風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

日本の科学力

2015-12-27 01:55:26 | 時事放談
 世の中には不思議な数字があって、大部分(80%)は一部(20%)によって生み出されるという理論は「パレートの法則(あるいは80:20の法則、ばらつきの法則)」として知られる。ビジネスでも売上を構成する品目を大きい順に並べると、何故か売上の8割は商品の上位2割から(顧客別でも上位2割から)生み出されるなど、経験則としても広く認められるところだし、最近はロングテールの文脈で、上位20%がヘッドと呼ばれ、下位80%がテールと呼ばれることがある。また上・下ともに適用して、優秀な上位層2割と中間層6割と下位層2割に分けること(一種の正規分布)も感覚的に思い描くところだ(ボーナスの査定も、もう少し細かいが、そのように分布させられる)。GEのジャック・ウェルチは、各組織で社員のランク付けを行って、上位20%、中位70%、下位10%に振り分けたうちの下位10%を常に入れ替えていたという厳しい人事の話が伝わっているが、一つの派生形だろう。また、どんなものでも90%はカス(あるいはガラクタ、crud)という、なんとも大胆な「スタージョンの法則」もある。私たちも9割方(あるいは8割方)などと、十把一からげを心もち和らげて日常的に表現するマジック?ナンバーだ。
 他方、私の通った高校の試験では40点未満が欠点とされ、大学では60点未満が落第(60以上70未満が可で、70以上85未満が良で、85以上が優)とされて、試験と名のつくものではこのあたり(60:40の法則!?)がなんとなく目安になって、つい無意識のうちに拘るせいか、そのちょっと上のぎりぎりのあたりを器用に泳ぐことになる。中でも受験科目ではなかった物理と化学と地理は、高校1年の時から常に40点台で、上回ったことも下回ったこともなく、一度、化学でクラスの三分の二が欠点・再試験になったときでも40点台をクリアして生き残ったことがあって、ここまでくれば芸術的だと自画自賛したくなる。
 と、まあ、科学の話になると、苦手意識(飽くまで受験勉強についてであって、興味はある)とともに懐かしさもこみあげて来て、つい前置きが長くなってしまうが、今朝のニュースによると、理化学研究所が合成した原子番号113番の元素が新元素と国際的に認定される見通しのようだ。新元素の名称と元素記号を提案する権利は発見チームに与えられるらしく、産経Webによると、名称の方は日本にちなんだ「ジャポニウム」が有力だそうだ。あの(スイ・ヘイ・リー・ベ・・・などと、暗記するのに苦労した)元素の周期表に、この名称が載るのである。画期的なことだ。
 ウランより重い新元素については、これまで米国、旧ソ連、ドイツが発見を激しく競ってきたらしい(産経Web)。先ず米国が1940年に原子番号93(ネプツニウム)を見つけてから103番まで連続で発見し、その後、米・ソが熾烈な争いを展開し、80~90年代になるとドイツが107番以降を6連続で発見して一時代を築いたという。冷戦終結後は、米・ロは共同研究に移行し、今回の113番ではドイツも再現実験に協力し、日本は孤軍奮闘の様相だったという。米・ロ・独による独占に風穴を開け、アジア初の栄誉を勝ち取る意義は大きいと、産経Webは述べる。他方、日本は、理研の仁科芳雄博士が昭和15年、93番が存在する可能性を加速器実験で示したが検出できず(直後に米国が発見)、その加速器は戦後、原爆製造用と誤認した連合国軍総司令部(GHQ)によって破壊されてしまったらしい。言わば113番は仁科博士の研究を受け継ぐチームが発見し、雪辱を果たした形とも言う。
 STAP細胞騒動でちょっとイメージ・ダウンした理研にとってはまたとない汚名挽回であり、ノーベル賞に続き日本の科学の実力を示したと言えるのだろう。
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中国の国柄

2015-12-25 01:35:54 | 日々の生活
 韓国のことに触れたから、中国についても思いつきで書いてみる。
 産経新聞・中国総局(北京)特派員の矢板明夫氏が「ザーサイ指数」なるものを紹介しており、大変面白く拝見した。中国の各地方政府が発表する経済数値には捏造されたものが多く、公式データだけでは正しい経済状況を判断できないため、ザーサイ(搾菜)の各地の消費量から、その地域の出稼ぎ労働者を推測し、景気状況を判断するというのである。実に大陸的な大らかさと言うべきか、中国的ないい加減さと言うべきか、とにかく微笑ましい話である。これぞ中国の面目と言うべきであろう。

(引用)
 いまの中国には計2億6000万人の農民工と呼ばれる出稼ぎ労働者がおり、そのほとんどは建設業か製造業に従事しているといわれている。仕事があれば同じ地域に出稼ぎ労働者が一気に集中するが、仕事が減ればすぐに別の場所に移る。単身赴任の男性が多い農民工が最も好む食べ物の一つがザーサイだ。
 各地のスーパーで70グラムの袋入りのザーサイは約1元(約19円)で売られている。一袋があれば、昼と夜の2回のご飯のおかずにもなるので、収入の少ない農民工にとって有り難い存在となっている。ある都市でのザーサイの消費量が急増すれば、その地域に農民工が殺到し、景気が良くなっていることを意味する。
(引用おわり)

