20℃ほどの気温になってから3日になる。野原も、散歩道も、春の花々があっという間に咲きはじめている。大坊川の土手に、ひともとの日本タンポポが咲いているのを見つけた。西洋タンポポのように大柄でなく、こじまりとして楚々と咲いているのがいい。タンポポは花の形が鼓ににているため「つづみ草」と呼ばれ、子どもたちの遊びに、タン、ポン、タン、ポンと呼んだところからタンポポと言われるようになったのがこの花の語源である。
野にあって一番身近な野草であるが、万葉集や古代の和歌には詠まれていない。そんななかで、西行法師の伝説に、津の国で詠んだたという歌が伝わっている。津の国の山奥に、「鼓の滝」という美しい滝があるが、西行がその滝を見ながら一休みしていた時、タンポポが滝のしぶきに濡れて咲いている。
津の国の鼓の滝に来てみれば岸辺に咲けるタンポポの花
と西行が詠んだ。すると傍で草刈りをしていた少年が、「いやその歌は」と言って、「鼓の滝を打ち見れば」と直した、という。鼓草と言われたのは江戸時代のことであるし、歌の出来も西行しては単純過ぎる。後世の人が作った、話として見れば面白い。