風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

自衛隊の中東派遣

2019-12-26 23:40:49 | 時事放談
 イランの話が出たついでに・・・明日にでも自衛隊を中東に派遣する閣議決定が行われる予定だ。アメリカ主導の有志連合「海洋安全保障イニシアティブ」とは一線を画し、日本独自の行動をとるのは、日本にとって友好国とされるイランなどに配慮するものだろう。それはともかくとして・・・
 今回は、海上自衛隊の護衛艦1隻を派遣するとともに、ソマリア沖で海賊対処にあたっている哨戒機2機の内の1機の任務を切り替えて活用し、アラビア海北部のオマーン湾からアデン湾あたりの公海を対象に、「防衛省設置法」に基づく「調査・研究」を法的根拠とする情報収集活動を行うという。
 市民活動家の方は、閣議決定だけで全てを決めるのはオカシイ、民主主義なのに国会が機能していないと非難されるが、「調査・研究」名目ごときをわざわざ国会で承認するのはやり過ぎだろう。法律上、「調査・研究」は防衛相の判断で実施できるところ、連立を組む公明党が決定プロセスへの関与を強めたいがために「最低でも閣議決定が必要」だと政府に要請したものらしいのだ。
 また、市民活動家の方は、軍事的な緊張が極めて高い状態の中東地域に自衛隊を派遣することは、自衛隊が紛争に巻き込まれ、そのまま武力行使もしくは戦争状態などに巻き込まれる危険性が極めて高いことを懸念されるが、果たして当該地域が「軍事的な緊張が極めて高い」かどうかは措いておいて(理屈の上では、現地の情勢はそれほど厳しくないからこそ「調査・研究」名目で出すのだと思われる)、そもそもトランプ大統領が、ホルムズ海峡を通る船舶についてはそれぞれの国が自分で守れと真っ当なことを言ったことに端を発することなので、紛争への巻き込まれの危険性については理解するも、日本だけ自衛隊を派遣しないでその任務を他国に押し付けるわけには行かないだろう。
 しかし、この「調査・研究」目的では、武器使用は正当防衛か緊急避難以外には認められないため、仮に日本の船舶が襲撃されるなどの危険に晒された場合、そのままでは護衛艦は武器を使わずに体を張って割って入って盾になることくらいしか出来ないようだ。そのため、こうした不測の事態が起きた場合には、「自衛隊法」に基づき、武器使用が可能となる「海上警備行動」を発令するために、あらためて閣議決定が必要になるという。
 こうして、武器使用に当たってのハードルをあげて、安易な武器使用に至らないようコントロールするのは、国民感情として安心には違いないが、果たして現場は困らないのだろうか。一応、機動的に対応するため、電話での閣議決定が出来るようになっているらしいが、小刻みに法的手続きを定めることが、能動的にシームレスに行動したいであろう現場の便宜に叶うものとは思えない。その意味で、市民活動家の方が、今回は事実上の海外派兵で、調査研究なんて名目は詭弁だと非難するのは、現場感覚に合っていないという意味で、正しいと思う。
 さらに言うなら、「海上警備行動」は自衛権ではなく警察権の行使となるので、警察官と同様、トリガーを引いたら引いた本人に責任が及ぶことになるらしいが、果たしてそんなことでよいのだろうか。因みに日本ではタテマエ上、自衛隊は軍隊ではなく、自衛隊員は軍人ではないから、グローバル・スタンダードな軍法会議が日本にはなく、仮に自衛隊員が人を傷つけた場合、一般の刑事裁判で殺人罪や傷害罪が適用されるリスクに晒されてしまう。
 ことほど左様に、日本では安全保障の本音の議論がタテマエによって邪魔されるばかりか、法律論にスリ変わり、法律論によって現場のオペレーションが歪められているように思われる。自衛隊員のことを思えば、グローバルな観点から見て異常な事態は一刻も早く修正すべきと思う気持ちはやまやまだが、国内にそれを許す雰囲気がなさそうなのが哀しい。
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イランを巡って

2019-12-23 23:16:15 | 時事放談
 イランのロウハニ大統領が、マレーシアで開催されたイスラム諸国の国際会議に出席したついでに日本に立ち寄り、安倍首相と会談した。振り返れば、5月末のサミット直前にイラン外相が急遽来日して河野外相(当時)と会い、それを受けて安倍首相が翌月にイランを訪問し、ハメネイ師からも厚遇された。9月にはニューヨークで再びロウハニ大統領と会っているので、この半年で三度目になる。
