”La vita e un'altra”by Eduardo De Crescenzo
Eduardo De Crescenzo はイタリアはナポリ出身のシンガー・ソングライター。この”ナポリ出身”というところと、よくアコーディオンを抱えている写真を見るのが気になって聴いてみた歌手だった。音楽的にという以前に文化的に凄く興味をそそられるナポリの出身で、しかも今どき、アコ-ディオンなんか抱えてステージに出てくる歌手も珍しいから、どんな音楽をやるのかと興味をそそられたのだった。
実際に音を聴いてみると彼の音楽、アコーディオンから期待された民族色はさほどでもなく、アコーディオン自体の音もときおり聞こえて来る程度のものだった。が、その音楽はなかなか上品で洗練された中にかすかに哀感漂う大人のポップスで、その狭間に伺えるナポリ出身らしい人懐こい表情もワールドもの好きには嬉しく、ひそかに贔屓にして来た歌手だったのだ。
いや、なにも”ひそかに”なんてコソコソする必要もないのだが、相変らず情報不足のイタリア・ポップスであり、Crescenzoに関して基本的な部分で誤解している可能性もあり、それよしなにより、彼のアルバムのすべてを聴いたわけでもないので、あーだこーだ言うのはもう一つ気が引けるのだった。
それをなぜ、こうして文章にしてしまっているかといえば、夜更けに気まぐれで聴き始めたCrescenzoのアルバムがあまりにも今の自分の気持ちにフィットするので、まあいいや、なんていい加減な気分になったから。
うん、いつもの休日の深夜の憂鬱にふさがれながら音楽を聴いていたら、今回のこのアルバムの音にコロッとやられちゃったのさっ。
Crescenzoは1950年代の生まれで70年代の終わりにデビューしている。デビュー当時は専門の作曲家が作った歌を歌う普通の”歌手”で、途中から、アルバムでいうと5枚目から自作の歌を歌うようになったようだ。途中で自作の歌を専門に歌うようになるというパターンもちょっと珍しい。で、そのころからトレードマークのアコーディオンも登場している。
独特の甲高い声で洗練された都会風のポップスを歌うのだけれど、どこかに不思議な人懐かしい哀感が漂う、みたいないわくいいがたい魅力のある歌手である。その道に詳しい人なら、そんな彼の音楽の陰に潜んだナポリ民謡の血の一筋を指摘することも可能なのではなかろうか。
そんな彼の、これは2002年のアルバムである。
いつもはトレードマークのメガネと口ひげで、柔和な笑顔を浮かべてジャケ写真に収まっている Crescenzo が、ここでは何か疲れた表情で流れ行く夜の都会のネオンを見つめている。なんだかその横顔には”老い”なんてものの気配さえも感じられてしまう。Crescenzo になにかあったのだろうか?それともこれが彼の、歌手としての新機軸?
収められている音楽も、メジャー・セブンスの和音を効果的に使った、霧が立ち込めるような都会的で幻想的なサウンド。
その中で Crescenzo の高く澄んだ声が、遠い昔に失ったなにごとかに向けて遠く呼びかけるみたいな、ほのかな悲しみのエコーを響かせる。そんな作品となっている。
そいつが休日終わりの夜の憂鬱に妙にフィットしてしまってね、何度も聞き返すうちに、ありゃりゃ、このまま行くと夜が明けてしまうな・・・