 景気を判断する指数としては、津上工作室の津上俊哉氏や富士通総研の柯隆氏をはじめとして、つい半年くらい前までは「李克強指数」を引用される方が多かったが、少なくともお二人はごく最近になって転向され、否定し始めておられるようだ。「李克強指数」は、現首相の李克強氏が遼寧省トップだった2007年に、アメリカの大使に対して、同省のGDP成長率など信頼できないので、経済状況を見るために、省内の「鉄道貨物輸送量」、「銀行融資残高」、「電力消費」の推移を見ていると語ったことがエコノミスト誌に掲載され、広まったものだ。鉄道輸送貨物の55%は石炭で、これに石油や鉄鉱石など他の鉱産物を加えると、鉄道輸送貨物の74%が鉱産物で占められるため、鉱業の動向を捉えるのであれば意味があり、当時、石炭が主力産業の遼寧省の景気を見るためであれば分からないでもないが、今、中国経済全体を見ようとするには無理がある。同じような意味合いで、銀行融資残高も、中国の銀行はそもそも国有セクターばかりに融資し、民間企業は余り相手にしないことから、経済全体を見るには無理がある。電力消費も、最近の中国において電力を大量に消費する第二次産業の割合が低下し、第三次産業の割合が上昇する産業構造の転換の中では、経済全体を見るにはやはり無理がある。
 先の矢板氏コラムは、かれこれ50年前、当時の周恩来首相も、各地から報告される経済指標に関する数字を信用せず、独自の方法でチェックしていたという話を引用されている。当時の北京には水洗トイレがなく、市内の全てのトイレから回収される糞尿は、馬車やトラックで肥料として農村部に運び出されるため、周首相(当時)は毎日、必ず市外に出る糞尿の量をチェックし、その数字から北京市民が十分に食えているかどうかを判断していたというのだ。そして、「ザーサイ指数」が重要視されている今の中国は、50年前と余り進歩していないようだと皮肉たっぷりに結んでおられる。
 日下公人さんは、およそ世界の国は三階建てか四階建てで、古代・中世・近代・現代が積み上がっているが、中にはどれかが欠落した国があると持論を展開される中で、中国は古代と中世はあるが近代がない、しかも中世があったと言っても古代が長く、古代の価値観から突然、西欧列強の侵略を受けて、近代の価値観の洗礼を浴びたが、毛沢東が全てを壊してしまった、残ったのは古代的な価値観だけで、小平が中世の商売人を復活させ、露骨な拝金主義になっていると、実にユニークな分析をされている。中国のネット産業は意外に進んでいるが、人々の行動様式は古代かせいぜい中世のままなのかも知れないと、ふと思った。実に奥深い国だ。
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韓国の国柄

2015-12-23 16:09:16 | 時事放談
 最近の報道を見ていると、やっぱり韓国はヘンだとあらためて思い直した人が多かったのではないか。
 自由・民主主義が絶対とは言わないし、実際に中東で国家と呼べるのはイランやトルコくらいで、それ以外の部族社会にあって西欧諸国に勝手に線引きされた国家という人工的な枠組みの中で独裁的な権力が安定的な秩序を築いてきたところでは民主主義がどうやら機能しそうにないのは「アラブの春」以降私たちの眼前に突き付けられた現実である(民衆がどう思うかは別にして)。しかし、私たち(広い意味での)西欧的な価値観を奉ずる国家において、チャーチルが皮肉を込めて言ったように、民主主義は最悪の政治形態だと言いつつも、これまでに試みられてきたあらゆる政治形態(例えば独裁主義、全体主義、共産主義、社会主義)を除いてという留保がつくこと、つまり史上、遥かに優れたシステムであることは間違いない。そして、さすがのチャーチルも、中東に民主制を植え付けようと試みることは予想だにしていなかっただろう。況や極東においてをや・・・ということか。
 中国共産党は(民衆がどう思っているかは別にして)西欧的な価値観を真っ向から否定し、それでも西欧諸国を尻目に未曾有の経済成長を続けながら、自ら西欧的価値観に挑戦し続けるのは周知の通りだ。その中国と文化的背景を共通にし、歴史的に何度も繰り返しながら再びその磁場に引き寄せられつつある韓国で、朴槿恵大統領への名誉毀損で在宅起訴されていた産経新聞の前ソウル支局長の無罪判決が確定した。
 そもそも起訴が無理筋だったというのが西欧的価値観による見方だ。そして、産経Webによると、在宅起訴した当時(昨年10月)の法相(黄教安氏)は現首相、起訴を強行したソウル中央地検トップ(金秀南氏)は検察総長と、権力の頂上に登り詰めた彼らが関わった起訴にして、控訴はなかった。控訴しない理由として、検察関係者は外務省からの善処要請に加え、コラム内容が虚偽であり、(私人としての)朴大統領への名誉毀損が判決で認められたことを挙げているが、後半部分は言い訳だろう。それを真の理由とするなら、産経コラムが転載したという本家の朝鮮日報コラムを相手取るべきだからだ。その間に空気が変わってしまったのだろう。
 結局、最初から最後まで、政治の関わりがポイントになる。韓国政府は公判について「あくまでも司法問題であり、日韓の外交問題ではない」との立場を取ってきたが、問題のコラムが掲載された直後の昨年8月、大統領府秘書官は「民事、刑事上の責任を最後まで問う」と断言し、検察はこれを大統領の事実上の意思と見なして在宅起訴に踏み切ったものだった。言論の自由を保障する観点で、名誉毀損を巡っては刑事ではなく民事訴訟で解決するのが国際常識であることから、先ずは日本、そして欧米が反発し、日本以上に諸外国の目を気にする韓国マスコミも反応せざるを得なくなった。最後は外務省による善処要請である。「3年半ぶりの首脳会談が行われて最悪を脱した日韓関係だが、靖国神社の事件や産経裁判の結果、再び急に冷え込む可能性もあり、今、両国が神経をつかわなければならないのはさまざまな『地雷』をうまく避けることだ」と指摘したというが、要は大統領府が諸情勢に鑑み矛を収めたということか。司法の独立もあったものではないが、結果だけ見れば「法治国家であることを否定されるというリスクは避けた」(日本の検察幹部)カタチだ。
 韓国に同情するとすれば、自由・民主国家と思われているが民主化してから30年にもならず、成熟しているとは言い辛い。産経Webによれば、韓国の言論界は、かつて朴正煕、全斗煥両政権の軍政時代には検閲を通じて厳しい規制を受け、1987年の民主化以降、言論の自由が保障されると、一転してメディアによる政権批判が活発化したが、金大中政権では大規模な税務調査などを断行してメディアを牽制し、弁護士出身の盧武鉉大統領時代にはメディアへの法的措置が増え、朴槿恵政権下では特に政府批判が相次いだセウォル号沈没事故以降、メディアへの法的措置が急増しているらしい。産経新聞の前ソウル支局長への在宅起訴はその中の1つに過ぎないのだが、反日の感情が絡んでくる。
 沈没事故当日、7時間にわたり誰も朴大統領に対面報告をしていないことから、世間では「大統領は某所で秘書と一緒にいた」との噂が広がり、その噂を朝鮮日報が取り上げたのを産経新聞が転載したものだが、そのコラムの趣旨にご丁寧に悪意の「解釈」を付け加えて韓国語に翻訳しネット掲載した媒体も同時に告発されたが、検察庁においては途中で捜査を打ち切ったかのごとく、その後何も決着をつけずに今に至っていると、前ソウル支局長は述べている。そして、公判では、朝鮮日報が噂を取り上げた背景などを質すため、弁護側が朝鮮日報記者の証人申請を行い、裁判長も当初は申請を承認して出廷を求めたが、同記者が業務上などの理由で出廷を拒み続けると、承認を取り消し、同記者の証人尋問は実現しなかった。これに対し、韓国メディア関係者は「政権側は保守系最大手紙を敵に回したくなかったはずだ」と指摘している。
 たった今のニュース速報によると、韓国の憲法裁判所は、日本統治時代に朝鮮半島から徴用されて日本企業で働かされた韓国人の遺族らが、個人の損害賠償請求権を含めて「完全かつ最終的に解決された」とする1965年の日韓請求権協定を違憲だと訴えた裁判で、裁判の前提条件を満たしていないとして却下したという(朝日新聞デジタル)。韓国では元徴用工や遺族が、日本企業3社に損害賠償を求めて13件の裁判で係争中で、このうち5件で企業に損害賠償を命じる判決が出て、3件が大法院(最高裁)の判断を待つ状態で、今回の憲法裁判所の判決が今後に影響するのかどうか。しかし慰安婦問題では、同じく憲法裁判所は2011年、韓国政府が元慰安婦の賠償請求に関する日韓間の協定解釈の相違を巡る争いを解決しないことは憲法違反と判決し、爾来、今に至るも韓国政府の外交の手足を縛ることになった。韓国の法治は、一見、司法の独立があるようで、その時々の政権やメディア関係者の立ち位置や国際社会の目線や社会・外交的な事件による世論などのムードに左右されるのではないかと疑う。そのとき、司法は政治の意向を汲んでいるようでもあり、では政治はメディアをはじめとする世論の顔色を窺っているようでもあり、このあたりに韓国の国是としての反日の闇が広がっているように思う。
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橋下徹の夢