 かねてイランの経済低迷が伝えられてきた。国庫収入の7割以上を原油・天然ガスや石油化学製品の売却益が占めるイランにとって、基軸通貨ドル取引の停止というアメリカの伝家の宝刀とも言える経済制裁は、厳しい。余談になるが、そこが同じ核問題で対立しながら国際社会にさほど組み込まれていない極貧国・北朝鮮との違いでもあろう(と言っても、北朝鮮も制裁による影響で疲弊しているのは事実のようだが)。先月には、ガソリンへの補助金カットを機に反政府デモが国内全土に拡大し、機銃掃射などで1000人以上が殺害された可能性があるとされ、ロイター通信は「革命体制の過去40年で最大」の抵抗運動だった可能性があると伝えた。核合意(JCPOA)の当事国である英・仏・独すら手を拱いており、イランとしては藁をもすがる思いで、再び日本の仲介を求めたのだろう。
 ロイターによれば、安倍首相が日本の船舶保護に向け中東に海上自衛隊を派遣する計画を伝えたのに対し、ロウハニ大統領は理解を示し、安倍首相はまた2015年の核合意の履行を求めたほか、中東の安定化のためにできる限りのことをすると述べたのに対し、ロウハニ大統領は、核合意を維持できるよう日本などに協力を求めるとしたらしい。
 それにしても、日本の首相がなかなか微妙な橋渡し役を引き受けたものだと感心する。かつてなら考えられなかったことだ。これも、オバマ前大統領による核合意(JCPOA)のレガシーを否定し、有権者の28%を占めるキリスト教福音派に露骨に阿るトランプ大統領という異能が登場した因果であろうか。そのトランプ大統領の懐に飛び込めるのは世界広しと言えども安倍首相を措いて他になく、また日本はキリスト教国の欧米とは異なる親密な眼差しをイスラム諸国から向けられ、イランとも伝統的に良好な関係にある。イランはイスラエルとも、またアラブの盟主・サウジとも対立しており、イランが核能力を獲得すれば、サウジはパキスタンとの合意により核技術を入手することになっていると伝えられ、中東での核ドミノが懸念される。さりとて選挙モードに入りつつあるトランプ大統領に妥協の余地は乏しいだろう。イランを巡り、せめてこれ以上後退しないような展開を期待したい。
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行き過ぎたグローバル化

2019-12-16 00:08:20 | 時事放談
 もはや旧聞に属してしまうが・・・ニューズウィーク誌12・3号(紙版)によれば、自由貿易論者のクルーグマン教授が宗旨替えしたらしいと、知人が驚いて話しかけて来たものだから、私はそうは受け取らなかったけど、と答えつつ、もう一度、件の雑誌を読み返してみた。確かにタイトルは「宗旨変えしたノーベル賞学者」とあって、なかなかセンセーショナルだが、「宗旨変え」とは言い過ぎのような気がする。これが同誌Web版の記事タイトルになると紙版と違って「グローバル化の弊害を見落とし、トランプ台頭を招いた経済学者のいまさらの懺悔」と明快だが、「トランプ台頭を招いた」とか「懺悔」と言い切るあたりに剣があるのは、やはりニューズウィーク誌らしいと言えようか(苦笑)。更に英語版の記事タイトルになると“Economists on the Run”とあって、逃げ回っているとか潔くないと追及するニュアンスになるのだろうか、チクリと手厳しいなりにもギスギスしたところがなく、英語らしい膨らみが出てくる。
 どういうことかと言うと、彼自身を含め主流派の経済学者は、「グローバル化が『ハイパー・グローバル化』にエスカレートし、アメリカの製造業を支えてきた中間層が経済・社会的な大変動に見舞われることに気付かなかった。中国との競争でアメリカの労働者が被る深刻な痛手を過小評価していた」(he and other mainstream economists “missed a crucial part of the story” in failing to realize that globalization would lead to “hyperglobalization” and huge economic and social upheaval, particularly of the industrial middle class in America. And many of these working-class communities have been hit hard by Chinese competition, which economists made a “major mistake” in underestimating, Krugman says.)というのだ。結果的に彼らが自由貿易をせっせと推奨したばかりにトランプ政権誕生を助けたのではないか(Did America’s free market economists help put a protectionist demagogue in the White House?)というわけだ。
