ジョン・スタインベック
80年前のアメリカの牧草地や町などを舞台にした
バラエティーに富んだ物語が収載された短編集です。
どの物語も目の前に牧場の囲いや、木造の小屋や、豊穣な麦畑が見えるようです。
これより50年前に書かれたゾラの『大地』の中で
フランスの農園主がしきりに「アメリカの小麦にやられる」と言っていましたが
この短編集を読んでいると、確かにアメリカの農場は広大で収穫量が多そうです。
特に情景が目の前に浮かんだのは『逃亡』で、これは人を殺してしまった青年が
ひたすら逃げる話しなんですが、『明日に向かって撃て』で
ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが馬でひた走っていた乾いた荒野が
ぱーっと目の前に広がりました。
印象に残った物語をあげてみます。
『肩あて(The Harness)/1938年』
村で尊敬を集めている農夫ピーター・ランドールは
なぜ妻エンマが亡くなると変貌してしまったのでしょうか?
ピーターは、エンマに着けさせられていた肩あてを取り去った時
本当に妻の呪縛から逃れることができたのでしょうか?
知りたいですね、夫をうまく操る方法って。
魅力なのか魔力なのか分かりませんが、エンマという奥さんは尊敬に値するね!
『聖処女ケティ(Saint Katy the Virgin)/1938年』
性悪男ロアークに飼われていたケティは、飼い主も驚くほどの性悪な豚でした。
しかし、ある日税金の変わりに僧院に納められそうになって暴れるケティに十字架をかざすと
ケティは涙を流して改心します。
笑い話なのか、布教のためのありがたい物語なのかよく分かりませんが
とにかく豚が聖人として崇められるという、奇想天外なお話です。
でもこんなに人間味あふれる豚がいるなら、ぜひ見てみたいものです。
『怠惰(The Pastures of Heaven:Part6)/1932年』
からだを壊して “ 天国の牧場 ” にやってきた会計士ジュニアス・モルトビーは
田舎の美しさを楽しむあまりとんでもない怠け者になってしまいます。
そして息子ロビーと、貧しくも自由な暮らしを送るのですが
ある日ロビーが学校で見かねた村人から衣服の施しをうけてしまいます。
『 天国の牧場 』という連作ものの小説からは、もう一編『敗北』という物語が
選ばれていて、どうしても『天国の牧場』をまるまる1冊読みたくなってしまったのです。
そんなわけで、先ほどネットで購入してしまいました(高かった)
今までなぜスタインベックを避けてきたのだろう?
と後悔しきりな気分にさせられた1冊でした。
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