”The Key's Within”by Triona Ni Dhomhnaill
ボシーバンド、ナイトノイズなどの著名なアイルランドのトラッドバンドで活躍した Triona のソロ作。トラッド界では珍しいピアノ・ソロをメインにしたアルバムだ。
ジャケの中には、ちょっぴり寒そうで寂寥感の漂う、でも不思議に心惹かれるアイルランドのさまざまな風物を映した小冊子が歌詞カード代わりに封入されている。水鳥、水路、引き潮の情景、凍てつく荒野に秋の色をして立つ樹々。
冊子のはじめのページに、「私が人生と音楽を実現するために手助けをしてくれた人たち。私は彼らのために愛と感謝を込めて音楽を書き上げた」と書かれてあり、終わりのページには、「この音楽を私は、以下の人たちの思い出に捧げる」とのコメントのもとに、彼女の亡くなった弟をはじめ、7人の物故ミュージシャンの名前が挙げられている。
ジャズでもクラシックでもない、あまり聴かないタイプのピアノ・ソロが、静かに流れて行く。アイリッシュ・トラッドの、どこかで聴いた覚えのある切片が、立ち上がってはひとときたゆたい、何処へか流れ去る。 Triona の心を横切る人々と音楽の想い出、そのイメージがまさに走馬灯のように揺らめき、流れて行く。
ひんやりとした、なにか物寂しく、でもなぜか蠱惑的なアイルランドの空気が部屋を満たし、行ってしまった人々の面影と、変わらずにそこにある音楽の手触りが窓の向こうの灰色の空に広がって行く。
(上に貼ったのはジャケ写真ではありません。若き日の Triona 女史のお姿。なんとなく貼りたくなったんで。ご容赦)