常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

一枝の桜

2017年04月13日 | 百人一首


ほぼ毎日通っている日帰り温泉の玄関に、大きな素焼きの瓶が置かれ季節の花が枝ごと投げ入れるように飾られる。花芽のついた枝であるので、室内の温度でたちまち花が開く。いつも、季節に先駆けて花が楽しめる。今週はソメイヨシノの桜が、満開である。常連の入浴客が、家の庭にある枝を持って来てくれる。その一枝を貰い受けて花瓶に挿すと、一晩で玄関先が花盛りになった。

平安時代の一条天皇の御代、宮中へ旧都の奈良から一枝の八重桜を携え、天皇のお目に入れたいと使いの人が来た。その使いの知らせを受けて、重役の人々が対応した。ときめく藤原道長、中宮彰子、紫式部などの女房などきら星のような面々が居合わせた。紫式部が、「この取次の役は、新参の伊勢大輔が」と指名すると、道長は「花を受け取るときには、ただ受け取るのでなく、その花を題に歌を詠むのだよ」と大輔に言った。そこで大輔は、

古への奈良の都の八重桜けふ九重にのほひぬるかな 伊勢大輔

九重とは宮中のことである。八重、九重を重ねた当意即妙の機智に、使いはもとより、天皇も中宮も重役の面々も驚き、称賛の声が上がった。女房の宮仕えには、このような歌の技量も要求された。紫式部のように物語を書き、清少納言のような読み物、そして歌詠みの上手、中宮の日常の暮らしへのきめ細かな気配り。いわば、中宮のブレーンとして、中宮の脇をかため、その面目を保つために一役を買っていたのである。
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