まりっぺのお気楽読書

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『すみだ川・二人妻』巴里的東京男女風景

2009-07-23 00:43:49 | 日本の作家

永井 荷風

日本で “ お妾さん ” の文化が根付いていたのかどうかよく知らないんですけれども
永井荷風を読んでいるとなんだか当たり前のことみたいに思えてきます。
仕事する → そこそこ成功する → 小金ができる → 妾つくる、って
そんなにポピュラーなことだったのでしょうか?

妻でもなく、外で働かず、日がな一日旦那のお越しを待つだけでお手当をもらって
生計をたてている女性って、今でも存在しているんでしょうか?
確かに現代の愛人とは違って、お妾さんには別宅の妻という風情がありますが
それでも金銭づくの関係であることに変わりはないんですよねぇ…
どちらかというと現代よりもシビアな関係のような気がするぐらいです。

表題2篇の他に6篇収められていますが、どれもお妾さんや芸者などが登場していて
荷風がこのタイプの女性に魅入られていたのではないかと想像できます。

『すみだ川/1909年』
母ひとり子ひとりで期待をかけられ学校へ通わされる長吉は
幼馴染みの恋しいお糸が芸妓になってどんどん垢抜けていく姿を見て不安になります。
少しでもお糸に近づきたいと退学して役者になろうと思いますが、話が分かる伯父の
俳諧師羅月に説教されて思いとどまり、ついには重病にかかってしまいました。

『二人妻/1922年』
夫俊蔵の行状が信用ならない千代子でしたが、女学校時代の友人玉子の夫川橋には
妾どころか隠し子もいると聞いて親近感がわき、気心を許した友達になります。
ところがある日、嬉しそうな玉子から川橋が妾と手を切ったと聞かされると
喜ぶどころか妬ましくなりました。
ところで手を切った妾亀子はというと俊蔵といい仲になっていました。

『かし間の女/1927年』
永島の妾だった菊子は学生との浮気を責められて新しい旦那探しを始めます。
上京してきた田舎の富豪の相手をすることになり、その仲介者だった犬塚の妾に。
しかし昔関係があった歯科医との一夜がバレてしまいます。
その後仲介屋が紹介してくれた割のいい仕事はかなり怪しいものでした。

妾という日陰の存在を題材にしていながらけっこうアッケラカンとした感じです。
時には年齢や将来のことが気になるが…ま、いっか、という
悲壮感のないその日暮らしを送っている女主人公たちはたくましい!
読み手としては、結局男性の道具にされているのに…と悲哀を重ねたくなりますが
余計なお世話に思えてきます。

解説で秋庭太郎氏が “ 荷風のゾラやモーパッサンへの傾倒が尋常じゃない ” らしきことを
書いていらっしゃいましたが、確かにそうかもね、と納得できます。
愛欲賛美、快楽のすすめ、道徳の軽視などなど、随所に退廃の美学が感じられまして
さてはフランス人になりたかったんじゃないかね? この人は。

ところで巻頭に『深川の唄』という、荷風があてもなく東京を散策している様子が
書かれている作品があるのですが、路面電車や煉瓦造りの店先や手描きの看板などが
浮かんできて、東京はこんなに近代化される必要があったのだろうか?と
考えさせられます。 丸の内郵便局…
確かに不便だったら文句言ってると思うんだけどね… 勝手なもんで。

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