 クルーグマン氏が“his own understanding of economics has been seriously deficient”と認めた、つまり十分じゃなかったと白状しているのは、自由貿易そのものへの信頼が揺らいだと言うよりも、大国・中国が、まさかここまで短期間に急成長を遂げるとは夢にも思っておらず、その影響の甚大さを見誤ったということだろう。例えばマレーシアのような規模の国が高度成長を遂げたところで、アメリカに与える影響はたかが知れていて、変化は吸収することができる。しかし人口14億の中国には、ネット人口だけで(という意味は、言わば地方の極貧の人々を除いて)8億もいて、ざっくり日本の10倍、西欧主要国の20倍、マレーシアやオーストラリアの40倍もある。それでも20年前は、日本のGDPの四分の一の規模に過ぎなかった中国に対し、日・米・欧こぞって無防備・無警戒なことにカネと技術をせっせとつぎ込んだのだった。最近、アメリカで党派を超えて対中緊張が高まっているのは、民主主義平和論、すなわち市場経済に組み込まれ、相互依存が進めば、さしもの中国の政治も民主化し、責任あるステークホルダーへと導くことが出来るだろうというナイーブな期待がものの見事に裏切られ、失望が広がっているからだと説明されるが、それにしても今さらながら余りに無防備・無警戒だったと言わざるを得ない。日本のデフレだって、中国の存在抜きには語れないだろう。
 問題は、人類史上最大の中央集権国家が登場しつつあり、しかも国家資本主義に邁進していることの威圧感であろう。アメリカでも欧州主要国でも日本でも、対抗上、国家が経済に関与する産業政策的な議論が(良いか悪いかは別にして)復活しつつある。巨象・中国に蹴散らかされないよう、(ただでさえ地理的にモロに影響を受けかねない)日本も心してかかって行かなければならないところだが、大丈夫かなあ・・・。
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BREXITの行方

2019-12-13 22:29:20 | 時事放談
 事実上の国民(再)投票と言われたイギリス下院・総選挙で、ジョンソン首相が率いる与党・保守党が大勝し、1月末でのEU離脱が確実になった。
 定数650だから過半数326のところ、改選前の298から364議席へと、保守党としてはサッチャー政権下の1987年の総選挙以来となる大勝利を収めたということだ。さすがのイギリス国民も「決められない政治」にほとほと愛想が尽きてしまったと見える。外野で見て来た私たちだって、3年前なら焦っていただろうが、ことここに至っては、いい加減どちらかに決めたら!?・・・という気持ちである(苦笑) 実際、数週間前にあるシンポジウムを傍聴したとき、欧州専門の政治学者は異口同音に、この三年半で、イギリスなき後のEU(逆にEU離脱後のイギリス)について十分に頭の体操(シミュレーション)が出来た、つまり心の準備は出来ている、と言っていた。結局、多少の地盤沈下はあるにしても、(今の)イギリスは所詮は(かつての)イギリス(欧州大陸から少し離れた島国で、バランサーとして大陸の権力政治を外からコントロールしてきた大英帝国の成れの果て)であって、たとえ主権の一部であっても上位組織のEUに委譲するなんざあ許せない、ということなのだ。これぞイギリスの心意気と言うべきだろう(笑)。それに、EU離脱と言っても、別に喧嘩別れするわけではなく、依然、イギリスはEUのパートナーであることに変わりない。EU軍への傾斜は恐らく反転するだろうが、その分、NATOの存在感が高まるだけのことだ。安倍さんは早速、イギリスがTPPに加入したいなら歓迎すると語ったようだ。
 そうは言っても、そのシンポジウムで、イギリスが離脱した後のEUのリーダーシップを懸念する声が、これも異口同音にあがっていた。これまで独・仏・英という個性ある三つの大国が結果としてバランスよくリードして来たが、イギリスが抜けると独・仏の二ヶ国になり、しかも独はリーダーシップをとる気がない・・・これについては時間の制約があって詳しく聞くことが出来なかったが(第一次~第二次世界大戦のトラウマだろうか・・・そうだとすれば、今の日本に似ている・・・)フランスだけで大丈夫か、というようなニュアンスだった。なにしろド・ゴールを生んだフランスでもあるし・・・。
 冷戦後、ソ連が凋落したと言っても新たに中国が台頭し、覇権国として世界の公共財を提供して来たアメリカが、あんな調子で内向きの自国第一主義モードに入ってしまって、やはりEUとしてまとまらなければ、EU諸国の未来は決して明るくないだろうし、イギリスだっておめおめと地盤沈下することもないだろう(多分)。日本人としては、益々大国化する中国を包囲するとまでは言わないが、国際社会に包摂して行くために、日・米・EUの連携は欠かせないから、今後のイギリスやEUの動向は気がかりであり、注目したい。
 上の写真は、三日前の都内の某所・・・というか椿山荘。ちょっと季節外れに見えるが、なかなかどうして依然、風情がある。
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中曽根元首相の大往生

2019-12-03 01:28:54 | 時事放談
 先月末に中曽根康弘・元首相が亡くなった。功成り名を遂げた101歳の大往生と言ってもよいであろう。
 第71~73代総理大臣を務めておられた頃、私は“ほぼ”学生で、父親は保守を自称するくせに朝日新聞とNHKと岩波書店をこよなく愛するという、今から思えば矛盾してやまない、しかし当時としては進歩的雰囲気を身に纏うことが当たり前の時代にあって、幼心にも中曽根氏について、自主憲法を訴えた「青年将校」のイメージや、自民党の非主流でありながら「角福戦争」の間をうまく立ち回って「風見鶏」と揶揄されたイメージが強烈に脳裏にこびりついているのは、朝日新聞のせいであるのは間違いない(苦笑)。それを払拭するのに相当の時間を要することになるマスコミの責任は重いと思うにつけ、プロパガンダやファンタジーにどっぷり浸かった中国や韓国との正常な対話は難しいだろうと、つい無力感に囚われてしまう。
 「不沈空母」発言も有名だったが、実は中曽根氏は日本語で「大きな船」と述べたのを通訳が過大な言葉に訳したものらしい(Wikipedia)し、日米安保条約を「屈辱的条約」と呼んで憚らず、強硬な対米自立論(自主防衛)を説いて、保守最右翼のタカ派と目されていた割には、総理大臣になるやレーガン元大統領との間で「ロン」「ヤス」と呼び合って蜜月を演出し、靖国神社を参拝して中国・韓国から抗議を受けると翌年からは自粛すると言った具合で、現実的な感覚を持ち合わせた政治家だった。核武装の可能性についても、防衛庁の技官に研究を指示したところ「二千億円で五年以内に成算あり」という結論だったが、「広島・長崎の惨害を受けて、非核志向を提示すること自体は悪くないが、国際的には日本にも核武装能力があるが持たないという方針を示すほうが得」と判断する賢明さを備えていた(他方、インドに言わせれば、被爆国であればこそ核保有を正当化できると、ある元・防衛官僚に聞いたことがあるが、非同盟のインドだから言えることで、私はやはり中曽根氏に賛同する)。米国・中国・韓国と同時に良好な関係を築ける首相は極めて稀だと評価する向きまであるのは、今の感覚だからそう思うだけで、当時はバブルに向かって日本の国力は最高度に充実しつつあり、中国や韓国との差は歴然としていて、難しさのレベルは断然違っていただろうと思う。が、いずれにしても、今では珍しい信念の政治家だったことは間違いないし、「ロン」「ヤス」というカタチだけでなく、元・外交官によれば、レーガン大統領は米・ソ交渉の内容を日本にも伝え、日本に不都合なことは米・ソ交渉を後戻りさせてでも反映しようと努力してくれたものだったそうで、真の同盟関係とはそういうものかと、古き良き時代とばかり言っておれない、中曽根氏ならではの存在感を思わざるを得ないのである。
 願わくは今の混迷の時代に中曽根氏の遺志を継ぐ国士が出でんことを、そして中曽根氏の魂を安んずることを祈念しつつ、合掌。
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