まりっぺのお気楽読書

読書感想文と家系図のブログ。
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『斜陽 他一篇』強い女はお嫌い?

2014-05-02 23:41:05 | 日本の作家

1947年 太宰 治

日本の小説の書き出しといえば、川端康成の『雪国』が有名ですが
私は『斜陽』の書き出しの方が印象的で好きなのです。
ちょっと書いてみますね。

 朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、
 「あ。」
 と幽かな叫び声をお挙げになった。

この一文に惹かれて買った『斜陽』なのですが、読むにつれて気分

私は没落の物語はけっして嫌いではなくて、むしろ好きなジャンルなのですが
この話はどうも入り込むことができませんでした。

敗戦後、経済的に苦しくなった家庭の娘、かず子が主人公の物語です。
かず子は一度結婚したことがあるのですが離婚して
今は、貴婦人の典型のような優美で可愛らしい母と暮らしています。
父は亡くなり、弟は戦争で南方へ行ったきり行方知れずになっています。

東京での生活がたちゆかなくなり、伊豆の山荘に移り住んだ母子ですが
母の弟の和田の叔父からの仕送りもあり、編み物なぞしてみたり
食糧の足しにちょっと畑仕事をしてみたりして日々を送っています。

けれども、生活はだんだんきつくなる一方。
母は日に日に体が弱くなり、かず子は慣れない家事に追われ
和田の叔父からは仕送りが難しくなったと言われ
遊び人だった弟は、南方でさらに身を持ち崩して帰国し…と
お嬢様育ちのかず子の肩には、一家の生活と運命がのしかかってきます。

私はお嬢様育ちじゃないから知らないけどさ~
日本のお嬢様は、淑やかで従順で風情があって、知性と美徳を兼ね備えている、だけど
Survive ! するための何かが、完全に欠落しているような気がしてならない…
勝手な印象だけを言っていますけどね。

海外の物語でも、没落して路頭に迷ってしまう主人公は少なくないのですが
どんな手を使っても生き抜こうとするメンタリティの強さとガッツが垣間見えて
主人公がこの世を渡っていけそうな気にさせられます。
でも、かず子のような主人公が路頭に迷ったその後は想像できない…生きていけなそう…

例えば(例えるのもどうかと思うが)『風とともに去りぬ』も没落のお話しですね。
スカーレット・オハラは、様々な困難にぶちあたって、なんとか打破しようと頑張るけど
ことごとく裏目にでちゃう、という女性でした。
どっちかっていうと、身から出た錆的な不幸が多かった気もするけどね。
でも最後まで前向きな女性でありました。

スカーレットが、方法はどうであれ、明日に向かってもがき、ぶちあたるタイプだとすると
かず子はおとなしく誰かを待っているタイプ?

私は、苦境にある女性が頑張って、幸せになって、あー、良かった!という話が
良いと言っているわけではありません。

しかし、かず子ったら、生きていく上で、どこかネジがゆるんでいる気がするわ。
かず子が遅ればせながらした決心もどうかと思うよ。
自分一人でもこれからどうなるかって時に、さらに読者を心配させるラスト…
和田の叔父も頭痛の種が増えるというものです。

たぶん、太宰治はうちのめされた女性が強く立ち直っていく姿や、
弱々しい女性が苦境をはねのけるために生まれ変わっていく様を
描きたいわけではなかったのでしょうね?

たしかに「もうどうでもいいや」と無気力になる時は少なくないですよね。
「なんとかなるだろう」と、立ち向かわないままやり過ごすことも多いしね。

そう考えると、『斜陽』は、なんだかんだ言っても無力な人間の
正直な姿が描かれているのかもしれないですね。
こちらの方が、リアルといえばリアルなのでしょうか?
でも、自分がこの立場におかれたら、かず子と同じ選択はしないと思うな… やっぱり

もう一篇の『おさん』は、以前書いたので割愛します。

ひとことゲームコーナー
ほしの島のにゃんこ、Androidはもう最新版にアップデートできるらしいんだけど、iPhoneはまだなのね~
だから豆腐屋が手に入らないのよ~! 音楽のダウンロードは上手くいかないし… IPhoneに変えなきゃよかったよぉ

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2 コメント

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初めまして。 (amanoiwato)
2014-07-20 00:49:20
ブログをいつも楽しく拝読しています。王妃や皇女と言っても、一部を除いては業績やエピソードが殆ど採り上げられなかったりするので、こうして意外な女性の存在や貴重な逸話を知ることができるのはとても有難く思います。



かず子のモデルになった、太宰治の愛人・太田静子は親戚から勘当され困窮しながらも、炊事婦などをしながら娘を一人で育てあげたそうなので、この『斜陽』でのかず子像は多分に太宰(男性作家)の願望や理想が投影されているのかも知れませんね。

確かに小説に書かれたような状況で、普通の判断力を持った女性なら、自らああいう発想はしませんからね。作者(太宰)の罪悪感や弁解の気持ちが反映されているのではないでしょうか。

しかし、こちらのブログ記事を拝読していて、痛感するのはやはり昔のヨーロッパの女性の地位の低さです。よほど本人の知力やバイタリティ、そして実家の権勢などに恵まれたごく一部を除いては、本当に「子供を生む道具」扱いで、夫の都合次第で妊娠ばかりさせられて早死にしたり、夫の愛妾に大きな顔をされていても文句も言えず、財産も意外と自由に出来なくて経済的のも不自由したり。いっぽう愛妾の方も、その地位は結局は王や皇帝の寵愛次第で、栄華も長くは続かなかったりする。

飛び抜けた女傑でなくてもそれなりに自分に合った職業に就いて一人でも暮らしていける、結婚相手も自分の意志で選べる今の時代に生まれてつくづく良かったと思います。『斜陽』のかず子の選択にも、このような旧い時代の(上流の)女性たちを縛っていた体制への挑戦、という意図が込められていたようですし(もっとも、その自由を得るためには己の社会的能力、経済力が必須なわけですが)。
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こんばんわ (まりっぺ)
2014-07-22 22:41:41
amanoiwatoさま、はじめまして
こんばんわ
コメントありがとうございます。

かず子にはモデルがいたのですね?
お子さんを育て上げたということで、一安心です。

女性の地位の低さは、東洋の方がクローズアップされがちですが、西洋も昔はかなりひどいですよね。
王侯貴族の妃や娘さえもエピソードはほとんどなく、生んだ子は何人…みたいな記録しかないですし、完全に政治と世継ぎのための道具ですね。

私は一世紀ほど前の小説も好きですが、やはりフランスの小説の女性蔑視はひどい気がします。
よくここまで女性の地位が向上したものだと驚かされます。
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