2015-12-20 12:40:54 | 時事放談
 昨日の「ウェークアップ!ぷらす」辛坊さんによると、退任した翌日(つまり昨日)の関西の大手紙の一面、三面、社会面は全て橋下氏引退の記事で占められていたそうだ。相変わらず絶大な人気である。今後、おおさか維新の顧問弁護士に就任するそうだが、日経や産経の記事では法律政策顧問と書いてあり、政界に半分足を突っ込んだままのようだ。
 従来の所謂政治家にはない型破りな言動で、これほど毀誉褒貶の激しい人もなかなかいないだろう。敢えて対立軸を浮き彫りにし、反対派を挑発し、議会を超えて府民や市民の支持を背景に前に推し進めようとする派手で強引な手法は、橋下劇場と呼ばれた。弁護士的な正論を吐いて、慰安婦問題ではアメリカを怒らせたこともあった。しかし粗削りながらも自らの信念を率直に時に過激に語りかける姿勢は新鮮で好感が持てた。政治の世界でも、ビジネスの世界と同様、結果責任つまり成果が問われるのだとすれば、大阪のことなので実はよく知らないのだが、辛坊さんの番組でも、橋下劇場の主演男優賞は間違いないが作品賞はどうだったか?と疑問符を付けており、道半ばと言うところなのだろう。
 大阪都構想も僅差だったように、今の日本の社会では保革均衡する、あるいは賛否両論、意見が真二つに割れる懸案が多い状況と言える。なにしろ投票率が低いし、世論調査やアンケートの取り方(対象者、質問の仕方など)にも左右されるので、実態はよく分からないとも言えるのだが、原発、安保法案、沖縄基地といった懸案は多かれ少なかれそうだと感覚的には言えるだろう。これに対し、特に革新側あるいは所謂日本的リベラルは、報道ステーションのMCを見れば分かるように、正義を疑わず自陣営をさも多数派であるかのように見なし反対陣営を一方的に糾弾しがちである。橋下さんも反省を踏まえてか、最後の市議会演説では良いことを言っていた(産経Webからの抜粋)。

(前略)大阪維新が公認した新市長は、約60万票。そして相手方候補(柳本顕氏)もですね、約40万票という大変多くの票が集まっておりますので、大阪維新の主張が100%支持されているわけではない、大阪維新以外に投票した有権者の声もくんで、大阪維新の皆さんも他会派との議論をやってほしいと思います。(中略)また他会派のみなさんも今回の選挙結果を踏まえて、全否定ということだけはやめていただきたいと思っています。大阪維新の提案は一定の支持があるわけですから、全否定ではなく、やはり修正と妥協で一致点を見いだして、少しでも大阪が前に進むように、大阪維新、他会派、そして新市長で、しっかり議論やっていただきたいと思います。(後略)

