天命を知る齢に成りながらその命を果たせなかった男の人生懺悔録

人生のターミナルに近づきながら、己の信念を貫けなかった弱い男が、その生き様を回想し懺悔告白します

東直己著『探偵はバーにいる』ギムレット空にし『さらば愛しき女よ』のランプリング好きな俺はマーロウ命

2012-01-16 21:20:18 | 日記
今日の日記は、今読んでいる東直己著『探偵はバーにいる』(1992年初出版 ハヤカワ文庫版)のことです。添付した写真は、著書の表紙です。
この小説は、映画『探偵はBARにいる』の原作者・東直己のデビュー作です。映画はこのシリーズ2作目『バーにかかってきた電話』が原作ですが、まず、この原作者のデビュー作から読んだほうが、よく東直己(注:私はこの作家の作品は未読)のことが判ると思い、この作品から今私は読んでいます。
東直己は、1956年札幌生まれで北海道大学文学部西洋哲学科を中退し、様々な職業を経て、作家になった人です。そして、初めて書いた探偵小説がこの作品です。また、私より3歳若いですが、ほとんど同世代と考えてよい仲間です。その記述にも同世代の私が深く共感するところが多々ありました。
この作品は、作家の分身とも思える<俺・28歳>が、”風俗営業法が変わる前、「ソープランド」が「トルコ」と呼ばれ、エイズがアメリカのホモだけが罹る原因不明の奇病だった頃(私注:1984年前後か?著者の年齢にも合致する)、ススキノでぶらぶらしていた”に起きたある事件を振り返って一人称<俺>で書いた探偵小説です。
このスタイルは、レイモンド・チャンドラーが創作したフィリップ・マーロウに強く影響されていると思われます。しかし、東直己は探偵の本名を決して明かさず最後まで<俺>で書き通しています。偉大な先輩にはとても及ばない探偵と卑下し、自ら名乗るのを遠慮しているのかも知れません。
でも、フィリップ・マーロウに関係した記述は随所に登場して、私は大いに楽しませてもらいました。著書からそれらの一部を、以下に紹介します。
(1)『(注:BAR・ケラー・オオハタで)俺は受話器を置いた。”ギムレット”に戻り、空にし、コートをつかんだ。「ごちそうさん」岡本はにっこり笑って、「いってらしゃい」と言った。』
(2)『(注:相棒の高田が俺に)「その、目も醒めるような美人がやってるスナックってどこにあるんだ。シャーロット・ランプリングとソンドラ・ロックを足して二で割った美人で、映画が好きで、天体望遠鏡で夜空見るのが好きで、ヘミングウェイが好きで、話ができる美人だとか、なんとかバカなこと言ってたよな、てめえ!」俺は堪え切れず笑っちまった。』
東直己は、レイモンド・チャンドラーが『ロング・グッドバイ』で創作した有名な言葉”ギムレットを飲むには少し早すぎるね”を意識して<俺>に”ギムレット”を飲ませています。
また、アメリカ映画『さらば愛しき女よ』(1975年製作 ディック・リチャーズ監督 ロバート・ミッチャム シャーロット・ランプリング主演)に登場した謎の美女シャーロット・ランプリングにメロメロになった映画ファンみたいです。
このように、著書全編に、このフィリップ・マーロウへのオマージュを私は強く感じました。でも、映画で<俺>を演じた大泉洋(服装も定番のスーツやトレンチコートを着ていない)には、何らその片鱗を見つけられませんでした。
やはり、映画は今風のキャラクターでないと、若い観客にはウケないのでしょう。この著書を読んでいて、私は少々残念な思いを抱きました。
コメント
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