風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

石破政権の前途多難な船出

2024-10-05 10:44:17 | 時事放談

 石破茂氏が自民党総裁選を勝ち抜くや、俄かに円高・株安に見舞われ「石破ショック」と呼ばれた。アベノミクスに否定的で財政規律を重視する立場のせいだが、実はMMT論者の高市氏勝利を織り込んで円安・株高に触れていた市場が高市ラリー前に戻っただけで、必ずしも石破さんのせいとは言い切れない。しかし、利上げに肯定的と見られていた石破氏が突如、日銀の追加利上げに否定的な発言をして、再び市場にショックを与えた。かつては、安倍さんなどの後ろから撃つことも厭わない党内野党として、防衛・安保のような得意領域で、あるいは興味のおもむくままに言いたいことが言えたのとは勝手が違い、首相はprimeな閣僚であって、様々な方面に影響が及ぶ発言の重さを踏まえ、不得手なことを含めて全てに責任を負わなければならない立場であることを痛感されているのではないだろうか。

 また、国民に判断材料を与えるのは新・首相の責任だとして、国会(予算委員会)論戦に前向きだったのに、1日夜の記者会見では、9日解散、27日投開票を表明し、主張がブレたことを批判された。党内基盤が弱いだけに、党内調整、組織人事に腐心し、前途多難である。私は石破さんのことが嫌いなわけではなく、むしろ不器用なほどに群れない孤高の一言居士を好ましく思う一方、およそ(数を頼む)政治家らしくないところに危うさを感じ、状況がなさしめたとしか言いようがないこのような事態に置かれた石破さんを歓迎するどころか、気の毒に思う。

 実際に、ご祝儀相場で、新内閣発足直後は高い支持率が期待出来るとは言っても、共同通信社が1、2両日に実施した全国緊急電話世論調査によれば、内閣支持率は50.7%(日経51%)、不支持率は28.9%(同37%)だったようだ。調査手法が異なるため単純比較はできないが、岸田内閣55.7%(同59%)、菅内閣66.4%(同74%)、2012年12月の第2次安倍内閣62.0%(同62%)と比べて高くないのは、自民党ひいては政治への不信が広がって冷ややかに見られているからであって、石破さんのせいばかりとは言えない。それは、石破内閣を支持する理由が「ほかに適当な人がいない」が35.4%(日経では「人柄が信頼出来る」が49%)で最多だったことからも分かる。

 欧米メディアの中には、自民党「独裁」が続く日本は果たして民主的かと疑問視する声があがっているようだが(もしかしたら欧米メディアのリベラル日本人エディターあたりの声かもしれない 笑)、それは自民党という政党の特殊性にある。右の翼から左の翼まで射程が広く、安倍さんのように政治信条は保守でも野党が推進しようとした子育て支援策を横取りするような融通無碍なところがあり、付け入るスキを与えない。ひいてはこれは、アメリカのように考え方が分かれて公開討論で決する国民性とは対照的に、さしたる分断がなく(それを単一民族だからと言ってよいのかどうかは別にして)舞台裏の調整で決するのを好む国民性を反映しているように思う。

 反・自民のリベラル進歩派からは、これでようやく安倍政治を払拭出来たと喜ぶ声が聞こえるが、負け犬の遠吠えのように空しく響く。それを野党が成し遂げられなかったこと、また、安倍さんの後継と目される高市さんは僅差で敗れただけで、状況が違えば総理・総裁への道が開かれていたであろうことに留意すべきだろう。「政治とカネ」の問題は軽視すべきではないが、それを争点化するばかりに本来なすべき政策論議が疎かになるとすれば、その方が問題で、信頼を失った自民党の足を引っ張るばかりで政権担当能力を示し得ない野党に支持が集まらない不幸が続く。アメリカでは議論になることが、日本では左翼的な糾弾になってしまい、噛み合わない。これは野党だけでなく自民党の受け答えにも問題があって、節度ある「議論」が望まれるところだ。

 中国では、石破・新総裁誕生よりも、上野のパンダ帰還の方がメディアでの扱いが大きかったようだ。中国事情通によれば、中国は石破政権を歓迎しないのではなく単に様子見をしていただけということだが、軽くあしらうことに込められたメッセージを読み取るべきだろう。安倍さんとの初の会見で仏頂面を隠さなかった習近平氏を今でもありありと思い出す。中国は、過去200年の屈辱的な歴史のトラウマを抱えながら、大国の威信にかける思いがことのほか強く、俗な言い方をするとチヤホヤされることが大好きでメンツを重んじる、厄介な国である。

 今月末の衆議院選挙に続き、来年7月には参議院選挙が予定される。それまでは不安定ながらも、選挙の顔として選んだ石破氏を多少なりとも支える展開が予想されるが、何と言っても政権基盤が絶望的に脆弱なだけに、短命に終わりかねない。国際情勢は混沌とし、日本が置かれた立場は微妙で、今こそ強力なリーダーシップが必要なときに、コップの中(与野党間だけでなく、自民党内も)の争いに構っている内に埋没しかねないことを危惧しないわけには行かない。このような危機意識と世界の中の日本という視野をもって臨む閣僚、ひいては政治家のセンセイ方はいらっしゃるのだろうか・・・だからこそ、石破さんには是非頑張ってもらいたいと思う。

