高校生スポーツの夏の祭典と言えば先ずは甲子園が思い浮かぶが、他にも30の種目で、このクソ暑い夏に全国大会(所謂インターハイ、全国高等学校総合体育大会)が繰り広げられる(今年は7月23日~8月20日)。私は高校時代に陸上部(中・長距離)で、インターハイを目指していたと言うのもおこがましく、全国大会の手前の近畿大会の、そのまた手前の大阪地区予選であっさり敗退して、全国大会など夢のまた夢だった。当時は、走る前は(お腹が痛くなるから)水を飲んではいけないとか、夏休み中も毎日練習するのに、水分を取ると身体を冷やすから控えるように、などと殺人的(!)とも言える指導を受けて、よくもまあ、くたばらなかったな・・・と振り返るが、何を隠そう、そう言われながらも毎日3~4リットルもの水分を補給していた。脳は、いくら耳が(屁がつくような)理屈の声を拾ったところで、身体の生理現象に素直に耳を傾けるものだ(微笑)。
かかる次第で、インターハイに出場するだけで大いなる敬意を表する私は、今年の大会では傑出した活躍があって刮目した。
一人は久保凛さん(東大阪大学敬愛高等学校3年)で、私のスマホのYouTubeには既に頻繁に登場する有名人の一人である。つい先だって、日本選手権の女子800mで自らの日本記録を更新し、今年の世界陸上への出場を狙う逸材なので、今さらインターハイでもないのだが、インターハイのこの種目では史上初めてとなる3連覇を達成した。いとこのサッカー日本代表・久保建英の影響がなかったとは言えないだろう、小学校6年間はサッカーをし、中学に入ってから本格的に陸上を始め、私の感覚で推し量っても仕方ないのだが、中学を卒業して僅か半年もたたない内に、体力的には格段の差がある高校三年生の並みいる強敵を打ち破ったのは驚異的だ。さながら強豪PL学園で一年生から四番を務め、一年の夏の甲子園で優勝した清原和博を彷彿とさせる。今やシニアを含めて追う者はない独走状態である。足が速い人の走る姿は、ムダを排し究極の効率を追求して、ほぼ間違いなく美しいものだが、彼女の場合は美しいだけでなく、やや怒り肩で、男顔負けの、という表現は今どきセクハラであろうが、線が細いことを除けば堂々とした、惚れ惚れとする走りっぷりである。
もう一人は清水空跳さん(そらと、と読むらしい、石川県星稜高等学校2年)で、実は今回、初めて知った。7月26日の男子100mで、2013年に桐生祥秀(京都府洛南高等学校、当時)が出した高校記録を0秒01更新する10秒00で初優勝した。これはU18世界新記録であり、世界陸上参加標準記録を同タイムでクリアする。1000分の1まで計測したタイムは9.995で(小数点第三位切上げ)、9秒台まで距離にして5cm届かなかった計算になるらしい。さらに28日の男子200mでは、追い風参考ながらサニブラウン・ハキームが持つ高校記録(非公式)に0秒05差に迫る高校歴代2位に相当する20秒39で初優勝した。弱冠16歳でインターハイ男子100m/200mの二冠を達成したのだ。身長164センチ、体重56キロと小柄ながら、家族揃って陸上一家で、まるで高性能のターボエンジンを搭載しているかのようなスピード感には目を見張る。
今年のインターハイは、暑さ対策のため、急遽、3ラウンド制(予選・準決勝・決勝)から2ラウンド制(予選・決勝)のタイムレース(決勝は全3組)に切り替わった。気候変動はこういうところにも影響している。特に100m走では追い風・向かい風など、いっせーのせ、という一発勝負ではない不公平感が残るものの、「例年通りの3ラウンド制だと、決勝はタイムより勝負というかたちになってしまいます。2ラウンド制だったからこそ、ハイレベルのレースになって、これだけのタイムが出たかなと思います」と、清水空跳さんは語っている。確かに時代は変わって、おじさん・おばさんが考えたのであろう大会スローガン「輝け君の青春、刻め努力の軌跡」は些か気恥ずかしくもあるが、勝負や記録に賭ける思いは変わらないだろう。彼女・彼らの成長を見守りたい。