初夏のような陽気になった。丘の辺に、妻を誘って摘み草に出かける。丘にはタンポポが咲き、キバナノアマナの可憐な花も咲いていた。目当てにしたキクザキイチゲとフクジュソウが群れをなして咲いていた。山行は妻を連れずに楽しんでいるのでせめてもの罪滅ぼしである。摘み草もカミソリ葉が食べごろ、アサツキと山ニンジンの出たばかりのものを摘んできた。
いつもの年は、もっと早く雪が残っているうちにアサツキを掘り、フキノトウを探したものだが、もうそんな元気は残っていない。それでも、無限にある春の草々に、時間の立つのを忘れる。あまりの陽気で汗ばんでくる。水筒に冷たい水を持てばと、少し後悔する。
摘み草の手を洗ふなりうちそろひ 山口 青邨
山菜取りには、我が家流の規則がある。アサツキは根のついた玉を取らぬこと。山登りで教わった規則である。来年のために、葉も玉も取りつくすことなく残せ。取り尽してしまうと、もう次の年からは、その場所では春の珍味に出会えなくなるからだ。土手の上から、畑仕事の人が聞いてきた。「何を採っているのかね」「アサツキ」と答えると、土手に株をなしているアサツキをさして、「これ去年ここへ捨てたんだよ。これ持っていきな。」という。ハサミで葉を伐ろうとすると、「駄目だよ。この白い玉のところがうまいんだ。洗って根を取って食べな」と言って株ごと掘ってくれた。家に帰って、アサツキの処理をして、酢味噌和えを作る。春の味覚に舌つづみを打った。