 先日、前原誠司さんの講演を聴いた。会社の労働組合が企画したもので、近頃、人気政治家に求められる辻説法の一種なのだろうか。その中で、一強多弱の政治に緊張感をもたらすために、野党を結集して行くと決意表明されていた。よく聞かれる言葉だが、野党の皆さんを見る限り、多弱を束ねようにも纏まらないのが現実だろうに。ビジネスの世界では弱者連合は所詮成功しないものだが、政治の世界では違うとでも言うのだろうか。民主党という団体には期待しないが、前原さんには少しは期待するので、是非、与・野党を含めた政界再編で大きく保革に分けられないものかと思う。実際のところ、自民・公明の連立与党は、集団的自衛権の定義でも随分後退したし、今まさに消費税の軽減税率でも妥協しているように、政策的には相性が良くないし、公明党自体は少数ながら創価学会の組織的動員力に引き摺られ、結局、政策より政局優先で、有権者は蚊帳の外に置かれ、疎外感と無関心が続いている。むしろ自民・おおさか維新で連立した方が無駄な妥協なく余程すっきり政策を打ち出せそうな気がする。橋下さんには、そんな保革対立の健全な緊張感を生む政界再編の触媒として機能することを期待したい。そして、一億総活躍と言うのであれば、制度疲労甚だしい中央集権ではなく、地方毎に特色ある分権構造を目指して欲しいものだ。
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宇宙の夢・続々

2015-12-16 01:10:12 | 時事放談
 「宇宙の夢」と言って、金星探査機「あかつき」を取り上げた以上、小惑星探査機「はやぶさ2」にも触れないわけには行かない、かな。
 「はやぶさ2」(と言うより二代目「はやぶさ」と言った方が馴染み深い)、小惑星「リュウグウ」に向けた軌道変更のため、3日午後7時すぎに地球に最接近していたが、地球の引力を利用して軌道を曲げ、無事、小惑星へと進路を変更したことが確認された。所謂スイング・バイというやつだ。
 初代「はやぶさ」は飽くまで小惑星往復に初めて挑んだ「実験機」だったのに対し、二代目は有機物や水のある小惑星を探査して生命誕生の謎を解明するという科学的成果を上げるための初の「実用機」として開発され、いろいろな改良が施されているらしい(Wikipedia)。民主党への政権交代に伴う事業仕分けで予算が減額された、いわくつきのプロジェクトだ(もしかしたらそれはフェアじゃなくて、そもそも2007年度の予算折衝でJAXAの組織内部の問題を指摘する声もある)。
 いずれにしても、二代目「はやぶさ」は、今後、燃費に優れたイオンエンジンを本格的に稼働して航行し、三年後に小惑星「リュウグウ」に到着し、約18ヶ月の滞在中、3回着地して計100ミリグラム以上の岩石を採取し、5年後(2020年末)に地球へ帰還する計画なのだそうだ。随分、気の遠い話だが、2020年末というのは、東京オリンピックの興奮冷めやらぬ中、再び、満身創痍ながら擬人化されるほど待ち望まれた初代「はやぶさ」同様の感動的な帰還が見られるだろうか。まさに「宇宙の夢」だ。
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宇宙の夢・続

2015-12-14 01:24:33 | 日々の生活
 「宇宙の夢」と言うからには、金星探査機「あかつき」を、金星を回る軌道に投入するのに成功したことにも触れなければならないだろう。これによって、日本は遅ればせながら惑星探査の仲間入りを果たすことが出来る。惑星研究では、日本はこれまで海外からデータを貰う立場だったが、今後はデータを提供できる立場に変わる。
 金星についてWikipediaで調べて見た。太陽系の中で4つある地球型惑星(水星・金星・地球・火星で、主に岩石や金属などの難揮発性物質から構成される惑星)の一つで、太陽系内で大きさと平均密度が最も地球に似た惑星であるため、「地球の姉妹惑星」「双子の星」と呼ばれる。ところが、二酸化炭素を主成分とする大気の大気圧は地表で約90気圧にも達し(地球での水深900mに相当)、地表の構造物に対する強力な風化作用を働くとともに、その温室効果により、地表温度は平均で464℃、上限では500℃にも達し、太陽に最も近い水星の表面温度(平均169℃)よりも高くなるという。他方、二酸化硫黄の厚い雲は太陽光の80%を宇宙空間に反射し、地表に届く日光は極めて少ないために、本来なら金星の地表温度は氷点下になっているところであり、また、その雲から降る硫酸の雨が金星全体を覆っているが、その灼熱のために、雨が地表に届くことはない、という。
 地球とは随分違った様相だが、かつては殆ど同じような大気から成っていたとする説があるそうで、なかなか興味深い。以下はWikipediaからの引用。

(引用)
 ・太古の地球と金星はどちらも現在の金星に似た濃厚な二酸化炭素の大気を持っていた。
 ・惑星の形成段階が終わりに近づき大気が冷却されると、地球では海が形成されたため、そこに二酸化炭素が溶け込んだ。二酸化炭素はさらに炭酸塩として岩石に組み込まれ、地球大気中から二酸化炭素が取り除かれた。
 ・金星では海が形成されなかったか、形成されたとしてもその後に蒸発し消滅した。そのため大気中の二酸化炭素が取り除かれず、現在のような大気になった。
(引用おわり)

 しかし、そんな過酷な実像が分かったのは最近のことで、太陽と月に次いで明るく見える星で、「明けの明星」「宵の明星」と呼ばれるように、その神秘的な明るい輝きは、古代から人々の心に強い印象を残して来た。それぞれの民族における神話の中で象徴的な存在の名が与えられ、古代ギリシャでは、ピュタゴラスがビーナス(アフロディーテ)、「美の神」と名づけたのだった。
 もう一つ、「あかつき」が注目されるのは、2010年5月に打ち上げ後、同年12月、主エンジンの故障で金星周回軌道投入にいったん失敗しておきながら、機体損傷を乗り越えて復活投入に成功したことで、世界初の快挙と言われる。惑星探査機では、2003年に火星探査機「のぞみ」が周回軌道投入を断念しているため、言わば三度目の正直である。日本では開発予算が限られているであろうし、その執念は見上げたものだが、何と言っても技術力の裏付けあってのことで、日本人として誇るべきことなのだろう。
 「あかつき」は金星のいわば気象衛星として、順調に行けば来年4月から2年間、本格的な観測を実施するらしい。大気の運動や構造、雲の生成メカニズム、活火山の有無などを調べるという。金星だけでなく地球の進化を解明する新たな発見に繋がることを期待したいものだ。
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宇宙の夢

