風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

ルーピィ

2010-05-04 15:24:39 | 時事放談
 旧聞に属しますが、やはり一言、言っておきたい。
 鳩山首相のことを“Loopy”とからかったワシントンポスト紙のコラム(4月14日付)が話題になったので、わざわざ同紙にアカウント登録して読んでみたのですが、社説でもなんでもない、Al Kamen氏の個人的コラムでした。しかも、核サミットを振り返って、各国首脳の中で誰が勝ったか(Who’s first)を論じるところからして低俗ゴシップ的で、タイトルは“Among leaders at summit, Hu's first”と、Hu Jintao(胡錦濤国家主席)が一番であることをもじったところ(昔のコントに引っ掛けて)はまだしも、ちょっと原文を読み進めれば、「一国の首相に対して非礼だ」などと駐米大使や官房長官が目くじらをたてるようなレベルのものではないことは明らかでした。
 それにしても“increasingly loopy”という形容は、複数のオバマ政権高官の意見として紹介されていますが、その言葉の意味自体は明確ではありません。それに続く文章で、普天間基地移設問題では全くアテにならない(unreliability)とオバマ政権高官を落胆させていると述べていることから類推すると、その小馬鹿にしたような間抜けな語感とともに、いったん決められたことを蒸し返してなかなか前に進めない(ループ=輪に入って抜け出せない)、そしてそれは普天間基地移設問題に限らず日米同盟そのものについてもそうかも知れないから尚のこと、混迷感やら苛立ちが見て取れます。同コラム締め括りに、核サミットで鳩山首相を相手にしたのは胡錦濤国家主席だけだったと皮肉るわけですが、原文では、鳩山に「愛」を分け与えたのは胡錦濤国家主席だけだった(Meanwhile, who did give Hatoyama some love at the nuclear summit? Hu did.)と、「友愛」を知っていればこそニヤッとさせるところなど、このコラムのことを低俗ゴシップ的とは呼びましたが、低俗でも何でもない、事情通が喜びそうなネタをあちこちに潜ませた、手の込んだ裏コラムだと言えそうです。
 日本人の悪い癖で、Loopy=愚かな(foolish)、気が狂った(crazy)と辞書に記載されている通りに当てはめたがるばかりに、騒動を大きくしたところがあります。しかも、よりによって真意はそのどちらかと、本人にメールで問い合わせた大学教授がいたと言いますから、ちょっと驚かされます。そのことを引用しつつ、“Loopy”の意味を解説する悪乗りコラム第二弾がワシントンポスト紙に掲載されました(4月28日付)。今度のタイトルは、“'Loopy' takes Japan by storm“と、”Loopy“という言葉が日本でちょっとした反響を呼んだことが、こうした裏コラムニストにとってはまたとない反応で嬉しくて小躍りしている様子が看て取れます。
 先ずは、首相側近から「非礼」呼ばわりされて終わるのが普通なのに、そうはならず、首相自らが「確かに、ワシントンポストのいわれるように、私は愚かな総理かもしれません。」と認めて、同僚の国会議員を“卒倒させた(stunned)”と皮肉ります(首相の意図はご存知の通り別のところにありましたが、それは措いて置きます)。そしてインターネット世論調査で、首相が酷評されたことに対して、なんと85%がその通りだと答えたこと、“Loopy”TシャツまでAmazonで売りに出されていることを意気揚々と引用しつつ、コラム後半で、件の教授へ返信する形で、“Loopy”の真意を解説する、その仕方がまた振るっています。Foolishもcrazyも、ともに意味を捉えていないと断りつつ、半径10m以内にいる同僚と協議した結果、どこか奇妙に現実離れしていることを意味するということでコンセンサスに至った、などと、もって回った言い方をして、言わずもがなの妙を敢えて白黒問い質そうとする愚を皮肉ります。
 これに対する大学教授のコメントがスポーツ報知に掲載されていて、再度、驚かされました。時事英語・俗語の真面目な研究者である同教授は、「この新しい解釈を辞書に取り入れ、原稿を書き下ろしてみたい。」と話した上、「コラムニストは言葉に敏感な方だと思います。言葉とは常に揺れ動くものであり、改めて難しいものだと思いました。」と殊勝に答え、このスポーツ報知の記事は、教授がコラムニストに対し好意的だと締め括っていますが、俄かに信じがたい。一部で囁かれている思いつきが真面目な研究の対象として辞書に載りかねないことを知ったら、あのコラムニストは卒倒して喜びそうですね。首相もさることながら、ジョークが通じにくい日本こそ“Loopy”と言えるかも。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする