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風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

日韓60年

2025-07-08 23:12:25 | 時事放談

 かつて、「中国の歴史教育はプロパガンダ」、「韓国の歴史教育はファンタジー」と揶揄された。どこぞのシンクタンクが調査・研究した結果だと、もっともらしく引用されていたのを読んだだけなので、ただの都市伝説かもしれない。出来過ぎていて、ファンタジーに付き合っている暇はなく、左右の振れが大きい韓国内の事情に一喜一憂するのもアホ臭いので(大阪弁のニュアンスなのでご容赦頂きたい)、ブログでは滅多に取り上げて来なかった。しかし、北朝鮮がウクライナ戦争に派兵し、見返りに軍事技術を入手している疑いが囁かれて(ロシアのやることなのでクリティカルな技術ではないと思うが)、朝鮮半島情勢がキナ臭くなりつつある昨今、故・安倍さんのように韓国を戦略的に放置し続けるわけには行かないかもしれない。横目で眺めてみる。

 アメリカで、第一期トランプ政権に懲りたはずなのに、同氏を大統領に再選させた民意は、日本人の私には理解し難いけれども尊重しなければならないように、韓国で、第一期トランプ政権で評判の悪かった革新政権に懲りることなく、第二期トランプ政権の今、再び革新政権を選んだ民意は、やはり日本人の私には理解し難いけれども尊重しなければならない。しかし、留保がつきそうだ。

 韓国大統領選挙の結果は、李在明氏の得票率49.42%、金文洙氏41.15%、李俊錫氏8.34%と僅差で、李在明氏に意外に票が集まらなかったのは、投票率があがって、これまで選挙に行かなかった人が投票所に足を運んで、革新系に投票しなかったという事実を指摘する声がある。また、木村幹教授は、「金文洙と李俊錫の得票率の合計が李在明を上回った形になり、『戒厳令宣布後』の大混乱にも拘わらず、韓国の保守・進歩両派の均衡状態は何も変わらない結果になった」、「『戒厳令の結果、保守が勢いを失ったから』ではなく、『戒厳令の結果、保守が分裂したから』、李在明が勝った、という形」、「『分裂した方が負け』という意味で、『平常運転』になった。ある意味で驚くほど『安定している』」、と冷静にコメントされている。また、「今回の李在明の得票率、昨年の国会議員選挙の小選挙区で『共に民主党』が取った得票率を『下回っている』んですよね。つまり戒厳令事態にもかかわらず、進歩派は票の割合を減らしている。結構『凄いこと』だと思うんですけど」ともコメントされている。

 韓国社会の分断状況は、アメリカに似て、左右それぞれに4割前後の岩盤支持層があって、その真ん中に2割の無党派層が是々非々で行ったり来たりする(それによって政権交代を招来する)不安定な構造だと思うが、感情で揺れ動くあの韓国人が戒厳令騒動の後もなお「安定している」状況は、俄かに信じがたい。さすがの韓国人も、保守も革新もどっちもどっちで、革新政党の底の浅さを見透かしつつあるのだろうか。

 いずれにしても、日本人の私としては、かつて日本のことを「敵性国家」、日韓関係を改善させた前政権の外交を「対日屈辱外交」と呼び、選挙戦中はまともな政策論争をすることなく「内乱勢力の撲滅」を言い続けるような李在明なる人物がどうにも信用ならない。いかにもとってつけたような作り笑いは、文在寅氏にも似て、革新系の政治家に共通するわけではないだろうに、やはり信用ならない。李在明氏をよく知る人は、彼のことを必ずしも反日主義者ではなく、実用主義者だと言う。この実用主義なる言葉が韓国でどのように受け止められているのか私は知らない。よく聞かれるのは、過去のことに拘っていても解決のしようがないので、脇に置いて、未来志向で協力していく(つまり日本を利用する)、ご都合主義のツー・トラック政策のことのようだが、本来、明確な政治理念を持ち高い理想を掲げつつ現実に対処して行かなければならない現実主義が基本の政治家にあって、実用主義などと、なんとも軽い形容は、日本人の私としては、やはり信用ならない。そもそも反日教育を改めない以上、右・左ともに今後も反日を政治利用するであろう韓国自体、信用ならない。

 それでも、日韓基本条約が締結されて60年の節目の年である。

 韓国は、歴史的に見れば、中国やロシア(や日本を含めてもよい)などの大国に隣接し、地政学的に見れば、大陸の端で逃れようのない半島国家なので、(戦前の日本が迷惑したような)日和見なのも、また、散々苛められてきた中小国家の独特の僻み根性や歪なナショナリズムが高まるのも、理解できなくはない。とかく激しやすく感情に左右される国民性なので、安定的と言われると、俄かに信じがたいが、自慢げに実用主義などといった軽い言葉を使うことなく、価値観を同じくする国同士なのかどうか甚だ怪しいにしても、お互いに西側の、引越しできない隣人として、少なくとも未来志向で向き合って欲しいものだと思う。

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トランプ的世界(続)

2025-06-28 09:41:31 | 時事放談

 NATO首脳会議のためオランダ・ハーグを訪れていたトランプ大統領は、記者会見でBBCウクライナ語サービスのミロスラワ・ペツァ記者の質問を受けた際、記者や家族の状況について尋ねたそうだ(一昨日のBBCによる)。

 記者から、パトリオット・ミサイルをウクライナに売却する用意があるか尋ねられると、それに答える前に、記者が子供とともにワルシャワに避難し、夫は軍人としてウクライナに残っていることを確認した彼は、そりゃ大変だね(Wow, that's rough stuff, right?)と同情して優しく返答し、ミサイルはアメリカ自身も必要だし、イスラエルにも供給していて、入手するのは難しいが(非常に効果的で100%の命中率だと宣伝するのも忘れなかった)、検討する(We’re gonna see if we can make some available.)と静かに答え、最後に次のように結んだ。I wish you a lot of luck, I mean, I can see this is very upsetting to you and say hello to your husband, OK?

 これもトランプ氏なのだ。故・安倍総理とウマが合ったのは、こちらのトランプだったのではないだろうか。

 トランプ氏が登場し、アメリカ社会が分断されて収拾がつかなくなりつつある現象は、トランプ氏が「原因」ではなく、「結果」だと言われる。これは重要なポイントで、彼もそれは分かっていて、MAGA派のご機嫌取りに余念がないし、世論や株価・為替などの指標をやたら気にしている。だから私は時々、次のような妄想に取り憑かれる。トランプ氏は確かに好き勝手に踊っているが、実は同時に操り人形か道化師でもあって、確かに好き勝手なことを言い続けて、その通りにアメリカを動かしているアメリカ合衆国のリーダーなのは事実だが、別の「意図」も同時に働いていて、確かにトランプ氏のものに近いからトランプ氏自身も気が付かないが、実のところ同床異夢ではないか、と。異夢と言うより近い夢ではあるのだろう。というのは、トランプ氏のやり方は乱暴だが、やっていること自体は概ね間違っていないと思うからだ。方向性はほぼ間違っていないが、彼が主張することは必ずしもアメリカ合衆国の国家意思そのものとは言えず、微妙に異なる真意が隠れているのではないか。

 第一次政権で、トランプ氏は中国に対して貿易戦争を仕掛けて、その後、中国との間で技術覇権を争う闘争へとエスカレートしたと解説されるが、そんなリニアなものではなく、トランプ氏の意図は飽くまで貿易戦争まで、貿易赤字を毛嫌いしていただけで、技術覇権闘争は必ずしも彼の意図するところではなく、彼が乗せられただけではないか。第二次政権で、ハーバード大学などのアカデミアがリベラルに過ぎ、反ユダヤ主義の学生に対して適切な対応を取らなかったことを彼は気に入らないと言うが、外国人留学生を減らすのは、そのようにトランプ氏が好む政策をとらせつつ、裏でアカデミアにおける中国の影響力を排除することを意図しているのではないか。だから私たちはトランプ政権における真意は何かを見極めなければならない。それはトランプ氏個人のキャラをいくら分析してみても分かりっこないので、アメリカそのもの、アメリカという複雑系のある側面が問題なのだ、と。

 こんなことを思うのは、権力はそんなに薄っぺらなものではないだろうと思いたいからであり、現にそういうものだと思う。が、これも変種の陰謀論か!?

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トランプ的世界

2025-06-23 00:28:03 | 時事放談

 米軍がイランの核施設三ヶ所に対して攻撃を行い、「非常に成功した」と、トランプ大統領が自らのSNSで表明して、その事実を知った。ロイター通信も短く伝えた。とんでもない時代になったものだ。SNSの威力もさることながら、彼の自己顕示欲の強さには驚かされる。世界が自分を中心にして回っているのを喜んでいるのは間違いない。

 だからであろう、トランプ氏がMAGAなどの略語を好むのに倣って、マーケットは略語(造語を含む)を広めて茶化している。Financial Times紙のコラムニストが4月2日「解放の日」以降のトランプ氏の関税政策が優柔不断なのをTACO(Trump Always Chickens Out.=トランプ氏はいつも腰砕け)と揶揄したのが話題になった。グリーンランド購入や51州目の対象にされたカナダを巡って、新MAGA(Make America Go Away=アメリカよ去れ)が唱えられて、アメリカ離れが起きつつあるとの声が漏れた。昔(トランプ氏登場以前)から使われていたFAFO(Fuck Around and Find Out.=好き勝手にやれば痛い目を見る)なる略語が、市場の混乱や不確実性を象徴する表現として最近よく使われるらしい。権威主義に近づいているのではないかと囁かれるトランプ氏だが、本人を対象とするTACOに対してせいぜい不機嫌な対応を見せただけで、さすがに、さる権威主義国でクマのプーさんが哀れにもネット環境から抹殺されている状況とは根本的に異なる。

 そんなトランプ氏は最近、かつてのG8からロシアを排除したことは「大きな間違いだった」と述べ、また、中国をG7に招くことは「悪い考えではない」と指摘した。彼はG7に何を期待しているのだろうか。国連・安保理や、ロシアや中国を含むG20などの国際機関が既に機能不全を起こしているのを知らないわけではないだろう。彼には国際秩序について目指すべき高邁な理想はなく、国際社会をまるで、金づるになりそうな富豪をもてなす悪徳不動産屋のオヤジの仲良しクラブのように捉えているかのようだ(苦笑)。

 制度としての自由民主主義はシステムで動くので、個人の力でどうなるものでもないはずだと思って来たが、彼は懲りずに挑戦し続け、実際に崩れつつあるのか、自由民主主義がレジリエンスを見せるのか、少なくとも自由民主主義の価値や経済原理を理解しないリーダーが巻き起こす混乱は、トランプ劇場として私たちは今まさに目撃しつつある。

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目くそ鼻くそ

2025-06-13 00:01:16 | 時事放談

 大変お下品なタイトルをつけてしまったが、これ以外のタイトルを思いつかなかった。

 環境活動家のグレタ・トゥンベリさんが支援物資を届けるために親パレスチナ活動家らと船でパレスチナ自治区ガザに向かう途中の9日未明、イスラエル軍に拘束され、どうやら無事、国外退去させられたらしい。これほどの有名人だから、無事に国外退去させないわけにはいかないだろう。

 どうでもいいことだが、「グレタ」とは日本人にはなんとも微笑ましい名前だ。もうちょっと学業に専念すれば、きっと優秀で明るい未来が開けているであろうグレタさんは、環境保護を中心に人権や社会問題に関心を持ち、道草を食ってグレている。いや、これはこれで大事なことで、これほどの行動力がある彼女の未来は明るいに違いない。

 ガザを巡って、イスラエルは拘束後、グレタさんに2023年10月7日に起こったハマスによるイスラエル襲撃の映像を見せようとしたが、グレタさんは見るのを拒否したそうだ。それでいて、かねて、民間の犠牲者拡大を厭わず攻撃を続けるイスラエルを批判し続けるのは、ちょっとアンフェアであろう。坊主憎けりゃ・・・といったところか。右も左も同じようにある種の思い込みから「不都合な真実」に目をつぶるのが現実である。

 それはともかく、トランプ大統領のコメントが秀逸だった。「(グレタさんは)アンガー・マネジメント教室に通うべきだ」「変な人だ。若く、怒りに満ちている」と評したという。

 あんたに言われたくない、と誰もが思うだろう。若くないが怒りに満ちた人が、アメリカ国内だけでなく世界を混乱の渦に巻き込んでいるのだ。これを自覚しない鈍感さこそ、トランプ氏の最大の武器であろう。

