奄美話が続いて恐縮ですが。まあ、奄美の音楽に興味を持ち始めて、その関係のレコード店の通販サイトなど覗きだした頃ですよ。当初の目的である民謡のコーナーの下に、なにやら面妖な”新民謡・奄美歌謡”なんてコーナーがあるわけです。こりゃなんだ?と。
そちらをクリックしてみると、「奄美の女」「名瀬セレナーデ」「アダン花」「奄美エアポート」「徳之島小唄」などなど、奄美のエキゾティックな側面を強調した作風の、まあ言ってみりゃベタな観光ソングか?とも思われるタイトルの曲が収められたアルバムが並んでいる。
その中に私なんかの世代には”子供の頃に三沢あけみの歌で聞き覚えのある曲”である「島育ち」なんて曲も混じっているのを見つけ、ああ、バタやんこと田端義夫が盛んにレパートリーに入れていた”奄美の島歌”とは、この辺のもののことだったんだな、と知る訳です。
アルバムを取り寄せて聴いてみると、特に奄美の伝統音楽色は濃厚に感じられない、古いタイプの歌謡曲といった佇まいです。
この辺がちょっと面白いなあと私の嗅覚が反応した次第で。”奄美ローカルの大衆歌謡”が2重に存在しているようだ。しかも、どちらもある意味、偏った存在の仕方で。
片や純民謡(?)は、なにやら万葉の時代まで遡ろうかと言うアルカイックな様式美の中に立てこもり、もう一方の新民謡なるものは逆に妙に愛想良く、”そてつの実”やら”奄美ハブまつり”やらとご当地名産品を差し出し、物見高い観光客の欲求に応えてくれる。曲も歌いぶりも非常にベタに歌謡曲、歌詞も標準語であったりする。
通販サイトに記されていた解説には、
”新民謡とは、大正末期から昭和の初めにかけて全国的なブームを呼んだご当地ソングの総称である。奄美の新民謡は、1.戦前期 2.戦後のアメリカ支配期 3.奄美ブーム期 三つの時代があった”
とあります。
この文章によると新民謡なるもの、特に奄美特有のものでもないようで。戦前のある時期、”新民謡”は日本各地に普遍的に存在したもののようだ。
こいつは調べて見る価値ありかと思えます。今の耳で聴けば古いタイプの歌謡曲と聴こえちゃうんだけど、当時は日本の民衆の心を時代の先端の表現で語ろうとした斬新な試みだったんじゃないのか。本土では、どのような新民謡が作られていたんだろう。
問題はその後、記されている部分で言えば2と3、”2.戦後のアメリカ支配期 3.奄美ブーム期”なのでしょう。本土ではそのまま忘れ去られてしまった新民謡だけど、奄美においては2度目、3度目の波が来ている。それゆえにリアルな手触りを持って新民謡は奄美の大衆文化の中に生き続けたのではないか。
もちろんその後、奄美にも本土と同じく欧米化されたポップスも流入しているのでしょうから今日の新民謡、微妙な立場であるかと思われるんですが。
ともあれ結果的に奄美の新民謡、非常にユニークな形で東アジア大衆歌謡連続帯の一隅にユニークなポジションを占めてしまっていると思われ、私としては、追いかけてみようかななどと考えたりもしている次第なのであります。