まりっぺのお気楽読書

読書感想文と家系図のブログ。
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『トーベ・ヤンソン短篇集』世捨て人の孤独

2010-04-21 02:00:45 | その他の国の作家
20 SHORT STORIES OF TOVE JANSSON 
トーベ・ヤンソン

トーベ・ヤンソンといえば懐かしの『ムーミン』なわけですけど
あのほのぼのムードをこの短篇集に求めると、ちょっと違うかもしれません。
登場人物はわりと暗いし、会話はとても少ない、しかもつっけんどん。
嵐、波濤、洪水…自然は人間に襲いかかるものばかり。

今にして思えば、ムーミンも(子供向けのアニメにしちゃ)寂しさが漂っていました。
主人公がグレーだしねぇ…おさびし山というネーミングも哀しい感じだわね。

20篇の寂寥感あふれる短篇が収められています。
好きだったものをいくつか…

『リス(Ekorrew)/1971年』
浜辺で海を見つめているリスを見つけ、一緒に島で越冬することになりました。
しかしこちらが気を遣っているというのに、リスはあまりにも恩知らずです。

人と動物との心温まる交流の物語…というわけではないんですよね。
リスが板切れに乗って海を渡るって知ってました?
それともヤンソン流のジョークなんでしょうか?

『植物園(Laxthuset)/1987年』
おじいさんが通い続ける植物園で、いつも脚を休める睡蓮のベンチに
ある日他の老人が腰掛けていました。
しかも本を読んで睡蓮を見ようともしません。

孤独な老人同士の、友情とも同情ともいえない交流が描かれています。
なぜだろう? 交流が始まった後の方が孤独感が漂っているのは…

『聴く女(Lyssnerskan)/1971年』
何十年も、皆の話を黙って聴いていてくれたイェルダ伯母が変わってしまいました。
ある日伯母は、今まで耳にした家族や知人のすべてを図表にしようと思い立ちます。
結婚、親子、恋愛、不倫、憎悪…そして殺人未遂も…

家系図好きにはたまりませんけど、まわりにたくさんの人々がいてこそできることですね。
孤独なように見えて、実はうらやましい環境にいる女性なのかもしれません。

もうひとつ、とても気になるお話を紹介します。

『ショッピング(Shopping)/1987年』
ブルム食品店とエリクソンの家からめぼしい物を頂戴したエミリィは
人々が消え去った街を、クリッセが待つ真っ暗な部屋へと急ぎます。
その時、遠くにあいつらの姿が見えました…こちらに向かってきます。

どうやら街がひとつ消滅してしまったようなんですが理由は分りません。
ちょっとデュ・モーリアの『鳥』を思い出しました。
生きて取り残された者の恐怖…
私も決して独りが嫌いな方じゃないですが、こういう状況には陥りたくないですね。

この一冊の中には様々な孤独が描かれています。
雑踏の中の孤独、人嫌いの孤独、老境の孤独、死んだ街の孤独…
中には自らすすんで孤独な境遇に身をおいた人もいます。

それでも、この一冊を読み終えると少し分ったような気がします。
人には誰か(なにか)感情をぶつける対象が必要なようですね。

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