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中国的修辞法2

2025-05-23 05:13:54 | 時事放談

 中国政府の対外発表は興味深い。

 自由な言論空間が確保されない権威主義の中国では、政府発表や国営メディアの提灯記事が全てである。それを受け止める人民は、身の回りの現実との間で齟齬を感じれば、政府への信任に揺らぎが生じ、ひいてはそれが社会不安に繋がりかねないから、政府は慎重に対応せざるを得ない。なにしろ中国を統治する中国共産党の核心的利益の第一は共産党統治を維持することにあるのだから、政府の対外発表は内向けの人民を意識したものにならざるを得ない。中国共産党が最も恐れるのはアメリカではなく、中国人民だと言われる所以である。

 4月に日本の外務省がウェブサイトに「中国を渡航先とする修学旅行等を検討される学校関係者の皆様へ」と題するページを掲載した。中国各地で一般市民が襲撃されるなどの重大事件が発生しており、邦人も犠牲になっていることから、中国を渡航先とする修学旅行を検討している学校関係者に対し、外務省海外安全ホームページなどを十分参照の上、「渡航の是非」を判断するよう求めた。そうは言っても、渡航の自粛を求めるものではなく、安全確保や警備強化における外務省の支援、修学旅行出発15日前までの旅行届の提出、「たびレジ」への登録など、一般的な注意喚起を含むものだそうだが、これに中国外務省の報道官が噛みついた。そこまでならともかく、「中国は開放的で寛容で安全な国だ。我々は日本を含む全ての国の人々が中国を旅行し、中国で学び、ビジネスを行い、中国に住むことを歓迎する。中国国民と中国に滞在する外国人の安全を分け隔てなく守るために、引き続き効果的な措置を講じる」と言い募った上、「中国は日本に対し、直ちに誤った慣行を是正し、日中間の人的交流に前向きな雰囲気を作り出すよう強く求める」と、日本に注文まで付けたそうだ(4/25付ニューズウィーク日本版)。とりわけ反スパイ法の施行以来、中国以外のどの国の誰が、この報道官の発言を信じるだろうか。中国外務省の報道官が気にするのは、日本人ではさらさらなく、中国人民の目であろう。

 中国が2008年に北京五輪を成功させ、4兆元の経済対策を実施してリーマンショックから世界を救ったと言われ、2010年にGDPで日本を超えて世界第二の経済大国に躍り出て以来、大国たらんと欲し、そのように遇されることを望むのは、「未富先老」(豊かになる前に老いる)社会が現実のものになりつつある中、人民の自尊心をくすぐり、中国共産党の統治を正当化せんがためだ。こうして中国は、益々、自縄自縛に陥り、世界から奇異の目で見られるばかりで、ソフトパワー大国の夢は遠のき、中国の覇権は夢のまた夢となるだけのように見える。

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中国的修辞法1

2025-05-22 05:13:54 | 時事放談

 中国政府の対外発表は興味深い。

 古来、中国では、天が徳を失った王朝に見切りをつけると、革命(天が「命」を「革(あらた)」める)の名のもとに王朝交代が正当化される。一見、西欧の啓蒙主義思想のように、「被」統治者目線で、人民の支持を失う王朝を倒すことが正当化されるかのように思われるが、どうも中国の場合は統治者目線で、革命を目指す反逆王朝が現王朝の不徳と悪逆を詰り自己を正当化するロジックのように思われる。それは現代の中国でも同様で、だから社会不安を招かないよう中国共産党は社会(例えばメディア)や人民を、ひいては国家を「領導」することになっている。「領導」とは、日本の専門家によれば、指揮命令に服従させる含意があるそうだが、中国では命令でも強制でもなく、影響を与えることだという。まあ、いずれかはともかくとして。

 14日付ロイターによると、中国外務省の報道官が定例記者会見で、2021年12月に上海で拘束され2023年10月に初公判が開かれていた日本人男性に対し、中国の裁判所がスパイ行為で懲役12年の判決を下したことに関連し、「日本は中国の司法主権を真剣に尊重すべきだ」と述べたそうだ。報道官は、「中国は法治国家であり、当該案件の処理にあたっては法的手続きを厳格に順守し、関係者の正当な権利と利益を保障している」、「日本は自国民に対し、中国の法律や規定を遵守し、違法・犯罪行為に関与しないよう教育・指導すべきだ」とも述べたそうだ。

