を掬われれば負ける(逆に敵失で勝つ)ことだって大いにあり得る。まさかトランプ氏が共和党候補として勝ち残るとは思っていなかったが、それでも、トランプ氏が相手なら、ヒラリー女史は楽勝だろうと思っていたら、そうでもない。Financial Times紙は、クリントン女史のことを、「重大な欠点をいくつも抱えた弱い候補」だと言う。
 かつて三流役者崩れのレーガン氏が大統領の座を射止め、まさかソ連を追い詰め冷戦構造を崩壊に追いやる歴史的な立役者になろうとは誰も予想しなかったように、今は過激な発言でさんざん世間の(どちらかと言うと興味本位の)注目を集め、熱狂的な支持層を取り込んで共和党の主流派を抑えたトランプ氏が、もし、まともな側近を集めて耳を傾けるならば、そして持ち前のビジネス感覚を研ぎ澄ませるならば、化けないとも限らないと、私のように夢想する、ひねくれ者がいるかも知れない。実際、安保タダ乗りの同盟国は見捨てると公言したり、日韓両国に核武装を平気で勧めたりするのは、トランプ氏のブレーンによると、ゼロ・ベースで議論を巻き起こそうとしているだけで、その通りに信じているわけでは必ずしもないと言う。また、ここ三代、アーカンソー州知事だったクリントン氏や、テキサス州知事だったブッシュJr.氏や、上院議員になったばかりのオバマ氏に見られるように、ワシントン政治が腐敗していると嫌気されて、大統領には中央政界に染まっていないフレッシュさが求められていると指摘する声がある。そして何よりトランプ氏を押し上げて来た背景なり格差社会の世相を読み解けば、弁護士からファースト・レディになった迄はともかくとして、その後、上院議員から更に国務長官にまで登り詰めて、すっかりエスタブリッシュメント然としたクリントン女史のイメージは、最近、年齢と共に益々福福とする容姿と相俟って、却ってマイナスに影響しかねない情勢である。
 今年の大統領選は「史上最も不人気な二人による一騎打ち」になると言われる始末だ。既に「Crooked Hillary(いんちきヒラリー)」と「Trump the Fraud(詐欺師トランプ)」との争いになっているとも言われている(Financial Times紙)。クリントン女史は、票になると察すれば、TPPにしても弱者保護にしても、民主党の支持母体である労働組合に阿り、手のひらを返したように政策の立場を変える無節操さを見せ、公務のメールのやり取りに私用サーバーを使っていたことで追及を受けるマイナス・イメージが定着している。今後、トランプ氏とのTV討論という醜い争い(となることを実は期待している人が多いと思うのだが)で品位を保てるかどうかという試練が待ち構える。
 他にも爆弾を抱えている。ビル・クリントン氏の「クリントン財団」の存在だ。外国の政府や企業から何百万ドルもの寄付を受け取り、国務大臣だったクリントン女史が見返りの政策で応えたのではないかと疑われ(保守系ニュースサイトの総合監修者ピーター・シュヴァイツァー氏の著書「Clinton Cash」)、本人どころか女史の講演料にも数10万ドル単位の謝礼金が動くと、最近、池上彰氏も週刊文春のコラムに書いていた。こうなるとエスタブリッシュメント然どころか、数万・数十万円単位の公私混同で叩かれるチンケな舛添氏など消し飛んでしまうほどの、強欲ぶりだ。Financial Times紙も(財団のことを)米国の政治において前例がない組織だと指摘する。折しも、同著書のドキュメンタリー映画が、この前のカンヌ国際映画祭で先行上映され、7月25日の民主党大会前の24日に一般公開される予定らしい。
 11月の本選まで何が起こるか分からない。国際政治やアメリカの国内政治は停滞するだろうが、ゴシップ的な楽しみはある(本来、そうであってはイケナイのだが)。
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オバマ大統領のレガシー

2016-06-10 21:29:09 | 時事放談
