まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

英米企業の取締役の代理権

2011-01-01 08:10:54 | 商事法務

  最近のブログで、取締役の権限や代表取締役の事を記載しました。今回は、それのおまけで、英米企業の取締役の代理権の事を書いてみましょう。

英米法系の国の企業と、通常の取引(=Ordinary Course of Business)ではない契約書には、Representation & Warranty (事実の表明・保証)の規定を設けて、以下のような文言がありますね。例えば、株式譲渡の契約書等にですね。

Upon the Closing, the Company shall have all requisite legal and corporate power and authority to execute and deliver this Agreement.

即ち、会社は、本契約の締結権限を有する旨の表明・保証ですね。日本の契約書では、こういった条項は入りません。勿論、この種の契約書は代表取締役の署名や記名捺印が普通ですけれども。なぜ、わざわざ契約を締結するのに、締結権限ありと記載するのでしょうか。理由は簡単です。通常は、取締役といえどもサイン権限が無く、サインするには取締役会等で承認を得てサインする必要があるからですね。(例外としては、捺印証書=Deedがありますが、これも取締役会承認事項。これはまた別の機会にでもブログに書きましょう)。ということで、今回は、英米企業の取締役の権限・代理権等についてです。

  イギリス法系の国(英国、インド、オーストラリア、シンガポール、マレーシア等)

代表取締役という制度はありません。

・取締役会(Board of Directors)が、会社の一切の業務を行う権限があるとされています。

・取締役会は、合議体であり、日常業務を取締役会でいちいち行う訳にはいきませんので、取締役会はその権限の一部をManaging Directorに委譲し、日常の業務執行はManaging Directorが会社を代理して行います。

日本と異なり、Managing Directorを登記する制度はありません。

Managing Directorの権限は、普通は付属定款(*)に記載されていますが、法令上は、付属定款に記載されている場合を除き、都度取締役会決議により定めるということになっていると思います。

  イギリス法系では、基本定款は、Memorandum of Association、付属定款は、Articles of Association、アメリカ法では、基本定款は、Articles of Incorporation、付属定款はBy-lawsと呼んでいるようですね。

  アメリカの会社の場合(以下の条文は模範事業会社法)

会社は自然人と同様に全ての行為を行えますね(**)。取締役会が、会社の経営(業務執行)の意思決定を行い、業務の執行はOfficersが行いますね。日本は、この形式だけを猿まねして委員会設置会社制度を設けましたね。

Officerには、CEO (Chief Executive Officer),COO(Chief Operating Officer),Secretary, Controller, Treasurer (まだPresidentを使っているところもありますね)

§ 8.40. OFFICERS では、「 A corporation has the officers described in its bylaws or appointed by the board of directors in accordance with the bylaws.」としています。Directorは、株主総会にて選任されて取締役会を構成しますが、Officerは取締役会によって選定されますね(総会で選任される場合もあり)、そして取締役会により委任された業務を執行します。

Officerの義務は以下ですね。§ 8.41. DUTIES OF OFFICERSに規定されています。

Each officer has the authority and shall perform the duties set forth in the bylaws or, to the extent consistent with the bylaws, the duties prescribed by the board of directors or by direction of an officer authorized by the board of directors to prescribe the duties of other officers.

Officerは、bylawsや取締役会により授権された権限を持ちますね。従い、例えば株式売買契約書にサインする権限が付与されているかわからないから契約書に冒頭のような文言を入れるわけですね。

  * § 3.02. GENERAL POWERS

Unless its articles of incorporation provide otherwise, every corporation --- and has the same powers as an individual to do all things necessary or convenient to carry out its business and affairs, including without limitation power (3.02の柱書の部分のみ)。会社の能力(Corporate Capacity)は定款所定の目的によって制限され、目的外行為は無効であるというultra vires rule (能力外の原則)は、米国では極めて限られていますね(§ 3.04. ULTRA VIRES参照)。

  Ordinary Course of Business=通常業務(通常の営業取引等)の場合は、英米とも仮に権限を与えられていなくとも、当該契約書にサインする権限ありと信じた事が、合理的・妥当なら、黙示的に権限を与えられていると看做されて、取引の安全を計るわけですね。

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