 中国の法治はRule by Lawで、法の上に中国共産党が君臨し、法を利用して統治するもので、法が最上位にある西洋の法治Rule of Lawとは似て非なるものだ。それでも英語ではないのをよいことに「(中国流の)法治」と呼んで日本人を惑わせる。そして、上の報道官談話で「教育・指導すべき」と訳されているのは、日本国政府は日本国民を「領導」せよ、と言いたいのだろう。強制や命令ではなく、(中国から見て)正しい道を外さないように影響力を行使せよ、ということか。かつて、日本のメディアが中国共産党の気に障ることを書きたてたことに対して、ある日本の政治家は中国の政治家から、政治はメディアを指導(領導)するべきだと言われたらしい。中国は自らの文法なり文脈に沿って(それは必ずしも日本や西洋の文法なり文脈と同じではない)あれこれと指図し、無意識の内にその異質さを露呈する。

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トランプ2.0の100日(後篇)

2025-05-11 13:45:04 | 時事放談

 アメリカと言えば、自由・民主主義を奉じる「理念の国」と呼ばれ、それが昂じて、大学時代の恩師は「お節介」な国とも呼んでおられた。確かに、第二次世界大戦後、自ら良かれと思って望まれもしない武力行使をたびたび行い、戦闘には勝ちながら戦争に負けるという失敗を繰り返した。こうして戦争犯罪に手を染めるアメリカをロシアと変わらないではないかと揶揄する人がいるが、ロシア(や中国)の身勝手で見苦しい屁理屈と違って、アメリカにはそれなりに高邁な「理念」なり「大義」があった(イラク戦争では結果としては幻の大義となったが)。ひと皮めくれば、あからさまな「国益」が潜んでいたりもするが、「理念」や「大義」というオブラートに包んで、もっともらしく美しく見せた。ところが、トランプ氏には「理念」や「大義」のカケラもない。国家財政が逼迫して余裕がないせいだろうが、だからと言って弱みは見せず、自分のことは自分でやれと、体よく子供を諭すように、ある意味でまっとうなことを言う。かつての大国・アメリアの鷹揚さや慎みはなく、あからさまな自国優先を押し付ける。まさか、アメリカの大統領の発言をファクト・チェックしなければならないような事態を、誰が想像しただろうか。
 そんなトランプ氏の統治手法のことを「家産制(パトリモニアリズム)」と呼ぶ人がいる。Wikipediaによると「支配階級の長が土地や社会的地位を自らの家産のように扱い、家父長制支配をもって統治する支配形態のこと」だそうだ。COURRiERというウェブ雑誌の記事「『トランプ政治』を恐ろしいほど的確に表す、100年前の社会学者のある言葉」から該当部分を引用する。

(引用はじめ)
 マックス・ヴェーバーは「国家の指導者が自身の正当性をどこから引き出しているのか」、つまり「国家の正当な統治権をいかにして得ているのか」について疑問を抱いた。そして、そうした主張は突き詰めれば二つの選択肢に集約されると考えた。
 一つ目は、合理的な「依法官僚制」である。これは一定の規則と規範にのっとった公的機関によって統治の正当性が与えられるシステムで、大統領、連邦政府職員、応召兵は個人ではなく、合衆国憲法に対して宣誓する。2025年1月20日まで我々が皆、当然だと思っていた米国の統治システムだ。(中略)
 二つ目の根拠の源泉はさらに古い。それはもっと広汎で直感的な「前近代世界における規定の統治形態」であり、「国家は統治者の“家”の拡大版にすぎず、独立した存在ではない」とするものだ。ヴェーバーはこの統治システムを「家産官僚制(家産制)」と呼んだ。統治者は国民の象徴的父親、つまり国家の擬人化にして、国民の保護者であると主張する。トランプ自身、まさにこの古い理念を公言して慄然とさせた。彼は自身をナポレオンにたとえ、Xにこう投稿している。「国を救う者はいかなる法律も犯さない」
 ヴェーバーは当時、家産制は歴史のスクラップ場送りとなり、消滅するだろうと考えた。そのワンマン型統治は、近代国家の特徴である複雑な経済および軍事機構を管理するには、あまりにも未熟で気まぐれだったからだ。
(引用おわり)