 オバマ大統領の来年1月退任に向けた「レガシー」(政治的遺産または後世の歴史家による評価を意識した業績)づくりが進んでいる。大統領二期目に入ってレガシーを意識するのは、なにもオバマ氏に限ったことではないようだ。レーガン元大統領は旧ソ連のゴルバチョフ書記長との軍縮交渉に熱心に取組んだし、クリントン(旦那)元大統領は、景気拡大により財政均衡を達成するとともに、外交面では中東和平に熱心に取組んだ。ブッシュ(息子)前大統領だけは、残念ながら政権1期目に開戦に踏み切ったアフガニスタンとイラクでの対テロ戦争の泥沼から抜けられず、経済面でも退任4ヶ月前に発生したリーマンショックにより汚点がついてしまった。
 そのブッシュ(息子)前大統領から負の遺産を引き継いだオバマ大統領は、公約通りイラクとアフガニスタンでの対テロ戦争から(遅れてはいるものの)撤退しつつあるが、実のところ功罪相半ばする。駐留米軍の撤退によって生まれた力の空白にISなどの過激派が入り込んで勢力拡大する一因となり、イラクだけでなくシリアも混乱したままだからである。また1979年の革命以来、断交してきたイランとの核包括合意も成果の一つと数えることが出来る一方で、アメリカはイランに対し核開発を15年間凍結させたという功績よりも、イランは15年後には核兵器を持てるようになると皮肉る人がいるし、同盟国イスラエルやサウジアラビアとの関係は却って冷え込み、サウジに至っては地域大国イランの復活に対抗して、核への誘惑によろめきつつあって、中東情勢はすっかり流動化してしまった。唯一、明確に、1961年以来断交して来たキューバと54年振りに国交回復したのは数少ない成果と言えよう(しかしここでも具体的な関係改善、とりわけ経済効果はまだない)。
 もう一つ(正確には二つ)の成果と言えるのが、広島訪問と、それに先立つベトナム訪問である。現職の米大統領がベトナムを訪問したのは初めてではなく、クリントン(旦那)元大統領(2000年)とブッシュ(息子)元大統領(2007年)に次ぐものだが、何と言っても1975年4月のベトナム戦争終結以降、米大統領がベトナムの地で直接、戦争に言及したのは初めてだったようだ。演説では「300万人のベトナムの兵士と市民、5万8315人の米国民が命を失った」と語り、「両国は痛みと尊い犠牲をいつまでも忘れてはならない」と続けた。また対ベトナム武器輸出を41年振りに全面解禁することも表明し、中国を牽制した。また、数日前の日経新聞・朝刊には、キャロライン・ケネディ駐日大使が、自身の広島訪問経験を踏まえて綿密に計画し、平和記念資料館(原爆資料館)を訪れずに記帳だけ残すと主張したライス米大統領補佐官の反対を抑えて、館内で回るべき場所を進言し、実現させた、とある。現職の米大統領が広島を訪問したのは勿論初めてだし、広島の地で直接、戦争にも言及した(明確な責任への言及や謝罪はなかったが)。このベトナムと広島という因縁の場所を訪問したのを、日経新聞は「慰霊の旅」と呼び、産経新聞は「歴史の旅」と書いた。
 そして先ほどの日経新聞は、どちらかと言うとアメリカ人のトラウマになっているこれらの戦争の記憶を連想させる訪問を、オバマ氏のレガシー(遺産)と言うよりも、ケネディ元大統領(JFK)の政治的なレガシーだと書いた。
 オバマ氏が生まれたのは1961年8月で、JFKが暗殺された1963年11月には僅か2歳だったが、オバマ氏を含めJFKの影響を受けていないアメリカの現代の政治家は保守とリベラルとを問わずいないだろう(軍産複合体を敵に回すとどうなるかという教訓を含めて)。中でもリベラル色が強く弱者に配慮する点で、オバマ氏はJFKに近く、かなり意識しているものと思われる。JFKは白人ながらアイルランド系カトリックであって、所謂WASPという主流とは言えないところ、更に言うとそういう役回りで変化を期待されたところも、オバマ氏と共通する。JFKは、1960年の米国大統領選挙で初めて行われたテレビ討論会で見映えや若々しさで相手候補を圧倒したことで有名だが、そのスピーチの上手さに定評があるところも、オバマ氏と共通する。JFKはソ連や英国との間で部分的核実験禁止条約を締結するなど、核軍縮の機運を盛り上げたところも、オバマ氏と共通する。しかし、JFKは南ベトナム駐留米軍を増派し、ベトナム戦争にのめり込むキッカケになったこと、またキューバ危機を乗り切りながら、外交関係を閉ざすことになったことは、オバマ氏によって克服された。他方、JFKの理想主義は世界を熱狂させたが、オバマ氏の理想主義は世界を失望させた。
 後世の歴史家は、果たしてオバマ氏のレガシーをどう評価するだろうか。
