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書評:関良基著、『赤松小三郎ともう一つの明治維新 テロに葬られた立憲主義の夢』(作品社)

2018年03月25日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

明治維新150年に際して出版ラッシュとなっているようで、面白そうなものを数冊まとめて買いました。この『赤松小三郎ともう一つの明治維新 テロに葬られた立憲主義の夢』(作品社)もその一冊です。

断言の根拠や参考文献・引用作法の不備が目立った鈴木荘一著の『明治維新の正体 徳川慶喜の魁、西郷隆盛のテロ』を読んだ後では、本書の正しい引用作法や発言の根拠の示し方が感動的なほどです。著者は農学博士で拓殖大学准教授で、歴史は専門外とのことですが、同郷の赤松小三郎を研究するため、母校の県立上田高校の同窓生有志による「赤松小三郎研究会」を組織し、調査してきたそうです。

また、ご自身のブログ「代替案のための弁証法的空間」で「長州史観から日本を取り戻す」という連載記事を投稿され、そこでの議論や読者からの指摘などが本書にも反映されているとのことです。

目次

はじめに 消し去られた政治思想家

第1章 赤松小三郎の生涯と議会政治の夢

第2章 赤松小三郎の憲法構想

第3章 明治維新神話とプロクルステスの寝台

第4章 そして圧政に至った

第5章 長州レジームから日本を取り戻す

あとがき

付録 巻末資料

赤松小三郎略年譜

参考文献一覧


本書の目的は、明治維新→大日本帝国憲法制定を日本の立憲主義の原点とする見方を「長州史観」として断罪し、赤松小三郎という優れた兵法学者で政治思想家にスポットを当てることで、幕末期に既に現行の日本国憲法の理念と比べて遜色のない内容の憲法草案「御改正口上書」が存在したことを示し、明治政府(長州レジーム)による大日本帝国憲法が幕末期の憲法草案に比べて、いかに内容的に後退した、専制体制と軍の暴走を可能にするとんでもないものであったかを明らかにし、現在安倍政権が改憲の根拠としている押しつけ憲法論議が長州レジームを踏襲するもので、それがいかに危ういものであるかを批判することにあります。

また、その長州レジームの根幹を支える宗教施設が靖国神社であるとして、小島毅氏の『靖国史観(増補版)』あとがきや亀井静香氏の「靖国神社は長州神社」という発言などを紹介しています(p181~182)。国家神道とは長州生まれの新興宗教であり、靖国神社の前身である東京招魂社の「招魂」という儀式が古来の日本神道とはかかわりがなく、どうやら朝鮮儒教の影響を植えているらしいことも指摘されています(p177)。

赤松小三郎は門下生であった薩摩藩士の中村半次郎と田代五郎左衛門に暗殺されてしまいました。中村半次郎の日記によれば、「幕奸」(幕府のスパイ)だから斬ったとのことですが、赤松が薩摩の軍事機密を知りすぎていたこと、薩摩の武力討幕路線に反対の立場で、議会政治の導入により幕府と朝廷・薩摩の対立を融和させようと動いていたことが暗殺の原因になったようです。こうして赤松小三郎は物理的に抹殺されたばかりでなく、長州史観に都合の悪い思想家としてその功績も葬られてきたわけです。

関良基氏は、政治的な目的を遂げるためには手段を選ばず、人の命を犠牲にすることもなんとも思わないという思想の起源の一つとして吉田松陰と松下村塾を挙げており、玉砕しても良いと精神論で戦争したがるのが松蔭主義者の特質であると喝破しています(p179)。あとがきでも吉田松陰を尊敬する安倍晋三首相の危うさを再三指摘し、だからこそ今「明治維新」を見直し、長州レジームから脱却することが現在日本の喫緊の課題だと訴えておられます。

ここまでくっきりと歴史と現代が繋がっていることが記された歴史関係の本は珍しいのではないでしょうか。非常に興味深く、目から鱗が落ちる体験をしながら読ませていただきました。

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