まりっぺのお気楽読書

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『二十日鼠と人間』季節労働者の静かな叫び

2009-08-12 00:49:28 | アメリカの作家
OF MICE AND MEN 
1937年 ジョン・スタインベック

イギリスのホップ摘み、アメリカの綿花摘みなど、数十年前の季節労働者は
映像や文章から過酷な暮らしを強いられていたことが想像できます。

この物語も、ベースにはそういった労働者の生活基盤の不安定さがあるのですが
流れ流れて働く人々の人間関係の厳しさがふんだんに描かれていると思います。

主人公はジョージとレニーという季節労働者です。
作品中にも「男ふたりで旅を続ける奴らはいない」という言葉が度々出てきますが
ほとんどの労働者はひとりでやって来ては去って行く中
ふたりはずっと一緒に旅を続けてきました。

レニーは少しうすのろでジョージなしではやっていけないんです。
ジョージはレニーに面倒をかけられながらも彼と離れられずにいます。
物語はこのふたりの関係と、レニーの純真さが招く悲劇を中心に展開して
空虚な哀しみ漂うラストを迎えます。

序盤からラストに向けて、伏線がどんどん効いてきます。
ジョージが繰り返し語る小さな農場の夢、レニーが前の農場でおこしたトラブル
しつこいほどにレニーの口から発せられる「ウサギ
淫乱な農場主の息子の嫁 …
もうこうなるしかありえないというクライマックスです。

登場人物の言葉の端々から当時の労働者の生活が浮かんでくるのですが
彼らは1週間の賃金50ドルを土曜日の夜にもらうと町で酒を飲んで売春宿に行き
また月曜日から働いて土曜日に50ドルを…という毎日を繰り返します。
農場が嫌になればふらっと出ていき次の農場へ、作物が無くなれば追い出されます。

誰もが自分の土地と家庭を持つことを夢見ていますが
ほとんどの人が夢破れてからだが動く限り農場から農場への日々を続けます。
労働者は皆孤独で、同じ部屋で寝泊まりしていながら友情を育てることができません。

年をとったら?
慈悲深い雇い主にできるだけおいてもらい、後は救貧院へ行くだけです。
若いうちは広大なアメリカ大陸を歩き回る生活もフリーダム!ってな感じですが
何も保障が無い老後を迎えるのは悲惨極まりないですよね。

本当に世界は豊かに、働く者に優しくなったものです。
でも日本はゆるゆると後退していっている気がする …

スタインベックは過酷さそのものをこまごま描写することはなくて
労働者の口から遠回しに語らせることで当時の厳しい境遇を描き出しています。
彼らの台詞を追ううちに、グイグイ引き込まれていきました。
いくら正確でもレポートみたいな文章を読んだってつまらないじゃない?
こういうのがプロの作家のなせる技なんですね。

ハツカネズミと人間 新潮社


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こちらが今の表紙かしら? 私のは映画の一場面なんです。

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