天命を知る齢に成りながらその命を果たせなかった男の人生懺悔録

人生のターミナルに近づきながら、己の信念を貫けなかった弱い男が、その生き様を回想し懺悔告白します

東直己著『半端者』アカスキュータム最高級品を五万円でママに質入した俺は返すアテないがなんとかするまで

2012-01-19 21:18:13 | 日記
今日の日記は、今読んでいる東直己著『半端者ーはんぱもんー』(2011年3月刊 ハヤカワ文庫版)に登場するトレンチ・コート”アカスキュータム”のことです。
この小説の主人公<俺>は、北大生の学生でありながら、授業に出席せずススキノの繁華街をブラブラしている遊び人です。ですから、その飲代等の遊興費を、家庭教師のアルバイト、賭け事の儲けで常時調達しています。しかし、緊急時には、自分の着ている服を質入れまがいの行為をして、臨時収入を得ていました。以下に、その大爆笑する<俺>の臨時収入獲得法を、この著書から紹介します。
『西屯田通りで降りて、<サンボア>に入った。ママは、俺が左手にぶら提げているトレンチ・コートを見るなり「またかい」と言った。この件に関しては、多くの人の意見は一致するらしい。
「そうなんだ。どうだろう。アカスキュータム(私注:原文のまま)の最高級品なんだけど」
「知ってるよ。これで何回目だと思ってるのさ」・・
「五万くらいどうかな」
「くらいとは、せめて日本語は正確に喋りな!」
「へいへい。五万円。お願いします!」
「どら。ちょっと見せて・・最高級品てのは、フカシだね。いいとこ、中高級品てとこ」
「それでも、五万は固いでしょ」俺が言うと、オバサマは鼻で笑った。ママが、溜息とともに鼻から延々と紫烟を漂わせつつ、チンと音を立ててレジを開けた。・・「いつも通り、二十四時間だよ!」
「了解です!」
今んとこ、返すアテはないが、必ずなんとかなるはずだ。なんとかならなかったら、なんとかするまでの話だ。』
勿論、筆者が書いた”アカスキュータム”は、イギリスの有名な服装メーカー『アクアスキュータム』のことです。特に、その製品では男性用トレンチ・コートが有名です。世界で初めて防水ウールの開発に成功し、第一次世界大戦の際、その生地を使用した防水コートを英軍の兵士に提供しました。そして、その抜群の防水性と保湿性で、塹壕(トレンチ)で戦う兵士を守ったことから、トレンチ・コートと呼ばれました。また、このコートの愛用者には映画俳優のハンフリー・ボガートがとても有名です。
レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウが初登場した長編ハードボイルド小説『大いなる眠り』の映画化作品『三つ数えろ』( 1946年製作 ハワード・ホークス監督)に出演した際、トレンチ・コートを衣裳で着用するシーンにも、自前の愛用品アクアスキュータム製を利用したそうです。
東直己氏は、フィリップ・マーロウ命の<俺>のススキノでの生態を、このような服装の趣味(バーバリーではなく”アカスキュータム”)で巧みに表現したかったのでしょう。フィリップ・マーロウ通には、よくわかるとても粋な文章です。
私もバーバリーでなくアクアスキュータムファンです。今回の旅行にも、1983年にロンドンの店舗「アクアスキュータム」で購入したトレンチ・コートを着て出かけました。添付した写真は、私がイギリスに着て行ったアクアスキュータム製トレンチ・コートの裏地ラベルです。
だから、同世代で同時期に同じコートを愛用した<俺>に、私は今とても親近感を抱いています。
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