2015-12-12 11:39:43 | 時事放談
 国際宇宙ステーション(ISS)でも5年前からインターネットが使用できるようになったらしい。以来、日本人飛行士は宇宙でツイッターを活用してきて、昨日、帰還された「中年の星」油井亀美也さん(45歳!)もISS入りしたときには「皆さんの地球は、皆さんと同じでとても美しいです」とツイッターに呟いた(http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20150726)。その後、産経新聞に寄せた手記では「(地球は)でもあまりに小さい…。この小さな星が生命に生命に満ちあふれていることの奇跡を感じる(後略)」と付け加えられていた(以下は8月9日の産経Webから)。

(引用)
ISSの第一印象として大きかったのは、やはり窓からみえる地球です。本当に美しい! でもあまりに小さい…。この小さな星が生命に満ちあふれていることの奇跡を感じるとともに、その生命の代表として人類が無限の宇宙へ挑んでいる姿が、このISSなのだと感じました。そのISSの中でも、「きぼう」はとても大きく、また機能美を感じさせます。さまざまな機能を備えた「きぼう」は、アイデアしだいで、新たに多種多様な実験を行うことが可能な人類の宝です。これから、この「きぼう」を最大限に利用するための挑戦が始まります。
(引用おわり)

 私も上の子(大学2年)の年齢くらい若いなら、宇宙飛行士を目指したいくらいで(苦笑)、「地球は青かった」と言えるような大きさに見えるくらい離れた宇宙から地球を眺めてみたいものである。それはともかく、上に引用した通り、「(地球という)この小さな星が生命に満ちあふれていることの奇跡を感じる」ことに続けて「その生命の代表として人類が無限の宇宙へ挑んでいる姿が、このISSなのだと感じました」と語った、まさにその通り、油井さんは約4ヶ月半のISS滞在中、物資補給機「こうのとり」5号機をロボットアームで連結させる作業を成功させた。米国やロシアの補給機で失敗が相次いで、ISSでの生活物資も細る中で、航空自衛隊パイロット時代に習得した高度な操縦技術を生かし、日本の存在感を見せつけた形だ。そのときのツイッターでは「こうのとりは日本が技術大国である象徴ですし、その技術を培ったのは、我々の先輩であり、皆さんでもあります」との思いを綴った。また、日本実験棟「きぼう」から、流星を観測するために千葉工業大の超小型衛星を放出させ、無重力の影響を探る植物実験や、宇宙滞在が目に及ぼす悪影響を調べる医学実験も被験者になって実施したし、周回軌道上からの惑星探査を想定し、地上の探査車を遠隔操作する欧州の実験にも参加し、米国人飛行士の船外活動支援にも取り組んだらしい。「宇宙の夢」が膨らむ話だ。
 私個人の「宇宙の夢」の方に話を移すと・・・無重力状態に慣れるまでは、気持ちの良いものでも、便利なものでもないと言う。そりゃそうだろう、落ち着かないだろうと、私も想像してみる。実際に、宇宙空間では物を一つの場所に止めることが難しく、物を離せばその場にはとどまらず、小さな力でもどこかへ飛んでいってしまうため、面ファスナーか粘着テープなどで毎回しっかり固定しておかないと、なくしてしまい、なくした物を探すときは、床だけでなく3次元の空間を探さないといけないため、非常に時間もかかると述べておられる。ところが暫くして無重力状態に体も頭の空間認識も慣れてしまうと、逆にこれほど便利な所はないのだそうだ。道具などは床、壁、天井など、どこにでも張り付けておけるし、作業場所が高い所にあって手が届かないとか、手を挙げていて疲れるといったこともなく、天井で作業をするときは天井に張り付いて、壁で作業をするときは壁に張り付いて作業をすればよいと言う。地球では当たり前のことが、当たり前でなくなる・・・卑近な例では、海外旅行だって日本では当たり前のことが当たり前でなくなる小さな体験に驚くわけだが、子供の頃にアポロ計画が実現するニュースを目にした私のような世代の者としては、やはり、死ぬ前にちょっと味わってみたい宇宙体験だ。油井さんが羨ましい。
 中国は、2007年1月と2014年7月に、ミサイルによる衛星破壊実験を行い、米戦略軍の司令官が、衛星攻撃兵器(ASAT)の実戦配備へ向けた運用能力の向上と、宇宙ごみの拡散という両面から脅威だとの認識を示して批判したことがあった(今年3月25日の産経Web)。衛星破壊実験は、米国や旧ソ連も冷戦時代に、米国は地上から打ち上げたミサイルを人工衛星に直接体当たりさせる直接上昇方式で、旧ソ連は地上から打ち上げたロケットで誘導体を目標となる人工衛星と同じ軌道に遷移させ、接近させて自爆し、破片によって目標を破壊する共通軌道方式(所謂キラー衛星による“自爆テロ”)で、実施しているが(Wikipedia)、宇宙ごみの拡散という問題が明らかになり、1985年を最後に実験を中断している。宇宙ごみは、1グラム以下の破片でも衝突時は秒速10キロ以上という超高速で、衛星に多大の被害が出る危険性が増して話題になっているものだ。実は、中国による2007年1月の衛星破壊は、意図したものではなかったのでは・・・という見方がある。有人宇宙活動をおこなう場合、今回、油井さんがISSで物資輸送機を捕捉したようなランデヴー・ドッキング技術が必須だが、それを習得しようと接近実験中、失敗したのではないかというのである。また2014年の実験では中国は「(ミサイルで)衛星を破壊するには至らなかった」と、米戦略軍の司令官は明らかにした。そしてそれが意図したものなのか失敗したものなのかは「確信はない」としながらも、「中国は運用能力を向上させるため、データを収集した」と指摘し、「実験は中国が、宇宙空間における軍事活動に傾注していることを示し、(米国も)備えなければならない」と強調した(産経Web)。米軍は早期警戒衛星により弾道ミサイルなどを探知するミサイル防衛(MD)を運用しているため、中国の衛星破壊実験はこれへの対抗措置だと見て警戒しているのだが、それを見越してジョージ・フリードマンは「100年予測」の中で、今世紀後半には、衛星ではなく月に設置するレーダーなどの軍事基地が重要になってくると解説した。ことほど左様に、宇宙空間は、サイバー空間とともに、第四、第五の新たな戦場として、虚々実々の駆け引きが始まっている。
 確かに科学技術に軍事用途と民生用途の色分けは出来ず、日本のロケット技術は、中国や韓国に言わせればミサイル実験ということになるし、日本の原発についても、核軍縮を審議する国連総会の第1委員会で、中国に「日本はプルトニウムを大量保有し、それは1350発の核弾頭の製造に十分な量だ」と批判された(10月20日)のは記憶に新しい。核保有国の中国に言われたくないものだが、まあ今どき両用(dual-use)技術と言って、全てにおいて警戒されて仕方ない面もある。しかし日本のありようは、この夏の安保法制論議の中でも、あろうことか同じ日本人である野党や左派あるいは日本の自称リベラル(グローバル・スタンダードと区別するために敢えてこう呼ぶ)に大いに“誤解”されたものだが、集団的自衛権を容認しようが、徹底的に「平和国家」に拘って然るべきだし、そのありようを世界に向けて発信し続けるべきだと思う。油井さんが二週間前に産経新聞に寄せられた手記(11月29日の産経Web)に大いに賛同するので、引用したい。まさに憲法前文で述べられた「(前略)われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ(後略)」という平和国家・日本の決意表明を連想させる表現があり、微笑ましい。