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自民党総裁選

2024-09-28 13:15:05 | 時事放談

 昨日の自民党総裁選で、石破茂さんが、五度目の正直で新・総裁に選出された。統一教会との癒着や裏金問題などで、自民党への信頼が大きく揺らぐ中、解散・総選挙を視野に、自民党再生を期する今回のような総裁選で勝利されたのは、石破さんのようなお立場の方にはとても象徴的だったように思う。かつて「自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉純一郎さんに通じるものがあるからだ。もっとも、党内では人気がないと噂される石破さんに支持が集まったことには選挙目当ての自民党議員のあざとさを感じないではないが、そんな政治力学とは言え、私のような庶民には言わば自浄作用が働いたようにも見え、こうしたバランス感覚もまた自民党の強さの表れのように思う。総裁選は党員・党友の間での話だが、石破さんの政治家としての信念は、国民一般の中にも信じる人が多いわけで、期待したいと思う。

 それにしても、異例の選挙選だった。表向き派閥解消されていたとはいえ信じる人はいないのに、その重しが外れて九人も立候補に名乗りをあげる乱戦となり、派閥解消を象徴するものとなった。今回は無理でも次かその次に繋がるようにという、将来の総裁候補に名乗りをあげる意味合いがあったのだろう。案の定、時の経過とともに、本命・石破さん、対抗・小泉進次郎さん、大穴・高市早苗さんという三つ巴に絞られ、候補者が九人も出れば議員票が割れるので過半数獲得は難しく、党員・党友の支持を集める石破さんが一回目の投票ではトップ通過するにしても、二位通過の候補が決選投票で勝つと見られていた。ところが蓋を開けたら、終盤での追い上げを報道されていた高市氏が小泉氏を抑えて二位通過するどころか、議員票でも党員票でもトップという異例の展開である。これで決選投票では高市さんが圧勝すると思っていたら、どんでん返しがあった。裏金議員からの推薦が多く、問題に甘いと見られていることと、立民の代表が、共産党から距離を置く野田佳彦さんに決まったことで、右に寄り過ぎる高市さんでは解散・総選挙で中道票を取りこぼすことが懸念されたのだろう。また、岸田首相は周辺に「高市さんだけは応援できない」と話していたとされ、一回目の投票で他候補に流れていた議員票をより多く拾ったのは石破さんで、僅差ながらも逆転勝利した。決選投票前に各5分、計10分の演説の時間が設けられ、石破さんはここで自身について「私は至らぬ者だ」とし「議員生活38年になる。多くの足らざるところがあり、多くの人々の気持ちを傷つけ、いろいろ嫌な思いをした人が多かったかと思う。自らの至らぬ点を心からおわび申し上げる」と率直に頭を下げる場面があり、党内の不人気を多少は払拭する効果があったかもしれない。

 奇しくも二年前のこの日は安倍晋三元首相の国葬が執り行われた日で、高市さんにとっては、岸田首相誕生に繋がった総裁選で高市さんを推薦してくれた安倍さんに向けた弔合戦のようなところがあった。日本初の女性首相に、ゴール直前、鼻の差で届かなかったが、勉強家で、岸田さんと違って自らの声で主張できる高市さんにも期待している。

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中東の混沌

2024-09-27 02:44:42 | 時事放談

 イスラエルとハマス、さらにはレバノンのヒズボラとの争いが激化してきた。イエメンのフーシ派も身構えるし、これらの胴元としてイランが控える。イスラエルにとっては3000年来の生存を賭けた戦いであり、理解できなくもないが、ウクライナ戦争とはまた一味違う相の19世紀的(あるいはそれ以前の)戦争はちょっとやり過ぎで、現実の戦争とは種々の事情によりそういうものかもしれないが、戦線拡大が憂慮される。

 ところで、日本で暗躍するロシア人スパイは、今でも決してスイカやパスモは使わないそうだ。香港民主化運動の学生たちも面倒でも切符を買って移動した。交通系電子マネーでは足がつくからだ。中国で電子マネーが普及するのは、紙幣が汚くて偽造が簡単だからという実用的な理由ばかりでなく、電子化すると監視可能だという国家の意志が働いている(と思う)。そしてハマスも、イスラエルの諜報を掻い潜るためにアナログな手法に頼り、イスラエルをまんまと出し抜いた。スマホは使わずに、時代遅れのポケベルやトランシーバーを使った。

 イスラエルはその上を行った(と、断定は出来ないが)。17日のポケベル一斉爆発では12人が死亡、約2300人が負傷し、翌日のトランシーバー爆発では25人が死亡、600人以上が負傷したと報道された。ポケベルは、台湾メーカーとブランド使用契約を結んだハンガリー企業が製造する過程で高性能爆薬が仕込まれたとされる。トランシーバーは、日本メーカー製と見られるが、正規品とは確認されていない。劇画のような安易なストーリーだが、実際に実現するのは容易ではない。イスラエルの諜報力があってのことだろう。

