徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:今野敏著、『天を測る』(講談社)

2023年04月02日 | 書評ー小説:作者カ行

『天を測る』は今野敏初の幕末歴史小説です。
彼の歴史小説と言えば、『サーベル警視庁』シリーズがありますが、警察小説の明治版という感じで、これまでの作品とかけ離れているわけではありませんでした。
しかし、この『天を測る』は、描かれる時代が違うばかりでなく、主人公の職業が測量方というテクノクラートであるところが異色です。
幕末というと、西郷隆盛や新選組など薩長側か新選組をはじめとする幕府側のいずれかの視点で描かれることが多い中で、『天を測る』は、算術と測量の腕を買われて幕臣にまで取り立てられ、2度も渡米し、明治維新後もテクノクラートとしてほぼ同じ仕事を続けた小野友五郎を主人公としているため、幕末の動乱が遠景に過ぎないところも異彩を放っています。
この小野友五郎から見た福沢諭吉や勝麟太郎(勝海舟)像も非常に興味深いです。この二人は小野友五郎に言わせると、実務よりも政治、あるいは自己顕示に長けている人物で、彼とはタイプが違うのだそうです。どちらも幕末から明治にかけて活躍したことは有名でも、その人物像までは知らなかったので、意外な感じがしました。

明治政府が政治面で実に未熟であり、結局、幕府が推し進めてきた大きな事業に携わっていた実務家たちを再登用し、国の形態を整えていったという見方も、幕末から測量と勘定の実務をただただ続けてきた実務家ならではのものと言え、かなり新鮮でした。

しかし、小野友五郎は何の考えもなく実務に携わっていたのではなく、しっかりとした国家観を持っており、アメリカから学ぶべきは学び、日本で大型の軍艦を建造し、江戸湾防衛構想の実現のために奔走していたのです。その様子が比較的淡白な筆致で描かれており、最初は少し入りにくい印象がありますが、読み進むうちにどんどん引き込まれていきます。

今野敏の初めての本格的な歴史小説にして、名作です。



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