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タクシー業界の試練

2016-06-08 01:00:53 | ビジネスパーソンとして
 先日、業界団体の懇親会だの中学時代の同級生の集まりだのハシゴになって、同じ港区内で会場を移動するのに、地下鉄の乗換えで迂回するよりタクシーの方が早いだろうと、タクシーを拾ったらいきなり渋滞にはまって、そう言えば金曜日の夜だったと後悔しても時すでに遅く、2000円を越える痛い出費となってしまった。時間がかかったもう一つの理由は、タクシーの運ちゃんがナビ頼みの正攻法だったせいもある。ついシドニーを思い出してしまった。
 シドニーで生活したのはリーマンショックの頃のことだが、既に当時からナビゲーション・システムのないタクシーを探すのが難しいくらいナビ全盛の感があった。移民国家オーストラリアで、特段のビジネス・スキルもない移民にとって、車さえ運転できれば、都会でもナビの指示通りに走るのはワケないことだ。言わば参入障壁の低い(その分、給料も低い)仕事なのだ(多分)。日本では、かつてタクシーの運ちゃんと言えば何曜日の何時台はどの抜け道が早いなんていう職人芸が売りだったが、高齢化でそういったノウハウある方々が減っているのかも知れない。勿論、昔から転職したての運ちゃんが道に迷うなんてこともあるにはあったが、もはや日本でもナビ頼みは当たり前になって行くのかも知れない。
 前置きはこのくらいにして・・・そのタクシー業界が、試練に直面している。民泊と並んで白タクはシェアリング・エコノミーの代表格だからだ。アメリカ発のUberは、スマホ・アプリの位置情報から一般人が運転する近くの自家用車を利用できる仕組みで、一足先に導入が進んでいる欧米では商売が脅かされるタクシー業界との間で裁判沙汰になっていると聞く。日本では特区であってもタクシー業界の反発でガチガチに縛りをかけられているが、何と言ってもシェアリング・エコノミーは政府の経済成長戦略の一つとして位置づけられており、今後が注目される。それにしてもネットの破壊力は凄まじい。
 もう一つは、そもそも構造的にタクシー需要が頭打ちで、2007年頃からは漸減している問題だ。初乗り料金の値下げが検討されているのは、訪日外国人観光客が増える中で、海外の主要都市と比べて日本の初乗り料金の設定が明らかに割高に見えるからだったり、今後、高齢化社会に向かう中で、買い物や通院など近距離移動の需要が増えることも期待されたりするからで、なんとか閉塞的な現状を打開したいのだろう。そのため、現在、都心では2キロまで730円、以後280メートル当たり90円加算となっているところ、280メートル当たり90円加算は変えないで、初乗りの距離を例えば880メートルまで刻んで370円に設定して、少しでもニューヨーク(320メートルまで2.5ドル)やロンドン(260メートルまで2.4ポンド)に近づけて、新たな需要の掘り起こしを狙っているようだ。もしかしたら、こちらはそれなりに化けるかも知れない。が、国交省は実証実験を行って効果を検証するのだそうで、ご丁寧なことである。
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奇跡の生還

2016-06-05 13:07:48 | 日々の生活
 北海道函館近くの林道で、両親に置き去りにされ行方不明になっていた小学2年生の少年が、無事保護された。置き去りにされたのは28日夕方5時、発見されたのは3日朝8時だから、6度の夜を真っ暗闇の中、たった一人で過ごしたことになる。不安だったろうし、悲しかったろうし、気丈でよく頑張ったと思う。無事でなによりで、金曜夜はニュースに釘付けになった。
 状況を簡単に振り返るとこうなる。鹿部町の公園で川遊びをしていた4人家族の男の子が、公園で人や車に石を投げつけ、親の言うことを聞かなかったため、自宅への帰り道に、しつけの意味を込め、七飯町の舗装されていない林道で車から降ろされて置き去りにされ、5分後に父親が現場に戻ったが、もう姿が見えなくなっていた、というものだ。報道によると、少年はその日の内に5キロ先の陸上自衛隊演習場に辿り着き、たまたま施錠されていなかった簡易宿泊施設の小屋(と言っても長さ30メートル、幅6メートルもある)に潜り込み、ストーブも電灯もあったが電源がないため、自衛隊員が宿泊時に使う備え付けのマットレスで暖をとり、出入り口近くの屋外にある水道で空腹を癒していたらしい。