(引用)
今回の任務、特にこうのとり5号機の活動を通じて、私はISS計画に参加する各国の日本への信頼の高さを実感できました。今後は日本の有人宇宙開発がさらに進展し、日本が国際社会の中でさらに力を発揮した上で、米露をはじめ宇宙開発に関わる各国から頼られるような存在になるべく、私も努力していきたいと思います。宇宙開発事業は、簡単ではありません。私たち関係者の力だけでは限界があります。人類の未来を担う有人宇宙開発の分野で名誉ある地位を得て、国際社会から尊敬される国になるためには、日本の皆さんがその重要性を認識し、日本の持っている力を結集する必要があると感じています。
(引用おわり)
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中国・落穂拾い

2015-12-10 00:00:07 | 永遠の旅人
 北京では昨日から再び大気汚染が深刻で、2013年10月に警報システムが試行・導入されてから初めて最も重い1級(赤色)警報が、昨日に続いて今日も発令中のようである。北京の小学校は休校だったようだし、市中心部の天安門広場を警備する武装警察はマスク姿で巡回に当たり、日本の侵略に反対した1935年の学生運動「一二・九運動」から80年の折角の記念行事も、屋外活動は大気汚染のため中止に追い込まれるなど、影響が徐々に広がっている。
 私が先週、上海経由で西安を訪問するちょっと前、11月末から12月初にも、北京ではこの冬最悪の大気汚染が報じられ、北京経由にしなくて良かったと安堵したものだった。それでも上海でも薄っすらと曇っていたのは、風の影響でやはりPM2.5が運ばれて来るのだと聞いたが、もとより北京の比ではない。
 逆に北京では風の影響で大気汚染が和らぐものらしい。ネットでは「政府ではなく風が頼り」だとか「かつては雨乞いをしたが、今は風乞いが必要だ」などと言った書き込みで溢れているらしい。上手いものである。さらにストレートな批判は削除される可能性があるため“褒め殺し”の書き込みも溢れていて、「この汚染でみな65歳以上は生きられないだろう。これで年金問題も解決だ」とか「改革開放の成果は平等に得られなかったが、大気汚染は人々にとって平等だ」さらには「大気汚染は公平だ。首都にいる人間はみな被害者。預金額や所有不動産、戸籍で差別されることはない」など、実に風刺が効いている。
 今日の昼食時、同僚とそんな彼の地の大気汚染の話に及んで、そう言えば中学校の校歌には黒い煙(静岡)とか四色の煙(北九州)が成長か繁栄の証のように謳い上げられていたと回顧する者がいた。へええ、である。確かに戦後の荒廃から立ち上がった頃、田舎ほどそういった晴れがましい空気に包まれることがあったかも知れない。今となっては想像もつかないことではある。しかし、そんな悠長な時の流れは、中国には存在しない(中国と言わず、アフリカや中南米の新興国も同じ)。何もかもすっ飛ばして、古代から(!)いきなり(おらが田舎の誉れより、個人の権利意識が強い)現代であろう。
 上海から西安に移動する空港や機内でも、スマホは当たり前、今なおガラケーを握りしめる私は恥ずかしいくらいだった。彼らは黒電話など見たこともないだろうし、弁当箱のような移動電話(あるいはむしろ自動車電話)があったことなど聞いたこともないだろう。「東京ラブストーリー」でリカとカンチが待ち合わせて、携帯電話がないものだから連絡が取れず、電話ボックスで呼び出し音を聞きながら、すれ違いに気づくときのやるせない思いなど、想像もつかないだろう。彼女の自宅(の固定電話)に電話して、ご両親のいずれかが出る時のドキドキ感も、知る由もあるまい。
 国内を移動するときも、広い中国では、さすがに鈍行の夜行列車というわけには行かないかも知れないが、今は少なくとも飛行機が当たり前で、時間感覚もまた古代からいきなり現代といった風情なのである。中国内の飛行機は、アメリカのシャトル便のように都市間を一日5往復も6往復もするものだから、夕方になるほど到着時間に遅れが出て、2時間以内の遅れであればOn-timeと受け止められるそうだ。遅れるのが常なら、初めからそれだけの余裕をもたせた運行スケジュールを組めばよいのにと思うが、セッカチなのか、ケチなのか、そういうものでもないらしい。そこで果たして乗継ぎが上手く行くのか気を揉んだ西安~上海~羽田の帰国便は、ほぼ予定通りに運行され、上海~羽田に至っては、偏西風が手伝って予定より20分も早く到着してしまって、お蔭で映画を観終えることが出来ず、欲求不満のまま機内を後にしたのだった。
 今の大気汚染にまみれた北京は、物理的な環境面では40~50年前の日本と似たようなものだろうが、精神面では、インターネットが水道や電気のように各家庭まで届けられるインフラとなっているだけでなく、無線が降り注ぎ、一人一台のスマホを持ち歩いて、いつでもネットにアクセスして好きな情報を取り、GPS機能によって見知らぬ土地でも迷うことがないなど、世界の最先端を生きる現代人の国である。そのギャップは私たち日本人には計り知れない。
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中国・西安の旅