 このような仕掛けは、油断した兵士(booby:まぬけ)が触れると爆発し殺傷するので、booby trapと呼ばれ、自陣営に侵攻する敵勢力に対し、撤退するに当たって、食料品や兵器など兵士にとっての必需品や貴重品など戦利品になりそうなものの残留物に仕掛けるのが通常らしい。だが、国際法(特定通常兵器使用禁止制限条約)違反で明確なテロ行為になる(山崎文明氏による)。但し、イスラエルも、中国やロシアや北朝鮮も、そしてアメリカも批准していない。毎度、安全保障上のフリーハンドを手放したがらない、協調性のない我が儘な国々だ。

 中東で、イスラエルを巡る角逐はヨーロッパが埋め込んだようなところがあるが、伝統的なイスラム教の宗派を巡る争いもあり、アラブとペルシャという人種を巡る争いもあり、さらにアラブの春が挫折したように、部族社会で国民国家としてなかなか纏まることも出来ず、地域情勢は不安定である。歴史的に西と東と北と南の文明が交差する十字路と呼ばれ、繁栄と混乱を繰り返してきた。

 ヨーロッパはいい。同じ宗教を信じ、陸の国境線を接して人が行き来し、王室や貴族は入り混じった。山や川や半島で分断され、巨大な権力が台頭するのが阻まれてきた(それだけにローマのような帝国を志向するカール大帝やナポレオンのような情念も生んだ)が、歴史的経験を共有し、ほぼ自由・民主主義的で資本主義を奉じる同質的な基盤がある。互いに憎しみ合うことがあっても、それは宗教的・人種的な近親憎悪のようなところがあって、米ソという超大国の冷戦構造下で埋没しないで外部の脅威に対して結束することが出来た。国際連合は、ウェストファリア体制を起源とするヨーロッパの秩序観に立つ世界組織であって、そこでは間違いなく数は力なのである。

 海洋アジアは、その中間的な存在で、EUと対比されるASEANにその性格がよく表れている。EUは、イギリスがいっ時の気の迷いで離脱するほどの超国家的組織であり、加盟国は主権の一部を放棄(譲渡)しているが、ASEANはあくまでも国際組織であって、それぞれの国家は独立し、協力することはあっても互いに干渉することはない。人の流れはあるが、宗教的にも人種的にも分断され、植民地支配を受けた歴史も異なっている。

 石破さんのアジア版NATO構想は、自民党の中で総スカンを喰らっているらしいが、気持ちはよく分かる。しかし残念ながら14億人を擁する中国が巨大過ぎて、束になっても太刀打ちできず、それをよく知る中国は個別交渉・逐次撃破を好み、この地を言わば分断して統治している。

 人の経験はせいぜい50年で、その時々の特殊事情の影響を受ける。私たちは、冷戦という核の恐怖に晒されただけに、その終焉に伴う解放感は一種のユーフォリアを産み、グローバリゼーションが当たり前だという幻想を信じてしまった。地理的・歴史的に育まれた国家行動はそれほど変わることはないということか。

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中国の心掛けの悪さ

2024-09-23 07:18:31 | 時事放談

 大谷選手の快挙に浮かれているが、忘れてはならないことがある。深圳にある日本人学校近くで、同校に通う男の子(10歳)が男(44歳)に腹部を刺された事件だ。男の子は病院で手術を受けていたが、19日未明に亡くなった。お母さん(中国人)も一緒だったのに、子供を狙うとは卑劣であり、痛ましい。

 事件があった9月18日は満州事変の戦端が開かれた柳条湖事件が起こった日で、反日感情が高まりやすいが、今回の事件との関連は不明のようだ。当局は容疑者の男の身柄を確保し、取り調べを行っているが、動機など詳細な情報は日本側に伝えていない。中国外務省は「これは個別事案で、このような案件はいかなる国でも発生する。中国はこのような不幸な事件が起きたことについて遺憾と心の痛みを表明する」と述べた。遺憾と言いながら「いかなる国でも発生する」とは余計だ。詮索され、あるいは関連づけられるのを鬱陶しがっている様子がよく分かる。つまりは、前科者の偶発的な事件としてお茶を濁そうという魂胆だ。中国共産党の統治に不都合な情報の開示など期待できない。

 この事件について、一部の中国メディアは報じたが、国営や大手メディアはだんまりを決め込んでいる。その記事の最後には「理性的な愛国心とは、歴史と現実の尊重に基づき、客観的かつ冷静な態度で自国を愛し、支持する表現だ。日中関係における個別の事件については、冷静さを保ち、合法的なルートを通じて懸念を表明し、政府の外交努力を支援し、文化交流と市民友好を促進し、両国関係の平和的発展に貢献するべきだ」との一文が添えられているらしい。これ以上の混乱を望まない当局の意志を感じるばかりで、この程度の扱いかと思うとなんだかやり切れない。