 5月末の北海道は最低気温が10度を下回る日もあったが、風雨を防ぎながら、じっとしていたことが、結果的に体力の消耗を抑え生存に繋がったとされる。そのため、我慢強く、知恵のある子だと、特に山岳救助関係者の賞賛の声が聞こえて来るが、もとよりこれは結果論だろう。捜索隊に加わった自衛隊員によると、夜、暗くても街(鹿部の町)の明かりを頼りに演習場に辿り着いたのではないかという。演習場は捜索範囲に入っておらず、小屋に立ち寄った自衛隊員は、雨が降る中でミーティングをする必要があったため、急遽予定になかったその施設に向かったのだという。日常のごくありふれた出来事から大きく外れることのない小さな偶然が積み重ねられただけのように見える。リスクマネジメントの観点からいろいろ考えさせられる事案だ。小学2年生で人や車に向かって石を投げつけるような子だから、多少、ヤンチャではあったろう。置き去りにされて、親が乗った車が走り去った方向に歩かなかったのも、大したものだ。しかし、小屋で5日以上にわたってじっとしていたとは実にいじらしい。子供は無力だ。
 両親は、警察に駆け込んだ当初、普段から虐待をしていると疑われるのではないかと、世間体を気にして、山菜採り中に家族とはぐれたと通報していたが、その説明が虚偽と判明し、日本でも置き去りにしたことが保護責任者遺棄の容疑に当たるか慎重に調べられたように、欧米メディアでも、しつけの行き過ぎとして関心を集め、大きく報道された。ハフポスト韓国版は日本版の記事を翻訳して速報しただけだが、US版のコメント欄には、無事を喜ぶ声に加えて「子供を両親に戻すべきではない。両親のやったことは非常に虐待的だ。どうして7歳の子供にこんなことができるのか」、「子供を教育しようとして、子供に教育された」といった意見まで書き込まれたらしい。
 幼児虐待に敏感なアメリカでは、ごく日常の移動手段である自家用車の中に僅かの時間でも子供だけ残すことは犯罪のため、私たち日本人は常に意識していなければならなかったし、ショッピングモールでオモチャを買って貰えなくてむずかる子供(当時5歳)を叱っていると周囲の空気が変わったことに驚いて、思わず叱るのを止めたこともあった。アメリカほど幼児虐待が(最近は時々報道されるが)社会問題化するほどではない日本でも、尾木ママは「悪いしつけの見本」と厳しく批判した。「虐待とは『子供のためといいながら、親の気持ちを満足させるため』子供が納得していないのに、恐怖や痛みを与え、従わせるのは悪いしつけ。良いしつけとは、なぜいけないのか、どうしてあいさつが大切なのか…。意味や理由を分からせながら教えていくことです」。脳心理学者の茂木健一郎氏は「これは『しつけ』ではありません。『保護責任者遺棄罪』(刑法218条)という犯罪です。ぼくはそもそも『しつけ』という日本語が大嫌いです。『しつけ』という言葉を使う人も嫌いです」とツイートしたらしい。
 今回、見知らぬ土地(と思われる)で置き去りにし、しかも5分も放ったらかしにするなど、親の行き過ぎがあることは明らかだと思うし、尾木ママの批判もよく分かるが、親だって完璧ではなく、さらに他人の家庭のことになると口出しするのを控える傾向にあり、普段どんな親子関係にあるのか、どんな子なのか、部外者には判断し辛い面もあって、ちょっと歯切れが悪くなる。アメリカのように法律という形で社会的コンセンサスがあれば対処の仕様もあるが、日本は単一民族でそれほど明確にある一線をハミ出す人は少なく、そういう面でも繰り返しになるが一人ひとりが意識しなければならないリスクマネジメントの問題として考えさせられる。
 最後に、捜索隊に加わった自衛隊員の言葉を引用したい。「6日間も水だけで生き抜いた大和君は本当に生きる力が強かった。大きくなったら、自衛隊に入隊してほしい」。親のことはさておき、少年が頑張ったことだけは間違いないし、光明であり、この言葉に触れてふっと涙腺が緩んでしまった。繰り返すが、日常のごくありふれた出来事から大きく外れることのない小さな偶然が積み重ねられただけのことだと思うが、いくつもの幸運が重なり6日間もの時間を耐え忍んだことが、奇跡に変えた。