 トランプ氏から閣僚に指名されても、常識ある人なら「個人」ではなく「国家」に忠誠を尽くすだろうと、私は高を括っていたのだが、見事に裏切られてしまった(ように見える)。皆、トランプ氏「個人」に忠誠を尽くしている(ように見える)のだ。こうしてトランプ氏の統治手法は(あくまでも統治手法に限っての話だが)19世紀に舞い戻ってしまったかのようだ。そう言えばプーチンの戦争も19世紀に舞い戻ってしまった。人類の歴史は、特に欲の突っ張る政治は、さほど進歩することはないということだろう(東洋史の碩学・内藤湖南は、そもそも歴史は「進歩」などしない、「変容」するだけだと言った)。
 もう一人、世界を牛耳ろうとする中国の習近平氏も大差ない。トランプ氏が保護主義的な関税政策で世界を混乱させるのをよいことに、中国が自由貿易の旗手たらんと振る舞っているが、国家資本主義の中国こそ世界経済を攪乱しているのが実態なのに、実に皮肉な話で、とんだ茶番だ。さらに中・長期的には世界秩序を自らに都合が良いように変えようと目論んでいる。ある中国人留学生は、華夷秩序の正当性を研究する卒論を真面目にモノしたと、ある大学教授が呆れて話しておられた。確かに、お世辞にも戦争には強そうにない中国にとって、圧倒的な国力(がありそうなこと)を背景にした権威による支配は、願ってもないことなのだろう。
 これら三人は、それぞれにノスタルジーとルサンチマンという二つの感情を共通にする。かつて覇を唱えたロシア帝国や中華帝国、あるいは古き良き白人のアメリカを懐かしみ、ロシアや中国は先進諸国に、アメリカは同盟国に、さんざん食い物にされたと、被害妄想に囚われる。そして時計の針を150年から200年も巻き戻そうとする、大国の頂点に君臨するこれら三人の猛獣を、世界は果たして手懐けられるのだろうか。

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トランプ2.0の100日(前篇)

2025-05-04 12:07:16 | 時事放談

 企業や国のリーダーにとって、就任後の最初の100日はハネムーン(蜜月)期間と言われ、お手並み拝見とばかりに厳しくも温かい目で見守られるのはよく知られるところだ。事業や人を知り、目標を定め、行動計画を作成する、その後の1000日の成功を導くための言わば準備期間であり、企業で言えば転職が当たり前の欧米では当たり前の習慣だが、日本にもないわけではない。ある中堅企業に幹部社員として転職した知人によれば、100日レポートと称して、前職企業との違い、現職企業の強みと弱み、課題の抽出と今後の抱負を、会長・社長の前でプレゼンさせられたそうだ。社員の半分を中途採用し、社外取締役も積極的に活用する、オーナー企業だからであろうか、外の声にも積極的に耳を傾けようとする柔軟さが面白い。

 トランプ氏も4月29日に大統領就任100日を迎えた。しかし彼の場合は二度目なので手慣れたもので、周囲を忠誠心ある太鼓持ちで固めたこともあって、さしたる混乱もなく、問題含みの大統領令を矢継ぎ早に発出し、世間の耳目を集めるだけではなく、相互関税をぶち上げるなど、世界中を混乱の渦に巻き込んだ。敵を敵対視するのはともかく、同盟国にも手加減しないマイペースの自国第一主義と、専門家の声に耳を貸さない「常識革命」で、早くも世間の厳しい目に晒されている。関税は大統領ではなく議会の権限なので訴訟が提起されており、予断を許さないのだが、そんなことは歯牙にもかけない猪突猛進ぶり(間違いと判断したらあっさり軌道修正する率直さも含めて)が彼らしさと言えるのだろう(本当は、前回ブログに書いたように、市場の動きや世論を気にしているはずだが)。トランプ劇場第二幕に世界中が翻弄されている。

 第一期(1.0)では閣僚の更迭が相次いで政権のドタバタ振りを晒したが、第二期(2.0)では比較的スムーズで、唯一、マイク・ウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官が、100日を過ぎて国連大使に転出することになった。表向きは、3月中旬に起きた民間の通信アプリ「シグナル」に絡む杜撰な情報管理、かつてニクソン大統領が辞任に追い込まれた「ウォーターゲート事件」に因んで「シグナルゲート」と呼ばれる情報漏洩問題だが、ウォルツ氏は「グローバルホーク派」として中国やロシアやイランに対して厳しい姿勢で知られ、和平交渉に後ろ向きの姿勢を崩さないロシアに対して制裁強化の必要性をトランプ氏に訴えられる数少ない人物だったようで、惜しい。斯くしてトランプ氏の「常識革命」は「トランプ流の常識」革命であって、甚だ危うい。