 6月にも蘇州で、日本人学校のスクールバスを待っていた日本人の母子が刃物で切り付けられ、かばった中国人女性が亡くなるという痛ましい事件が起きた。ここでも中国外務省は「偶発的な事件」との見解を示しながら、動機や背景など詳細は警察が捜査中として、主管部門に問い合わせるよう促すだけだった。最近の中国の景気低迷は治安の悪化に繋がっているようで、無差別に刃物で切り付ける事件が相次ぐという。それにしても、こうも情報開示が不透明では、現地で生活する駐在員家族はさぞ不安だろう。

 そもそも中国という国は心掛けがよろしくない。中国共産党は抗日戦争(これは単なる二国間の戦争であるばかりではなく、民族革命戦争として中国革命の過程に位置づけられる)を勝利に導いたことに存在意義を置くが、二重の誤りがある。先ず、日本と前線で戦ったのは国民党であって共産党ではない(共産党は背後に隠れて戦力を温存し、後の国共内戦に勝利することになる)。次に、それでもついぞ中国は大日本帝国に勝てず、日本がアメリカに破れて自滅しただけだった。然るに、抗日戦争勝利のプロパガンダにより、憲法上も、歴史教育(=ヘイト教育)上も、抗日抜きには語れず、日中関係を政治問題化している。そのような情報統制下で育った若者たちは、実際に日本を訪れて生の日本人や日本の社会に触れて修正しない限り、「小日本」「日本鬼子」のような差別用語を引き摺り、「愛国無罪」を受け入れ続けることになる。日本人学校を「スパイ養成機関」「現代の租界」などと非難する声も放置されているそうだ。

 こうして、靖国神社のように日本人が神聖だと思う神社仏閣の石柱に「厠所」「軍国主義」などと落書きしSNSに投稿して恥じない中国人が出てくるし、この落書き事件を伝えたNHKのラジオ国際放送で原稿にない「尖閣諸島は中国の領土である」などと不適切な発言をする中国籍スタッフが出てきたりもする。

 昨今の日中関係で懸案とされて、喉に小骨(とは言い切れないほどの骨もある)が刺さったようにぎくしゃくするのは、福島原発の処理水を汚染水と呼んだり、日本の水産物を輸入禁止にしたり、理由を明かすことなく駐在員を拘束したり、査証(ビザ)免除措置を停止したままだったり、尖閣海域に侵入を繰り返したり、挙句は領空侵犯したりと、全て中国共産党側が仕掛けているものだ。これも一種のサラミスライス戦術であって、先に一歩踏み出しておきながら、一歩退くことで和解か譲歩を演出して有り難がられる仕儀にもなりかねない。

 それもこれも、関係性の中で、日本が自重してきたからだろう。靖国参拝問題や従軍慰安婦問題を焚き付けたのは日本のリベラルを自称する左派メディアで、今、それ自体を批判するつもりはないが、そこで図に乗る中国や韓国への対応は弱腰だった。ここまで言ってもやっても日本は遺憾と称するだけで実害はないと、足下を見られているに違いない。かつて米中和解に漕ぎつけて中国を懐柔したニクソン元大統領は後に、フランケンシュタインをつくってしまったのではないかと自省した。日本も、是々非々の対応をせずに不幸な関係を構造化し、中国をのさばらせてしまったことを反省すべきかもしれない。煮ても焼いても食えない相手と付き合うには、故・安倍元総理のような忍耐と多少の人の悪さが必要だろう。日本人には(とりわけ良い顔をしたがるリベラル・メディアには)耐えられないかもしれないが。

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トレードマークはweird

2024-09-12 01:10:30 | 時事放談

 米大統領選の討論会があったが、上智大の前嶋和弘教授は、二人の話は「終始全くかみ合わず」、今回の討論会は「大統領選の行方を変えることはなく」、今後の展望については「大接戦になるだろう」と総括された。

 昼のNHKニュースは、ハリス氏から歩み寄って握手し、トランプ氏は討論会中、ハリス氏の顔を見ることがなかったと伝えた。CNNは「トランプ氏のチームと共和党員が司会者を非難し始めている」と伝えた。「司会者はトランプ氏の発言について事実確認をしている一方でハリス氏についてはしておらず、ハリス氏にはより柔らかい質問をしていると主張している」のだそうで、これは「トランプ氏の支持者らが、トランプ氏がこの討論会で『勝利』したと考えていないことの表れ」だと指摘した。確かにいつもの根拠のないハチャメチャな自信満々さが感じられない。

 先週には、トランプ氏とバンス副大統領候補は、民主党候補側から「weird(変な人)」呼ばわりされて、予想以上に感情的に苛立っているとの観測記事もあった。

 そもそも相手にレッテルを貼って喜んでいたのはトランプの方だった。

  • Crooked Hillary(邪悪なヒラリー)
  • Low energy Jeb(低エネルギー・ジェブ)
  • Lying Ted(嘘つきテッド)
  • Sleepy Joe(寝ぼけジョー)
  • Crazy Kamala(クレイジー・カマラ)
  • Laughing Kamala(爆笑カマラ)

 まるで小学生である(微笑)。不動産ビジネスあがりで、価値よりディールを好み、「アプレンティス」なるリアリティ番組で、型破りで独善的で過激で詰めが甘く論理に飛躍があり予測不可能な言動で名を売って、大阪弁で言うところの「いきり」そのものである。「いきってる」というのは「粋がる」「調子にのる」「格好つける」というほどの意味で、ヤンキーのお兄ちゃんが使う以外には主にそのような小学生に与えられる称号で、だいたい周囲から浮いている(微笑)。