2015-12-08 01:16:05 | 永遠の旅人
 タイトルに西安と言っても、出張で訪れたのは、残念ながら城壁の外の開発団地で、味も素っ気もなかった。そのため、土曜日朝、出発前の僅かの時間を縫って訪れた兵馬俑の印象を書く。
 あの20世紀最大の発見の一つと言われる兵馬俑である。中国4000年の歴史において、史上初めて天下統一し、封建制を否定して導入した郡県制による中央集権体制は、以後2000年近くも採用され続けるなど、その後の中国の歴史に多大なる影響を与え、偉大ながらも、焚書坑儒に見られるように成り上がり者で歴史や伝統でさえ何でも思い通りにできると考える暴君だったという評判の、あの始皇帝の墓を守る副葬品の数々である。唐の詩人・李白は「国風」四十八で、統一を称えながらも、始皇帝の行いを批判したらしい。
 そんな伝説の始皇帝陵と兵馬俑の存在は、史記や漢書など、古代中国の数々の歴史書に記されていたらしいが(Wikipedia)、動乱により所在地はおろかその存在までも疑問視される状態だったらしい(同)。しかしそれも、1974年3月29日、干ばつに窮した地元農民(楊志発さん)が井戸を掘っていて偶然発見するまでのことである。考古学界は驚天動地だったことだろう。その後、1987年には秦の始皇帝陵の一部として世界遺産(文化遺産)登録され、当の楊さんは、兵馬俑を展示する博物館の名誉副館長となり、写真集にサインをして販売するなど悠々自適の生活だったらしい(今は老齢で引退してしまったらしいが)。
 前置きが長くなったが、兵馬俑は見る者を圧倒する。全体でひとつの軍団を写したもので、将軍、歩兵、騎兵など、軍団を構成するさまざまな役割の将兵が配置された3つの俑坑の規模は2万平方メートルを超え、既に1000体の発掘と修復が終わっているが、今なお発掘・修復中で、総計8,000点に及ぶ俑(=人形と書いてヒトガタと読む、人間の代わりに埋葬された陶製の像)の全ての修復を完了するまで後200年はかかろうかという、サクラダファミリアのような壮大さである。
 その造形の緻密さにも驚かされる。当時、実在した兵士をモデルに造られたと考えられる俑には、どれ一つとして同じ顔をしたものはいないし、手の皺や靴の裏の滑り止めまで、実に緻密に刻まれているらしい。漢書に、秦の始皇帝陵が項羽によって破壊されたと記されている通り、叩き壊され焼かれた跡が発見されたそうだ。さらに出土した矛、戟、刀や大量の弩、矢じりには、クロムメッキ処理が施されていることも判明したらしい。クロムメッキと言えば1937年にドイツで発明された近代のメッキ技術のはずだが、2200年前の中国人はこの技術を知っていたことになる。その後の漢の時代に作られた銅剣は、皆ボロボロに腐食していることから、この技術は継承されなかったことが明らかであり、それもまた謎めく話である。
 それにしても始皇帝は、なぜ膨大な兵馬俑や銅車馬を陵墓の周囲に埋めさせたのか。しかも即位した13歳から死ぬ49歳まで、36年もの歳月をかけるという、途方もない権力を見せつけるかのように労力をかけてのことである。近年の調査によると、来世に旅立つ始皇帝のために造成されたというこの遺跡は、始皇帝の身を守る軍隊だけでなく、宮殿のレプリカや文官や芸人等の俑まで発見されており、生前の始皇帝の生活そのものを来世に持って行こうとしたのではないか・・・という見方が有力らしい。死してなお皇帝として天下統一する野望が垣間見えるのである。恐ろしい執念ではないか。
 因みに兵馬俑坑の西約1.5キロメートルにある始皇帝を埋葬した陵墓の発掘作業は行われておらず、比較的完全な状態で保存されているらしい(Wikipedia)。考古学者が墓の位置を特定して探針を用いた調査を行ったところ、自然界よりも濃度が約100倍も高い“水銀”が発見され、伝説扱いされていた建築が事実だったことが確認されたらしい(Wikipedia)。古代においては、辰砂(主成分は硫化水銀)などの水銀化合物は、その特性や外見から不死の薬として珍重され、とりわけ中国の皇帝に愛用され、不老不死の薬「仙丹」の原料と信じられていたという(錬丹術)。それが日本にも伝わり、飛鳥時代の女帝・持統天皇も、若さと美しさを保つために飲んでいたと言われるが、これは現代の私たちから見れば毒を飲んでいるに等しく、危険極まりない。始皇帝を始めとして多くの権力者が中毒で命を落としたと言われる所以である。どうやら、水銀が毒として認知されるようになったのは、中世以降らしい。
 いずれにしても、この壮大なる兵馬俑の広さは、実は始皇帝陵墓の僅かに0.00035%(どこかの国の金利かと見紛うが)というから、これまた驚きである。いやはや、中国の皇帝の権力の絶大なること、私たち日本人の想像を絶するものがある。現代でも中国共産党の中央幹部が海外に逃す資金は数千億円という、日本人の我々からすると途方もない規模に達するのも、その名残りであろうか。
 戦前の日本で語り継がれた中国の残酷さは、その権力の絶大なることと裏腹のように見える。
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中国・上海の旅