 まあ、こうなることはほぼ分かっていたのに、何故、アメリカ国民は二度にわたってトランプ氏を選んだのか? と、今なお理解に苦しむのは、私たち日本人がアメリカ人のことを実はよく分かっていないせいだろう。少なくとも私は、マサチューセッツ州ボストンとカリフォルニア州サクラメントに5年暮らし、その後も付き合いがあるアメリカ人と言えば、西海岸シリコンバレーの企業人か、ニューヨークあたりの弁護士や会計士で、いずれもブルー・ステイト(民主党系)だったり、所謂(トランプ氏が嫌う)意識高い系(woke)の有識者だったりする。アメリカ中西部で、アメリカを(下手すれば州あるいはカウンティをも)一歩も出たことがなく、世界地図で日本がどこにあるか指差しできず、日本の首相が誰かも知らないようなアメリカ人とは、とんと付き合いがない。バイデン前政権は同盟重視でアメリカ的な理念(たとえば人権や民主主義)を重視し(見ようによっては重視し過ぎ)、安心して(やや退屈に)眺めていられた一方、口先ばかり恰好つけて行動力に劣るところが飽きられていたとは言え、一期四年だけでトランプ政権に舞戻るのは、極端に走り過ぎだろうと、ついぼやきたくなるが、後の祭りだ。

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トランプ対市場の反乱

2025-04-22 00:51:47 | 時事放談

 今月2日にトランプ政権が発表した相互関税を受け、日経平均株価は歴代2位のブラックマンデー(1987年10月20日)に次ぐ歴代3位の下げ幅となった。日本だけでなく世界中で株価が下落したが、トランプ氏は、「(株式相場の)下落は望んでいないが、問題を解決するには時に薬を飲む必要がある」と嘯いた。しかし債券市場も急落して、さすがの彼も考え直した(国債利回りの急上昇を見てビビった)ようだ。相互関税を発動する9日の朝、トランプ氏は「落ち着け! すべてはうまく行く」とSNSで米国民に告げたが、その日の午後には、発動したばかりの相互関税の上乗せ部分について、75ヶ国以上が関税や貿易障壁、通貨操作などに関して交渉を持ちかけているとして、(中国を除いて)90日間の一時停止を許可すると発表した。その後、スマホやノートパソコンなどの電子機器の価格高騰が懸念され、相互関税の適用から除外すると発表したかと思えば、1~2か月以内に導入される半導体分野への関税の対象になると前言を翻すなど、混乱の極みである。この関税がアメリカの景気悪化とインフレ再燃を招くとしてドル売りが進むとともに、保護主義的な政策転換が米国への投資の前提を問い直すよう促すとして、ドル離れが進んでいる。同盟すらも敵に回すアメリカは、明らかに国益(ソフトパワー)を毀損している。

 この一連の出来事に見られるのはトランプ氏の典型的な行動パターンだとWSJが揶揄した。まず大胆な行動を取り、その反応を注視し、関係者や同盟国に戸惑いを生じさせた後、方針を転換する・・・。世界経済を破壊することも厭わない、実に大胆かつ強引で、場当たり的である。そういう意味ではアメリカ人のキャラのある極端を行っていると言えるかもしれない。先ずは試してみて、問題があれば修正すればいい、と。そもそもアメリカ人自身が、一度はトランプ氏に懲りたはずなのに、その後のバイデン政権のせいとは言え、懲りずに二度目を選んだのだった。

 それにしても、一人の人間がどこまで市場を、ひいては世界を混乱させられるものか、神様は試しておられるかのようだ(苦笑)。もとより彼の取引における強さの源泉は、あるいは取引カードを持たないとゼレンスキー大統領を批判したように、それでは彼自身が持つ取引カードは何かと言うと、アメリカの経済力や基軸通貨ドルなどの世界一の国力であって、彼自身の能力についてはせいぜい混乱を歯牙にもかけない鈍感さだったり大胆さ(胆力)だったりするに過ぎない。理念や価値観に乏しく、専門家の意見も聞かないようなので、アメリカ大統領という世界一の権力者の立場の言動に、世界中が右往左往させられる。そんな彼でも、市場の反乱には慌てたように、市場の声や、恐らく支持者の声には敏感である。