 これまで言論空間ではトランプ氏に関してもっともらしく複雑な人格分析が競われて来た。複雑な形容詞なら、本人は褒め言葉と受け止めるかもしれない(そこが「いきり」の本領)が、それに比べて、「weird」は素朴な庶民感覚そのままに、小難しい論理や子供じみた感情は抜きに、何の誤解もなくストレートで、それだけに威力があるのかも知れない。まあ、本人は攻撃好きだが逆に攻撃されることに慣れていないだけかも知れない。

 国取り合戦で言えば、ブルー・ステイト(民主党優位)とレッド・ステイト(共和党優位)を除くスウィング・ステイト(接戦)7州が帰趨を握ると言われる。同様に政策論争で言えば、それぞれの岩盤支持層の間にある無党派層の取込みが焦点だと言われる。ハリス氏個人は、移民政策では急進左派サンダース氏より左寄りの寛容な姿勢を示し、気候変動対策案「グリーン・ディール」の起案者の一人だったが、バイデン政権が推進して来たような、より穏健な政策を主張するのだろう。民主党内では、必ずしもハリス氏を支持していなかったが、トランプ氏に大統領の座を渡すくらいなら、一致団結した方がよい、というような流れが出来たが、この感覚を無党派層にまで広げられるかどうかが鍵になるのだろう。

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経済安全保障の罠

2024-09-07 09:26:00 | 時事放談

 日本製鉄によるUSスチール買収が難航しており、ワシントン・ポストなどはバイデン大統領が中止命令を出す方向で最終調整に入ったと伝えたらしい。悪手だ。

 かつて「鉄は国家なり」と言われたもので、これは日本製鉄の前身・官営八幡製鉄所の火入れ式(1901年)で伊藤博文が述べたものとされる。鉄は、18世紀後半の産業革命以来、船や大砲を造り、海洋国家イギリスの繁栄を支えた。19世紀後半には鉄道を造り、帝国主義全盛の時代の国力の源泉として、大陸国家ドイツの躍進を支えた。昨今、中国による一帯一路がそうだとまでは言わないが、鉄道網は軍の迅速な動員を容易ならしめ、イギリス人で地政学の祖とされるハルフォード・マッキンダーをして、ドイツの台頭を警戒させ、その抑止を唱えさせたほどだった。伊藤博文の50年前に、鉄血宰相の異名を持つビスマルクが議会演説で「国家は血なり、鉄なり」と発言した故事を、伊藤博文も知っていたのだろう。

 そんな鉄だから、アメリカでもUSスチールは名門企業の一つに数えられ、20世紀のアメリカの台頭を支えた。それだけに、昨年末、日本製鉄がUSスチール買収を発表したときには、否応なく時代の流れを感じないわけには行かなかったし、むしろ中国の台頭のもとで遅きに失したと言うべきかもしれない。最近と言わず日経新聞を飾るバズワードは(些か加熱気味ではあるが)AIや半導体であり、国力の源泉も、次の産業革命を牽引するのも、鉄ではなくてデータである。

 アメリカにはそんな郷愁もあり、日鉄によるUSスチール買収は一筋縄では行かないのではないかと、むしろこれが成功すれば快挙だと思っていた。経済合理性からは買収を是とするが、非とする理由は経済安全保障だと言う。これまで大統領令によって取引差止めの判断が下されたのは、実質的に全て中国がらみだったのに、よりによって今回は同盟国・日本が相手である。

 巷間、言われる通り、民主・共和の支持率が拮抗する大統領選を前に政治問題化されてしまったのだろう。労働組合が反対の声を上げると、ポピュリストのトランプ大統領候補も反対の声を上げて、労働者に寄り添う姿勢を見せた。USスチール本社があるのはスウィング・ステート7州の内の一つ、ラストベルトのペンシルベニアである。労組を基盤にする民主党のバイデン大統領も反対しないわけには行かない。

 昨日の日経によれば、選挙期間中より後に交渉した方が有利になるから、中止命令が出る前にCFIUS(対米外国投資委員会)の審査を取り下げる選択肢があるのではないかという識者の声を伝えた。他方で、申請を取り下げた場合、買収の破談に伴う違約金(5億6500万ドル)を日鉄が支払わなければならないという(敵対的ではない交渉事だから何とかなるだろうと思うが)。ジレンマである。が、同盟国相手の経済安全保障問題の先例は将来に禍根を残す。これでは安全保障概念が曖昧だと批判される中国に寄ってしまって、中国から、ほら見たことかと嗤われてしまうではないか。

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ヒロシマとナガサキ

2024-08-11 08:30:04 | 時事放談

 広島と長崎を漢字ではなく、ヒロシマ、ナガサキとカタカナで書くと、単なる地名であることを超えて、世界で唯一の原爆被爆地という特別の装いを帯びる。この季節は、特別な思いにとらわれる。