2015-12-06 20:06:11 | 永遠の旅人
 水曜日から上海と西安に出張して来た。先ずは上海の印象から。
 相変わらず一泊しただけの駆け足の旅だから、雑な印象に過ぎないのだが、この街を見ていると、得体の知れない中国という統治機構あるいは国家体制を論じることの難しさを思う。上海は、東南アジア諸国の開発独裁の大都市とさほど変わらない(結果としてそうなのではなく、実際にそのような発展を目指して来たのだろうが)。まったく国家というものの実体の不思議を思わざるを得ない。一つには、よく言われるように、中国の(北京を中心とする)北と(上海を中心とする)南とでは国柄が違うと言われるほどの違いがあるのだろう。もう一つには、それとも関連するが、私たちが普段、新聞・雑誌で目にする中国は、政治的には共産党一党独裁であり、経済的には国家資本主義で、対内・外政策は強権・覇権的であり、そんな硬い言葉で形容される中国を総称して中華帝国と揶揄され、そこでは13億の民の一人ひとりに完全な自由はないし国家権力のもとでは全く無力なのだが、国家を支えているのはそんな13億の民の日々の経済活動であり、西欧的な価値観としての選挙制度はないにしても、そんな13億の民の信認なくして国家(共産党の統治)はやはり成り立ち得ない、ということである。
 今の中国を象徴するようなエピソードを聞いた。この夏の上海株式市場の株価暴落で、影響を受けたのは株式投資できる一握りの高額所得者だけであって一般民衆には関係がなかったと話す著名エコノミストがいたが、話半分のようだ。実は民衆の9割方は多かれ少なかれ株式投資に手を染めているらしい(と聞いていたが、本当らしい)。ギャンブル好きな中国人の面目である。他方、彼らは株価が多少下がっても国が何とかするだろうと高を括っていたらしい。実際のところ、暴騰のあと暴落したところで、3月頃の水準に戻しただけで、その間、慌てて売り買いをして多少のボロ儲けをしたり損をこいたりということはあっただろうが、3月以前から株を持っていた大多数の一般民衆にとっては今の水準でも十分に高いままなのである。当時、習近平政権のなりふり構わぬ株価維持対策は、まさにこうした民衆の信認を失わないがためであったことと考えると合点がいく(と、当時もそのような議論があったが、まさにそのようだ)。
 しかし上海の人々の所得水準を侮ってはいけない。スタバのドリップ・コーヒーは、トール・サイズが17元(320円)、グランデ・サイズが20元(380円)と、為替によっては日本より高くなるほどである。以前、マレーシア(ペナン)に駐在していた頃、徒然なるままに訪問した東南アジア主要都市に所在するスタバのコーヒーの値段を調べたことがあったが、マック指数に似て、スタバ指数も実感として生活水準を反映していたことを確認した。上海で、この金額を払ってコーヒーを買う購買層が当たり前に大勢(店を成り立たせるほどには)いるというのは、やはり驚きである。
 習近平政権は、前の胡錦濤政権が2012年の共産党大会で発表した所得倍増計画(2020年の国民所得を2010年比で2倍にする)の旗をおろすつもりはないようだ。むしろ所得倍増ありきで経済運営しているように見える。7%成長を続けて行けば、計算上は10年後に1.967倍になる、7%というのはマジック・ナンバーである。しかし、今回訪問した西安のような地方都市でも高層マンションが立ち並ぶ様は壮観と言うより異様だった。売り出し中の垂れ幕が、長らく風に晒されて薄汚れて、所謂ゴーストタウン化しているのだ。この広大な中国で誰がどうやって計算したのか知らないが、今や13億の国民の約3倍の人が住める収容能力があると、西安・兵馬俑を案内してくれたガイドのお姐さんが話していた。観光ガイドのお姐さんが喋るくらいだから、人口に膾炙していることなのだろう。そこまでして頑張って維持して来た7%を(実際にはその水準すら疑われてきたわけだが)、今後も維持できるわけがないことは、もはや自明である。
 結局、「世界の工場」を返上せざるを得ないほどに、民心維持に汲々としているのが実態ではあるまいか。経済的な活力(あるいはGDP)を落とすことなく、いかにして内需主導のサービス経済にスムーズに移行(すなわちソフトランディング)出来るか、そしてその過程で、「世界の工場」は沿岸部のみが栄えたが、今後はその繁栄をあまねく国内に、とりわけ内陸部にも行き渡らせ、所得格差をそれなりに解消できるかどうかが、習近平政権に課せられた課題なのだろう。
 フォルクスワーゲンの偽装問題は、中国では問題ではなくて、VW車は相変わらず売れているそうで、数少ないながらも話をした中国人はモノともしないと話していた。そんな中国をしたたかと見るか、品質の低い薄っぺらな社会と見るか、意見は割れようが、少なくとも上海の人々の、中共という異形を感じさせないほどの日々のごく当たり前の力強い経済活動や自信を見ていると、私たちは中共を過大評価しているのではないか・・・そんなことを思わせるほどの繁栄だった。
 なお上の写真は、上海ではなく、西安・兵馬俑の前に軒を連ねるレストラン。右手看板にあるけったいな文字は、中国で最も画数が多く、58画あるとされるが(私には57画にしか思えないが、旧字体としてカウントする部分があるのだろうか)、どうやら正式の漢字ではないようだ。陝西省で一般的な麺「ビャンビャン麺」を意味する。もともと水の乏しい同地域の田舎で食された貧民食だったが、近年ではその風変わりな表記が注目を集め、西安市などの都市でも提供されるようになったという。ラーメンと言うよりきし麺に近いが、唐辛子や刻み葱やピーナッツ油をかけた中国的な味付けは、ラーメン好きの日本人にも受け容れられるなかなか美味い麺だ。
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