報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「雨に霞む上京」

2020-01-30 19:47:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月28日09:10.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 けんちゃんバス上落合公園前停留所→けんちゃんバス車内]

 稲生:「久しぶりに乗ろうとしたら、減便されたか……」
 マリア:「?」

 雨が降る中、傘を差してバスを待つ魔道士2人。
 そこへ小型の路線バスがやってくる。
 コミュニティバスではお馴染みの車種だ。

 運転手:「発車します。ご注意ください」

 バスに乗り込み、1番後ろの席に座るとすぐに出発した。

〔ピンポーン♪ 次は児童センター入口、児童センター入口でございます。天理教本駿河台分教会へおいでの方は、三橋3丁目でお降りください〕

 恐らく天理教とは名乗っているが、分派教会かもしれない(日蓮正宗に対して正信会のようなもの。日蓮正宗とは名乗っているが、別物であることから)。
 天啓を伝える者がいなくなった為に、数多くの分派ができたそうである。
 やはり、血脈相承は大事だ。

 マリア:「うん……」
 稲生:「どうしました?」
 マリア:「何だろう……?体がむず痒い」
 稲生:「大丈夫ですか?」
 マリア:「うん……大丈夫」

 因みにマリアは傘は差していなかった。
 魔女は基本的に傘を差さない。
 着ているローブがレインコートの代わりになるし、そこに付いているフードも十分雨を防いでくれるからである。
 稲生はあまりローブを着たがらない(正式なイベントに出る時や、明らかに戦いが始まるといった時くらいにしか着ない)為、傘を差すことが多い。
 その為、事実上の相合傘となるわけである。

 マリア:「この先、何かあるのかもしれない」
 稲生:「不吉なことですか?」
 マリア:「かもしれない」
 稲生:「高速バスのキップを買いに、バスタ新宿まで行こうとしたけど、やめといた方がいいってことですか?」
 マリア:「その方が無難かも。でも、大丈夫。何とかなる」
 稲生:「そうですか」
 マリア:「今、教会って聞いたから、それで反応しただけかも」
 稲生:「天理教は日本の神道系なので、キリスト教とは関係無いですよ」
 マリア:「分かってる。だから多分、大丈夫」
 稲生:「……取りあえず行ってみて、もしダメなようなら、帰りましょう」
 マリア:「ええ」

[同日09:30.天候:雨 JR大宮駅西口]

 バスはワイパーを規則正しく動かしながら大宮駅に向かった。
 バス停には屋根が無いので、すぐに傘を差さなくてはならなかったし、マリアはフードを被った。
 運賃箱に整理券2枚を放り込んで、それからバスを降りた。
 コミュニティバスあるあるで、ICカードが使えないのである。

 稲生:「朝のラッシュも終わったので、そろそろ電車は空き始める頃だとは思いますけどね」
 マリア:「そうだといいね」
 稲生:「具合はどうですか?」
 マリア:「うーん……まだどこか違和感がある。(強いて言うなら、『多い日』に起きる症状の1つに近い。だけど、周期的には違うはずだし……)」

 生理中に極端に魔力が落ちる魔女だが、少なくとも今のマリアにはそういう現象は起きていない。
 また、ダンテ一門においては基本的には悪魔と契約し、そこから魔力の供給を受けているので、自身の魔力がガタ落ちしても、基本的には魔法の行使に影響は無い。
 スマホやタブレットで言えば、パケット通信制限が掛かっても、Wi-Fi通信なら影響が無いのと同じ。

 マリア:「師匠に相談してみようか……」
 稲生:「あ、それがいいかもですね」
 マリア:「いや、きっと寝てるな……」
 稲生:「魔法は使える状態ですか?」
 マリア:「うちの人形達が元気に動いているみたいだから、私の魔力が落ちてるわけじゃない。体調が悪いと落ちるからね」
 稲生:「一体、どういう症状なんですか?」
 マリア:「男に、女の体の現象のことを言ってもなぁ……。あ、そうだ。アレだ」

 マリアはポンと手を叩いた。

 マリア:「勇太は貧血になったことある?」
 勇太:「ああ、ありますよ。小学生や中学生の時、よく全校集会とか体育の時とか、それで倒れてたものです」
 マリア:「倒れる直前の症状について覚えてる?」
 勇太:「倒れる直前ですか?」
 マリア:「何かさ、全体的にむず痒くなる感じにならない?」
 勇太:「あー……だったかなぁ……。って、マリアさん、倒れる直前!?」
 マリア:「それが大丈夫なんだよ。だって、バスに乗ってから何分経ったと思って?もし貧血だったら、とっくに倒れてるさ」
 勇太:「そ、それもそうですね」
 マリア:「だから不気味なんだよ。貧血で倒れる直前のようなむず痒さはあるんだけど、でもそれだけ。後は何でもない」
 勇太:「今までそういったことは?」
 マリア:「いや……無いね」
 勇太:「この雨のせいですかね。低気圧のせいで、体調に異変が出ることもありますし……」
 マリア:「そういう単純な話ならいいんだけど……」

[同日09:41.天候:雨 JR大宮駅・埼京線ホーム→埼京線948K電車10号車内]

 埼京線の電車に乗り込む2人。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。22番線に停車中の電車は、9時41分発、各駅停車、新宿行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 モスグリーンの塗装が特徴のJRの車両である。
 夏の時は同じ色のスカートをはくことが多い為、座席に座ると、まるで下半身が座席に同調したかのようだが、今はグレーのスカートである。
 緑色の服は上着のブレザーである。
 で、その上に黒のローブを羽織っている。

〔この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです〕
〔This is the Saikyo line train for Shinjuku.〕

 発車の時間になって、地下ホームに明るい調子の発車メロディが鳴った。

〔22番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 ドアチャイムが3回鳴ってドアが閉まる。
 エアーの抜ける音がして、電車が走り出した。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです。次は北与野、北与野。お出口は、右側です〕

 稲生:「?」

 その時、稲生のスマホが震えた。
 ポケットから取り出して見てみると、鈴木からのメールだった。

 鈴木:『マリアさんを捜しに怪しい男が来日しているので、注意してください』

 という本文があり、添付されていた写真には、ホテルの防犯カメラの映像から転載されたものがあった。

 稲生:「マリアさん、これ……。知り合いですか?」
 マリア:「知らない。全然知らない。何か、アナスタシア組にいそうな感じもするけど……」
 稲生:「僕にはマフィアにしか見えないですけどね。……探偵の人?」
 鈴木:『エレーナが報奨金の金貨に目が眩んで、先輩の家を教えてしまいました。恐らく今、そちらに向かっていると思います。どうか気をつけて』
 エレーナ:「エレーナの野郎……!」
 稲生:「……だろうなぁ。ってことは、逆に今、帰らない方がいいのか。あ、でも、家には先生が……」
 マリア:「もしただの探偵だったら、上手いことあしらってくれるだろうけど、もしも探偵のフリした教会関係者だったとしたら……」
 稲生:「いや、それは無いと思いますよ」
 マリア:「どうして?」
 稲生:「エレーナが無事でいるからです。もし教会関係者が魔女狩りに来たんだとしたら、まずエレーナが襲われてますよ?」
 マリア:「そ、それもそうか。えー……いや、知らないなぁ……」
 稲生:「ちょっと待ってください。今、鈴木君ともう少し詳しいやり取りをしますから」
 マリア:「うん、お願い」

 電車が新宿に着くまでの間、稲生と鈴木のメールによるやり取りが続いた。

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