 今年は更に特別な事情が加わった。長崎市が、平和祈念式典で不測のセキュリティ・リスクを考慮し、イスラエルを招待しないと発表したことに、G7の6ヶ国の駐日大使が反発してご本人の出席を見合わせたからだ。

 私の知人は三国干渉の頃と変わらないじゃないかとムッとし、私も当初は踏み込んだ嫌がらせだと憤慨したものだが、調べてみると、長崎市は、駐日パレスチナ常駐総代表部には式典実施への支障はないと判断して招待状を送り、一等参事官が出席しているのを知って、翻意した。長崎市長は自民党の推薦を受けていたはずだが、今回の対応は不適切だったのではないか。

 広島市と長崎市のどちらもウクライナを招待しロシアとベラルーシを招待しなかったのは同じだが、イスラエルとパレスチナを巡っては正反対の対応となった。広島市はイスラエルを招待してパレスチナを招待しなかったのに対し、長崎市はパレスチナを招待してイスラエルを招待しなかったのである。そりゃ、G7の6ヶ国じゃなくても、疑問に思うだろう。この辺りが明確に報道されなかったのも問題だと思う。多くの報道で見られたように、イスラエルをロシアと同じ位置付けにしたというレトリックの方が受け入れられやすかったかもしれないが、要するにエマニュエル大使らは、長崎市がパレスチナを招待する一方、イスラエルを招待しないと決めたことにより、式典が政治化されたとして、参加を見合わせたのだった。

 報道では往々にして少数意見が大きく扱われて見間違うことがあるが、私を含め多くの日本人は広島市の対応を支持するだろう。それはイスラエルが今回(昨年10月)に限っては先制攻撃を受け、一般市民が殺害された上に、人質を取られたからだ。勿論、イスラエルの反撃は、自衛権正当化の三要件の一つ、必要な限度にとどめること(相当性、均衡性)を逸脱しているが(因みに残りの二つの要件は、急迫不正の侵害があること(急迫性、違法性)と、他にこれを排除して国を防衛する手段がないこと(必要性))、戦争という異常心理状態で節度を保つのは容易ではない。また、ガザで無辜の市民に被害がでているのは事実だが、ハマスの戦闘員が非戦闘員たる市民を盾にし、あるいは市民の中に紛れ込んでいるため、イスラエルは市民を逃すために一定の時間的猶予を与える配慮をした上で攻撃しており、ロシアの無差別攻撃とは比べられない。更にこれまでの近隣への拡張主義的なイスラエルの姿勢は問題とされるべきだが、今回の人道的問題とはとりあえず切り離すべきだろう。昨年まではイスラエルも式典に招待されていたのだから。

 核兵器廃絶の願いは全ての日本人に共通するが、他方で、中国・ロシア・北朝鮮という核保有国に囲まれ、アメリカの核の傘に守られた日本が、NATO諸国やカナダ、オーストラリア、韓国とともに核兵器禁止条約に参加しないでいるのは、報道ではダブル・スタンダードと非難されようが、日本人が保つ現実感覚だろう。今回の事案でも報道が偏っている先には、今なおヒロシマとナガサキへのアンビバレントな心情があるせいだろう。それは日本人が先の戦争を今なお総括できないでいることと関係している。

 ヒロシマにまつわる有名なエピソードがそこを突いている。かつて、小野田寛郎・元少尉は戦争終結を知らず、戦後29年間にもわたってフィリピンのルバング島で戦闘状態を解除せず、1974年になってようやく帰国を果たした。後に戦友とともに広島の平和記念公園を訪れ、慰霊碑に刻まれた言葉「安らかに眠ってください 過ちは繰り返しませぬから」を見て、「これはアメリカが書いたものか?」と尋ねた。戦友は「いや、日本だ」。続いて小野田氏が「ウラの意味があるのか? 負けるような戦争は二度としないというような・・・」と尋ねると、戦友は黙って首を横に振った。戦前の軍人魂と片付けるのは、た易い。戦後29年経った日本に舞い戻った浦島太郎の小野田氏は、「人間の誇りまで忘れて経済大国に復興した日本に無条件降伏させられているのだ」(氏の著書から)と感じ、程なくして日本を離れ、新天地ブラジルに渡った。小野田氏の問いかけに、私たちは今なお黙って首を横に振るばかりで、それ以上の言葉を見出せないでいる。

 当事者のアメリカは、戦争を終わらせるためとして原爆投下を正当化し、心の平穏を保とうとしてきた。故・安倍さんはオバマ氏との間で、ヒロシマと真珠湾への首脳の相互訪問を実現したが、安倍さんはバーターではないと明言されている。真珠湾攻撃は、宣戦布告の手交が遅れて、アメリカからは騙し討ちだと非難されるが、戦後の少なくない戦闘行為に宣戦布告があったかどうか寡聞にして知らないし、当時、日米間には友好的な空気はもはやなく、交渉は決裂していたし、学術的には、行き過ぎた制裁は武力行使を止められない、所謂「抑止」の失敗事例と捉えられるし、軍事施設を狙った、それ自体は合法的な攻撃であって、ヒロシマやナガサキへの原爆投下や日本中の主要都市への絨毯爆撃のような戦争犯罪とは区別されるべきものだからだ。