 日本は幸か不幸か関税交渉のトップランナーとなった。貿易赤字や経済規模の点からも、交渉相手としての与しやすさの点からも、トランプ氏はモデルケースになり得ると踏んでいるのだろう。日本にとって「国難」であるとの認識では、石破首相も最大野党の立憲民主党も珍しく一致している。参議院選までの政局の中で小手先の技術を弄するのではなく、日本国として主張すべきは主張し、かつて1980年代後半の貿易戦争のときのように、外圧を使った改革に繋げるなど、是々非々でしっかり取り組んでもらいたいものだと思う。

 今般の市場の反乱の果てにあるのは不確実性ばかりで、想像もつかない。

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DeepSeekの衝撃

2025-03-08 20:53:47 | 時事放談

 中国のAI開発ベンチャーDeepSeek(深度求索)が米国製に匹敵する性能を持つ生成AIモデルを圧倒的に少ない開発コストで実現したと主張し、アメリカのテクノロジー業界や株式市場に衝撃を与えて久しい。ベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセン氏は、1957年10月4日のスプートニク・ショックになぞらえて、「DeepSeekのR1はAIにとってスプートニク・モーメントだ」と表現したものだ。しかし、アメリカを超えたわけではなさそうだから、むしろ「第二の新幹線」と呼ぶべきではないかと私は思っている。いったん技術が中国に渡ってしまえば、自家薬籠中のものとして、中国内はおろか、中国製「赤いAI」が一帯一路に乗せて世界中に拡散するということだ。

 その衝撃の余り、開発費用の内訳に疑問が呈され、いや性能はそこまで行かないとか、技術の盗用疑惑まで論じられた。ディスティレーション(蒸留)と言って、オープンAIのように、より洗練された強力な従来のAIモデルに、新しいAIモデルからの質問を精査させて、実質的に従来モデルの学習内容を移行させる仕組みで、これを使えば、大規模な投資と膨大な電力を費やして従来のAIモデルが生み出した果実を、それほどの対価なしに新たなモデルが獲得できるらしい。ある業界関係者によれば、AIの分野でこの手法はごく普通の技術だが、オープンAIを含めて近年、アメリカ企業が投入した先端的モデルで定められたサービス利用規約には違反するそうだ。

 そして何より中国共産党のバイアスがかかっており、どうやら個人データが中国共産党に流れることも判明した。R1に中国共産党の性格は?といった政治的な質問を投げかけても答えてくれないそうだ。そもそも同社のR1がトランプ氏の大統領就任日にぶつけて発表されたことが全てを物語る。春節明けの2月17日には、中国の習近平国家主席が主催する民間企業シンポジウムに、アリババのジャック・マー氏、テンセントのポニー・マー氏、BYDの王伝福氏ら大手IT企業の大物社長に混じって、ベンチャー企業DeepSeek社長・梁文锋氏も参加したということは、もはや一点の曇りもない。DeepSeekはアメリカ製AIの技術を安価に真似て、オープンAIが「APIサービス」と「サブスクリプションサービス」を提供するのに対し、DeepSeekは全てのモデルをオープンソース方式で「APIサービス」のほかに「カスタマイズサービス」「コンサルティングサービス」を通して、データの整理や分析などのサービスや、AI技術のトレーニングや認定プログラムを開催して企業や個人に教育サービスを提供し、中国共産党が推進する「AI+産業」政策と連動した教育ビジネスを展開するという、中国企業がAI武装するための、中国共産党お抱えのAIプラットフォーマーということだ。アメリカをはじめとするAIプラットフォーマーだけではなく、全世界の全産業の全企業がこの現実を覚悟しなければならないだろう。これを利用する人は個人情報が抜き取られ、世界中で認知戦が繰り広げられることを覚悟しなければならないだろう。

 創業者の梁文鋒CEOは過去のインタビューで中国企業の課題を赤裸々に語りつつ、AIモデルを「金儲けに使うつもりはない」と言い切っている。さもありなん。

 不動産不況で中国経済はピークアウトし、人口減少で先行きは明るくないと溜飲を下げていてもよいのだろうか。余ったEV在庫でヨーロッパや東南アジアをはじめ世界中の自動車産業を混乱に陥れたように、あくまで愚直に成長を求める中国共産党は、習近平の「新質生産力」の号令一下、EV以外にも全ての産業で世界を混乱に陥れようとしているかもしれない。

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