今日の日記は、今読んでいる東直己著『半端者ーはんぱもんー』(2011年3月刊 ハヤカワ文庫版)に登場するトレンチ・コート”アカスキュータム”のことです。
この小説の主人公<俺>は、北大生の学生でありながら、授業に出席せずススキノの繁華街をブラブラしている遊び人です。ですから、その飲代等の遊興費を、家庭教師のアルバイト、賭け事の儲けで常時調達しています。しかし、緊急時には、自分の着ている服を質入れまがいの行為をして、臨時収入を得ていました。以下に、その大爆笑する<俺>の臨時収入獲得法を、この著書から紹介します。
『西屯田通りで降りて、<サンボア>に入った。ママは、俺が左手にぶら提げているトレンチ・コートを見るなり「またかい」と言った。この件に関しては、多くの人の意見は一致するらしい。
「そうなんだ。どうだろう。アカスキュータム(私注:原文のまま)の最高級品なんだけど」
「知ってるよ。これで何回目だと思ってるのさ」・・
「五万くらいどうかな」
「くらいとは、せめて日本語は正確に喋りな!」
「へいへい。五万円。お願いします!」
「どら。ちょっと見せて・・最高級品てのは、フカシだね。いいとこ、中高級品てとこ」
「それでも、五万は固いでしょ」俺が言うと、オバサマは鼻で笑った。ママが、溜息とともに鼻から延々と紫烟を漂わせつつ、チンと音を立ててレジを開けた。・・「いつも通り、二十四時間だよ!」
「了解です!」
今んとこ、返すアテはないが、必ずなんとかなるはずだ。なんとかならなかったら、なんとかするまでの話だ。』
勿論、筆者が書いた”アカスキュータム”は、イギリスの有名な服装メーカー『アクアスキュータム』のことです。特に、その製品では男性用トレンチ・コートが有名です。世界で初めて防水ウールの開発に成功し、第一次世界大戦の際、その生地を使用した防水コートを英軍の兵士に提供しました。そして、その抜群の防水性と保湿性で、塹壕(トレンチ)で戦う兵士を守ったことから、トレンチ・コートと呼ばれました。また、このコートの愛用者には映画俳優のハンフリー・ボガートがとても有名です。
レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウが初登場した長編ハードボイルド小説『大いなる眠り』の映画化作品『三つ数えろ』( 1946年製作 ハワード・ホークス監督)に出演した際、トレンチ・コートを衣裳で着用するシーンにも、自前の愛用品アクアスキュータム製を利用したそうです。
東直己氏は、フィリップ・マーロウ命の<俺>のススキノでの生態を、このような服装の趣味(バーバリーではなく”アカスキュータム”)で巧みに表現したかったのでしょう。フィリップ・マーロウ通には、よくわかるとても粋な文章です。
私もバーバリーでなくアクアスキュータムファンです。今回の旅行にも、1983年にロンドンの店舗「アクアスキュータム」で購入したトレンチ・コートを着て出かけました。添付した写真は、私がイギリスに着て行ったアクアスキュータム製トレンチ・コートの裏地ラベルです。
だから、同世代で同時期に同じコートを愛用した<俺>に、私は今とても親近感を抱いています。
この小説の主人公<俺>は、北大生の学生でありながら、授業に出席せずススキノの繁華街をブラブラしている遊び人です。ですから、その飲代等の遊興費を、家庭教師のアルバイト、賭け事の儲けで常時調達しています。しかし、緊急時には、自分の着ている服を質入れまがいの行為をして、臨時収入を得ていました。以下に、その大爆笑する<俺>の臨時収入獲得法を、この著書から紹介します。
『西屯田通りで降りて、<サンボア>に入った。ママは、俺が左手にぶら提げているトレンチ・コートを見るなり「またかい」と言った。この件に関しては、多くの人の意見は一致するらしい。
「そうなんだ。どうだろう。アカスキュータム(私注:原文のまま)の最高級品なんだけど」
「知ってるよ。これで何回目だと思ってるのさ」・・
「五万くらいどうかな」
「くらいとは、せめて日本語は正確に喋りな!」
「へいへい。五万円。お願いします!」
「どら。ちょっと見せて・・最高級品てのは、フカシだね。いいとこ、中高級品てとこ」
「それでも、五万は固いでしょ」俺が言うと、オバサマは鼻で笑った。ママが、溜息とともに鼻から延々と紫烟を漂わせつつ、チンと音を立ててレジを開けた。・・「いつも通り、二十四時間だよ!」
「了解です!」
今んとこ、返すアテはないが、必ずなんとかなるはずだ。なんとかならなかったら、なんとかするまでの話だ。』
勿論、筆者が書いた”アカスキュータム”は、イギリスの有名な服装メーカー『アクアスキュータム』のことです。特に、その製品では男性用トレンチ・コートが有名です。世界で初めて防水ウールの開発に成功し、第一次世界大戦の際、その生地を使用した防水コートを英軍の兵士に提供しました。そして、その抜群の防水性と保湿性で、塹壕(トレンチ)で戦う兵士を守ったことから、トレンチ・コートと呼ばれました。また、このコートの愛用者には映画俳優のハンフリー・ボガートがとても有名です。
レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウが初登場した長編ハードボイルド小説『大いなる眠り』の映画化作品『三つ数えろ』( 1946年製作 ハワード・ホークス監督)に出演した際、トレンチ・コートを衣裳で着用するシーンにも、自前の愛用品アクアスキュータム製を利用したそうです。
東直己氏は、フィリップ・マーロウ命の<俺>のススキノでの生態を、このような服装の趣味(バーバリーではなく”アカスキュータム”)で巧みに表現したかったのでしょう。フィリップ・マーロウ通には、よくわかるとても粋な文章です。
私もバーバリーでなくアクアスキュータムファンです。今回の旅行にも、1983年にロンドンの店舗「アクアスキュータム」で購入したトレンチ・コートを着て出かけました。添付した写真は、私がイギリスに着て行ったアクアスキュータム製トレンチ・コートの裏地ラベルです。
だから、同世代で同時期に同じコートを愛用した<俺>に、私は今とても親近感を抱いています。