 暑い夏のさなか、8月6、9、15日と、毎年、脳裡をかすめるトラウマである。一部の(しかし声が大きい)リベラルなメディア報道と、近隣国による密かな世論戦(とまで言うと陰謀論に扱われかねないが 笑)と、内外から撹乱されて複雑な状況の中で、核兵器禁止条約への対応と同様、私たち日本人自身の良識が問われる問題である。

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米大統領選の行方

2024-07-23 23:56:20 | 時事放談

 選挙イヤーの今年は選挙が荒れる…とは言っても致命的な大波ではなく、小波程度の混乱ではあるのだが。

 アメリカ大統領選ネタが続く。バイデン氏が、現職大統領として56年振りに再選出馬を断念したことには、予想されたとは言え驚いた。断念させられたと言う方が正しいし、先月27日のTV討論会以降は周囲に不満と言う名の断念圧力が燻り、今月13日のトランプ前大統領暗殺未遂事件以降はそれが爆発すると言うよりも、さ〜っとまるで潮が引いたように人気がなくなり、バイデン大統領が一人取り残されたような寂寥感は、自業自得とは言え気の毒なほどだった。シューマー院内総務やペロシ前下院議長に続き盟友オバマ元大統領まで離れてしまった。さぞやご本人は無念だっただろう。所詮、政治家は次の選挙に(バイデン氏が"顔"では)勝てないことを最も恐れるのだ(厳密には神学者ジェームズ・フリーマン・クラークは政治屋と政治家を区別して曰く、政治屋は次の選挙のことを考え、政治家は次の世代のことを考える)。手のひらを返したように、なぜここまで決断が遅れたのか、などと後出しジャンケンよろしく論評され、やれバイデン氏は頑固だの、やれ側近はイエスマンだらけだの、何を今さら裸の王様だったかのような書き振りには違和感がある。バイデン氏に代わる候補者などいなかったはずだ(彼の肩を持つつもりはないが)。

 それが僅か一日で、民主党は図ったように一枚岩になって、後継候補がカマラ・ハリス副大統領に一本化されたことにも驚いた。副大統領職は「人類が発明した最も重要性に乏しい公職」(ジョン・アダムズの言葉)とされることなど忘れたかのように、やれ行政や外交の経験が乏しいだの、やれ(ハリス氏が担った)不法移民対策は難航し成果が乏しいだの、やれ側近が相次いで離れて組織をまとめあげる能力や人望が乏しいだの、やれインテリで冷淡な印象だのと貶めて、一顧だにしなかったではなかったか。それが、手のひらを返したように、やれ検事出身で弁舌に定評があるだの、やれ若者や女性や非白人の支持を獲得でき、トランプ氏と正反対の人として有効な候補者だの、やれダイナミズムがあり期待を持てるハリス氏が出て来たことで民主党が活性化するだの、提灯記事には些か片腹痛い。

 実はトランプ氏にとってバイデン氏のままの方が戦いやすかったとの苛立ちも見られるようだ。何しろ敵は自分より年上のバイデン氏81歳から、年下のハリス氏59歳へと若返り、自ら高齢批判に晒される立場に逆転するからだ。おまけに、前回ブログに書いたように年齢(や性別や人種)などの属性による対決を煽るのは、本来、ご法度であることを弁えつつ、次のTV討論会は、冴えない「高齢者」対決から、まるで「犯罪容疑者」対「検察官」であるかのような緊張感あふれる対決となり、ただの野次馬には見応えがありそうだ。

 選挙では(選挙だけに限らないが)一寸先は闇との思いを強くする。そしてメディアのご都合主義も甚だしい。

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大統領と年齢

2024-07-19 00:44:51 | 時事放談

 本来、年齢による衰えは(ある年齢を超えると)人それぞれなのだから、若くても意志と能力さえあれば抜擢されるべきという議論があるならば、年寄りだから若者に譲るべきという議論はナンセンスだ。アメリカ大統領選での問題は、先般のTV討論会で見せた、そしてまたこれまでにも垣間見させた老いによる現実的な「衰え(健康不安)」にある。

 それでもなお(しつこく)年齢に着目すると、バイデン氏は1942年11月20日生まれの81歳、トランプ氏は1946年1月14日生まれの78歳、このままでは二人とも史上最高齢の大統領候補者になる(バイデン氏が民主党大会で順調に指名されれば)。これでは四つ足して任期を全うする年齢まで数えると不安になる。

 Potus.comによれば、アメリカ大統領は平均すると55歳で就任して来たそうだ。かつて最高齢は、69歳で就任したロナルド・レーガンだったが、トランプ氏が70歳、バイデン氏が78歳と、次々に更新した。逆に若い方を見ると、テディ・ルーズベルトが史上最年少の42歳で就任し、次いでJFK43歳、ビル・クリントン氏46歳と続く。そのビル・クリントン氏(1946年8月19日生まれの77歳)が選出されたのは30年以上も前のことなのに、彼よりも年上の二人が今なお大統領の座を巡って争っているというのは、清少納言が今を生きていたら「いと浅まし」と嘆きそうな悲劇であり、喜劇だ。

