報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「探偵の仕事始め」

2020-01-25 21:09:01 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月4日08:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 旅行先でのバイオテロ遭遇から翌日、私達は仕事始めをすることになった。

 愛原:「昨日あんなことがあったし、新規の仕事も来ないと思うから、そんなに事務所にいる必要も無いと思うんだ。要は形だけの仕事始めってことになるのかな」
 高橋:「なるほど」

 私は高橋が作ってくれた朝食を口にしながらそう言った。
 テレビでは昨日あったバイオテロのことがニュースで大きく報道されている。

 愛原:「さすがにリサのことは映ってないな」
 高橋:「誰かが撮影してても良さそうなものなんですけどね」
 愛原:「撮影してテレビ局に持ち込むまではいいが、政府機関から待ったが掛かるだろうよ」
 高橋:「なるほど。癒着ですね」
 愛原:「それは正しい表現なのか?」
 高橋:「ネットに書いてありました」
 愛原:「オマエも毒されるんだなぁ……」

 リサが体を張って斉藤絵恋さんを守ったことは事実だ。
 私的には是非とも表彰状でもくれたらと思うのだが。

 高橋:「あいつら、やっぱまだ寝てるんですか?」
 愛原:「ああ。だけど、寝かせといてあげよう。昨日あんなことがあったばかりだし。ぶっちゃけ俺もまだ眠いんだ」
 高橋:「事務所で寝てていいレベルっスか?」
 愛原:「こらこら。何ちゅーことを……」

 しかし私は本気で高橋を窘めず、むしろ苦笑した。
 それは私も思っていたところであるからだ。
 強いてやることと言えば、斉藤社長に絵恋さんを引き渡すことくらいだろうか。
 恐らくそれが当事務所の今年初の仕事になりそうである。
 あとは善場主任からの事情聴取とかもありそうだが、まだまだ彼女らの現地調査は続きそうだから、今日は無いかもしれない。

 愛原:「リサ達の分は用意してあげてるな?」
 高橋:「先生の御命令ですから」

 それは冷蔵庫の中に入っている。
 味噌汁を除いて、全てレンチンすれば食べれるようになっている。
 あとはその旨のメモをテーブルの上に置いておけばいいだろう。

 高橋:「それにしてもマジな話ですかね?」
 愛原:「何が?」
 高橋:「アネゴが何だか秘密組織のスパイだってヤツ」
 愛原:「本人は否定してるし、確たる証拠も無い。それで事務所の仲間を疑ってはいけないよ」
 高橋:「まあ、そうっスね……」

 確かに高野君の場合は謎が多い。
 一応、事務所に入るに当たって履歴書や職務経歴書は受け取った。
 その中には一点の疑問点も無い。
 それは高橋とて同じ。
 10代の大半を少年院や少年刑務所で過ごしたという経歴の為、職務経歴書は無い。
 しかしその割に定時制とはいえ、高校は出ているのだ。
 その為、中卒や高校中退者が殆どを占める少年刑務所ではインテリ扱いをされたらしい。

 高橋:「確かにアネゴ、プライベートは何をしているか分かりませんし……」
 愛原:「履歴書の趣味の欄に『一人旅』って書いてあったからね。それじゃないの?ほら、連休の時とか、よくお土産持って来てくれたりするだろ?」
 高橋:「まあ、確かに……」
 愛原:「そんなに気になるなら聞いてみれば?」
 高橋:「いや、いいっス。何か、後が怖そうなんで」
 愛原:「またどこか旅行行って来た時のお土産くれた時なら、雰囲気的に聞きやすいだろうからね。その時に聞けばいいさ」
 高橋:「そうっスね」

[同日09:00.天候:晴 同地区内 愛原学探偵事務所]

 愛原:「よぉ、高野君。昨日はお疲れさん」
 高野:「おはようございます。昨日はお疲れさまでした」

 事務所には高野君が先に来ていた。

 高野:「リサちゃん達はまだ?」
 愛原:「ああ、寝ているよ。別に寝かしといてあげてもいいだろ」
 高野:「それはそうなんですが、遅くとも昼までには事務所に来てもらいたいものですね」
 愛原:「どうしてだ?」
 高野:「斉藤社長からメールが来ています。お昼頃に迎えに来るそうです」
 愛原:「そうなのか。一応、メモには朝食を食べ終わったら事務所に来るように書き残してあるが……」

 いざとなったら電話してみよう。
 私が自分の机に座り、斉藤社長へメール返信している時だった。
 高野君がコーヒーを入れてくれた。
 昔はカネが無くてインスタントコーヒーばかりであったが、今ではネスカフェバリスタを導入できるまでになった。

 愛原:「ありがとう」
 高野:「いいえ。ところでテレビ、ご覧になりましたか?昨日のこと、大騒ぎですよ」
 愛原:「だろうな。『霧生市の再来』なんてな」
 高橋:「ハンターが5~6匹暴れただけで、ウィルスがばら撒かれたわけじゃないんですから大げさっスよね」
 高野:「ハンターが1匹暴れるだけでも凄いことなのに、それが5~6匹で尚且つそこから感染してゾンビになった人もいるんだから、やっぱり大きな事よ」
 愛原:「そういうことだな。BSAAが出動したくらいだから、そりゃもうデカい騒ぎさ」

 とはいうものの、高橋の言う事も決して間違ってはおらず、富士宮市で封鎖されたのは件の国道上から数キロ圏内だけだそうだ。
 それも、今日になってその封鎖範囲は縮小されるという。
 ハンターはそんなに国道から離れた場所まで行って暴れたわけではないし、そこから感染してゾンビになった人達も、ゾンビの動きは酔っ払いの千鳥足並みだ。
 やはり、そんなに遠くまでは行っていないということで、封鎖区画は縮小されるということだ。
 初期のパンデミックみたいに、空気感染したわけではないことが不幸中の幸いということか。
 と、そこへ事務所の電話が鳴った。

 高野:「おはようございます。愛原学探偵事務所でございます。……ああ、リサちゃん。昨日はお疲れさんね。……うん、分かった。先生ね。ちょっと待ってて」
 愛原:「リサからか?」
 高野:「そうです」

 私は自分の机の電話機を取った。

 愛原:「おーう、リサか。やっと起きたか」
 リサ:「先生、おはよう」
 愛原:「おはよう。具合はどうだ?」
 リサ:「私は大丈夫。でも、サイトーがやっぱりうなされてた」
 愛原:「そうか。まあ、今日は絵恋さんのお父さんが迎えに来る。今日は土曜日だけど、まあ、土曜日でも診察している所はあるから、そこへ連れて行くつもりだろう。朝ごはんを食べ終わったら、事務所に来るんだ。いいね?」
 リサ:「分かった」

 リサは素直に頷いた。
 私も電話を切ると、早速斉藤社長に迎えの時間の希望を送信した。
コメント
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