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ヒロシマ・2016(続々)

2016-06-03 01:33:04 | 時事放談
 なおもしつこくオバマ大統領の広島訪問を巡る雑感を続ける。
 先週末の「サンデーモーニング」では、好々爺のMC関口さんが、オバマ大統領の広島訪問にひっかけて、なお核兵器廃絶を実現できない世界を皮肉って、「まだ世界の為政者は、原爆の悲惨さが分からないんですかねえ」などとぼやいて、相変わらずオメデタイ人だなあ・・・と苦笑してしまった。確かに資料館の写真や当時の遺物などの現物を見れば、大袈裟に言えば人生観が変わるかも知れない(因みに、長崎出身の知人は、長崎の資料館の展示が、折角の「現場」でしかし「現物」ではなくハイテクを駆使してジオラマ化することによって、却って「現実」味がなくなるのではないかと懸念していたが、そうかも知れない)。しかし、安全なところで寛いでお茶を啜りながら「理想」を語っていられる関口さんと違って、世界の為政者は世界政治の「現実」を生きているのである。
 「理想主義 対 現実主義(リアリズム)」は、国際政治学の教科書の一丁目一番地である。国際政治学の始祖の一人に数えられるE.H.カーの名著「危機の二十年」もそれがテーマだった。もとより0か1かの世界ではない。テーブルの上でニコニコ握手しながら、テーブルの下で拳銃を向けるのが外交官の典型として描かれるように、理想主義100%では余りにナイーブで不安になるし、現実主義に徹しても息が詰まって生きた心地がしない、やはりどちらも必要なのだが、その比重の置き方の違いで議論に幅が出来る。そして、その違いの一つは、端的に性悪説をとるか性善説をとるか、敷衍すると、世の中には邪悪な人がいて、必ずしも論理だけで動くような世の中ではないと悲観するか、否か、にあるだろう。オバマ大統領も、この二つの主義の間で揺れた7年間だったろうと思う。今夕の日経新聞には、オバマ大統領自らが推敲した広島演説原稿の写真が出ていた。
 「ヒロシマ・2016」のタイトルで三回にわたって、しつこく書いてきたのは、オバマ大統領の広島訪問を歴史的な快挙だと思うからだ(なお、「ヒロシマ」は核の災禍がまとわりつく象徴的な名称として、また「広島」は単に地名として、私なりに使い分けている)。とりわけ「天の時」と「人の和」について、天の配剤のようなものを感じないわけには行かない。本籍・広島で広島1区を選挙区とする岸田外務大臣にはヒロシマへの強い思いがあるだろうし、20歳の時に広島の平和公園を訪れて被爆者と面会し「平和な世界の実現に貢献したい」との思いを強め大統領の広島訪問実現に尽力してきたキャロライン・ケネディ駐日大使の感慨も一入だろう。また首脳レベルでは、戦後70年となる昨年4月29日、アメリカ連邦議会上下両院合同会議で安倍首相が行った「希望の同盟へ」と題する演説が熱烈なスタンディングオベーションで迎えられ、今年、オバマ大統領が広島で行った演説も、原爆投下の責任や謝罪に触れていなくても、多くの日本人に歓迎された。それは安倍首相とオバマ大統領の個人的な関係に支えられれ、また、核廃絶を願う理想主義と、日米同盟強化により地域の安定に資する現実主義とが、対立することなく、絶妙に配合されたものとなった。オバマ大統領の戦争犯罪に対する謝罪がなかったことで、日本の戦争犯罪に対する謝罪を求め続けてきた中国の期待を裏切る形となった。被爆者に、日本人やアメリカ人捕虜だけでなく、朝鮮半島出身者も含めることで、韓国の怒りもかわした。
 稀に見る外交的成果であり、あの民進党・蓮舫代表代行ですらツイッターに「オバマ大統領の広島訪問、そしてスピーチ、被爆者の方と話される姿。この歴史的な声明を実現された安倍内閣の外交は高く高く評価します」と投稿したらしい。蓮舫の普段の姿勢は私と全く相容れないが、今回、素直に意見表明したことで、彼女をちょっと見直した次第である。それほどにインパクトのある(?)イベントだったということだろう。
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