 こうして、大統領に不測の事態が発生して副大統領が大統領に昇格する可能性はこれまでになく高いと言われ、副大統領が誰なのかが注目される仕儀となる。

 西山隆行氏(成蹊大学教授)によれば、米国の副大統領に関して、憲法制定者は必ずしも大きな関心を持っていなかったという。「アレグザンダー・ハミルトンは『フェデラリスト』の第68篇で副大統領についても言及しているが、その職の基本的な役割について説明していない。初代の副大統領となったジョン・アダムズは、その職を『人類が発明した最も重要性に乏しい公職』だと評したことは知られているかもしれない」(同氏)。そして驚くことに、副大統領に欠員が生じた場合の補充方法についての規定が定められたのは、ようやく1967年の合衆国憲法修正第25条においてだったということだ。

 その副大統領候補となりそうな民主党側のカマラ・ハリス氏はマネジメントに問題があると言われ、実際に今一つも二つも冴えないし、共和党側のトランプ氏が選んだジェームズ・デービッド・バンス氏(39歳)は若くて未知数、輪をかけたトランプ主義者で、結局、大統領候補のお二人に頑張って貰わなければならないと思う気持ちになる。

 しかし繰り返すが、年齢による衰えは人それぞれだから、年齢による決め付けは余計なお世話なのだろう。

 一方の、暗殺未遂事件で見せつけたトランプ氏の危機における超人的なタフさ(気力・胆力など)は、大統領時代に多少の訓練を受けていたであろうことが想像されるとは言え、彼自身のキャラと相俟って、演技がかって、やや無謀とすら思わせるが、特筆されるべきであり、世界最強の米軍・指揮官としての要件の一つを満たすと人々をして思わせるものがあった。しかし、そこに神が介在していたなどと、神がかりなことを言ったところで、トランプ支持者にしか受けないだろう。なお、1992年3月、右翼団体の構成員から銃撃を受けた金丸信氏(当時自民党副総裁、77歳)は、弾が逸れて無傷だったものの、その場で腰を抜かして自らの力では立ち上がれなかったそうだ。自分だったら、腰を抜かしてしょん●んをちびって立ち上がれなかっただろうと白状した人もいたが、ムベなるかな。

 他方、民主党ではバイデン降ろしが本格化しつつあるが、代わりが思い浮かぶわけではないのが悩ましい。まさに健康不安を払拭し、年齢を感じさせないタフさ加減を見せつけるべき正念場であろう(が、今更もう手遅れなのかもしれない、少なくともメディア報道によれば)。

 大統領選は相変わらず混沌としている。暗殺未遂事件は、アメリカ社会の分断を深めるばかりとなった。犯人が共和党員だったことで、辛うじて深刻な事態は避けることが出来たのかもしれない。

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トランプ氏 暗殺未遂(続)

2024-07-16 21:28:33 | 時事放談

 大統領または大統領候補が銃撃を受けたということで、懐かしいエピソードが紹介されていた。

 レーガン元大統領は、就任後まもない1981年3月の受難で、シークレットサービスや側近から有無を言わせず車の中に押し込まれたので、トランプ氏のような咄嗟の(しかし状況からすれば超人的な)パフォーマンスを見せることが出来なかったが、搬送先の病院で医者や看護師に向かって、「君たちはみんな共和党員だよね?そうならいいけど。」と問いかけた機転(ウィット)が高い評価を受けた、というものだ。ここまでは、かつてどこかで読んだことがあるが、続きがあって、その中の医師が、「今日一日は全員が共和党員です、大統領閣下。」と切り返したということだ。ちょっと出来過ぎのところもあるが、如何にもアメリカ人好みの小噺である。

 トランプ氏の場合は、恐らく伝説的となるであろう写真が拡散された(上記の通り)。星条旗を背景に(但し旗が裏向きなのが残念)、フランスの七月革命を描いたドラクロアの名画「民衆を導く自由の女神」を彷彿とさせる構図である。英紙ガーディアンは、トランプ氏の流した血は写真に宗教画のような効果を生んだと指摘し、そんなトランプ氏のことを、フランス紙フィガロは「闘技場に立つ剣闘士」と評し、ドイツ紙ウェルトは「劇場効果の天才」と評したそうだ。撮影者はAP通信ワシントン支局チーフ・フォトグラファーのエバン・ブッチ氏で、2020年5月にミネアポリスで起きた白人警官による黒人男性暴行事件を巡る抗議行動を撮影し、AP通信チームの一員として翌21年ピュリツァー賞速報写真部門を受賞している。CNNによれば、駆け出しの頃にイラクやアフガニスタン情勢を取材した経験があり、戦闘状態に身を置いたこともあったお陰で、混乱の中でも落ち着いていられたと語ったそうだ。「全てに焦点が合っていたこと、自分のすべき仕事をやり遂げたことに満足している。」(ブッチ氏)

 ブッチ氏もお見事だったが、トランプ氏もやはり役者である。出来過ぎとも思う。

 だからと言って、彼こそ大統領に相応しいかと言うと、それはまた別の話である。

 

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